ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第103話「悪魔くん復活」

あらすじ

茂(向井理)は、豊川(眞島秀和)から「悪魔くん」を「週刊少年ランド」の読者向けに新たに書き下ろしてほしいと頼まれる。「墓場の鬼太郎」のテレビ化が難航しているため、より通りやすい企画として「悪魔くん」をテレビ局に売り込もうというのだ。茂は“貧乏時代の怒りに満ちた「悪魔くん」が少年誌の読者には受けない”と考え答えを渋るが、布美枝(松下奈緒)からの勧めもあり、新しい「悪魔くん」に取り組むことを決心する。

103話ネタバレ

水木家

昭和四十一年 夏

台所

豊川「奥さん。」

布美枝「ああ。 お仕事の話 終わりました?」

豊川「ええ まあ。」

北村「こんにちは。」

布美枝「ご苦労さまです。」

いずみ「こんにちは!」

豊川「これ どら焼きです。」

布美枝「ああ いつも すいません。」

客間

布美枝「『悪魔くん』を テレビにですか?」

豊川「ええ。」

いずみ「どうぞ。」

豊川「『鬼太郎』のテレビ化が なかなか うまく進みませんで。」

布美枝「やっぱり 墓場と ついとるのが いけんのでしょうか?」

豊川「主人公が幽霊族の子供なのが 視聴者の共感を呼びにくいと 思われているようです。 そこで 作戦変更です。 悪魔くんは 人間の小学生ですからね こっちいの方が 企画は通りやすいでしょう。」

布美枝「けど… 悪魔くんも 怖いですよ。」

豊川「そこは 少年誌向けに 新たに描き下ろしてくださいと お願いに上がったのですが…。 どうも 気が乗らないご様子で。」

回想

茂「『悪魔くん』を描き直す?」

豊川「『少年ランド』の読者向けに 新しいものを 描いて頂きたいんです。 私 それを テレビ局に売り込みます。」

茂「テレビ局?」

豊川「ええ。 『鬼太郎』よりも先に 『悪魔くん』の テレビ化を狙いましょう! 先生?」

茂「そんなに うまくいきますかなあ。」

回想終了

豊川「珍しいですね。 先生が仕事の話を渋られるなんて。」

布美枝「ええ。」

いずみ「シロップ足りなかったら どうぞ。」

北村「はい。」

豊川「お陰さまで 『鬼太郎』は好調です。 読者アンケート 今週は 2位だっけ? おい 北村。」

北村「…はい。」

豊川「何だよ ぼ~っとして。」

北村「あっ いや 別に ハハッ ハハハ!」

豊川「お~ つめてえ!」

仕事部屋

茂「はあ…。 やっぱり これでは いけんな。」

布美枝「お父ちゃん お茶いれてきた。」

茂「うん。」

布美枝「これ 豊川さんからの お土産です。」

茂「おう どら焼きか。 うん うまい。 あの人の土産は 間違いがないな。」

布美枝「ねえ お父ちゃん。」

茂「何だ?」

布美枝「これは もう描かん事に したんですか?」

茂「ん?」

布美枝「豊川さん 残念がっておられました。」

茂「うん。 仕事のことだ。 お前は心配せんでええ。」

布美枝「はい…。 けど なしてかなあと思って。」

茂「何がだ?」

布美枝「なして 『悪魔くん』は 描かんのですか? あんなに 力 入れとったのに。」

茂「う~ん うん。 ここ 見てみろ。 ちょっこし線が太くなっとるだろ。」

布美枝「うん…。」

茂「貧乏暮らしへの怒りが ペン先に こもっとる。 思わず 力が入って 線が太くなっとるわ。 これ描いとる時は苦しかったなあ。 描いても描いても 貧乏神が つきまとって 先が見えんだった。」

布美枝「そげでしたねえ。 電気が止められたり 家を とられそうになったり。」

茂「貧乏への怒りで描いた漫画が 『少年ランド』の読者に 受けるとは思えん。 この漫画は 俺の漫画の中でも 一番 成績が悪かった。 2,300部刷って 半分が返品だ。」

茂「 5冊 出すはずが 3冊で打ち切りになって…。 こっちも大変だったが 戌井さんも 大損害だったろう。 『少年ランド』は 80万部。 こっちは 2,300部の半分が 売れ残りだ。 雑誌の世界は厳しい。 大きく失敗したら 生き残ってはいけん。」

布美枝「けど 豊川さんが 勧めて下さるんですけん。」

茂「甘い事 言うな。 『鬼太郎』だって 人気しだいで いつ 打ち切りになるか分からん。 もう この話は ええ。 仕事する。」

布美枝「…。」

茂「どげしたんだ? いつまでも ぐずぐず。」

布美枝「『悪魔くん』は 復活せんのですか?」

茂「え?」

布美枝「みんなの幸せのために戦って ひどい目に遭って 最後には 暗殺されてしまったでしょう。 『こんな終わり方 あまりにも かわいそうだ』って私が言ったら お父ちゃん ここの原稿 見せてくれて。 『心配するな。 『悪魔くん』は 七年目に 必ず よみがえる』。」

布美枝「この言葉で… ほっとしたんです。 いつか 悪魔くんの努力が 必ず 報われる日が 来るんだなって。 私… 悪魔くんと お父ちゃんを 重ねて 見とったのかもしれんですね。」

茂「もう ええけん 向こう行っとれ。 おい。」

布美枝「はい。」

茂「どら焼き もう一つ 持ってきてくれ。」

布美枝「はい…。」

茂「『エロイム・エッサイム 我は もとめ 訴えたり』か。」

台所

布美枝「このまま描かないなんて お父ちゃんらしくないなあ…。」

(物音)

玄関

布美枝「お父ちゃん?」

茂「ちょっこし出てくる。」

布美枝「こんな時間から どこに?」

茂「戌井さんとこだ。 あ そげだ。 さっきのどら焼き 少し包んでくれ。 土産に持っていこう。」

布美枝「はい!」

戌井家

居間

早苗「布美枝さん お元気ですか? 2人目 出来たんですってね。」

茂「はい。 年明けには 生まれるようです。」

戌井「それは それは おめでとうございます。 いや 実は 自分も 伺おうと思ってたところです。」

茂「お~ 奇遇ですな。 何か 急ぐ事でも?」

戌井「ええ…。 ああ まあ こっちは いいとして 水木さんの話 先に伺いますよ。」

茂「実は これを 描き直してみようと 思ってるんです。  『『週刊少年ランド』で やってみないか』と言われて…。」

戌井「ええっ?! 『悪魔くん』を テレビに?!」

茂「まあ テレビの件は 向こうが 考える事だが 何にしても 最初に言いだしたのは 戌井さんだ。 戌井さんだ。 まずは あんたに話をせねばならん と思ったんですよ。」

戌井「それで 忙しいのに わざわざ…。」

茂「あんたも 私も この本を出す時には 相当に 力を注ぎ込みましたからなあ。」

戌井「大ヒットを確信して 長編大作で挑んだあげく 原稿料も満足に払えずに 打ち切ってしまって…。 今も じくじたるものがあります。 こんな傑作を 中途半端に終わらせてしまった。」

茂「あの時は お互い散々でしたなあ。」

戌井「ええ。」

茂「うん これは ええ漫画だという 自信は あります。 けど 正直言って 迷うところもあるんですよ。 描き直して また大負けしては かなわんですから。」

戌井「分かります。」

茂「しかし 『悪魔くん』は いずれ 手をつけねばならん 宿題のような 気も しとったんですよ。 戌井さん?」

戌井「描くべきですよ 水木さん。 打ち切りを決めた時も 僕は この漫画が傑作である事は 少しも疑いませんでした。 『いつか 必ず 認められる日が来る』。 そう 奥さんに言ったのを 今も 覚えています。」

戌井「僕には もう一遍 『悪魔くん』で 勝負する資金はありませんが 『少年ランド』の大舞台で成功すれば 僕の編集者としての目に 狂いはなかったって事に なりますよね。」

茂「はい。」

戌井「描いて下さいよ。 水木さん。 もっとも 大幅な練り直しが 必要でしょうが。」

茂「ええ。 新しい もう一つの『悪魔くん』を 描くつもりでやらねばならんです。」

戌井「もう一つの『悪魔くん』か…。」

茂「と言っても 貧乏や不幸を打ち砕く ところは 変わらんですから 呪文も このまま 『エロイム・エッサイム エロイム・エッサイム』。」

戌井「『我は もとめ 訴えたり』! いや~ 楽しみになってきたなあ!」

(2人の笑い声)

戌井「そうか~! 『少年ランド』ねえ… う~ん!」

玄関前

茂「よし! 早速 描き始めるか。 あれ そういえば 何か話が あるような事 言っとったが…。 まあ また今度 聞こう。 まずは漫画だ。」

居間

早苗「頼みそこなっちゃったわね。」

戌井「ああ。」

早苗「『また 水木さんに 漫画 描いてもらって 北西出版 立て直す』って 言ってたくせに。」

戌井「あの様子じゃ 無理だろう? また忙しくなりそうだし…。」

早苗「『悪魔くん』だって 『もう一回 やってみるか』って 言ってたじゃないの。」

戌井「うちでやるより 『少年ランド』で描いた方がいい。 分かりきった事 言うなよ。」

早苗「だけど…。」

戌井「でも すごいじゃないか 『悪魔くん』! テレビで見られるかもしれないぞ?」

早苗「うちは もうからないけどね。 あ~あ 当分 内職とは 縁が切れそうもないな。」

戌井「お前も食えよ。 うまいぞ。」

早苗「しょうがないか! 漫画バカと 一緒になっちゃったんだから。」

戌井「うん。」

早苗「でも 何か… だんだん遠くなってくみたいね。 水木さん。」

水木家

仕事部屋

茂「よし… これが 新しい悪魔くんだ。」

布美枝「お父ちゃん…。」

<『悪魔くん』復活に向けて 茂は ついに動き出しました>

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