ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第132話「おかあちゃんの家出」

あらすじ

布美枝(松下奈緒)のもとに、すずらん商店街で貸本屋を営んでいた田中美智子(松坂慶子)から“久々に調布を訪ねる”との手紙が届く。8年ぶりに美智子と会った布美枝と茂(向井理)は、懐かしい思いに満たされる。かつて、病気で亡くなった息子の墓を、今の住まいがある千葉に移そうというのが、美智子の来訪の目的だった。商店街の靖代(東てる美)、和代(尾上紫)、徳子(棟里佳)も美智子との再会を喜んで…。

132ネタバレ

水木家

台所

茂「うん なかなかだな。」

布美枝「あっ! もう お父ちゃんたら。 せっかく きれいに 盛りつけたのに…。」

茂「やけに張り切っとるな。」

布美枝「久しぶりですけん。」

茂「うん。」

玄関前

藍子「あれ? あの~ 何か用ですか?」

美智子「藍子ちゃん? あなた 藍子ちゃんでしょう?」

藍子「そうですけど…。」

美智子「おばさんの事 覚えてる? 覚えてる訳ないか。 ちっちゃかったもんねえ。 やっぱり ここよね。」

(ドアの開く音)

布美枝「あ~ 美智子さん!」

美智子「布美枝ちゃん!」

布美枝「お久しぶりです!」

美智子「会いたかった~!」

布美枝「私もです。」

客間

布美枝「どうぞ。」

美智子「あんまり立派になったから 場所 間違えたかと思っちゃった。」

布美枝「前の家が あれですからね…。」

美智子「狐に化かされたみたい。」

(2人の笑い声)

美智子「先生! ごぶさたしてます。」

茂「どうも しばらくです。」

美智子「あっ 喜子ちゃんね。 こんにちは!」

喜子「こんにちは!」

美智子「あの節は 先生にも 布美枝ちゃんにも 本当に お世話になりました。」

回想

政志「俺 やってみるよ。 今から 追いつけるかどうか 分かんねえけど…。」

回想終了

美智子「長い事 現場から離れてたでしょう。 最初のうちは 新しい技術に ついていくの 大変だったみたい。 でも 音を上げずに 頑張ったのよ。 今では 若い人に教えてる。」

布美枝「すごいですね。」

茂「店は どうしとるんですか?」

美智子「細々と続けてます。 貸本漫画は なくなってしまったけど コミックスや 雑誌を置いて。 子供達が来てくれてるうちは やめられないわ。」

布美枝「こっちに用事があるって 葉書にありましたけど 何かあったんですか?」

美智子「お墓 移しに来たの。 智志のお墓。 やっと なんとか 向こうに お墓を用意して お寺に お願いして 移す事にしたの。 これで 智志に さびしい思いさせずに済むわ。 あ そういえば 先生の趣味は お墓巡りでしたよね。」

茂「ええ。 しかし こっちも 随分 開けてしまって…。 前は もっと ええ墓があったんですが…。」

美智子「いい お墓ですか?」

茂「古い墓は ええですよ。 時間が 死者の気持ちを 和やかにするんでしょうなあ。」

美智子「はあ…。」

靖代「美智子さ~ん 来てる~?」

美智子「あ 靖代さんだ!」

仕事部屋

(笑い声)

光男「久しぶりだな 布美枝さんの笑い声。」

茂「ん?」

光男「弟さんの件で しばらく 元気なかったから。」

菅井「先生 こんな感じで どうでしょう?」

茂「うん。 ほお~ なかなか ええぞ! あんた 腕 上げたな。」

菅井「えっ そうですか?」

茂「ここまで きっちり点々を 打てるもんは なかなか おらん。」

菅井「はあ… やっぱり 褒められるのは 点々だけか。」

茂「いつの間にか 全軍の指揮を 執る力も つけとったようだし。」

菅井「え?」

茂「お陰で 締め切りの危機を なんとか 切り抜けられた。」

菅井「先生…。」

光男「菅井君の気合いで みんなのやる気に スイッチが入ったんだからな。」

茂「ああ。」

菅井「ありがとうございます。」

相沢「よかったですね。」

台所

徳子「このポテトサラダ 美智子さんの所で 食べたのと 同じ味!」

布美枝「直伝ですから。」

徳子「う~ん。」

美智子「うちに 節約料理を 習いに来てたものねえ。」

布美枝「はい。」

靖代「私も研究しようかな 節約料理。」

美智子「あら どうしたの?」

靖代「最近さ 内風呂の家が増えたでしょう。 銭湯に来る お客さんも めっきり減っちゃって…。」

徳子「それ言ったら 昔ながらの床屋も 美容院に押されて厳しいんだよ~。」

和枝「乾物屋だって スーパーに 客 とられて ここんとこ さっぱり。」

美智子「嫌ねえ。 みんなして グチ 言っちゃって。 靖代さんには あれが あるじゃない。 ほら 化粧品の…。」

靖代「ロザンヌレディで ございま~す。」

(笑い声)

徳子「懐かしい!」

靖代「もう 無理 無理。」

徳子「無理 無理。」

靖代「あんた 随分じゃないのよ。 ハハハ…。」

徳子「ねえ ねえ こんな大声で騒いでいたら こちらの姑さんに 叱られるんじゃないの?」

布美枝「今日は いませんから。 2人で 熱海に行ってます。」

美智子「あら 残念。 先生のご両親にも お会いしたかったわ。」

靖代「おじいちゃんが 面白いのよ。 時々 お芝居のまねなんか してくれちゃってさ。」

徳子「でも いじめられてんのよね。 イカルさんに。」

美智子「イカルさんって?」

布美枝「母のあだ名です。 よく怒るから イ カ ル。」

美智子「まあ すごい。 うちのおばあちゃんより強そう。」

徳子「結構 いい勝負かも ねえ?」

(笑い声)

靖代「あ~ おばあちゃんに会いたいなあ ねえ? そうだ 私 千葉まで おばあちゃんに 会いに行っちゃおうかな。」

美智子「来てよ。 おばあちゃん 喜ぶから。」

徳子「うるさいのが来たって また 怒られるんじゃないの? 昔みたいに ねえ?」

美智子「そうだったわねえ。」

靖代「おばあちゃん すごかったもんねえ。」

中庭

美智子「先生 まだ お仕事?」

布美枝「はい。 毎日 夜中まで 働いとるんです。」

美智子「そう…。 努力家だものねえ 昔から…。」

布美枝「いつも 言ってます。 『漫画は 厳しい世界だ。 油断したら また 元の貧乏に 戻る事になる』って。」

美智子「そう…。 ん? どうかした?」

布美枝「私… 時々 あの頃が 懐かしくなるんです。 明日のお米の心配したり 電気が止められたり…。 毎日が 貧乏との闘いなのに 懐かしいだなんて おかしいですよね。」

美智子「ううん。 ちっとも おかしくないわよ。」

布美枝「え?」

美智子「だって 一生懸命だったでしょう 布美枝ちゃん。 貧乏が 懐かしいんじゃないの。 きっと… 一生懸命だった その時間が いとおしいのよ。」

布美枝「美智子さん…。」

美智子「でもね 今の暮らしも 後で 振り返ったら きっと 懐かしく思うわよ。 だって… 今も 頑張ってるでしょう。 藍子ちゃん達 元気に育てようって。 先生を 見失わないように。」

布美枝「はい…。」

茂の仕事部屋

茂「そろそろ 作戦を立て直す 時期かもしれんな…。」

中庭

美智子「そう 弟さんが…。 お気の毒に…。」

布美枝「半年前に こっちに出てきて 元気に帰っていったんです。 落ち込んどったら いけんのですけど…。」

美智子「ねえ 布美枝ちゃん… 私ね 亡くなった人は いなくなってしまう訳じゃないと 思うのよ。 目に見えないけど ずっと近くにいて 見守ってくれてるんじゃないかな。 実はね… おばあちゃん 近頃 あんまり具合よくないの。」

布美枝「えっ…。」

美智子「無理もないわよね。 年も年だし…。 でもね ずっと おばあちゃんと 一緒に やってきたでしょう。 いなくなったら どうしようって もう考えただけで 胸が苦しくて…。」

美智子「そしたらね おばあちゃんが言ったの。 『私は どこにも行きゃしないよ。 智志と一緒 あんたのそばに いるから安心しな』。 なんだか ほっとしたわ。」

布美枝「見えんけど… おるんですね。」

美智子「え?」

布美枝「あ いえ…。 おばばが… 亡くなった祖母が よく そう言ってたんです。 『みんな 目には見えんものに 守れて 生きているんだ』って。」

美智子「そうね… 見守られて 包まれて… なんとか やってんのかも しれないわね。」

布美枝「はい…。」

美智子「あ~ きらいな星空…。」

台所

(小鳥の鳴き声)

茂「おい 子供達 連れて 旅行に行くか。」

布美枝「富士山ですか?」

茂「いや もっと遠くが ええな。 いずれ 移住する南方の楽園を 下見に行くか。」

布美枝「仕事は どげするんです?」

茂「うん… ボチボチ 減らしていこうかと 思っとる。 貧乏よけ大作戦は 作戦変更だ。 人間は 南方の楽園の人達のように ゆったり生きるのが 本当だけん。 これからは 仕事は 一日 3時間にする。」

布美枝「3時間?!」

茂「後は のんびり 談笑して過ごすんだ。 そのかわり 金は あまり入ってこんけん ぜいたくは できんぞ。」

布美枝「はい。」

茂「飯は まあ ラーメンに ネギでも 浮かんどれば よしとして…。 いや 食いもんが あまりに貧しくては 楽園とは言えんな。」

布美枝「フフッ…。」

茂「なんだ! 人が まじめに話しとるのに。」

布美枝「お父ちゃんが 仕事せずに いられるはずないわ。 体の事 考えて ご飯くらいは ゆっくり食べて下さい。」

茂「ああ。 ゆっくりな…。」

布美枝「ほら 言ってるそばから…。」

茂「ふ~ん。」

<遠い南の島まで行かなくても 茂の笑顔があれば ここも 少しは楽園に近づける。 そんな気がする 布美枝>

モバイルバージョンを終了