ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第113話「鬼太郎ブームがはじまった」

あらすじ

深沢(村上弘明)は、苦労している多くの漫画家たちにまともな原稿料を払うため、他社との合併話を真剣に考えていた。しかし、相手は「ゼタ」の名前と、茂(向井理)たち人気漫画家が欲しいだけだったことがわかり、結局は断ることに。それをきっかけに、郁子(桜田聖子)は嵐星社に見切りをつけ、深沢のもとを去る。いずみ(朝倉えりか)は、安来に帰ることを決心し、倉田(窪田正孝)とも別れのときを迎える。

113ネタバレ

水木家

客間

深沢「痛っ! あ~っ! 面目ない。」

茂「何かあったんですか?」

深沢「例の成田出版で 『ゼタ』を出す話ですが…。」

茂「ええ。」

深沢「あれは 破談になりました。 (せきこみ)」

布美枝「お水 持ってきます。」

いずみ「私が…。」

深沢「悪くない話だと 思っていたんですよ。 大手と組めば 新しい事もできるし 何より 金に苦労をせずに済みます。 苦労している漫画家達に もっと まともな原稿料を払いたい。 そう思ったんですが…。」

回想

深沢「編集は 本当に 私に任せて頂けるんですね?」

浜野「もちろんです。 深沢さんあっての『ゼタ』ですから。」

深沢「彼女も 一緒に お世話になりますが。」

浜野「すでに 上の了解は 得ています。」

深沢「分かりました。 よろしくお願いいたします。」

浜野「いえ こちらこそ。」

深沢「早速ですが 御社で発行する 第1弾は  こういう内容で いくつもりですが。」

浜野「深沢さん これは ちょっと 待って頂けますか。」

深沢「え?」

浜野「このあたりの先生方には 当分の間 お休み頂きましょう。」

深沢「え?」

浜野「まずは この先生方を中心に 組み立てて頂けますか?」

深沢「ちょっと 失礼。 人気漫画家ばかり…。 『ゼタ』を 丸ごと引き受けるという お話しではなかったんですか?」

浜野「ええ ですから…。」

深沢「無名でも 才能のある描き手が 漫画を発表できる場所を作る というのが『ゼタ』の編集方針です。」

浜野「来て頂くからには やはり 売れる物を作って頂かないと。」

回想終了

深沢「向こうが欲しかったのは 水木さん達 人気漫画家だけだったんです。」

茂「それで 合併の話を。」

深沢「断りました。 3年の間 赤字に苦しみながら 守り続けてきた 自由の砦です。 売り渡す事は できません。 しかし 彼女は 大いに失望したようで。」

回想

郁子「やっと 決心がつきました。 お世話になりました。」

(ドアの閉まる音)

回想終了

深沢「成田出版との合併話 随分 喜んでましたからね。 がっかりしたんでしょうな。 彼女には 苦労のかけどおしでしたから。 それで ついね…。」

回想

客1「大学生が 漫画 読むとは 嘆かわしい風潮だよ! まともな出版社が 漫画を出すなんてのは 先進国の中でも日本ぐらいだろ?」

客3「僕もね 漫画は読むな バカになるぞって 子供に言ってるんですがね。」

マスター「すいません。」

客1「こらからの日本を しょって立つのは 君達や君達の子供達なんだよ!」

マスター「お客さん! 漫画関係の方が いらっしゃいますので…。」

客3「ほう。」

客1「たかが漫画に そうそう 目くじら立てる事もないか。」

客3「しょせん 金もうけ目当ての オモチャ雑誌だ!」

(客達の笑い声)

深沢「もう一遍 言ってみな!」

客1「何?」

深沢「今 たかが漫画と言ったな!」

客2「何だよ あんた。」

深沢「たかが漫画でも 命 懸けてる人間もいるんだ。 あんたら! それ 分かって 言ってるのか? え?」

客2「あっち 行けよ!」

客3「何すんだ お前!」

回想終了

深沢「水木さん 私 本当は 少し 惜しい事をしたと 思ってるんですよ。 せっかくの うまい話 意地を張って 断ってしまって。 あげくに 大事な相棒にも とうとう 愛想を尽かされてしまった。」

布美枝「引き止めなかったんですか? 引き止めたら 郁子さん もしかして…。」

深沢「『ゼタ』には 彼女の気持ちを満たすものは もう なかったんです。 はあ~ バカな事をしたもんですよ。 大事な人を失うと 分かっていながら 意地を張って。」

茂「しかし その意地っ張りが 『ゼタ』を 作ってきたんですからなあ。 金さえかければ 幾らでも いい雑誌が 作れそうなもんですが 実際は そうはならんのです。」

茂「現に『ゼタ』のような雑誌は 他の金持ち出版社からは 一つも出とらん。 原稿料が安くとも 『ゼタ』を愛する者は大勢おります。 深沢さんがおるかぎり 自分は 『ゼタ』に描き続けます。 それは 変わらんですよ。」

深沢「水木さん…。」

2階

いずみ「郁子さんって 案外 冷たいんだね。 こげな時に 深沢さんを見捨てて 出ていくなんて…。 すてきな人だと思っとったけど 幻滅したな。」

布美枝「そげかなあ。」

いずみ「え?」

布美枝「郁子さん 深沢さんが 結核で入院しておられる頃から 『ゼタ』を手伝ってて 資金繰りも 広告集めも 何でも やっておられたんだよ。 郁子さんがいたから 深沢さんは 『ゼタ』を続けられたんだわ。」

いずみ「ほんなら なして今になって それを捨てるの?」

布美枝「仕事をして 生きていく人だけん。 きっと 大事なものを捨ててでも やりたい事があったんだわ。」

いずみ「私には 分からんわ…。」

布美枝「私にも よう分からん。 けど それだけの覚悟をして 仕事をしておられたんじゃないのかな。 郁子さんも 深沢さんの事 お好きだったんじゃないだろうか。 お二人とも…。 つらい思いされただろうな…。」

いずみ「姉ちゃん…。」

台所

布美枝「取れました! 運転免許!」

茂「ほう!」

布美枝「運動音痴だけん 何度も補習ついてしまったけど…。」

いずみ「よう頑張ったよ!」

茂「ああ。 なかなか立派なもんだ。」

布美枝「はい!」

いずみ「これで 私も安心して 大塚に帰れるわ。」

布美枝「え?」

客間

布美枝「見合いは どげするの?」

いずみ「戻って話を聞いてから考える。 お父さんが 何と言おうと 嫌な相手だったら 見合いはせん。」

布美枝「うん。」

いずみ「けど… 私は まだまだ 甘ちゃんだね。 郁子さんみたいに 仕事に生きる覚悟はないし 姉ちゃんみたいに とんでもない 貧乏にも耐えられそうにもないし。 茂兄さんも アシスタントのみんなも 一生懸命やっとる。 私も一歩 踏み出さんといけんわ。」

布美枝「いずみ ええの? あんた もしかして 倉田さんの事…。」

いずみ「あの人 よう 頑張っとるよね。 まだまだ 脇目 振らずに 死に物狂い 描かんといけん。 そげせんと 茂兄さんみたいな 本物の漫画家には なれんもん。 私… ずっと応援しとる。」

<そして 8月の終わりに…>

休憩室

菅井「いずみさん。」

いずみ「菅井さん 小峰さん お世話になりました。」

小峰「お元気で。」

布美枝「あら お父ちゃんは?」

小峰「今 電話が来てましたけど。」

(電話を置く音)

茂「おい! 決まったぞ! 『ゲゲゲの 鬼太郎』 年明けから テレビ放送が始まる事になった!」

布美枝「えっ?!」

菅井「お~!」

いずみ「やった! おめでとうございます!」

茂「全国放送だけん 安来でも見られるぞ。」

いずみ「ええ お土産ができました。 よかったね 姉ちゃん!」

布美枝「うん。」

菅井「クラさん どうしたんだろう?」

小峰「少し遅れるって電話が来てたけど。」

菅井「何やってんだろうね こんな時に…。」

いずみ「ほんなら 茂兄さん 姉の事 よろしくお願いします。」

茂「ああ。」

いずみ「お世話になりました!」

布美枝「じゃあ 私 駅まで送ってきます。」

茂「うん。」

菅井「ああ じゃあ 僕も一緒に…。」

いずみ「ここで ええよ。 送られたら かえって寂しいから。」

藍子「いずみちゃん… また来てね。」

いずみ「うん。 また来るよ。 元気でね。」

玄関前

布美枝「私 車 回してくるね。」

いずみ「うん。」

倉田「いずみさん! これ… あん時の お礼や。」

いずみ「これ…。」

倉田「何べんも 描き直しとるうちに 遅うなってしもたけど…。 いつまでも…。 こないして 笑(わろ)うてくれてたら ええな。」

いずみ「だんだん…。」

<こうして いずみの長い夏休みが 終わりました>

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