ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第105話「悪魔くん復活」

あらすじ

豊川(眞島秀和)と船山(風間トオル)が、「悪魔くん」のテレビ放映が決定したことを布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)に知らせにやってくる。深沢(村上弘明)もそれを喜ぶが、秘書の郁子(桜田聖子)は茂と共にあり続けた「ゼタ」の部数を、深沢がこの機会に伸ばそうとしないことにいらだつ。“「悪魔くん」テレビ化”のニュースは、調布の町中を駆けめぐり、茂が作詞を手がけた番組主題歌もできあがって…。

105ネタバレ

水木家

休憩室

豊川「放送開始は 10月6日と決まりました。 毎週木曜 夜7時から 30分間の連続放送です。」

茂「随分 早く決まりましたなあ。」

船山「1回目の原稿を拝見して 私も 豊川さんも 『これは いける』と 革新を持ちましてね。 早速 抜き刷りを作って テレビ局に持ち込んだんです。 予想以上の手応えでした。」

茂「そうかあ… おいおい!(布美枝に座るようにうながす) しかし 10月からというのは また えらい大慌てですな。」

船山「どうやら 準備していた番組が ポシャって 代わりの企画を 探していたようです。」

茂「運が よかった訳か。」

船山「時間はありませんが こういう時こそ 制作現場も熱が入って いい作品が生まれるってもんです。」

茂「締め切り前の漫画と 一緒ですな。」

豊川「うちでも 特集を組んで 大いに盛り上げていきます。 よろしくお願いします!」

茂「はい。」

船山「『少年ランド』も いよいよ 100万部突破が見えてきましたね。」

豊川「まあ 年内には やってやろうと 思っていますがね。」

(豊川と船山の笑い声)

茂「100万部か… すごい数だなあ。」

布美枝「どれくらいなのか 見当もつきませんね。」

豊川「そうですねえ 重ねて積んだら 富士山 5つ重ねたより 高くなりますかね…。」

布美枝 茂「富士山 5つ!」

いずみ「お兄さん! お客さま。」

郁子「先生 おめでとうございます! テレビ化 決定ですってね?」

茂「ええ。」

台所

郁子「『悪魔くん』 子供達に受けると思いますよ。」

郁子『子供に はやるものは 何か印象に残る フレーズがありますでしょう。 『不思議な少年』の『時間よ 止まれ!』とか。 『悪魔くん』の『エロイム・エッサイム』も きっと はやりますよ。』

豊川「なるほどね。」

郁子「あ すいません。 素人が 生意気 言って。」

船山「いや。 いいところを突いてますよ。 『エロイム・エッサイム』で 売っていきましょう。 ね?」

茂「だったら… 歌にしたら どうですか?」

船山「歌?」

茂「うん。 番組の主題歌に この文句を入れてもらうんです。」

郁子「いいですね! メロディーに乗ったら 覚えやすいわ。」

船山「よし。 それじゃ 早速 先生 作詞 お願いします。」

茂「え? 作詞? 詩は 書けんですよ。」

船山「大丈夫。 漫画のネームのようなもんですから。」

茂「全然 違うでしょう。」

豊川「やってみたら いいじゃないですか。」

茂「しかし なあ…。」

船山「時間がありませんから。 特急で お願いします。」

茂「いや~…。」

船山「お願いします。」

茂「う~ん。」

仕事部屋

菅井「僕達の名前も出るかな?」

倉田「実写版やろ。 なんで 俺らの名前が出んねん。」

菅井「そうか。」

倉田「せやけど うれしいな。 漫画とは 別物でも やっぱり 『悪魔くん』やもんな。」

小峰「問題は 漫画の迫力を どれだけ ドラマで出せるかだ。」

倉田「それや。 ドラマが 当たるかどうかは それ次第やな。」

菅井「ちっちゃい役でも もらえないかなあ。」

倉田「アホやな ほんまに。 こっちは これから どんどん 忙しくなるんやで ドラマに出るどころやない!」

菅井「そうか。」

倉田「せやけど… 奥さんも うれしいやろね。」

小峰「ああ。」

茂「あんた達! 手ぇ動かしなさい。 締め切りは 明日だぞ!」

倉田 菅井 小峰「はい。」

菅井「あ どうぞ。 あ いいです はい。」

客間

布美枝「10月6日の 夜7時から。 うん。 いずみ? 元気で やっちょ~よ。 今 代わるね。 お父さん。」

布美枝「今 お使いに出とったわ。 はい。 伝えちょきます。 はい。 ほんならね。 うん。 もうっ いずみったら。」

いずみ「お父さんの言う事は 聞かんでも 分かっとるもん。 『しっかり 手伝え。 浮かれて 遊び回ったらいけん」。』

布美枝「確かに。」

いずみ「お父さん 喜んどったでしょう?」

布美枝「びっくりしとったわ。」

いずみ「『テレビ カラーに買い替える』なんて 言いだすんじゃないかな。」

布美枝「うん。 …あ でも 『悪魔くん』は 白黒放送だわ。」

いずみ「あ そげか。」

(布美枝といずみの笑い声)

いずみ「ねえ…。」

布美枝「ん?」

いずみ「さっきの人 すてきだったね。」

布美枝「さっきの人って?」

いずみ「加納さん。 美人で おしゃれで さっそうとしとって。 東京の女性って感じするわ。」

布美枝「あげな人 東京にも めったに おらんよ。 何?」

いずみ「姉ちゃんは 東京に来ても ちっとも変わらん。」

布美枝「当たり前だが。 郁子さんと比べんでよ。」

いずみ「私 こっちで働こうかなあ。 郁子さんに 弟子入りして!」

布美枝「何 言っとるの。 1年の約束で 出てきとるくせに。」

いずみ「分かっとるよ。 お父さんには 告げ口せんでよ。 『今すぐ帰ってこい』と言われたら かなわんけん。」

嵐星社

編集部

深沢「そうか。 テレビ 決まったか。」

郁子「ちょうど 豊川さんと船山さんが お見えになっていて お話しを伺ったんです。」

深沢「へえ~。」

郁子「『ゼタ』の原稿も 頂いてきました。」

深沢「お~ ご苦労さん。 今日 もらえなかったら さすがに 落ちるとこだった。」

郁子「放送開始は 10月だそうです。」

深沢「また 随分 急だね。 ふ~ん 面白いなあ…。」

郁子「社長 放送が始まったら うちでも 水木先生の特集を組みませんか? 先生の人気 これで また 上がるでしょうから 『ゼタ』も 部数を伸ばす チャンスです。 例えば… 3号 続けて 巻頭長編を お願いするとか できないでしょうか?」

深沢「水木さん とても そんな時間ないんじゃない?」

郁子「ええ でも 社長とは 貸本時代からの おつきあいですし なんとか 無理を お願いして。」

深沢「甘える訳には いかないね。」

郁子「え?」

深沢「斉藤君。」

斉藤「はい。」

深沢「すぐ 写植 貼って。 さすがに原稿も遅れ気味だ。 連載 何本も抱えて 『ゼタ』の読み切りを続けるのは 相当 きついんだろうねえ。 俺は テレビの騒ぎが 一段落するまで うちの方 休んでもらっても いいと思ってるんだ。」

郁子「休む?」

深沢「うん。 落ち着いたところで また 描いてもらえば いいから。」

郁子「待って下さい。 それじゃ 話が逆じゃないですか?」

深沢「逆って?」

郁子「こういう時こそ 長いつきあいの うちの事も 考えて頂いて。」

深沢「長いつきあいだからこそ 安い原稿料でも つきあってくれてるんだよ。」

郁子「豊川さん達が言ってました。 『これから 水木しげるの妖怪ブームが 来るだろう』って。 その波に乗ったら うちだって もっと大きな仕事ができます。」

深沢「大きくして どうするんだい?」

郁子「え?」

深沢「俺は 『ゼタ』を 大きくしたい訳じゃない。 今までどおり 自由に 漫画を描ける場にしておきたい。 何もかも 商業主義に 飲み込まれていく中で うちくらいは 自由の砦で いたいじゃないか。」

郁子「社長…。」

深沢「どうした? 何か 焦ってるのか?」

郁子「いえ…。」

深沢「まあ 一遍 水木さんと相談してみるよ。」

郁子「はい…。」

(ドアの開く音)

青年「失礼します。」

深沢「はい。」

青年「漫画 見てもらいに 来たんですが…。」

深沢「さっき 電話かけてきた人か?」

青年「はい。」

深沢「どうぞ 待ってたよ。 どれ 見せてごらん。」

青年「はい。 お願いします。」

深沢「どうぞ。」

郁子「これじゃ 何もならないじゃない…。」

深沢「このライバルの描き方は よくあるパターンに陥ってないか?」

青年「あ…。」

深沢「彼にも 人生がある。」

郁子「こんなの つまらない…。」

乾物屋

(商店街の賑わい)

靖代「和枝さん 店 開けっ放しにして 何やってんの?」

和枝「靖代さん 靖代さん! ビッグニュースよ!」

徳子「先生の漫画 テレビになるって。」

靖代「え~っ!」

山田家

和枝「たいしたもんだね。 私 店のお客さんに 自慢しちゃうよ。」

徳子「友達とかさ 親せきにも宣伝しないとね。」

布美枝「そんな大げさな事は…。」

靖代「何 言ってんのよ あんた! この商店街をあげて 応援するわよ!」

徳子「うん!」

和枝「そうよねえ。 ねえ 『悪魔くん』って 美智子さんのお店に置いてあった あの 怖い漫画でしょう?」

布美枝「あれを 親しみやすく 描き直したんです。」

靖代「ね~え それってさ どこでも 見られるの? 東京以外でも?」

布美枝「『全国だ』と言ってました。」

和枝「だったら 美智子さんにも すぐ知らせなくちゃね。」

布美枝「はい。」

和枝「美智子さん きっと 喜んで また 店中に いっぱい ビラ 貼るわね。」

徳子「昔のさあ… 読者の集いみたいに 懐かしいわね。」

靖代「よし。 こっちも負けずに ビラ貼って 宣伝しなきゃね?」

徳子「そうね。 パーッと盛り上げよう。 ね!」

布美枝「ありがとうございます。 けど どんなものになるのか まだ 分からないですし…。」

和枝「嫌だ! 面白いに決まってるじゃない!」

靖代「私 知り合いが テレビに出るのって 初めてだ!」

徳子 和枝「そうだね。」

布美枝「いえ 出ませんから。 漫画が ドラマになるだけで。」

靖代「あっ そうか。」

徳子「嫌だなあ。 もう トンチンカンで。」

純喫茶・再会

亀田「聞いた? テレビの話。」

マスター「聞きましたよ。 さっき バーバーの奥さんが来て。」

亀田「それじゃ 商店街中に 知れ渡ってるな。」

マスター「ええ。」

(亀田と マスターの笑い声)

亀田「それにしても 驚いたね。 まさか テレビになるなんてさあ。」

マスター「毎週 放送ですってね。」

亀田「あの 村井さん いやいや 水木しげるさんの漫画がさ。」

浦木「えっ!」

亀田「びっくりした。」

浦木「ちょっと ちょっと あんた 今 おかしな事 言いましたよ

ね? え? 水木しげるの漫画が テレビになるとかどうとか…。」

亀田「え ええ そうですよ。 マスター なんで この人が また ここにいるの?」

マスター「さあ…。」

浦木「いったい 何の漫画です?」

亀田「『悪魔くん』て 聞いてますけど。」

浦木「えっ?! あの 全く売れなくて 返品の山を築いて ゲゲの貧乏に拍車をかけた あの いわく付きの漫画が?」

亀田「はい?」

浦木「かあ…。 世の中 いったい どうなってんだ…。」

亀田「それ ちょっと どう見ても 私のでしょ!」

浦木「うっ ああ 苦~い! マスター 甘党なんだよ 俺は! 痛い! もう…。 しかし ゲゲの奴 一生 厄年かと思っとったが こりゃ 本格的に ツキが回ってきたな。 ん?」

水木家

台所

茂「『エロイム・エッサイム エロイム・エッサイム』 う~ん。 コーヒー!」

布美枝「はい。 何ですか それ?」

茂「うん…。」

布美枝「『悪魔くんマーチ』。」

茂「ちょっこし 作ってみたんだ。」

布美枝「『エロイム・エッサイム エロイム・エッサイム まわれ地獄の魔法陣…』。 地獄かあ…。」

茂「これを マーチのリズムに乗せる。 ええと思わんか?」

布美枝「う~ん。 いきなり 地獄っていうのが 怖いような気もしますけど。」

茂「そげか? いや これで ええんだ! 余計な事 言うな。」

布美枝「フフ… すいません。 どげな番組になるんでしょうねえ。」

茂「分からんなあ。」

布美枝「面白くなると ええですね。」

茂「ああ。」

<いったい どんな番組になるのか… うれしい中にも 少し不安な思いもある 布美枝と 茂でした>

<昭和41年10月6日 とうとう その日が やってきました>

仕事部屋

佐知子「夕方から 打ち合わせですか? あ… 今日は ちょっと。 ええ… そうなんです。 今夜から 放送開始なんです。」

茂「いけん。 もう こんな時間だ。 なんとしても 7時までに仕上げんと。 おい スガちゃん これ 消しゴム。」

菅井「はい。 あ~ きれいやなあ。」

倉田「花っ! 花 花 花。」

菅井「え?」

茂「原稿に花粉つけたら いけん!」

菅井「あ~あ あっ すみません。」

小峰「スガちゃん 今日は 余計な仕事を 増やさんでくれよ。」

<テレビが始まるまでに 仕事を終わらせようと 水木プロは 昼から 大わらわでした>

モバイルバージョンを終了