ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第122話「戦争と楽園」

あらすじ

絹代(竹下景子)は、近所の住人から老人クラブへの入会を勧められるが、それをきっぱりと拒否する。かつて、南洋の島で事業を営んだことがある修平(風間杜夫)は、茂(向井理)の“南方へのあこがれ”に理解を示すが、絹代から「茂に移住を薦めたりしないように」と、強くたしなめられる始末。次女・喜子(松本春姫)は、茂が片腕であることを不思議がるようになり、布美枝(松下奈緒)は、娘に戦争のことを教えるかどうか迷う。

122ネタバレ

水木家

玄関前

佐知子「悪いわね! よろしくね 布美枝さん。」

台所

修平「茂の奴 南の島へ 移住すると 言いだしたか?」

布美枝「ええ 半分 本気みたいです。」

絹代「また 夢みたいな事 言って。」

布美枝「喜子! お父ちゃんに ご飯ですよって 言ってきて。」

喜子「は~い!」

修平「しかし 茂の気持ちも 分からんでもないな。 南洋は ええぞ。 ジャワは 楽園だった。」

藍子「ジャワって?」

修平「インドネシアのジャワだわ。」

布美枝「ジャワに いらした事あるんですか?」

修平「戦争前に しばらく 住んどったんだ。」

布美枝「初耳です。」

修平「じいさんが バタビアで 会社やっとって。 わしも 一旗 揚げようと 勇躍 南方へ乗り込んだんだわ!」

絹代「食い詰めとりましたけんね 日本では。」

修平「(せきばらい)」

布美枝「お仕事は 何しとられたんですか?」

修平「生命保険だ。 時局柄 戦雲 あやしく 立ちこめとったけん 現地法人が こぞって加入して がいに もうかった。」

布美枝「はあ~。 ジャワコーヒー 紅茶 砂糖に キャンデー 日本では 手に入らんもんに 囲まれて まさに お大尽の暮らしだ。」

絹代「あれが あなたの一世一代。 人生のクライマックスでしたねえ。」

修平「ん?」

絹代「後は ず~っと 貧乏暮らし。」

修平「(せきこみ)」

絹代「『南洋は ええぞ』なんて言って しげさん たきつけんでごしなさいよ。」

修平「う~む。」

仕事部屋

喜子「お父ちゃん ご飯!」

茂「おう。 ああ 腹へったな。 今日の飯は 何かな?」

台所

絹代「あら 豆腐料理?」

布美枝「暑いですけん さっぱりした物が ええかなと思って。」

絹代「経済料理だわねえ。」

布美枝「そげなつもりじゃ。 お母さん達 お豆腐が お好きだから。」

修平「おう! うまそうだないか!」

絹代「私らは ええわね 年寄りだけん。 豆腐でも おからでも。 けど しげさんには もっと スタミナのつくもんでないと!」

布美枝「はあ。」

茂「ハハハ! そんな事があったのか? ハハハ! どげした?」

絹代「あんた やっぱり ウナギ食べなさい!」

茂「は?」

布美枝「経済料理か…。」

藍子「おばあちゃん 分かってないね。 お豆腐は 体にいいって 学校で習ったよ。」

布美枝「藍子。」

藍子「お母ちゃんの料理 おいしいよ。」

布美枝「ありがとう!」

藍子「(鼻歌)」

布美枝「今日は ご機嫌だねえ。」

藍子「そう? あのさ 今度の木曜日 友達の誕生会に呼ばれたんだけど 行ってもいいよね。」

布美枝「智美ちゃんの?」

藍子「ううん 赤木さんっていう人。 最近 仲よくなったの。」

布美枝「そう よかったね。」

藍子「プレゼント どうしようかなあ。」

布美枝「あんたが 学校の話してるの 久しぶりだね。」

藍子「そうかなあ。」

喜子「ねえ ねえ お母さん!」

布美枝「何?」

喜子「お父ちゃんは どうして こっちの手 ないのかな?」

布美枝「え?」

喜子「どうして?」

布美枝「それはね お父ちゃん 昔 腕を けがしたんだよ。」

喜子「転んだの?」

布美枝「ううん。 もっと 大きな けが。」

喜子「痛かったかなあ。 鬼太郎なら また生えてくるのにね。」

布美枝「そげだね。」

藍子「きっと 誰かに言われたんだよ。」

布美枝「え?」

藍子「私も よっちゃんくらいの時に 『お父さん 大変だね』って よその人に言われて 初めて気がついたから。 よっちゃん テレビ見ようよ。」

喜子「うん。」

回想

(うめき声)

軍医「やむをえん このまま ほうっておいても 死ぬだけだ。 切れ~!」

(絶叫)

回想終了

布美枝「戦争の事 詳しく話すのは まだ早いね。」

小学校

校門

先生「おはようございま~す!」

智美「おはよう 宿題やってきた?」

藍子「あ…。」

智美「やってないの?」

藍子「忘れてた。 智美ちゃん 写させて。」

智美「藍子ちゃんに 見せてもらおうと 思ったのに。」

藍子「どうしよう。」

留美子「私の 写してもいいよ! 昨日 買い物 つきあって もらったから そのお礼!」

智美「ほんと? 助かる!」

留美子「早く行こう 時間なくなるよ。 行こう。」

2人「うん!」

智美「赤木さん やっぱり 頼りになるね。」

藍子「うん。」

智美「早く行こう!」

水木家

休憩室

菅井「どうぞ。 先生 今 散歩に出てるんで ちょっと 待ってて下さい。」

冴子「散歩って やっぱり お墓を巡るんですか?」

菅井「そうですね。 うちの先生 一風 変わってますから。 どうぞ どうぞ!」

冴子「ユニークですよね。 お人柄も 漫画も。 私 初めて原画を拝見した時 点描画のようで 驚きました。」

菅井「それなんですよ! うちの先生 点々には ものすごい こだわりがありまして 点々には 実に厳しいんです。アシスタントになりたての頃は 僕も ひたすら 点々ばかり 打たされて…。 今も あんまり 変わってないな。」

冴子「菅井さんは こちらに何年?」

菅井「恥ずかしながら 6年です。」

冴子「それじゃ 先生の漫画 ずっと 支えてこられたんですね。」

菅井「まあ そうかな。」

修平「茂は おらんか?」

菅井「あ! また来た。」

冴子「お邪魔してます。」

修平「おや 松川さん 来とったのかね。」

菅井「白々しいな。」

修平「原稿の受け取りですか?」

冴子「グラビアの打ち合わせです。 夏の特大号に 『怪奇大特集』を お願いしようと思いまして。」

修平「『怪奇大特集』ねえ。 昔は 化け猫映画なんていうのが 随分ありましたよ。」

菅井「あ!」

冴子「見た事あります。 入江たか子ですよね。」

修平「それは 戦後のものですな。 戦前は 鈴木澄子の主演で 大当たりしました。」

冴子「へえ~ 古いもんなんですね。」

修平「もともとは 芝居にある話なんです。 芝居には 怪談物が ようけありますぞ。」

冴子「お岩さんとか?」

修平「『四谷(よつや)怪談』 『牡丹灯籠(ぼたんどうろう)』 『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』に 『怪談乳房榎』。」

冴子「お詳しいんですね。」

修平「知識人にとって これくらいは 教養のうちですな。 ハハハハハ!」

菅井「あの お父さん。」

修平「え? あんた 忙しいんだろ? ここは 任せて 早こと 仕事に戻りなさい! ほら! 仕事 仕事! ほれ! 書きました?」

冴子「『四谷怪談』…。」

修平「『牡丹灯籠』。」

冴子「どうやって 書きます?」

修平「ちょっと 貸してごらん。 『牡丹灯籠』…。」

小学校

教室

智美「今日は ありがとう。 助かっちゃった。」

藍子「ありがとう。」

留美子「3人の秘密だよ。 あのね それより 村井さんに お願いがあるんだ。」

藍子「何?」

留美子「私 テレビに出たいな。」

藍子「え?」

留美子「『ゲゲゲの鬼太郎』のテレビ漫画。 流美子っていう女の子 出してもらえない?」

藍子「え?」

留美子「鬼太郎と一緒に 妖怪退治する役とかで。 お願い! お父さんに 描いてくれるように 頼んで!」

藍子「えっ… でも それは。」

女子「留美ちゃん 帰ろうよ。」

留美子「ちょっと 待ってて! ねえ いいでしょう?」

藍子「聞いてはみるけど…。」

留美子「やった!」

藍子「え?」

留美子「テレビに映ったら あれ 私が モデルだよって みんなに 自慢しちゃおう!」

藍子「待って。 聞いてみるだけだよ。 私 仕事のこと 分かんないし。」

女子達「留美ちゃん 行くよ 早く。」

留美子「村井さんが頼んでくれたら きっと 大丈夫だよ。 じゃあね ありがとう。 バイバイ! ごめん ごめん お待たせ! 行こ 行こ!」

水木家

休憩室

修平「『首が飛んでも 動いてみせるわ』。」

冴子「お父さん お上手!」

修平「いや! ハハハ!」

茂「あれ? イトツ。」

修平「お前の代わりに お相手しとったぞ。」

冴子「いろいろ 教えて頂きました。」

修平「あなた 頭の回転が速い。 教えがいのある。 ハハハハハ!」

布美枝「あら! お父さんも こちらに?」

修平「そろそろ 退散するところだ。 仕事の邪魔は してはいけん!」

冴子「先生 豊川から 言づかってきました。 『お願いしている書き下ろしの方は いかがですか』って。」

茂「ああ いや あっちは まだ…。」

布美枝「また 豊川さんと お仕事ですか?」

茂「ああ 書き下ろしの単行本だ。」

冴子「私も拝読しました。 先生が以前 お描きになった 『敗走記』。 ぜひ 加筆して 単行本にして下さい。」

茂「ええ。」

冴子「豊川は 『できれば 夏の間に』と 申しておりました。」

茂「いや それは 無理ですな。」

(風鈴の音)

茂「あれは すぐにという訳には いかんものです。 時間がかかります。 そう伝えて下さい。」

冴子「分かりました。」

修平「『敗走記』か…。」

冴子「一度 ご覧 頂けますか?」

茂「うん。」

<茂の いつになく強い口調が 布美枝には 少し不思議な気がしました>

玄関前

絹代「あ~。」

藍子「どうしようかなあ。 断ればよかったな。」

絹代「お帰り。 藍子!」

藍子「あ… おばあちゃん。」

絹代「ぼんやり歩いとったら 車に ひかれ~よ! どげしたかね?」

藍子「ううん 何でもない。」

台所

布美枝「『敗走記』か…。 私 読んどらんだったなあ…。」

藍子「お母ちゃん!」

布美枝「あ びっくりした。 あんた いつの間に?」

藍子「『ただいま』って言ったよ。」

布美枝「そう?」

藍子「手伝おうか?」

布美枝「あら 珍しい事 言って。 ほんなら そこのレタス ちぎってくれる?」

藍子「うん。」

布美枝「ああ! 分かったぞ。」

藍子「え?」

布美枝「友達の誕生会のプレゼント買うお小遣い もう なくなったんでしょ?」

藍子「え? ああ… うん。」

布美枝「やっぱり そうか。 お駄賃は 藍子の働きしだいかな!」

藍子「ねえ お母ちゃん。」

布美枝「ん?」

藍子「お父ちゃんに頼んだら テレビに 出られるかな?」

布美枝「どういう事?」

藍子「友達がね 『鬼太郎』のテレビ漫画に 自分を モデルにした女の子を 出してほしいって言うの。」

布美枝「え?」

藍子「お父ちゃんに言ったら テレビの人に 頼んでもらえるかな? お母ちゃんから 聞いてみてよ。」

布美枝「あんた 何 言っとるの! お母ちゃん そげな事 言えんよ。 お父ちゃんの仕事には 口は 出せんけんねえ。」

藍子「うん。 うん そうだよね。」

布美枝「約束でもしたの?」

藍子「ううん 違うよ。 してない。 ちょっと 聞いただけだよ。 分かった もういいの。」

絹代「布美枝さん 回覧板 来とるよ!」

布美枝「は~い! ほんとに ええのね?」

藍子「うん。」

布美枝「お父ちゃんに 変な事 頼んじゃダメよ。」

藍子「うん 分かってる。」

絹代「布美枝さん!」

布美枝「は~い! うん。」

茂の仕事部屋

布美枝「お父ちゃん 夜食。」

茂「ああ そこ 置いといてくれ。」

布美枝「何 読んどるんですか?」

茂「うん これだ。」

布美枝「『敗走記』…。」

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