ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第126話「戦争と楽園」

あらすじ

藍子(菊池和澄)は、学校で留美子に対する態度をはっきりさせることができ、ようやく笑顔を取り戻した。久しぶりに布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)のもとを深沢(村上弘明)が訪ねてくる。「ゼタ」の売れ行きが振るわず“そろそろ会社の経営も限界か”と、思い始めていた深沢だったが、自身が体験した戦争に、しっかり向きあって描いていこうとする茂の決意にふれた深沢は…。

126ネタバレ

水木家

玄関

藍子「行ってきま~す!」

布美枝「行ってらっしゃい。 大丈夫かなあ…。 あら…。」

絹代「あ 郵便は まだかね?」

布美枝「こげん早くには来ませんよ。」

絹代「あっ まだ8時か。 ハハハハハハ ハハハ…。」

布美枝「お母さん…! 昨日は ありがとうございました。」

絹代「何の話?」

布美枝「藍子から聞きました。 お母さんが 励ましてくれなかったら あの子 本当の事 話さないまま 苦しい思い しとったかもしれません。」

絹代「子供の世界も 甘くはないけんね。 気持ちを 強(つよ)にもたんと やっていけんわ。」

布美枝「すいません。 私 母親なのに 気づかんで…。」

絹代「子供はね~ 親にだけは 心配かけたくないと思って 隠す事が あ~けんね。 だけん そげな時のために 年寄りが お~だよ。」

布美枝「お母さん…。」

(絹代の笑い声)

小学校

教室

女子「留美ちゃんちのケーキ おいしかった! おばさん 料理 上手だね。」

留美子「ママが 『いいお友達ばっかりで よかったね』って言ってた。 そろそろ行こう 音楽室。」

女子達「うん。」

留美子「智美ちゃんも 行こう。」

智美「あ うん…。」

智美「早くしないと 5時間目 始まるよ。」

藍子「智美ちゃん…。」

智美「昨日は ごめんね。 私だけ 赤木さんちに 行ってちゃって。」

藍子「うん。」

智美「1人で行っても 楽しくなかった。 ごめんね。」

藍子「いいって 気にしてないから。」

智美「ほんと?」

藍子「私 名字帯刀御免だもん。」

智美「何 それ?」

藍子「分かんない。」

(チャイム)

智美「チャイム 鳴ってる!」

<何もかも すべて解決 という訳にはいきませんが… 藍子にも 明るい笑顔が戻ってきました>

<その日 調布の家を 久しぶりに 深沢が訪ねてきました>

水木家

客間

布美枝「すっかり ごぶさたしてしまって 申し訳ありません。」

深沢「いや こちらこそ。」

布美枝「けど 珍しいですね。 深沢さんが 原稿を 取りに見えられるなんて。」

深沢「今日は 少し 水木さんに 話したい事もありまして…。 それにしても えらく変わったなあ。」

布美枝「え?」

深沢「こちらのお宅ですよ。 なんだか 複雑な作りに なったようですが…。」

布美枝「改築熱 まだ冷めないようで まるで 忍者屋敷です。」

深沢「ハハハハ…。 水木さん 幸運を引き当てたな。」

布美枝「お陰様で たくさん仕事が 頂けるようになりまして…。」

深沢「仕事の話じゃありません。 奥さんの事ですよ。」

布美枝「え?」

深沢「昔と ちっとも変わらない。 なんだか ほっとします。」

布美枝「深沢さん…。」

絹代「布美枝さん 保険証 知らんかね? お父さんが どっかへ やってしまって…。 心臓が どうも いけんわ。 病院 行こうにも 保険証が…。 あら お客さん?」

布美枝「あの 『ゼタ』の深沢さん。 水木の母です。」

深沢「どうも 深沢です。」

絹代「あなたが 深沢さん?!」

深沢「ええ。」

絹代「まあ~ まあ まあ ようこそ!」

深沢「どうも。」

修平「おい あったぞ! 電話帳の病院のページに 挟まっちょったでえか。」

絹代「お父さん そげな恰好で。」

修平「え?」

絹代「こちら 深沢さんです。 ほら 『ゼタ』を出しとる会社の…。」

修平「ああ これは 社長さん!」

深沢「どうも。」

修平「せがれが 大変 お世話に…。」

絹代「一遍 ご挨拶をと 思っとったんですよ。 茂の漫画 芽が出んうちから 手厚くして頂いたそうで。 ありがとうございました。」

深沢「私の方こそ 水木さんには 力になって頂いて…。」

修平「茂が 長い事 お世話…。」

絹代「苦しい時の友こそ 真の友といいますけんね。 これからもどうぞ よろしくお願いいたします。」

深沢「こちらこそ…。」

絹代「お父さん ほら あなたからも 言ってごしなさい。」

修平「お前が みんな 言ってしまったでねえか!」

深沢「ハハハハハハ…。」

修平「いつも こげですわ。」

絹代「まあっ。」

(布美枝と深沢の笑い声)

廊下

絹代「なかなか ええ男だがね。」

修平「そげだなあ。」

絹代「やっぱり ウナギでも ごちそうしましょうか。」

修平「お前 病院は ええか?」

絹代「え?」

修平「心臓 どげした?」

絹代「何ともないですわ。」

修平「あ?!」

客間

深沢「しかし ご両親に 礼など言われては 心苦しいばかりですよ 古い つきあいに免じて 水木さんには 原稿料の払い 待ってもらっているのに…。 実は 近頃は どの漫画家にも なかなか原稿料が払えないんです。」

布美枝「会社も 大変なんですね…。」

深沢「まあ まだ なんとかやってますが。」

布美枝「お茶 いれかえましょうか?」

茂「深沢さん やあ しばらくですなあ。」

深沢「よう 水木さん!」

茂「これ 原稿です。」

深沢「ありがとうございます。 面白いですね。 『星を つかみそこねる男』。 なんだか 身に つまされる。」

茂「近くに 墓もありますからなあ。 近藤 勇の事は いずれ描きたいと 思っとったんですよ。」

深沢「原稿料が払えず 申し訳ない。」

茂「いやいや その分 こっちは 好きなように やらせてもらってますから。 『ゼタ』は ええです。 面白ければ 載せるという 深沢さんの編集方針が ずっと貫かれとる。」

深沢「しかし 商業誌としては 失格かもしれません。 実は… そろそろかなあと 思ってるんですよ。」

茂「自分も そろそろ取りかからねば ならんと思っています。」

深沢「え?」

茂「え?」

深沢「何の事です?」

茂「いや 漫画の話です。 ずっと考えて ようやく 形を つかみかけてきたところで。 タイトルは… 『総員 玉砕せよ!』です。」

布美枝「あ…。」

(爆撃の音)

深沢「『ラバウル戦記』か…。 知らなかったなあ 水木さんが こんなのを描いていたとは。」

茂「人に見せる当てもなくて ただただ 描いていたものですからな。」

深沢「貸本時代から 戦記物を 読ませて頂いていたが…。 そうか。 これが 2年前に描いた 『敗走記』に続くのか…。」

茂「戦記とは 名ばかりで 惨めで こっけいな 兵隊の日常 ばかりを 描いてあるんですが。 これも 戦争なんです。 土木作業中に けがで死ぬ者 マラリアで死ぬ者 川に落ちて ワニに食われる者…。」

茂「俺は こんな事で死ぬのかと みんな 驚きながら 死んでいきました。 戦争はね むちゃなんですよ。 もっと生きたいという 当たり前の事を許さんのですから。」

(兵士達の歌声)

茂「次に描く漫画には すべてを込めようと思っています。 まあ 時間は 少し かかるかもしれませんが…。」

深沢「そうか… それは 残念だなあ。 ああ いや その『総員 玉砕せよ!』を 自分の手で出版できないのが ちょっと残念な気がして…。 実はね そろそろ 『ゼタ』も 潮時だと思っていましてね。 本当のところ 今日は その幕引きの相談で 伺ったのです。」

布美枝「えっ。」

深沢「創刊した頃とは 漫画界も すっかり変わりました。 原稿料も払えない雑誌に この先… 新しい風を 起こす力があるのか。 続けても あちこちに 迷惑かけるだけじゃないか…。 今なら まだ 格好よく やめられる。 いい引き時だ!」

深沢「と まあ…。 そんな事を 考えていたんですが…。 まだ どこかに… こういうものを描いてる人が いるかもしれないなあ。 それを見つけだして 世の中に送り届ける事が 『ゼタ』の務めでした。 もう少し あがいてみるかな…。 恰好よく幕を引こうなんて 私には似合いませんな。 まだまだ やれる事がありそうだ。」

茂「ええ。 まだまだですよ。」

布美枝「はい…。」

深沢「まだまだ…。」

中庭

(虫の鳴き声)

茂「お 花火か。」

布美枝「お父ちゃんも やる?」

茂「よし 競争するか。」

藍子 喜子「やったあ!」

茂「なあ。」

布美枝「はい…。」

茂「やっぱり 来年あたり みんなで 南の島に引っ越すぞ!」

布美枝 藍子「え~っ!」

布美枝 藍子「あっ。」

茂「ハハハ。 お父ちゃんの勝ちだな。」

藍子「ずるいよ。」

布美枝「もうっ…。」

茂「しばらく 引っ越しは 無理だな。 こっちで 描かねばならん事が まだ あるけん。」

布美枝「はい…。」

茂「しかし いずれは 向こうに移るぞ。」

布美枝「え~?」

茂「よし もう一戦 やるか?」

一同「せ~の!」

<茂が描き始めた 『総員 玉砕せよ!』は 翌年 出版され やがて 大きな反響を 呼ぶ事なるのです>

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