ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第123話「戦争と楽園」

あらすじ

藍子(菊池和澄)は、級友の留美子から「テレビアニメの『ゲゲゲの鬼太郎』に、自分をモデルにした女の子を出してほしい」と頼まれて、困っていた。母の布美枝(松下奈緒)に、藍子は相談をもちかけてみるが「とても、茂(向井理)に相談できることではない」と言われてしまう。一方、出版社から過去の自作「敗走記」への加筆と単行本化を依頼された茂は、そこに描かれた自分の戦争体験を布美枝に語って聞かせる。

123ネタバレ

水木家

茂の仕事部屋

布美枝「『敗走記』…。 今日 松川さんが 話しておられましたね?」

茂「うん。 2年前に 雑誌に描いたもんだが…。 豊川さんが 『こういう戦記物を 長編で描かんか?』と 言ってきとってな。」

布美枝「戦記物ですか…。 貸本漫画の頃 よう描いとられましたね?」

茂「うん。 浦木の奴に乗せられて 『少年戦記の会』まで作ったな。」

布美枝「ガリ版で 会報 作ったりして…。」

茂「この漫画はな… あの頃 描いとった戦記物とは また違うんだ。 俺の身に 起こった事を 描いたもんだけん。」

布美枝「え?」

茂「漫画用に 脚色はしとるがな… ほんとに あったんだ こげな事が…。 見てみるか? ほれ。」

布美枝「はい。」

両親の部屋

修平「ようやく 見つかった。」

絹代「なんです? しげさんの漫画ですか?」

修平「ああ… 今日 松川さんが これの話 しとってなあ。」

絹代「また 松川さん…。」

修平「いや いや。 (せきばらい) こ~だわな。」

絹代「ああ この漫画ですか。」

茂の仕事部屋

茂「ラバウルのズンゲン守備隊にいた時に 10人ちょっとの分隊で 最前線まで 送られた事があったんだ。」

布美枝「はい…。」

茂「バイエンという所だ。 本隊から 川を 2つ越えて ジャングルの中を ず~っと 100キロも 行った先だ。 あれは きれいな所だったなあ…。 到着して しばらくは 不気味なくらい 静かだったんだが…。」

茂「朝早く 俺が 歩哨に立っている時に それは 突然 始まった。 見張っていたのとは 反対の 方角から 敵の射撃を受けて 俺は とっさに 目の前の海に飛び込んだ。」

回想

昭和19年 ニューブリテン島

茂<俺も 渦に飲み込まれかけて しかたなく 銃も弾薬も捨てて 必死で 岩に しがみついた。 味方は 全滅だ…。>

回想終了

茂「そこからが まさに 生きるか死ぬかの逃避行だ。 よじ登った がけの上には たいまつをかざした敵が 待ち構えとって 後ろは 断がい絶壁…。 進退窮まって 俺は がけっぷちに ぶら下がった。」

両親の部屋

絹江「この絵のとおりでしたわ。 あの晩 夢の中で 私は これと そっくりの光景を 見たんですよ。」

修平「茂 後で言ってとったな。 『この時ばかりは 覚悟を決めて 心の中で わしらに別れの挨拶をした』と…。」

絹代「それが 境港まで 届いたんですかねえ。」

回想

絹代「しげさんが危ない! お父さん お父さん! 起きなはい お父さん!」

修平「どげした?」

絹代「しげさんが やられる。」

修平「何を言っとるんだ!」

絹代「断がい絶壁に ぶら下がっとる。 敵に見つかったら やられる!」

修平「お前 夢でも見たか?」

絹代「夢なもんですか。 しげさんが死んでしまう!」

修平「よし。 名前を呼べ! 連れていかれんように呼び戻すぞ。」

絹代「はい! しげさ~ん しげさ~ん!」

修平「茂 茂~!」

絹代「しげさ~ん 生きて 戻れ~!」

修平「茂 死んだらいけんぞ!」

絹代「しげさ~ん しげさ~ん!」

修平「茂!」

絹代「生きて 戻れ~!」

修平「茂!」

絹代「しげさ~ん!」

修平「茂 死んだらいけんぞ!」

絹代「死ぬな~!」

修平「茂!」

絹代「死ぬな~! 死んだらいけん!」

修平「死んだらいけんぞ 茂!」

絹代「生きて~ 生きて戻れ しげさ~ん!」

修平「茂~! 茂 死んだらいけんぞ!」

絹代「しげさ~ん しげさ~ん!」

修平「茂!」

絹代「生きて 戻れ~!」

修平「茂!」

絹代「死ぬな~!」

修平「茂!」

絹代「しげさん しげさ~ん…。」

回想終了

茂の仕事部屋

茂「イトツとイカルが 俺を叫んどった。」

布美枝「声がしたんですか?」

茂「ああ。 後から聞いて 驚いた。 2人で 夜通し叫んどったそうだ。 敵は がけに ぶら下がった 俺の頭の上を 気づかずに 通り過ぎていったよ。」

布美枝「お母さん達の声が 守ってくれたんでしょうかね?」

茂「うん。 そげかもしれんな…。 だが それからが まだまだ 一難去って また一難だ。」

茂「敵方の部族に襲われて 一晩中 サンゴの海を 泳いで逃げとるうちに 体は 血だらけ 傷だらけだ。 闇に紛れて なんとか 上陸して 敵を振り切って へとへとになって ようやく眠ったところで…。」

回想

(蚊の飛ぶ音)

茂<今度は 蚊の大群の襲来で 翌朝は 目も 鼻も分からんほど 顔が ボコボコに腫れ上がっとった。>

回想終了

布美枝「恐ろしい…。」

茂「今 思ってみても 不思議でならん。 次々と襲ってくるピンチを よう くぐり抜けられたもんだ。」

布美枝「こげな恐ろしい目に 遭われとったんですね…。」

茂「いや… 本当に恐ろしい目に 遭ったのは この後だぞ。 何日も かかって ジャングルを くぐり抜けて 俺は ようやく元の中隊に たどりついたんだが…。」

回想

茂「村井2等兵 ただいま帰りました。」

上官1「お前 なぜ 戻ってきた!」

茂「はっ。 せ… 戦況報告の 報告のためであります。」

上官2「命より貴重な銃を捨てて よく帰ってきおったなあ。」

上官3「皆 戦死した。 なぜ お前だけ 生きて戻ったんだ。 敵前逃亡罪だぞ!」

上官1「今回の事は 不問と付す。 ただし 次の戦闘では 必ず ばん回せい!」

上官2「真っ先に 貴様が突撃せよ。」

上官達「いいな 真っ先にだ!」

回想終了

茂「訳が分からなかった。」

布美枝「なして そげな むごい事を…?」

茂「今から思えば 前線で退却すれば 敵前逃亡 『その場で死ね』というのが 司令部の方針だったんだろうなあ。 マラリアに かかったのは それから 3日ばかり後だ。 体力も消耗しとったし 蚊の大群に襲われたのが やはり いけんだった。」

布美枝「ほんなら 爆撃されたのは そげな むごい目に 遭った時ですか…?」

回想

(爆撃の音)

回想終了

茂「高熱で うなっとる時に… やられてしまった。」

布美枝「昨日… 喜子に聞かれたんです。」

茂「ん?」

布美枝「『お父ちゃんには どうして 左手が ないの?』って。」

茂「ああ。 子供というのは… ある時 ふいに気づくのかもしれんなあ。」

布美枝「はい…。」

茂「うん そげだ…。 これ 見てみるか?」

布美枝「何ですか?」

茂「その『敗走記』はな この絵の続きを描いた漫画なんだ。」

布美枝「『ラバウル戦記』…。」

茂「復員して しばらく経った頃から 俺は 誰に頼まれもせんのに ただただ 毎日 これ 描き続けとった。」

布美枝「見ても ええですか?」

茂「おう ええぞ。 ほれ。 いつかは これを 漫画に描かんといけん。 ずっと そげ思っとった。」

<それは 生々しい戦地の絵物語でした>

茂「この間 ラバウルに行ったのはな そのための取材も兼ねとったんだ。」

布美枝「そうでしたか…。」

茂「本物の戦争を描かんといけん。 そげ思うと 力も入るし 構想も よくよく練らんといけん。 日々の締め切りもあるけん なかなか すぐには描けんな。」

(セミの鳴き声)

玄関

布美枝「うん。」

台所

布美枝「あら まだ食べとる。 また 学校 遅刻するよ。ビールは よし…。 お昼は ソーメンでええか。」

藍子「どうしたの?」

布美枝「ん? 今日は 三井さんが 来られるけんね。」

藍子「三井さんって… ああ この間 お父ちゃんと ラバウルに行った人?」

布美枝「そう。 去年 宝塚のドリームパークで 『鬼太郎のお化け大会』が あったでしょ。 今年も あれをやる事になって それの打ち合わせだって。」

回想

担当者「鬼太郎と その仲間達 という事で お話を頂いて…。」

茂「うん…。」

三井「村井 茂! 俺だよ。 三井だ。 ズンケン守備隊で一緒だった。」

茂「軍曹殿!」

<1年前 茂は 戦時中 ラバウルの同じ隊に 配属されていた三井と 26年ぶりに再会したのです>

回想終了

布美枝「わざわざ 出てきてくださるんだけん しっかり おもてなしせんとね。 つまみは ネギぬたと そらまめの あえ物と…。 あっ。」

藍子「何?」

布美枝「お父ちゃん 三井さんに会ったら 『南の島に引っ越す』って また 言いだすかな。」

藍子「いいんじゃない 南の島も。」

布美枝「え?」

藍子「私 行ってもいいよ。 学校も 試験もなくて 楽しいよ きっと!」

布美枝「藍子…?」

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