ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第119話「妖怪いそがし」

あらすじ

安来でミシンの販売店を営む布美枝(松下奈緒)の弟・貴司(星野源)が、研修で東京にやって来る。人当たりがよく手先の器用な貴司は、絹代(竹下景子)にも気に入られた。布美枝は貴司に、茂(向井理)の忙しさについて話す。貴司は「夫婦の気持ちがすれ違わないために、茂と会話することを大切にするように」と、布美枝に言う。ある日、貴司は藍子(菊池和澄)を連れて町に出かけるが…。

119ネタバレ

水木家

客間

貴司「これが飯田のうちから 預かってきた ハチミツだ。」

布美枝「うれしい! だんだん!」

貴司「今年は レンゲが よう咲いたけん ええのが採れたと おやじも自慢しとったぞ!」

藍子「ただいま~!」

布美枝「お帰り!」

貴司「おう! 藍子か! 大きくなったなあ。」

藍子「こんにちは!」

貴司「叔父ちゃんの事 覚えとるか?」

布美枝「覚えとる訳ないよ。 あの時は 1歳半の 赤ん坊だったんだもん。」

貴司「もう 8年も前か。」

布美枝「喜子を連れて帰った時は あんた 仕事でおらんだったし。」

喜子「お土産 もう終わり?」

貴司「ああ すまんな。 どげなもんがええか 叔父ちゃん ようわからんだったけん。 喜子やちの分は こっちで 買った方が ええと思ってな。 仕事が済んだら 一緒に 買い物 行かや?」

喜子「うん。」

布美枝「気ぃ遣わんで ええよ。 ミシンの研修 大変なんでしょ?」

貴司「どんどん 新製品が出~だけん 勉強せんと 仕事にならんわ。」

喜子「叔父ちゃん 鬼太郎 見せてあげようか?」

貴司「うん!」

子供部屋

喜子「鬼太郎の チャンチャンコはねえ 先祖の毛で出来てるんだよ。」

貴司「ほう! そげか。」

喜子「けど 本当は お母ちゃんが縫ったんだけどね。」

貴司「ハハハハ!」

絹代「布美枝さん 棟梁 今度はいつ来るかね?」

布美枝「お父ちゃんに 聞いてみんと 分からんですけど どげしました?」

絹代「タンスの引き出しが 開けにくいんだわ!」

布美枝「棟梁 家具まで 見てくれますかねえ?」

貴司「僕 やりましょうか?」

絹代「ん?」

両親の部屋

貴司「底板が ずれとったですわ。 これで 当分は 大丈夫でしょう。」

絹代「はあ~ うまいもんだねえ!」

修平「ついでに 奥の棚も見てもらえんか?」

貴司「ええですよ。」

修平「本の重みで 棚板が歪んどるんだ。」

貴司「これは たくさんありますな。」

喜子「叔父ちゃん!」

貴司「うん。」

喜子「鬼太郎のおうち作って。」

貴司「ええよ ちょっこし待ってな。」

絹代「棟梁よりも ええ腕しちょ~わ!」

<人当たりがよく 手先の器用な貴司は 絹代にも すっかり 気に入られたようです>

台所

茂「来た早々 大工代わりに 使われましたか。 それは すまん事をしました。」

貴司「いや 木工は 昔から趣味ですけん。」

茂「うっかりした事 言うと 『家一軒 建てろ』と言われかねんですよ。」

貴司「それは 無理だ。 ハハハハ!」

布美枝「はい どうぞ。」

茂「編集の人 待たせとるけん 俺は これで…。」

貴司「どうぞ お構いなく。」

茂「そうだ 向こうに お茶 頼むわ。」

布美枝「はい。」

貴司「まだ仕事か。 忙しいんだな。」

布美枝「働いても 働いても 仕事が終わらんの。 妖怪にでも 取りつかれとるようだわ。」

夫婦の寝室

貴司「ちょっこし ベルトが伸びとるかな。」

布美枝「ベルト替えれば まだいけるね。」

貴司「買い替えてもらえると ミシン屋は ありがたいんだがね。」

布美枝「ごめん。 けど 大事に使ったら まだまだ 働いてくれるし。 このミシンには 愛着もあるしね。」

貴司「そしたら 町で ベルト買ってきて 付け替えるか。」

布美枝「お願いします。」

貴司「は~ 姉ちゃんは 大事に使ってるな~。」

布美枝「そげかな。」

貴司「お客さんから ミシンの調子が悪いって 呼ばれていく事があるだろ。」

布美枝「うん。」

貴司「油は 差しておらんし ほこりが詰まって 動かんようになっとる ミシン見ると かわいそうになるわ。 それでも 使ってくれとるうちは まだ ええけど 最近は 既製服が安いけん ミシン買う人も減ってきたわ。」

布美枝「あんたの商売も 大変だね。」

貴司「こげな事なら おやじの言う事 聞いて 酒屋やっとった方が よかったかな。 よし! これで ええ。」

布美枝「だんだん。」

貴司「そういえば 姉ちゃん さっき 妙な事 言っとったな?」

布美枝「え?」

貴司「妖怪に取りつかれたとかなんか。」

貴司「『妖怪 いそがし』?」

布美枝「うん。」

貴司「『江戸時代から伝わる妖怪で 取りつかれると 休む間もなく働く』。 なるほどなあ。」

布美枝「この間 うちの人の背中に 何か ついとるような気がして。 気になって しかたないけん この本 見たら これが…。」

貴司「プッ! ハハハハハハ!」

布美枝「何ね? 人が真剣に話しとるのに。」

貴司「姉ちゃん 村井さんに 相当 感化されとるなあ。 何でも 妖怪を持ち出すのは 村井さんの影響だわ。」

(2人の笑い声)

布美枝「そげだね。 去年から また テレビで 『鬼太郎』が始まったでしょう。 仕事の注文が増えてね。 うちの人 來る仕事は 断らんけん どんどん 忙しくなるばっかり。」

貴司「よう頑張るなあ 体 大丈夫か?」

布美枝「俺は 鉄のように丈夫だけん 平気だって言っとる。」

貴司「けど 晩飯くらいは 子供やちと一緒に ゆっくり食べたらええのに。 藍子やちも 寂しいだろう?」

布美枝「うん。 私も相談したい事が あるんだけど なかなか…。 忙しそうにしとるとこ見ると あれこれ 悩ませるのも 申し訳ないような気がして 何も言えなくなるわ。」

貴司「黙っとったら 姉ちゃんが悩んだり 困ったりしとっても 村井さんには 伝わらんぞ。 仕事 仕事で 家族と 距離ができてしまっても 男は なかなか 気づかんもんだけんな。」

貴司「今日の天気は どげだとか 飯がうまいとか まずいとか…。 そげな事しか 話さんようになって いつの間にか お互い 何 考えてるのか 分からんやに なっちょ~よ。」

布美枝「貴司…。」

貴司「ん?」

布美枝「あんた 何か あったの?」

貴司「うん…。」

布美枝「満智子さんと何か?」

貴司「どこのうちも そげん うまくは いっとらんわ。 あ 糸取りバネも替えとくかね。 これは ええミシンだ。 まだまだ 使えるぞ。 よし!」

玄関

喜子「お母ちゃん 早く 早く」

藍子「おとなしくしないと 置いてくよ。」

布美枝「すまんね。」

喜子「嫌だ。」

布美枝「研修続きで 疲れとるのに。」

貴司「いや うちの子供への土産も 藍子に選んでもらったら 間違いなしだ。 なあ 藍子。」

藍子「うん 早く行こう!」

貴司「うん。」

布美枝「ちょっと 待って おばあちゃんが まだだわ。」

藍子「おばあちゃんも行くの?」

布美枝「叔父ちゃんの事 すっかり お気に入りで 一緒に買い物に行くって。」

藍子「ふ~ん。」

布美枝「おかしいねえ 支度 もう できとるはずなんだけど。」

貴司「ああ。」

両親の部屋

布美枝「大丈夫ですか?」

絹代「う~ん。 出かけようとしたら 胸が キュ~と 痛なって。 やっぱり 心臓がいけんのだわ。」

布美枝「病院 行きましょうか?」

絹代「ええ。 こげしとったら治る。 けど 街までは とっても行かんれんけん あんたやちだけで行ってく~だわ。」

布美枝「けど…。」

絹代「ええけん 行きなさい。」

玄関前

喜子「お母ちゃんも 来ればいいのにね。」

貴司「おばあちゃんは 具合が悪いけん しかたないよ。」

藍子「おばあちゃんの心臓 半分 気のせいだと思うけど。」

貴司「そげか…。 姉ちゃんも大変だな。 行くか!」

両親の部屋

布美枝「洗濯物 取り込んできました。」

絹代「あ だんだん!」

布美枝「お父さん 食事の支度 私がやりますけん。」

修平「ええわ ええわ。 今夜は 天ぷらだ。」

布美枝「ほんなら 私 これ 片づけてきます。」

修平「うん。」

絹代「ええけんね。 こっちの事は こっちでやるけん。 だけん あんたは行きなさいと 言ったでしょう。」

布美枝「けど…。」

絹代「私に何かあっても うちの事は お父さんが 何でもできる。 日頃から そげなふうに やっとるけんね。 年寄り2人 しげさんの世話になっとるけど 私は 心臓が悪いけん お父さんより 先に逝くと思うわ。 身の回りの事 一つできんような 人を 残しては おけん。」

布美枝「お母さん…。」

絹代「今のうちに 何でもできるように なっとってもらわんと。 あんた達に 世話は かけられんけん。」

修平「(鼻歌)」

絹代「だけん 布美枝さん。」

布美枝「はい。」

絹代「あんたは しげさんの事だけ 心配しとれば よろしい!」

布美枝「はい。」

絹代「亭主の健康を気遣い 丈夫に働いてもらうのは 女房の役目だけん!」

布美枝「はい!」

客間

喜子「もしもし 鬼太郎さん いますか?」

オルゴール♬~『星に願いを』

藍子「叔父ちゃんと デパート行くと 楽しいよ。 オモチャ売り場も 文房具売り場も ゆっくり 見られた。」

布美枝「すまんね お金は 後で。」

貴司「ええって。」

オルゴール♬~『星に願いを』

貴司「それより 姉ちゃん。 ちょっこし 気になる事があるんだけど。」

夫婦の寝室

貴司「買い物の帰りに 商店街 歩いとったらな 子供やちが 『ゲゲゲの歌』 歌いながら歩いとったんだよ。」

布美枝「よう 歌ってくれとるのよ。 あの歌 人気あるけんね。」

貴司「藍子…。 俺の後ろに 隠れたぞ。」

布美枝「え?」

回想

子供達♬『ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー 朝は寝床で グーグーグー』

回想終了

貴司「俺には よう分からんけど 藍子 水木しげるの娘だからって 何か言われとるんじゃないかな? 姉ちゃん 何か聞いとらんか?」

布美枝「あ…。」

回想

藍子「だって 嫌なんだもん。 お父ちゃんの漫画の事 知られるの。」

布美枝「悲しいよ 藍子が そげな事 言うなんて。」

藍子「え?」

回想終了

布美枝「藍子 あの時 それ言おうとしてたんだ。」

貴司「よし これで あと20年は 使えるぞ。」

布美枝「なあ 貴司。」

貴司「ん?」

布美枝「私 お父ちゃんが漫画家だって事 ずっと 誇りに思っとった。」

貴司「うん。」

布美枝「だけん 水木しげるの名前のせいで 藍子が傷ついとるなんて 考えもせんだった。 鈍いなあ 私。」

貴司「姉ちゃん。」

布美枝「あの子 学校の作文に 家族で 高尾山に 登山した話 書いたの。 一度も登った事ないのに。 なして そげな作り話 書くのか 不思議だったけど…。 あれは… 自分の夢を 書いとったんだわ。 気づいてやれなくて かわいそうな事したわ。」

貴司「そげか…。」

布美枝「『妖怪 いそがし』に 取りつかれとったのは 私かもしれん。」

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