ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第120話「妖怪いそがし」

あらすじ

布美枝(松下奈緒)は、藍子(菊池和澄)が“水木しげる(向井理)という、有名人の娘であることに苦しんでいた”と、ようやく気づく。毎日の慌ただしさのなかで“子どもをしっかり見ることが、できていなかった”という事実に布美枝は落ち込み、後悔の念にかられる。貴司(星野源)は、布美枝の気持ちを理解し「忙しさに負けることのないように」と、布美枝を励まして故郷の安来へと帰っていく。

120ネタバレ

水木家

夫婦の寝室

布美枝「『妖怪 いそがし』に 取りつかれとったのは 私かもしれん。 慌ただしいのを言い訳にして 子供達の事 ちゃんと見とらんだった。 あんたに言われて やっと気づくなんて…。」

貴司「俺も同じだよ。」

布美枝「え?」

貴司「ここんとこ 女房とも 子供とも ろくに話もしとらん。」

布美枝「そげなの?」

貴司「商売 建て直そうと 工業用ミシンの法人販売に 手を広げたんだが なかなか軌道に乗らなくてな…。 なんとかしようと むきになって 働いとるうちに 家族を置き去りにして いつの間にか 独りで突っ走っとった。 けど… 姉ちゃんは よう頑張っとるよ。」

布美枝「え?」

貴司「このミシン… 使い込まれて よう手入れされとる。 これは 家族のために 働いとるミシンだわ。 姉ちゃんが 家族の事を思って 使っとるミシンだわ。」

布美枝「貴司…。」

貴司「俺… 帰ったら 満智子や 子供やちと ゆっくり話してみるよ。 まだ 巻き返せるよな… 俺。 村井さんより まだ若いんだし!」

布美枝「あんたは これからだけん。」

貴司「うん。 村井さんに しっかり ついていけよ。 『妖怪 いそがし』に負け~なよ!」

布美枝「うん。」

玄関前

貴司「じゃ…。」

喜子「叔父ちゃん また来てね。」

藍子「さよなら。」

布美枝「体に気をつけてね。」

貴司「おう。 ほんなら またな!」

布美枝「うん。」

貴司「ばいばい。」

藍子 喜子「ばいば~い!」

貴司「ばいばい!」

藍子 喜子「また来てね~!」

布美枝「気をつけて。」

喜子「叔父ちゃん また来てね。」

貴司「ばいばい!」

2人「ばいば~い!」

台所

布美枝「おはよう。」

茂「あれ? 貴司君は?」

布美枝「さっき 帰りましたよ。 『お父ちゃんに よろしく』って。」

茂「そげか。」

布美枝「お父ちゃん。」

茂「ん?」

布美枝「相談がるんだけど。」

茂「何だ?」

布美枝「藍子と喜子を 連れて 高尾山に登ろうよ。」

茂「高尾山?」

布美枝「前に話したよね 藍子が 作文に 『登山した』って 書いた事。」

茂「ああ…。」

布美枝「藍子が お話の中に書いた思い出 あれを 本当の事にしてやりたいの。 藍子の夢 かなえてあげようよ。」

茂「高尾山か…。」

布美枝「こっからも近いし とっても ええとこのようだよ。」

茂「せっかくなら もっと高い山にせんか?」

布美枝「え?」

茂「富士山が ええな。」

布美枝「富士山?」

茂の仕事部屋

茂「これ 買おうかと思っとるんだ。」

布美枝「え?」

茂「富士山のふもとの山荘だ。 頼んどいたら 北村君が 探してきてくれた。」

布美枝「頼んでた…?」

茂「俺が 子供の頃は 一日中 海で泳いだり 山で虫採ったり 自然に囲まれて 『河童の三平』のような 暮らしをしとった。」

布美枝「はい。」

茂「藍子の作文の話 あれ聞いて はっとした。 子供達は 自然の中で 遊ばせんといけん。」

布美枝「お父ちゃん…。」

茂「中古で ボロ小屋だが その分 安い。 場所さえ よければ 建物なんか 屋根と壁がありゃええんだ。 どげした? 気に入らんか?」

布美枝「ちゃんと 考えててくれたんですね。」

茂「はあ?」

布美枝「頭の中 仕事で いっぱいだと 思っとった。」

茂「何を言ってといるんだ。」

布美枝「先に言ってくれれば ええのに…。」

茂「車で行ったら 2時間も かからん。 お前は 運転せいよ。」

布美枝「はい!」

茂「まあ 買うかどうかは 別にして 梅雨前に いっぺん行ってみるか?」

布美枝「ほんなら 来週か 再来週ですかね?」

茂「うん。 よし! 早速 仕事を巻かんといけん。 おい もう 向こう行っててくれ。」

布美枝「はい。 お父ちゃん。」

茂「ん?」

布美枝「だんだん。」

茂「おう。」

<それから しばらく経った 初夏の土曜日>

<布美枝達は 富士山ろくの山荘を訪れました>

富士山ろくの山荘

(小鳥の鳴き声)

藍子「これ… 別荘? どう見ても 山小屋だよ。」

布美枝「…そげだね。」

茂「ええっ? 何を言っとるんだ 立派なもんだ! なあ? ハハハ…。」

藍子「かび臭い…。」

布美枝「あら… すごい ほこり。」

茂「北村君に 担がれたかな…。」

2人「うわ~!」

茂「とりあえず 立地は ええな。」

布美枝「よし! みんなで きれいにしようか?」

2人「は~い。」

茂「お… 手伝ってくれるか? はい。 放して ええぞ。」

茂「おっ 喜子 ほれ 見てみろ。 はい はい テントウムシだ。」

喜子「かわいいねえ。」

茂「ああ…。 葉っぱも いろんなのが 生えとるなあ。」

喜子「うん。 スズメが鳴いてるよ。」

(小鳥の鳴き声)

茂「あれは ヤマガラだ。」

(ヤマガラの鳴き声)

布美枝「こうやって片づけると そげに悪くないね?」

藍子「うん。」

布美枝「ほら こげした おしゃれになる。」

藍子「森のレストランみたい。」

布美枝「そげだね。」

藍子「ねえ お母ちゃん…。」

布美枝「ん? 何?」

藍子「お父ちゃん 今晩 泊まるの?」

布美枝「1人で帰れんわ。 車がないと。」

藍子「締め切り 大丈夫なのかな。 後で 困るんじゃないかなあ。」

布美枝「大丈夫。 お父ちゃんも 休みがほしかったんだわ。 藍子達と 一緒に ここに来たかったんだって。」

藍子「無理してない?」

布美枝「してるかもしれんね。 けど 無理してでも お父ちゃんも お母ちゃんも みんなで ここに来たかったんだわ。」

藍子「ふ~ん。」

(小鳥の鳴き声)

布美枝「あら 鳥が そこまで来とる。」

藍子「え どこどこ?」

布美枝「し~っ。 あそこ あそこ。」

(小鳥の鳴き声)

布美枝「ええっ 電気が来てない!」

茂「しばらく使っとらんので 止めとるようだなあ。」

布美枝「夜は どげなるんです?」

茂「山の夜だけん 真っ暗だ。」

2人「え~っ!」

茂「心配いらん。 奥の部屋に… ほれ。」

布美枝「ロウソクですか…。」

茂「今夜は ロウソクの明かりで晩飯だ。 昔のヨーロッパの貴族と一緒だぞ。」

2人「貴族だ~! 貴族 貴族 貴族 貴族 貴族 貴族 貴族 貴族! 貴族! 貴族!」

茂「いただきます。」

3人「いただきます。」

藍子「昔の貴族って こんな暗い中で ご飯食べてたの?」

茂「ああ そげだぞ。」

布美枝「暗い方が ムードあって ええわよ。」

茂「ええ事 言うなあ。 ムード 満点だ!」

藍子「でも 暗いと 新聞読めないね。」

茂「ん?」

藍子「今日は 読まなくてもいいの?」

茂「ほんとはな あげなもん 読まなくてもええんだ。 生きるのに必要な事は ちゃ~ん 自然が教えてくれるけん。 虫も 動物も 新聞は 読まんもんな。」

喜子「虫は 読まないね。」

茂「うん。 うちには『妖怪 いそがし』が 取りついとって お父ちゃん 新聞を読まされて いたのかもしれんなあ。」

布美枝「『妖怪 いそがし』…?!」

藍子「妖怪じゃなくて 雑誌社の人でしょう? 『妖怪 いそがし』なんて いないもん。」

茂「藍子は なして そげ思うんだ?」

藍子「だって…。」

茂「ええけん 言ってみろ。」

藍子「クラスの子に言われるもん。 妖怪なんていないのに お父ちゃんは 漫画で 嘘 描いてるって。 お父ちゃん 妖怪 見た事あるの?」

茂「う~ん ないなあ… お父ちゃんも はっきりと見た事はない。」

藍子「なんだ…。」

茂「けど 気配を感じた事は 何べんも あるぞ。」

藍子「気配って?」

茂「戦争中に ジャングルの中を 逃げておった時にな 途中で どげしても 前に進めなくなった事があるんだ。 壁のようなもんが 行く手を阻んで 押しても びくともせん。 後で調べたら 『塗り壁』という 日本にもおる妖怪だった。」

藍子「本当に?」

茂「ああ。 『天狗倒し』を知っとるか?」

藍子「知らない。」

茂「山の中で ドス~ン バリバリ~ッと 木が倒れる 大きな音がするんだ。 ところが 見に行ってみても 何も倒れとらん。 どうも 『天狗』の仕業らしいんだなあ。 お父ちゃんなあ ジャングルの中で それと 全く同じ体験をしたよ。 向こうにも 『天狗』の仲間がおるんだなあ。」

茂「昔の人は いろんな妖怪の気配を感じて それを 言い伝えに残してくれとる。 お父ちゃんは みんなが分かりやすいように それを 漫画や絵に描いとるんだ。 目に見えるものしか信じない というのは お父ちゃんは 間違っとると思うな。」

布美枝「見えんけど おるんですね?」

茂「ああ。 お化けも 妖怪も 見えんけど おる。 人間は そういう不思議な者達に 囲まれた中で 生きとるんだぞ。」

(大きな物音)

茂「ほれ 『天狗倒し』だ!」

2人「きゃ~っ!」

茂「そげに怖がらんでも 悪さは せんよ。」

布美枝「もう お父ちゃん こげな暗い中で 妖怪の話 せんで下さい。」

藍子「夜中に トイレに行けなくなるよ~。」

茂「それみろ! 怖がっとるのは 妖怪や お化けを信じとる証拠だ。」

藍子「あ…。」

(一同の笑い声)

布美枝「あ~ びっくりしたね~。」

茂「大丈夫だぞ もう…。」

布美枝「さあ 食べましょうか?」

茂「ああ 食べよう 食べよう。」

<久しぶりに 家族の明るい笑顔が 戻ってきました>

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