ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第100話「プロダクション旗揚げ」

あらすじ

プロダクションの経理を手伝う気持ちになりかけていた布美枝(松下奈緒)だったが、2人目の子どもを妊娠していることがわかる。雄一(大倉孝二)と佐知子(愛華みれ)が村井家を訪れ、経理を佐知子が担当することが決まり、布美枝は少ししょんぼりする。昭和41(1966)年6月「水木プロダクション」が旗揚げとなり、その発足記念パーティーには、多くの関係者が集まり茂(向井理)を囲む。

100話ネタバレ

水木家

洗面所

布美枝「もしかしたら… できとるかもしれません。」

茂「『できとる』って…。 えっ! 赤ん坊か?」

布美枝「はい。」

山田家

靖代「できたんだ!」

徳子「2人目!」

和枝「やったねえ!」

3人「おめでとう!」

布美枝「ありがとうございます。」

靖代「で 予定日は いつ?」

布美枝「来年の1月です。」

徳子「あら 藍子ちゃんの時と一緒だ。」

和枝「そう言ってたのに クリスマスイブに生まれたんだよね。」

徳子「そうだね!」

靖代「また今度も クリスマスの日 だったりしてね。」

布美枝「え~!」

靖代「まさかねえ。」

2人「ないよねえ!」

徳子「あれ 藍子ちゃんは お隣に預けてきた?」

布美枝「今日は アシスタントの人が 見てくれてます。」

靖代「あ 3人 入ったんだってね。 アシ何とか。」

和枝「アシスタント! …って あの家に そんなに人が入るっけ?」

徳子「ちょっと 失礼よねえ!」

(一同の笑い声)

布美枝「そうだ 皆さん お店 帳簿 つけてますよね。 大変ですか?」

和枝「うん まめにやっとけば 大丈夫よ。」

徳子「私はね 簿記の勉強したよ。」

布美枝「簿記ですか?」

靖代「どうしたの? また お勤めでもするつもり?」

布美枝「ああ いえ…。」

3人「う~ん?」

布美枝「え いや…。」

水木家

玄関前

布美枝「うわ~ きれい!」

菅井「お帰りなさい。 お客さん 来てますよ。」

布美枝「はい。 すいません 藍子のお守りして頂いて。」

菅井「子供 好きですから。 それに 僕だけ漫画の仕事もないし。」

藍子「スガちゃん もう1回!」

菅井「いいよ。」

布美枝「スガちゃん…?」

居間

布美枝「あ いらっしゃい。」

佐知子「お邪魔してます。」

雄一「茂が会社 作るっちゅうから 助っ人に来ましたよ。 ハハハ!」

佐知子「2人目 できたんですってね。」

雄一「よかったねえ! 藍子も 一人じゃ寂しいだろうからねえ。」

佐知子「茂さんの仕事が大変な時だけど 私達も手伝いますから。」

茂「発起人も役員も これで そろったな。」

雄一「俺は 勤め先 辞められんから 名前だけな。」

茂「おう。」

雄一「おう 経理の方は どうする?」

茂「あ~ 経理なあ。」

布美枝「あの…。」

雄一「帳票類は きちんと しとかんと こういう商売はな 税務署の目も厳しいぞ。」

布美枝「あ あの…。」

茂「信用のおける人に 頼まんといけんなあ。」

布美枝「私…。」

茂「兄貴の知り合いに 誰か おらんか?」

雄一「おるぞ。 うちの佐知子なんか どうだい?」

茂「姉さんに?」

雄一「簿記の資格も持っとるし 結婚前は 紙問屋の経理部に 勤めとったから 帳簿は任せて大丈夫だよ。」

佐知子「はい。」

茂「はあ けど ええのか? 子供が おるのに。」

佐知子「2人とも もう 手がかからないから。 私じゃ 役に立たないかしら?」

茂「いやいや 手伝ってもらったら 助かるわ。」

雄一「任せておけ! こういう時はな 頼れるんのは 身内だけだぞ。」

茂「おう!」

(3人の笑い声)

佐知子「ねえ ほんとよ。」

2階

布美枝「お姉さんが 経理かあ…。」

回想

郁子「黒田先生の所は 奥様が 経理を見ていらっしゃいますよ。」

回想終了

布美枝「何か お手伝いできるかと 思ったのにな…。」

雄一『ま~ま~ あの そういう事になったからね。 あの~ あんた達の給料も うちの奴が 全部 管理するから。』

佐知子『任せてね。』

茂『まあ 俺も 金の事は よう分からんけん…。』

布美枝「出番なしか…。 私は まず あんたを 無事に産まんといけんね。」

<周囲の協力もあって 会社設立の手続きは トントン拍子に 進み その年の6月 水木プロダクションを 旗揚げする事になったのです>

昭和四十一年六月

居間

茂「お~い ちょっこし来てくれ!」

布美枝「は~い! もう! 忙しい時に限って呼ぶんだけん。」

玄関前

布美枝「どげしました?」

茂「ほれ!」

布美枝「わあ! こんな立派な看板 いつの間に…。」

茂「会社の設立祝の日に 看板ぐらい掛けとかんと 恰好が つかんけんな。」

布美枝「はあ…。 ん? 何か 見覚えある。」

茂「よっ!」

布美枝「あ~! これ あの時の…?」

<それは 茂が 戦記物の 貸本漫画を描いていた頃 玄関に掲げた看板でした>

回想

浦木「目立たんと 意味がないんです。 評判が 金を生むんですよ。」

回想終了

布美枝「懐かしいですねえ これ。」

茂「懐かしいか? この看板のせいで 警察に疑われて えらい目に遭ったぞ。」

布美枝「そげな事 ありましたね。」

茂「うん。 けど あの時 叩き割って 薪にせんでよかった。 再利用できる。 よいしょ! 掛けるか?」

布美枝「はい。」

茂「うん。」

布美枝「この位置で ええですかね?」

茂「うん うん。」

浦木「もう少し上にしろ! 上! 」

布美枝「浦木さん。」

茂「お前 また来たのか…。 今日は 漫画関係の人しか 呼んどらんのに。」

布美枝「なして何でも筒抜けなんでしょう。」

茂「かぎつけるんだ イタチだけん。」

浦木「う~ん。 なかなか立派じゃないの。 うん 目立って大いに結構。 評判が金を呼ぶんだ。」

布美枝「うん…。」

茂「お前は変わらんなあ。」

(茂と布美枝の笑い声)

浦木「何だ? 何だよ。」

深沢「出来てるね。」

郁子「…はい。」

居間

深沢「水木プロ発足 おめでとうございます。 これ 皆さんで。」

布美枝「ああ すいません。」

茂「お陰で なんとか形になりました。」

深沢「よかった。」

郁子「これ 先生のお好きな甘いもの。」

茂「ああ どうも。」

布美枝「あ 何もないですけど どうぞ ゆっくりしてって下さい。」

深沢「ありがとう。」

浦木「おう 郁子さん! 郁子さんじゃないですか!」

郁子「あら。」

浦木「おいおい! 郁子さ~ん!」

郁子「いらしてたんですか。」

浦木「そりゃあ もう 郁子さんに 会いたいばっかりに…。 いや 親友の門出を祝いたい一心で…。」

郁子「あ 豊川さん 船山さん!」

船山「いや~ どうも 加納さんでしたよね。」

郁子「覚えていて下さったんですか。」

船山「美人の名前は 忘れませんよ! ハハハハ!」

郁子「まあ!」

浦木「口のうまい奴だぜ~! あ~ どいた!」

深沢「倉田君 どう? 元気でやってる?」

倉田「お陰さんで ええ勉強させてもろてます。」

深沢「ああ それはよかった。 まあ 一杯どう?」

倉田「おおきに。」

深沢「小峰君 あんたの漫画 よく見てたよ。 一杯どう?」

小峰「ありがとうございます。」

深沢「菅井君。」

菅井「あ…。」

(ドアを叩く音)

菅井「奥さん また誰か来ましたよ。」

布美枝「あら は~い!」

玄関

布美枝「あ~っ 戌井さん!」

戌井「お邪魔します。」

布美枝「お待ちしておりました。 ちょっと お待ち下さい。 お父ちゃん。 戌井さんが!」

茂「お~ やっと現れたか~!」

戌井「これ お祝いです。」

布美枝「うわ バナナ!」

戌井「おいしいバナナを たくさん食べて下さい。」

布美枝「ありがとうございます!」

戌井「今日は どうも ほんとに おめでとうございます! 水木さん!」

編集者1「奥さん ちょっと すいません。」

布美枝「は~い。 あ さあ どうぞ中に。」

戌井「はい。」

布美枝「どうぞ。」

戌井「今日は 久々に 水木さんと じっくり話したくて来ました。」

茂「しばらく バタバタ しとりましたからなあ…。 こっちも あんたが早く現れんかと 待っとったんですよ。」

戌井「いや~ なかなか 仕事が片づかなくて。」

編集者2「先生 話の途中ですよ。」

茂「ああ はい。 まあ とにかく上がって下さい。 あんたの好きな酒も あります。」

戌井「ああ はい。」

茂「あ~ 引っ張るな 引っ張るな!」

居間

布美枝「お願いします。 あれ? 戌井さんが おらん…。 おかしいなあ…。」

布美枝「戌井さん。」

戌井「ああ。」

布美枝「こんなとこにいたんですか。」

戌井「中は 人あたりしそうで ここで 涼んでました。」

布美枝「ほんと。 外は ええ風。」

戌井「はい。」

布美枝「ここの方が ゆっくりできて ええですね。」

戌井「はっ…。」

布美枝「私 食べ物 持ってきます。」

戌井「今 思い出してたんですよ。」

布美枝「え?」

戌井「あれ 夏の暑い日でした。 打ち切りになった 『墓場鬼太郎』が復活するって 聞いて お祝いに来たら 奥さん ここに座り込んでた。」

回想

戌井「奥さん!」

布美枝「はあ… 戌井さん。 あの人の努力は 本物ですけん。」

回想終了

布美枝「誰も認めてくれなくて どこの出版社にも冷たくされて…。 戌井さんだけでした。 うちの人の漫画 応援してくれたのは。」

戌井「あん時 奥さん 言ってたでしょう。 『あんなに精魂込めて 描いている漫画が 人の心を 打たないはずはない』って。 そのとおりになりましたね。 世の中も 捨てたもんじゃないなあ!」

布美枝「ええ! けど…。 次々と仕事の注文が来て 会社まで作って…。 こんな事 思いもよらんだったですけんねえ。 これから先 どげなるのか。 お祭りみたいな騒ぎが いつまで 続くのか。 私 何だか 怖いような気もします。」

戌井「奥さん。」

布美枝「…あ 嫌だ。 こんな事 言ったら いけんですね。 うちの人が 必死で やっとる時に。 今が ふんばり時だって 随分 無理もして 一生懸命 頑張っとるんです。」

戌井「まだまだ これは始まりですよ。」

布美枝「…え?」

戌井「水木さん… きっと もっともっと大きくなります。 しかし 僕も気が利かないなあ。」

布美枝「え?」

戌井「いや~ 今さら 土産に バナナでもありませんでしたよねえ。」

布美枝「そんな事ありません。 一番うれしい 何よりの お土産です。」

<苦しい時を ともに 歩いてきたのは戌井でした。 けれど この夜 一人 酒を飲む その横顔は どこか 寂しげに 見えました>

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