あらすじ
布美枝(松下奈緒)は、帝王切開で2人目となる女の子を無事に出産する。茂(向井理)は仕事が多忙を極めているため、病院に様子を見に行くこともできないありさまだった。いずみ(朝倉えりか)には、茂が仕事以外のことに無関心だと思え、アシスタントの倉田(窪田正孝)にその不満をぶつけてしまう。布美枝が家を不在にしている間に、藍子がストーブに手を付けて、やけどをする騒ぎが起こり、茂は…。
108ネタバレ
水木家
客間
茂「帝王切開?」
病院
いずみ「茂兄さんは 藍子の誕生日とクリスマス 祝ってあげて下さいね。 楽しみにしてましたけん。』
水木家
客間
茂「ああ 分かった。 う~ん。 どうしたもんかなあ。 今日は 姉さんに 来てもらう訳にもいかんし…。」
倉田「先生 北村さんが 原稿取りに来はりました。」
茂「もう来たのか!」
倉田「奥さん 様子どないです? 大丈夫ですか?」
茂「うん。 大丈夫だ。 医者も 『心配いらん』と言っとるそうだ。」
藍子「お母ちゃん どこ行ったの?」
茂「病院に行っとるぞ。 赤ちゃん連れて 帰ってくるんだ。」
藍子「お腹 痛いの 治ったかなあ。」
茂「藍子 一緒に仕事するか?」
藍子「うん。」
仕事部屋
茂「スガちゃん これ 消しゴム。」
菅井「はい。」
茂「は~っ。」
北村「先生 どんな感じでしょうか?」
茂「もうちょっと 待っときなさい。」
客間
<その夜 帝王切開となった 布美枝のお産が 無事に済み 『女の子が誕生した』との知らせが 届きました>
茂「は~っ。」
玄関前
(小鳥の鳴き声)
いずみ「あれ?」
編集者1「あ どうも どうも。 原稿 ちょうだいいたしました。 メリークリスマス! ね? ハハハ…。」
客間
いずみ「ただいま~。 あれ? 藍子は…。」
仕事部屋
いずみ「藍子が おらんのですけど! ひどい…。」
いずみ「藍子ちゃん 藍子ちゃん。」
藍子「いずみちゃん。」
客間
いずみ「あ… そうだ。 プレゼント。 やっぱり 渡してない。 藍子ちゃん!」
藍子「うん?」
いずみ「はい プレゼント!」
藍子「うわ~!」
いずみ「お菓子が いっぱい入っとるね!」
藍子「うん!」
いずみ「よし! クリスマスツリー飾ろうか。」
藍子「うん。 お母ちゃん お腹痛いの 治った?」
いずみ「藍子…。」
藍子「今日 帰ってくるかなあ?」
いずみ「今日は まだ無理だよ。 一緒に お留守番してようね。」
藍子「うん。」
倉田「藍子ちゃん! 先生 描いてくれはったで。 ほら!」
藍子「うわ~! 『悪魔くん』だ!」
倉田「ええもん 描いてもろて よかったな!」
藍子「♬『エロイムエッサイム エロイムエッサイム』」
(いずみと倉田の笑い声)
いずみ「茂兄さんは?」
倉田「ああ 寝に行かはったですよ。 仕事 片づいたんで 僕らも帰らしてもらいます。 奥さん 無事に産まれて よかったですね。 ほな! よいしょ。 ん?」
台所
倉田「何です?」
いずみ「意外に冷たいんですね。 茂兄さん。」
倉田「え?」
いずみ「様子見に 病院に行っても よさそうなもんなのに…。」
倉田「2日 徹夜やさかい。」
いずみ「藍子だって かわいそうだわ。 お誕生日のお祝い 楽しみにしとったんですよ。 それなのに プレゼントの事も すっかり忘れて…。」
いずみ「仕事が大事なのは 分かりますけど 妻のお産にも 子供のお祝いにも ほんの少しの時間も 割けんもんでしょうか?」
倉田「分かってへんなあ。」
いずみ「え?」
倉田「集中して 描いてはるんや。 ちょっと時間 割いてやなんて そんな簡単なもんとちゃう。」
いずみ「ほんなら 子供を産むのが 簡単だ 言うんですか?!」
倉田「原稿が遅れたら 大勢の人に 迷惑がかかるんが分からんのかなあ。」
いずみ「分かっとります!」
倉田「せやったら 余計な事 言わんといてくれ。 命懸けで打ち込まへんかったら 漫画の世界では 生き残っていかれへんのやで。」
藍子「痛いよ~!」
(藍子の泣き声)
いずみ「どげしたの?!」
藍子「痛い…。」
いずみ「あっ!」
倉田「ストーブ 触ったんやな。」
藍子「痛いよ~。」
いずみ「冷やさんと!」
(藍子の泣き声)
藍子「痛い。」
いずみ「ごめんね。 痛かったね。 藍子 ごめんね!」
藍子「痛いよ~。」
茂「どげした?」
倉田「先生…。」
いずみ「藍子が やけどをしてしまって…。」
茂「見せてみろ。 赤くなっとるな。」
倉田「病院へ連れて行きまひょ。」
茂「ああ。」
いずみ「今 タクシー呼びます!」
茂「待っとる間に 抱いていった方が早い!」
倉田「自分が!」
藍子「痛い! 痛い…。」
茂「心配せんでええ。 あんたは 留守番しとりなさい。」
玄関
(カラスの鳴き声)
いずみ「あの…。 ありがとうございました。」
倉田「いえ…。」
いずみ「私 偉そうな事 言って 自分は 不注意で 藍子に やけどさせてしまって…。」
倉田「『すぐに 水かけて 冷やしたんが よかった』って 医者も 言うてはりましたし あんまり気にせん方がええですよ。」
(戸の開閉音)
<年が明けて しばらくして>
昭和四十二年一月
仕事部屋
茂「そろそろだな…。」
(クラクション)
(クラクション)
菅井「あれ? どこの車だ?」
小峰「ここのだよ。」
菅井「え?」
倉田「昨日 届いたんや。 知らんかったんか?」
菅井「うん。」
玄関
布美枝「ただいま~。 ただいま戻りました。」
茂「ああ。 ご苦労さん。」
客間
藍子「かわいいねえ。 赤ちゃん かわいいねえ。」
布美枝「ほら お姉ちゃんだよ。」
いずみ「ほんとに すいませんでした。 私が ついとったのに…。 跡 残るかもしれん。」
布美枝「大丈夫。 これくらい すぐ分からんようになるわ。 もう気にせんで。 あんたのせいじゃない。 心配させて かえって 悪かったね。」
いずみ「姉ちゃん…。」
藍子「いずみちゃん どうしたの? お腹 痛いの?」
いずみ「ううん。 藍子ちゃん おてて 痛いの 我慢した ご褒美に ドライブ 連れてってあげようか?」
藍子「ドライブ?」
いずみ「うん!」
布美枝「けど… びっくりしたわ。 いきなり 車で 迎えに来て。 『うちの車だ』って言うんだもん。」
いずみ「届いたばっかりだもの。 それに 『黙っちょけ』って言われとったの。 『びっくりさせろ』って!」
布美枝「もうっ。」
いずみ「倉田さんも 免許 持っとってね。 茂兄さん 早速 倉田さんの運転で 神田の古本街に 漫画の資料 買いに行っとったよ。」
布美枝「そう。 車があるのは便利でええね。」
いずみ「だけん 早い事 買ったらって 言ったのに。」
布美枝「けど なして 急に 買う気になったんだろうねえ…。」
いずみ「藍子の やけどのせいかな…。」
布美枝「え?」
いずみ「病院に行く時ね タクシー呼ぼうとしたんだけど 『走った方が早い』って 茂兄さんと倉田さんで 藍子を病院に連れてったんだよ。 それから 急に 車の話 言いだして…。 『何かあった時に 車がなくて 間に合わんだったらいけん』って 思ったんじゃないかな。」
布美枝「うん…。」
いずみ「ほんとはね… 私 ちょっこし 茂兄さんに 腹を立てとったの。 仕事ばっかりで 姉ちゃんや藍子の事 大事にしとらんのじゃないかって。」
布美枝「いずみ…。」
いずみ「けど そげな事ないね。 茂兄さん 姉ちゃんや 藍子の事 ちゃんと守っとるんだわ。」
布美枝「うん。」
仕事部屋
布美枝「お父ちゃん ちょっこし ええ?」
茂「おう。」
布美枝「赤ちゃんの名前 決めて 届け 出さんといけんのですけど。」
茂「ああ。」
布美枝「入院しとって 遅くなったけん 明日にでも 出しに行かんと。」
茂「ええ話があるけん。 まあ 座れ。」
布美枝「何ですか?」
茂「テレビの『悪魔くん』なあ 評判がええので 春まで続けるそうだ。」
布美枝「ほんとですか? よかった!」
茂「子供の間で はやっとるらしいぞ。 『エロイム・エッサイム』が。 ん? どげした?」
布美枝「ほんとに よみがえったんですね 『悪魔くん』。 お父ちゃんの言ったとおりだなあ。」
茂「いや! 予想は 外れだ!」
布美枝「なしてですか?」
茂「俺は『『悪魔くん』は 七年目に よみがえる』と 書いたんだ。」
布美枝「あ…。」
茂「7年も かからんだったぞ。 4年 経たずに復活だ。」
布美枝「はい。 仕事の邪魔したら いけんね。 名前 お願いしますね。」
茂「もう決めてあるぞ。」
布美枝「え?」
茂「ほれ。 よしこだ。」
布美枝「喜ぶ 子で 喜子。」
茂「うん。 ええだろう?」
布美枝「はい! 喜子か…。」
<布美枝と茂が 久しぶりに ゆっくりと過ごした夜の事でした>