あらすじ
布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)のもとを、久しぶりに豊川(眞島秀和)が訪れ「社内の人事異動で漫画の現場を離れることになった」と知らせる。新しく茂を担当することになった編集者・松川(杉本有美)が若くてキレイな女性であることに、修平(風間杜夫)はご機嫌だった。藍子(菊池和澄)は、学校で「水木しげるの漫画はウソばかり描いてある」といじめられ、その悩みを布美枝に相談することもできずにいた。
116ネタバレ
小学校
教室
男子1「お前の父ちゃん 水木しげるなんだな。」
藍子「え?」
女子1「有名人の娘だったんだね!」
一同「すご~い! サイン ちょうだい サイン ちょうだい。」
女子1「『ゲゲゲの鬼太郎』 描いてるんだ!」
女子2「どうして 隠してたの?」
女子3「今度 おうちに 遊びに行ってもいい?」
女子4「私もいい?」
藍子「え~っと…。」
畑野「みんな おはようございま~す。」
一同「おはようございます!」
智美「バレちゃったんだ。」
藍子「うん ショック…。」
水木家
休憩室
布美枝「豊川さん 『少年ランド』を離れるんですか?」
豊川「とうとう 異動の事例が 出てしまいました。 今度は 『月刊スコーブ』です。」
茂「雄玄社の看板雑誌ですな。」
布美枝「漫画ではないんですか?」
豊川「長い事 少年漫画で 飯を食ってきましたが とうとう お役御免です。」
北村「抜てきですよ。 30代中半で 『月刊スコープ』の編集長は わが社 始まって以来 じゃないかな。」
茂「大したもんですなあ。」
豊川「いや~ 順送りですよ。 北村も 今度 デスクに昇格しました。」
布美枝「おめでとうございます!」
北村「『鬼太郎』のヒットのお陰で 僕も ちょっと 株が上がったようです。」
豊川「北村は 社内業務が増えますので これからは 松川が お邪魔します。」
松川冴子「松川冴子です。」
豊川「駆け出しですから 大いに こき使って下さい。」
松川「よろしくお願いします!」
菅井「先生 『コミックBANBAN』さんから 原稿3時に取りにくるって 電話ありました。」
茂「ああ 大丈夫だ。」
菅井「ええ。 あれ?」
茂「ああ 新しい担当さんだ。 スガちゃん みんなに 紹介してくれんか。 聞いとるか?」
菅井「はい。」
冴子「はじめまして 松川です。」
菅井「こちら どうぞ!」
冴子「はい。」
茂「しかし 寂しくなりますな。 豊川さんが 『少年ランド』を離れるとなると。」
豊川「私も できれば 続けたかったです。 このまま残してくれと 食い下がってはみたんですがね。 結局 異動の辞令には 逆らえません。 『すまじきものは 宮仕え』ですよ。 フフフ! しかし こちらは 随分 変りましたねえ。」
茂「ああ…。 豊川さん 初めて うちに来たのは…。」
豊川「7年前です。」
布美枝「もう そんなに…。」
回想
豊川「え? あなたが水木先生?」
茂「はい。」
豊川「『別冊少年ランド』に 漫画を お願いしたいのです。」
回想終了
茂「『悪魔くん』や『鬼太郎』が テレビになったのも 豊川さんの 熱意のお陰ですな。」
豊川「いや 私は 先生の背中に 圧倒されただけですから。」
茂「背中?」
豊川「初めて こちらに伺った時です。 私 すごいものを見たと 思いました。 私を動かしたのは 先生が 漫画に打ち込んでおられる あの姿ですよ。 いろいろ 勉強させて頂いて ありがとうございました。」
茂「いや… こちらこそ。」
布美枝「ありがとうございました!」
玄関前
布美枝「ご苦労さまでした。」
豊川「それでは 失礼します。」
修平「ご苦労さまです。」
(小鳥の鳴き声)
修平「布美枝さん 今の人は 誰かね?」
布美枝「豊川さんですよ。 お父さん 何度も お会いに なっとるじゃないですか?」
修平「連れの娘さんは 初めてだな。」
布美枝「新しい担当さんです。」
修平「へ~え! そげか! う~ん! ♬『コラソン デ メロン デメロメロメロメロン』!」
布美枝「お父さんったら 美人に弱いんだから。」
小学校
教室
(子供達のはしゃぐ声)
子供1「あの子が 水木しげるの娘だって。」
子供2「え どの人?」
子供1「あの人。」
子供3「へえ わりと普通だね。」
智美「あんなの気にしない 気にしない。」
藍子「うん。」
子供達♬『ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー 朝は寝床で グーグーグー』
男子1「お前 よく遅刻すると思ったら 『朝は寝床で グーグーグー』なんだな。」
藍子「え?」
女子1「村井さん 絵が上手だけど お父さんが漫画家だったら 当たり前だね。」
女子2「いいなあ うちも 漫画家だったら よかったのに。」
女子3「村井さんちって お金持ちなの?」
藍子「そんな事ない。」
女子3「漫画家は お金持ちだって聞いたよ。」
男子2「うわ~! 金持ちのくせに チビた鉛筆 使ってんなあ。」
智美「よしなよ。」
男子1「うちの母ちゃん 言ってたぞ 水木しげるの漫画は 嘘ばっかりだって。」
智美「何でよ!」
男子1「妖怪とか お化けは 本当には いないんだからな。」
智美「いないって 証明できるの?」
男子1「いるって 証明できるのかよ!」
智美「藍子ちゃんのお父さんに 聞いてみる?」
藍子「智美ちゃん いいよ。」
智美「でも!」
子供達♬『ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー 朝は寝床で グーグーグー』
水木家
客間
布美枝「すいません。 そしたら 明日にでも伺います。 はい。 ごめんください。」
布美枝「(ため息) また 幼稚園から 呼び出しだ。 あら? 喜子は どこへ行ったんだろうか?」
茂「おい 仕事の邪魔するけん つまみ出してきたぞ。 ほれ!」
喜子「つまんないの。」
布美枝「こら! 今日は あっちに行ったらいけんと 言ったでしょ。 だって 人が いっぱいいて 楽しそうだもん。」
布美枝「ほんとに あんたは 何べん 言っても きかんのだけん…。 お母ちゃん また幼稚園の先生から 呼び出されたよ。」
茂「どげした?」
布美枝「今 電話があったんです。 喜子が逃亡して困るって。」
茂「逃亡?」
布美枝「今日は お絵描きの時間に いなくなって。」
茂「うん。」
布美枝「先生が捜したら 1人で 外の ブランコ乗っとったって。 ブランコなら 自由時間に乗れば ええでしょう?」
喜子「自由時間は ダメだよ。」
布美枝「どうして?」
喜子「取り合いになるから 喜子 乗れないもん!」
布美枝「あら?」
茂「ははあ。 みんなが部屋におる間なら 好きなだけ ブランコに乗れるなあ。」
喜子「うん。」
茂「そりゃ ええ考えだ。」
布美枝「感心しないで下さいよ。」
茂「ブランコの何が悪い。」
布美枝「そげじゃなくて 喜子が しょっちゅう 部屋を抜け出すんですけん 集団行動が できんのじゃないかって 先生方が心配しとって。」
茂「心配せんでも そのうち直る。」
布美枝「けど…。」
茂「とにかく 今日は 喜子を 仕事部屋に入れるな。 頼んだぞ。」
布美枝「はい。 お父ちゃんは ああ言うけど 喜子 このままで大丈夫だろうか。 (ため息)」
夫婦の寝室
(ミシンをかける音)
藍子「ただいま!」
布美枝「おかえり。」
藍子「何 縫ってるの?」
布美枝「あんた達の おそろいのブラウス。 袖 ちょうちん袖にする? 台所に 草餅あるよ。 豊川さんの お土産だけん 上等だよ。 どげしたの?」
藍子「何で お父ちゃんの仕事 『漫画家』って書いたの?」
布美枝「何の話?」
藍子「学級の連絡簿だよ。 前は『自営業』って 書いてたじゃない?」
布美枝「そうだっけ?」
藍子「うん。」
布美枝「ええじゃない お父ちゃんは 漫画家なんだけん。」
藍子「自営業にしといて ほしかったな。」
布美枝「何 言っとるの?」
藍子「だって 嫌なんだもん。 お父ちゃんの漫画の事 知られるの。」
布美枝「え?」
藍子「もう 学校中に 知れ渡っちゃったよ。」
布美枝「藍子 あんた お父ちゃんが 漫画家だって事 知られたくないの?」
藍子「うん。」
布美枝「お母ちゃん 悲しいよ。 藍子が そげな事 言うなんて。」
藍子「えっ?」
布美枝「お父ちゃんは 一生懸命 漫画 描いとるんだよ。 何にも 恥ずかしい事してない なして 隠さんといけんの?」
藍子「そうだけど…。」
布美枝「何?」
藍子「もういいよ。」
布美枝「ちょ ちょっと 待ちなさい! 藍子らしくないねえ! 何か 嫌な事でもあったの?」
藍子「別にない…。」
布美枝「あのね お父ちゃん 今は いっぱい お仕事あるけど 昔は なかなか 認められなくてね。 けど それでも くじけんで 漫画 描き続けとったんだよ。」
藍子「ちょっと 覚えてる。」
布美枝「お母ちゃん そういうお父ちゃん 立派だなあと思っとるの。 だけん 『お父ちゃんは漫画家です』って 胸 張って言えるよ。」
藍子「うん 分かった。 ブラウス ちょうちん袖にしてね。」
布美枝「はい。」
藍子「草餅 食べてくる。」
客間
藍子「お母ちゃんには 言っても分かんないよね。」
両親の部屋
♬~(レコード)
修平「(鼻歌)」
絹代「うっ! ううっ! やっぱり 胸がせついわ。」
喜子「どうしたの?」
絹代「何でもないよ。」
♬~(レコード)
絹代「あなた 私 この頃 どうも心臓が…。」
修平「おう~ 来月は 『切られ与三(よさ)』か…。 これは どげでも 見に行かんといかんな…。 落語も ええなあ。 久々に 演芸場に行くか。 おい さっきの草餅 もうないか? ん?」
絹代「あなたは もう!」
修平「何だ?」
絹代「私は 心臓が悪いんですよ。」
修平「心臓? 何の話だ?」
絹代「とにかく これ 膨らましてごしなさい。」
修平「うん。 ああ…。」
絹代「それから 晩ご飯の支度 お願いします。」
修平「飯の支度?」
絹代「私は 心臓が悪いですけん。」
修平「ふっ!」
子供部屋
回想
女子1「村井さん 絵が上手だけど お父さんが漫画家だったら 当たり前だね。」
男子1「うちの母ちゃん 言ってたぞ 水木しげるの漫画は 嘘ばっかりだって。 妖怪とか お化けは 本当には いないんだからな。」
回想終了
藍子「やっぱり お母ちゃんに 相談しようかなあ。 あ~あ 宿題も さっぱり 分かんない。」
(風船の破裂する音)
藍子「うあっ?!」
台所
(藍子と喜子の声)
布美枝「何しとるんだろ?」
子供部屋
藍子「喜子のバカ!」
喜子「お姉ちゃんのバカ!」
布美枝「あんた達 下まで 声が聞こえとるよ。 藍子も いい加減にしなさい!」
藍子「だって よっちゃんが いたずらするんだもの。 ほら! こんなになっちゃって!」
布美枝「あら?」
喜子「自分で破いたんでしょ。」
藍子「あんたが 風船 割るからだよ!」
(喜子の泣き声)
布美枝「藍子 いい加減にしなさい! 4つも下の子と 本気で けんかする事ないでしょう。 お姉ちゃんなんだけん。」
藍子「お母ちゃんは あっち 行ってて!」
布美枝「藍子…。」
<布美枝は この時 まだ 藍子の抱える胸の痛みに 気づいていませんでした>