ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第127話「おかあちゃんの家出」

あらすじ

昭和47年10月。茂(向井理)は毎朝食事が終わると、いったん食卓から戸外まで出て、また玄関から入り直して仕事部屋に向かうという、奇妙な出勤スタイルをとっていた。茂に漫画を注文したある出版社が倒産し、原稿料が回収できそうもないことに、雄一(大倉孝二)たちは頭を悩ませるが、布美枝(松下奈緒)に、そのことは伝えられなかった。茂はその穴を埋めるために仕事を増やし、多忙を極めることになって…。

127ネタバレ

水木家

玄関

業者「毎度どうも。」

布美枝「ご苦労さまでした。 貴司からだ。 何だろう…?」

台所

茂「う~ん。 今度は ルバング島か…。 うん。 この記事 切り抜いといてくれ。」

布美枝「はい。」

茂「あ 今日な 加納さん 来るぞ。」

布美枝「郁子さんがですか? 久しぶりですね。 雑誌の取材ですか?」

茂「ああ…。」

布美枝「後で 私も仕事部屋に挨拶に 伺います。」

茂「いや。 用事が済んだら こっちに 顔 出すように言っとくわ。」

布美枝「そげですか?」

茂「よし ほんなら 行ってくる。」

布美枝「行ってらっしゃい。 『行ってきます』か。」

<食事が終わると 『行ってきます』と いったん表へ出て…>

玄関

<改めて 玄関から入り直して 仕事場に向かう>

休憩室

佐知子「おはようございます。」

茂「おはようございます。」

<これが 最近の茂の 奇妙な出勤スタイルでした>

客間

布美枝「なして 仕事部屋に行くのに わざわざ いっぺん 外に出るんだろう? あ そうだ。 貴司の荷物。」

貴司✉『過日の上京の際には 大変 お世話になりました。 喜子に頼まれた 鬼太郎の家を作りました。 喜子が気に入ってくれたら うれしいです』。

布美枝「鬼太郎の家か…。 よう出来とるなあ。」

貴司✉『こちらは 仕事も やっと軌道に乗り 先週は 満智子や子供やちと一緒に 皆生温泉に一泊しました』。

回想

貴司「帰ったら 満智子や子供やちと ゆっくり話してみるよ。 まだ 巻き返せるよな 俺…。」

回想終了

布美枝「貴司 頑張っとるなあ。」

雄一「茂~ おるか? 入るぞ。」

布美枝「あら お兄さん 珍しい!」

休憩室

光男「現代漫画者の代理人と 連絡を とってみたんだが やっぱり状況は厳しそうだ。」

茂「そげか…。」

佐知子「回収できないとなると かなりの打撃ですね。」

茂「う~ん!」

布美枝「お兄さん いらっしゃい。」

雄一「ああ どうも。」

布美枝「こげな時間に珍しいですね。」

雄一「う~ん 俺も役員の1人として この一大事を 見過ごす訳には いかんからな。」

布美枝「一大事って 何ですか?」

雄一「あれ 布美枝さん 聞いとらんのか?」

茂「仕事のことだけん お前は 口 挟まんでええ。」

光男「知り合いの弁護士にも 聞いてみたんだが 全額回収は難しいなあ。」

雄一「おいおい!」

茂「よその仕事で 穴埋めするしかないか。」

雄一 光男「ああ…。」

茂「何しとる? 向こう 行っとれ。」

布美枝「はい…。」

台所

布美枝「何だろう? みんなして 深刻な顔して…。 私には 何も話してくれん。」

喜子「ただいま~!」

布美枝「あ~ お帰り。」

喜子「喜子ねえ 今日 先生に 褒められたんだよ。 『よく描けました』って。」

布美枝「何を?」

喜子「お父ちゃんの顔。 ほら!」

布美枝「ああ よう描けとるねえ。 あら? ひげが生えとる。 これ ちょっこし おかしいわ。 お父ちゃんに こげな ひげないよ。」

喜子「あれ? あっ お父ちゃんだ!」

茂「おう…。 ん? どげした?」

布美枝「喜子 幼稚園で お父ちゃんの顔 描いてきたんです。」

茂「う~ん。 ほお よう描けちょ~な うん。」

布美枝「けど 変なんです。 お父ちゃんが ひげ面になっとる。」

茂「まあ 絵は 好きなように 描けば ええんだ。 ひげを生やすとは 喜子は 想像力が豊だな。」

喜子「うん。」

布美枝「手 洗っておいで。」

喜子「は~い!」

茂「今日も 仕事 遅くなるけん 夜食の出前 頼むわ。」

布美枝「ほんなら 何か作りましょうか? 毎日 出前じゃ 飽きるでしょ?」

茂「いや 出前の方が パッと食べられて ええんだ。」

布美枝「そげですか…。」

客間

茂「ん 何だ これは。 よう出来とるなあ。」

布美枝「貴司が作ってくれたんです。 この間 来た時に 喜子が 頼んだの 覚えとってくれて。」

茂「あ~ そげか。 ああ それからな。」

布美枝「はい?」

茂「お茶は アシスタントが 入れちょ~けん いちいち持ってこんでも ええぞ。」

布美枝「え…。」

茂「お前は 家の事を やっちょれ。」

布美枝「よかったねえ。 ええの作ってもらって。」

喜子「うん。 叔父ちゃんに 『ありがとう』って言おう。」

(受話器を取る音)

喜子「もしもし 貴司叔父ちゃんですか? 鬼太郎ハウス ありがとう。」

布美枝「想像力か…。 そうなのかなあ。」

喜子「叔父ちゃん また来てね。」

布美枝「ねえ 喜子。」

喜子「な~に?」

布美枝「お父ちゃんの顔には ひげ あったっけ?」

喜子「え~っと…。」

布美枝「忘れても無理ないよね。 毎日 ちょっこししか会えんのだもん。」

喜子「うん!」

布美枝「お母ちゃんも お父ちゃんの顔 忘れてしまいそうだわ…。」

仕事部屋

茂「ここは もっと このキャラクターの…。」

<このところ 茂の仕事は 一段と増え 多忙を極めていました>

郁子「先生。 目線 頂いて もう一枚 お願いします。」

茂「ああ…。」

(シャッター音)

客間

布美枝「今日は 『ヤングウーマン』の取材ですか?」

郁子「ええ。 『人気漫画家の仕事の現場』って いう企画です。 『ヤングウーマン』では これが最後の仕事になるので どうしても先生に出て頂きたくて。」

布美枝「最後って どうしてです?」

郁子「今度 別の雑誌に移るんです。 来年創刊の新しい女性誌。」

布美枝「郁子さん 頑張ってますね。」

郁子「いい仕事しないと 深沢さんに 申し訳ないですもの。 大変そうですよね 『ゼタ』。 経営 苦しいみんたい。」

布美枝「ええ…。」

郁子「勝手な事 言うようですけど…。 頑張って続けてほしいと 思ってるんです。 『ゼタ』は 深沢さんにしか作れない 雑誌ですもの。」

布美枝「はい。」

郁子「大変といえば こちらもでしょう?」

布美枝「え?」

郁子「現代漫画者さんの倒産の件。 未払い分の原稿料 回収できるんですか?」

布美枝「え…。」

郁子「漫画映画の企画に出資した分は 厳しいかもしれないですねえ。」

回想

光男「知り合いの弁護士に 聞いてみたんだが 全額回収は難しいな。」

雄一「おいおい!」

茂「よその仕事で 穴埋めするしかないか。」

回想終了

布美枝「その事 話してたんだ…。」

郁子「あら? ああ いい写真! 布美枝さんは 幸せね。 いつも水木先生に 守られていて。」

布美枝「え?」

郁子「時々 思うんですよ。 私にも こういう人生が あったのかもしれないなあって。」

布美枝「郁子さん?」

郁子「ふっ… でも 両方 望むのは 欲張りですよね。」

茂の仕事部屋

(ペンを走らせる音)

(戸が開く音)

光男「兄貴 妙な苦情が来とるぞ。」

茂「何だ?」

光男「鬼太郎のオモチャで いい加減なもんが 出回っとるらしい。 電池で動くはずの人形が 動かんとか チャックが壊れたとか…。」

茂「うちには関係ないだろう。 どこの誰が作っとるのかも 知らんというのに こっちに苦情 言われても困るわ。」

光男「そりゃそうなんだが…。 どうも 製造元と 連絡が つかんようだなあ。」

茂「俺は 知らん! そげな話は お前が なんとかせえ!」

光男「ああ…。」

客間

回想

郁子「布美枝さんは 幸せね。 いつも水木先生に守られていて。」

回想終了

布美枝「(ため息) 私だけ何も知らんで…。 これが 守られてるって いう事なのかなあ…。」

中庭

布美枝「お父ちゃん?」

茂「ん?」

布美枝「どげしたの?」

茂「ああ 風に当たっとったんだ。」

布美枝「あんまり無理せんで下さいね。 現代漫画者の事 大変だって 聞きました。」

茂「いらん事 言うな。」

布美枝「え?」

茂「お前は 仕事の話に口出すな。 散歩 行ってくる。」

布美枝「『いらん事 言うな』か…。」

夫婦の寝室

布美枝「(ため息) お父ちゃん どげしたんだろう…。 近頃 ろくに話も聞いてくれん。」

回想

貴司「村井さんに しっかり ついていけよ!」

回想終了

布美枝「どげしたら ええだらか?」

茂の仕事部屋

茂「何だ こりゃ? 『お父ちゃんへ』。」

布美枝✉『お父ちゃんに 手紙 書くなんて 初めてだけど どうしても 伝えたい事が あります。 もし できる事があれば 私にも お手伝いさせて下さい。 家族なんですから 打ち明けて もらえないのは 淋しいです。 最近 働きすぎじゃないですか? どうか 無理はしないで下さい』。

<それは 布美枝の精一杯の思いを 伝える手紙でした>

茂「分かっちょらんなあ…。」

<ところが…>

布美枝「えっ… 何 これ…。 読んどらんのかな…。」

菅井「先生 また連載1本 増やすってさ。 超過勤務手当 増やして もらわないと あわないよなあ。」

相沢「あ おはようございます。」

布美枝「おはようございます。 すいません いつも残業ばっかりで。」

菅井「いや そんな…。」

布美枝「ご苦労おかけしますけど よろしくお願いします。」

<布美枝が書いた手紙が 書き損じの紙と一緒に ごみ箱に 捨てられていたのです>

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