ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第124話「戦争と楽園」

あらすじ

茂(向井理)のもとを、戦時中ラバウルで同じ隊に配属されていた三井(辻萬長)と笹岡(井之上隆志)が訪ねて来る。布美枝(松下奈緒)は、茂たちの交わす会話から、戦争中に南の島で彼らが体験したさまざまな出来事を初めて知る。一方藍子(菊池和澄)は、クラスメートの留美子からの“頼まれごと”をどうすることもできず、気がふさいだままでいた。悩みながら町をとぼとぼ歩いている藍子を絹代(竹下景子)が見かけ…。

124ネタバレ

水木家

台所

藍子「いいんじゃない 南の島も。」

布美枝「え?」

藍子「学校も 試験もなくて 楽しいよ きっと!」

布美枝「もう 朝から 何 バカな事 言っとるの? お父ちゃんには 言わんでね。 本気にしたら 大変。 ほら 急がんと。」

藍子「ごちそうさま。」

布美枝「今日 お友達の お誕生会じゃなかった?」

藍子「うん…。 でも 行くの やめとこうかと思ってるんだ。」

布美枝「なして? 楽しみにしてたのに。」

藍子「うん…。」

布美枝「はは~ん。 プレゼントの準備 できなかったんだな?」

藍子「ん? そうなの 手ぶらで行くのも悪いから。」

布美枝「そげな事も あろうかと思って…。 ほら はぎれの かわいいのが あったけん 作っといたよ。 きれいに包んであげるから これ 持っていきなさい。 これに リボン かけようね。」

回想

留美子「もういいよ。 村井さんの嘘つき。 嘘つき!」

回想終了

玄関

藍子「あ~あ。」

絹代「あら 何しとるの? どこか 痛いの? ん?」

藍子「ううん。 行ってきま~す。」

絹代「行ってらっしゃい。」

台所

絹代「藍子 お腹でも こわしたかね?」

布美枝「いえ 朝ご飯は ちゃんと 食べとりましたけど…。」

絹代「あ ほんなら ええけど。」

布美枝「やっぱり 手作りでは ぱっとせんかなあ。」

絹代「何の話?」

布美枝「プレゼントです。 友達の誕生会に 私の縫ったものを 持たせたんですけど…。 近頃の子は あげなもの 喜ばんのですかね?」

絹代「何だ そげな事か。 フフッ 子供のお祝いなんか 鉛筆1本でも十分 フフフッ!」

布美枝「はい。」

客間

布美枝「そうそう 今日 三井さんが 見えられますよ。」

絹代「ああ 宝塚の。」

布美枝「ええ。」

絹代「また しげさんが 南方へ行くだの 言いださんとええけど。」

布美枝「そげですねえ。」

絹代「私には 分からんわ。 自分が命を落としかけた場所に なして 行きたがるのか。」

回想

修平「茂~!」

絹代「生きて~! 生きて戻れ しげさ~ん!」

回想終了

布美枝「お母さん達が 呼び戻してくれたんですよね。」

絹代「え?」

布美枝「いえ…。」

学校

教室

留美子「それでね 今日はケーキとプリン 両方 作ってくれるって。」

女子1「わあ 楽しみ~!」

女子2「何人 集まるの? 誕生会。」

留美子「12人。」

女子2「12人も! 楽しみだねえ。」

藍子「これ どうしよう…。」

水木家

玄関

布美枝「わざわざ お暑い中 すいません!」

三井「いやいや。」

茂「やあ 三井さん。」

三井「よう ハハハハ…。」

茂「あれ?」

三井「誰だか分かるかい?」

茂「軍医殿? 笹岡軍医殿で ありますか?」

笹岡「村井君 久しぶりだね…!」

客間

茂「まさか 軍医殿が ご一緒とは。 お目にかかるのは終戦以来ですな。」

三井「宝塚近くの病院で 院長を やっておられてね。 先週 夏風邪で病院に行ったら ばったり。」

茂「三井さんも人が悪いですぞ。 知らせといてくれたら ええのに。」

三井「驚かせようと思ったのさ。」

笹岡「いやいや。 自分が 急に お願いしたんだよ。 君の話を聞いて 会いたくなってね。 ちょうど 東京で 学会があったもんだから。」

布美枝「何もないですけど…。」

三井「ああ お構いなく。」

布美枝「どうぞ。」

茂「そうだ。 軍医殿にはな 俺は 傷病兵の訓練所におった時に 随分 世話になったんだ。 マラリアの再発の時には 毎日 尻に 注射を打ってもらったわ。 ハハハ!」

布美枝「はあ 主人が お世話になりまして。」

笹岡「ああ いやいやいや。 2年前だったかな 病院に置いてある雑誌で 君の描いている漫画を見てね。 『敗走記』というやつだ。」

茂「ああ あれを。」

笹岡「それで 初めて 水木しげるが あの時の 村井君だと 気がついた訳だよ。」

茂「そうでしたか。」

笹岡「戦地でも 君は スケッチブックを小脇に挟んで ウロウロしてたでしょう。 漫画家になったって話を聞いて なるほどと思ってねえ。 いや~ 面白い兵隊さんだったんだよ!」

三井「へえ!」

笹岡「変わりもんだったけどね。」

三井「いやいやいや!」

茂「いやいや しかしね そういう軍医殿も 相当の変わりもんでしたぞ。」

笹岡「私がかね?」

茂「ええ。 中尉のくせに 点呼の時に 軍刀 忘れては 上官に説教されとった。」

布美枝「あら…。」

(2人の笑い声)

茂「あ 大声で 『オー・ソレ・ミオ』なんぞを 歌ったりもして。」

布美枝「『オー・ソレ・ミオ』ですか?!」

三井「そりゃ ひどいなあ!」

笹岡「いやいやいや まあ 軍隊の中では お互い 落ちこぼれだった訳だ。」

(3人の笑い声)

三井「ん? どうしたの?」

布美枝「あ 喜子ったら いつの間に…。」

笹岡「こんにちは。」

喜子「こんにちは!」

三井「こんにちは。 フフフッ…。」

布美枝「おじいちゃんとこに おやつあるから 上へ行っといで。」

喜子「は~い。」

布美枝「お手々 洗ってね…。 あ すいません。」

三井「いやいやいや。」

相沢「先生 ちょっといいですか?」

茂「ん?」

相沢「原稿の確認 お願いしたんですが。」

茂「ああ。 ちょっと失礼。」

笹岡「あ どうも どうも。」

茂「何だ?」

相沢「ここなんですけども。」

茂「ああ ここは あれだ。」

布美枝「すいません。 下の娘 人の左腕が 気になるようになって…。」

三井「そうか… なるほどな。」

布美枝「主人 腕の事で 愚痴めいた事 ひとつも言った事ないですから 私も いつもは 忘れてしまうんです。」

笹岡「彼は あの頃から 明るかったですよ。 フフッ…。」

布美枝「え?」

笹岡「普通は 体に傷を負うと どうしても 悲観的に なってしまうもんですが いや… 村井君は 明るかった! 畑仕事を するにしても 陣地構築を するにしても 飄々と 平気な顔して やってました。」

両親の部屋

修平「あっ あっ あっ! やられた~! ぐ~!」

客間

茂「自分は 人より食欲があるので とにかく 腹が減るのが つらかったですな。」

(2人の笑い声)

三井「それじゃ いただきます。」

布美枝「あ どうぞ。」

三井「カタツムリ捕まえたり パパイアの根を 煮たりして 食っとったな。」

茂「胃から来る指令によって 動いておったんでしょう。」

(2人の笑い声)

茂「あの楽園に迷いこんだのも 考えてみたら 胃の導きかもしれません。」

布美枝「楽園?」

笹岡「あの村の事かね?」

茂「ええ。 ほら あれだ あの~ バナナを 運んできてくれた村の子供の話。 あれ 覚えとるか?」

布美枝「ああ トペトロでしたっけ?」

茂「うん。 トペトロの村はな…。 丘の上の道を ず~っと行って 断がいを ひょいと飛び越えた所に あってな…。 うん。 こっちが笑うと 向こうも笑った。 それで 友情成立だ。」

笹岡「いや ところが それが 上官達の間で 大問題になりましてね。」

回想

傷病兵訓練所

大尉「バカもん! 村に行くのは 軍律違反というのが 分からんか! お前みたいな兵隊 見た事がない。 ぶち込んどけ 重営倉だ。」

軍曹「はっ!」

茂「えっ 重営倉…。」

笹岡「まあまあまあまあ 今日のところは 私に免じて 勘弁してやって下さい。 おい…。」

回想終了

茂「軍医殿のとりなしで あの時は 助かりました。」

笹岡「ああ いやいや。 それでも 君は 相変わらず 懲りずに 村の祭りなんかにも 出かけてたねえ。」

(3人の笑い声)

茂「いや~ もう楽しくて しかたなかったんですよ。 自分は あの村に行くと 元気が出ましたから。 楽園の暮らしが 面白かったんですなあ。 みんな 親切で… 自然と ゆったり暮らしとった。 自分は あの暮らしが まともな人間の暮らしだと 今も 思っとるんですよ。」

<南の島に憧れる 茂の思いが 布美枝にも 少し分かる気がしました>

すずらん商店街

藍子「これ どうしようかな…。」

絹代「何しとるかね?」

藍子「おばあちゃん…。」

絹代「ん? あ…。 うん。」

水木家

客間

三井「しかし 人の運命は 分からんもんだ。 腕を やられてなかったら あの後の突撃で お前も 命を落としていたかもしれん。」

茂「『突撃の時には真っ先に行け』と 命令も受けとりましたからなあ。」

布美枝「それ どういう事ですか?」

茂「俺達のいたズンゲン支隊はな… 消えてしまったんだ。 全員 玉砕だ。」

布美枝「全員 玉砕…。」

茂「その頃には もう 俺は 後方に移されていたんだが…。」

布美枝「ええ。」

三井「自分達がいたズンゲン支隊に 若い一本気な支隊長が 赴任してきたんです。」

回想

昭和20年 ニューブリテン島・ズンケン

支隊長「ズンゲンは なんとしても 死守せねばならぬ陣地である。 一人十殺! 諸子の健闘に期待する。」

隊員達「はっ!」

回想終了

三井「あれは 今から思えば 終戦まで あと4か月という頃でしたが…。 大事な水源地を奪われ 敵陣に包囲されて 自分達の隊は すっかり追い詰められていました。 老練な指揮官であれば 別の作戦もあったんでしょうが 支隊長は… 若かったですから。」

茂「潔く散るのが 軍人の美学と 思っておったんでしょうなあ。」

三井「うむ…。」

<それは 布美枝が初めて聞く ズンゲン支隊の総員玉砕 いえ 『幻の総員玉砕』の いきさつでした>

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