ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第121話「戦争と楽園」

あらすじ

昭和47年7月。前月に、かつての戦友と共に茂(向井理)は、戦時中に送られていたラバウルを訪れて以来“南の島”に心を奪われていた。「日本からの移住」を言いだす茂に、布美枝(松下奈緒)はあきれ顔。小学4年生になった長女・藍子(菊池和澄)は、有名な漫画家の娘であることから、学校でからかわれていた。今まで、あまり親しくなかったクラスメートの留美子が、自分をかばってくれたことが、藍子はうれしかったが…。

121ネタバレ

水木家

玄関

集金人「ありがとうございます。」

布美枝「ご苦労さまです。」

♬『(南方の音楽)』

集金人「奥さん 今度は 新しい宗教でも始めたんですか?」

布美枝「え?」

集金人「ご近所さんが言ってました。 『怪しい音楽が聞こえてくる』って。」

布美枝「やっぱり怪しいですか…?」

仕事部屋

光男「あ 夏の お化け特集ですね。 ええ…。 いやいやいや お経じゃないんですよ。」

菅井「お経と変わらないよ。 こう毎日だと嫌になっちゃう…。 ああ もう! ねえ 相沢君! すごい集中力だなあ。 よく 気にならないね あの音楽。」

相沢「何か 言いました?」

♬『(南方の音楽)』

菅井「その手があったか…。」

♬『(カセットテープ)』

茂の仕事部屋

編集者1「あ ありがとうございます。 来月は あの 夏休み特集号という事で うちでも 怪奇物で いきたいなと… はい。」

♬『(南方の音楽)』

茂「ハッハッア~!」

編集者1「アーアー…。」

茂「ハッハッア~! あんたも一緒に!」

編集者1「アッハーハー。」

茂「ハッハッア~! ア~! ああ 南方の音楽は 力が わいてきますなあ!」

編集者1「はあ…。」

茂「しかし 自然と体が動くので 描く スピードが落ちるのが困りものです。」

編集者1「先生…。 次号の件ですが…。 せ 先生?」

茂「南方の祭りは ええもんですよ。」

編集者1「はい?」

茂「だんだん 熱が入ってくると 何とも言えん 夢うつつの気分になります。」

編集者1「あの 先生…。」

茂「そうだ! 自分が撮ってきた8ミリ あんた まだ見ておらんでしょう。」

編集者1「ええ…。」

茂「ああ! そら いかん! ああ いけんいけん! 今から上映しましょう。」

編集者1「え? ええ…! その 私は頂くだけで いいんで…。」

光男「兄貴 大都テレビさんが 『今年も お化け特集の子供番組 やりたい』と言ってきとるんだが。」

茂「ああ ええぞ。 これから 上映会だ。 お前も一緒に見るか?」

光男「俺 仕事が…。」

茂「光男! こう こうやる…。」

茂「ほら! 今 出てきたでしょう。 不思議な恰好の者(もん)が! あっ ほら! ハハハハハ!」

台所

光男「兄貴 すっかり 南の島中毒になっとるなあ。」

布美枝「そげですねえ。」

光男「雑誌の妖怪特集 テレビの夏休み子供向け特集に ラジオ出演。 夏は怪奇物の仕事が めじろ押しだっていうのに…。 南方ボケのままじゃ 仕事もパンクだ。 なんとかしてもらえんかね?」

布美枝「えっ そげ言われても…。」

茂の仕事部屋

茂「ハハハハハ! いや~ こりゃ すごい! あ~! ここだ! おい。 おうおう ハハハ…!」

<1か月ほど前 茂は 戦時中 送られていた ラバウルを 当時の戦友とともに訪れました。 親しかった村の人々と再会し 以来 南の島に 心を奪われている様子なのです>

茂「ハハハハハ!」

回想

兵士「逃げろ! 早く!」

(戦闘機の音)

(爆撃の音と叫び声)

回想終了

台所

布美枝「あのね 光男叔父ちゃんから 相談されたんだけど。」

茂「何だ?」

布美枝「お父ちゃん 夏は忙しいでしょう。」

茂「まあ テレビも雑誌も お化けだ 妖怪だと 特集も組むけんな。 世間が夏休みで遊んどる間 こっちは いつも以上に 働かんといけん。」

布美枝「お客さんも多いですよね。」

茂「ああ。 毎日 何人も訪ねてくる。」

布美枝「その度に 南方の音楽 聞かせたり 例の8ミリ見せたりしたら 相手の方も迷惑かもしれんし。」

茂「う~む。」

布美枝「迷惑は言い過ぎかもしれんけど…。」

茂「やっぱり 向こうで暮らすか。」

布美枝「え?」

茂「みんなで 南の島に引っ越すぞ。」

一同「え~っ!」

布美枝「お父ちゃん 急に 何 言いだすの?」

藍子「冗談 言わないでよ。」

茂「まあ 聞け。 向こうは ええぞ。 まず 食い物に困らん。 果物は ようけあるけん パパイアやバナナが 一年中 食える。 畑が ちょっこしあれば 芋も作れるぞ。」

布美枝「食べ物だけじゃ暮らせませんよ。」

茂「向こうの人は みんなええ人だけん 住む所は なんとかなるだろう。 まあ 風呂は ないがな。 スコールを シャワー代わりにすれば ええし。」

藍子「風呂がないなんて 絶対 嫌だ。」

茂「便所もないぞ。」

藍子「え~っ。」

茂「そんなもんな 大自然の中で のびのび~と やりゃ ええんだ。 まあ 飲み水に ボウフラが わいとる事は あるがな。」

布美枝 藍子「ボウフラ…。」

茂「しかし 沸かして飲めば 腹も こわさん。」

喜子「鳥は いるの?」

茂「おるぞ~。 楽園のようなとこだけん 極楽鳥というのが おる。」

喜子「きれいな鳥?」

茂「ああ! 鳥も花も 向こうは みんな 色鮮やかだ。 月夜なんか 最高に ロマンチックだぞ。 虫の声の コーラスだ…。」

喜子「いいね。」

茂「仕事は ちょっこしだけして あとは のんびり談笑して過ごす。 年に何回か 祭りに熱くなる あれこそが! 人間らしい暮らしだ。 楽園というのは ああいう所を言うんだな。」

喜子「楽しそうだね。」

茂「喜子も行きたいか?」

喜子「行きたい。」

茂「よし じゃあ みんなで移住しよう。」

喜子「行こう行こう!」

茂「おう 行こう!」

布美枝「お父ちゃん 藍子の学校は どげするんです? 喜子だって 幼稚園があるんですよ。」

茂「むむっ。」

布美枝「仕事は どげするんです? 向こうで描くんですか?」

茂「だら! 楽園に漫画のような 猛事業を持ち込めるか。」

布美枝「おじいちゃん おばあちゃんは どげするんです アシスタントの人達は?」

茂「あ~ もうっ お母ちゃん いらん事 言うな! ああ! ほんなら 1年の半分は 南の島で暮らして           残りの半分は 日本で暮らす これなら どげだ!」

布美枝「無理です。」

藍子「無理だよ。」

茂「どうして 分からんのかなあ。 楽園の魅力が。」

喜子「お父ちゃん 喜子は 一緒に行くよ。」

茂「はっ…! もう1個 食え!」

布美枝「(ため息)」

茂「ありがとう 喜子。」

夫婦の寝室

藍子「お父ちゃん 本気かな? 南の島に引っ越すなんて。」

布美枝「『冗談だよ~』って 言いたいけど… お父ちゃんの場合は 本気かもしれんね。」

藍子「私 嫌だよ。 お風呂も トイレもないとこ。」

布美枝「そげだねえ。 仕事が忙しいけん たまには 夢みたいな事 考えたくなるんだわ。」

藍子「私 ボウフラの浮いた水 飲めないよ。」

布美枝「お母ちゃんも。」

(2人の笑い声)

小学校

教室

男子1 2 3♬『ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー』

男子1「おい 何やってんだよ?」

男子2「鬼太郎のチャンチャンコ 編んでんのか?」

智美「(小声で) あいつら しつこいね。」

布美枝「うん。 気にしない 気にしない…。 あ…。」

男子1「『妖怪まだら紐』~!」

藍子「返してよ。」

男子1「え? 何か言ったか?」

藍子「もうっ…。」

赤木留美子「よしなさいよ。 いい加減にしなよ あんた達。」

男子1「何だよ。」

男子2「お前 生意気だぞ。」

留美子「何よ!」

男子1「…やめとこうぜ。 こいつら すぐ 先生に言いつけるから。」

男子1 2 3♬『ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー 朝は寝床で』

留美子「はい。」

藍子「ありがとう。」

留美子「気にしない方がいいよ。」

藍子「うん…。」

留美子「きれいだねえ。 私も同じの買おうかな? 村井さん お店 教えてくれる?」

藍子「いいよ。」

すずらん商店街

留美子「かわいいの買えた。 じゃ そろそろ行くね。 買い物 つきあってくれて ありがとう。」

藍子「うん。」

留美子「そうだ 今度の木曜日 私の誕生日なんだ。 うちで誕生会するから 2人とも来てくれる?」

藍子「行ってもいいの?」

留美子「うん。 絶対 来てね。 それじゃ バイバーイ!」

智美 藍子「バイバーイ!」

智美「びっくり。 赤木さんに 誕生会に誘われた。」

藍子「急に どうしたんだろう?」

智美「今まで 別のグループだったのにね。」

藍子「勉強も 運動もできて 私達とは別世界の人って感じだよ。」

智美「うん…。 でも よかったね。 赤木さんが ついてたら 藍子ちゃん もう からかわれなくなるかもよ。」

藍子「そうだといいな…。 ねえ 誕生会に持っていくプレゼント どうする?」

智美「リリヤンで リボン編む。」

藍子「え~っ 私も それ考えてたのに。」

水木家

玄関前

(小鳥の鳴き声)

茂「お シャボン玉か。」

喜子「うん。」

茂「どれ 貸してみろ。」

喜子「うわ~!」

茂「はっ… ゆっくり吹くのがコツだ。 ほれ 大きいのが 出来るぞ。」

村尾「お暑うございます。」

茂「ああ どうも。」

村尾「ああ どうも! お父さん 偉いわねえ。 片腕で何でもできて。 おばあちゃん おうち?」

喜子「うん…。」

村尾「ごめんくださ~い!」

中庭

喜子「ねえねえ お母ちゃん…。」

布美枝「何? シャボン玉の液 無くなったの?」

喜子「お父ちゃんだけ 違うね。」

布美枝「ん? 何の話?」

喜子「おばちゃんが お父ちゃんの事 『偉い』って言ってた。」

布美枝「え?」

絹代「入らんと言ったら 入りません!」

布美枝「あら おばあちゃんだ。 何だろう?」

玄関

村尾「大きな声 出す事 ないじゃありませんか。」

絹代「あんたが しつこく言うからです。」

村尾「私は 老人クラブの事を 知って頂きたくて…。」

布美枝「老人クラブの勧誘か…。」

村尾「楽しい行事が いろいろ あるんですよ。 その説明に伺ったんです。 社会参加にもなるし レクリエーションで お友達も増えるし。」

絹江「そげな事は やりたい人だけが やれば よろしい。」

村尾「でもね おばあちゃん 入会して 生きがいを見つけた人も 多いんですよ。」

絹代「しつこい! 私の生きがいを 他人に決めて頂かんでも結構です。」

村尾「おばあちゃん…。」

絹代「あなたに 『おばあちゃん』と 呼ばれる筋合いはない! 帰りなさい!」

村尾「まあ!」

(喜子の笑い声)

布美枝「し~っ!」

村尾「奥さ~ん…! あんまり失礼じゃありません?! 同じ町内会のよしみで 私は 親切心で お話に伺ったんです。 それを 押し売りみたいに!」

布美枝「はい…。」

絹代「老人クラブだろうが ナイトクラブだろうが 入りたければ こっちから 頭 下げててでも 入れてもらいますよ。 親切の押し売りは お断りです!」

村尾「まあっ 失礼な~!」

布美枝「すいません…。」

絹代「布美枝さん!」

布美枝「はい!」

絹代「悪い事もしとらんのに 謝る必要は ありません!」

布美枝「はいっ…。」
(怒る村尾と喜子の笑い声)

台所

布美枝「町内会の人 怒っとったなあ…。」

佐知子「お母さん また やってたでしょう。」

布美枝「聞こえました?」

佐知子「この間も 近所の人が どなり込んできたでしょう。 家の前に 置いてた物を 勝手に捨てられたって。」

布美枝「その前は 叱られた子供が 熱を出した。 その前は クラクション鳴らした車を カバンで叩いた…。」

佐知子「あっちの もめ事も お母さん こっちの けんかも お母さん。 布美枝さんも 頭 下げて回って 大変ねえ。」

布美枝「でも どれも もっともな話なんです。 通り道に 荷物が出てたら 危ない。 悪い事をした子供は よその子でも 叱らなきゃいけない。」

佐知子「でも 正しけりゃ いいってもんでもないから。」

布美枝「ええ…。 あ 今日 お母さん達と 夕飯 食べるんです。 よかったら 一緒に どうですか? お兄さんも呼んで。」

佐知子「遠慮しとくわ。」

布美枝「たまには 一緒に…。」

佐知子「帳簿も つけ終わった事だし 今日は…。」

絹代「佐知子さん。」

佐知子「はっ…。」

絹代「雄一は どげしとるの? ちっとも 顔 見せんで! 名前だけでも役員なんだけん たまには 来るように 言ってちょうだい!」

佐知子「はい…。」

<イカルと あだ名される絹代には 誰も太刀打ちできないのでした>

モバイルバージョンを終了