ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第133話「妖怪はどこへ消えた?」

あらすじ

昭和56年4月。布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)の長女・藍子(青谷優衣)は大学に進学し、次女・喜子(荒井萌)は中学3年生になった。喜子は、父親譲りのマイペースで、毎朝学校に遅刻続きだった。茂が“漫画界の第一線”に躍り出てから、すでに15年ほどが過ぎ、その間、茂はずっと仕事漬けの日々を送っていたが、このところ漫画の注文が急に減り、光男(永岡佑)たちはプロダクションの先行きを心配していた。

133ネタバレ

水木家

(小鳥の鳴き声)

昭和五十六年 四月

中庭

布美枝「いい お天気!」

台所

布美枝「あら まだ食べとる。 随分 ゆっくりね。」

藍子「うん きょうは 1限目 休講だから。」

布美枝「大学生って のんきねえ。」

藍子「よっちゃんなんて まで寝てるよ。」

布美枝「また?」

藍子「うん。」

<村井家の長女 藍子は この春 大学に進学しました。」

子供部屋

布美枝「喜子… 喜子! 起きなさい。 学校 遅れるよ!」

喜子「ああ~!」

<次女の喜子は 中学3年生です>

布美枝「あ こら! いい加減にしなさい!」

台所

布美枝「ゆっくり食べとったら また遅刻するよ。」

喜子「どうせ1時間目 数学だもん。 聞いたって分かんない。」

布美枝「また そんな事 言って。」

藍子「よっちゃんは マイペースだねえ。」

喜子「『遅刻しても 朝御飯は抜くな』っていうのが お父ちゃんの教えだも~ん。」

布美枝「来年は 高校受験なのに。」

喜子「なんとかなるって。 お姉ちゃんでさえ 大学 入れたんだから。 まあ 第一志望は落ちたけどねえ。」

藍子「あの日は お父ちゃんに 合格祈願の念力 送ってもらったのが 失敗だったんだよ。」

喜子「何で?」

藍子「お父ちゃんね 昔 51人中50人が合格する試験に たった1人だけ 落ちた事 あるんだって。」

喜子「うわ~っ 不吉!」

藍子「知ってたら頼まなかったのに。」

布美枝「あてにするからいけないのよ。」

藍子「はいはい。」

修平「布美枝さん。」

布美枝「あ おはようございます。」

修平「わしのカバン 見んだったかね?」

布美枝「いえ 見てないですけど…。」

修平「おかしいなあ。 どこにも見当たらんのだわ。」

布美枝「そっち ちょっと 捜してみましょうか。」

藍子「また始まった。」

喜子「うん。」

修平「あれがないと一大事だわ。 お前やちも捜してごせやい。」

2人「は~い。」

藍子「早く学校に行きな。」

喜子「うん。」

玄関

喜子「行ってきま~す! う~ん! あ~あ 学校って 何で 朝から あるのかな。」

客間

絹代「お父さん カバン。 ほい ほい! 」

修平「お~ あったか! どこにあった。」

絹代「ご不浄の棚。」

修平「あ~ あそこだったか!」

絹代「持ち歩くけん 置き忘れ~わね。」

修平「大事な物が 入っとるんだ。 肌身離さず持っとらんとなあ。」

絹代「印鑑と小銭くらいしか 入っとらんくせに。 朝から邪魔したね。」

布美枝「いいえ。」

修平「ヘヘヘヘヘ!」

絹代「ほらほら。」

台所

藍子「おじいちゃん ちょっと ボケてきたんじゃない?」

布美枝「まだ しっかりしとられるよ 年取ると 誰でも 妙な事に こだわるもんなの。」

藍子「ふ~ん。」

茂「あ~。」

藍子「おはよう。」

布美枝「随分 早いのねえ。」

茂「うん。 ゆうべ 早く寝たけん 腹が減って 目が覚めたわ。 朝から 何 騒いどるんだ?」

藍子「また おじいちゃんが カバン捜して。」

茂「ああ。」

布美枝「よっぽど大事な物でも 入っとるんでしょうかねえ?」

茂「うん… この間な あのカバンが 床に落ちとったんだ。 お父ちゃん うっかり踏んでしまってな…。 そげしたら イトツが遠くで 『痛い!』と叫んだ。」

2人「え!」

茂「あのカバンには イトツの寿命でも 入っとるんだろう。 ハハハハ!」

布美枝「もう 何 言っとるんですか。」

茂「ハハハ。」

藍子「大学 行ってきま~す。」

布美枝「行ってらっしゃい。」

茂「うん…。」

<漫画界の第一線に躍り出てから 15年ほどが過ぎ…>

茂「カバンの中に寿命か こりゃええな。 漫画に使えるぞ!」

<茂は ず~っと 仕事漬けの日々を 送っていました>

仕事部屋

茂の仕事部屋

(戸の開く音)

光男「兄貴。 先月 退職した中野君と 品川君の代わりの件だけど。」

茂「誰か決まったか?」

光男「新しく人を採るのは しばらく見合わせよう。」

茂「手が足らんだろう?」

光男「いや それが…。」

茂「ん?」

休憩室

光男「今月は 今描いとる 『月刊パイン』の連載1本だけだ。」

茂「『コミックジョーズ』の連載も 先月で終わったしなあ。」

光男「ああ。」

茂「読み切りの注文 来ておらんのか?」

光男「ああ どういうんだか 今年に入って 急に注文が減っとるんだ。 こんな事は初めてだよ。」

茂「う~ん 妙だな。 厄年は とうに済んどるが…。」

光男「雄玄社にでも 様子聞いてみるか?」

茂「あ~ そげな事は せんでええ。 この商売 多少の波は 付きもんだけん。」

光男「ああ。」

茂「まあ たまには ええわ。 お陰で徹夜せんで済んどる。 そもそも 今までが 人間の仕事量を超えとったんだ。」

光男「そりゃそうだな。」

茂「どうせ すぐに また忙しくなる。」

中庭

光男「布美枝さん。 こんなに仕事がないのは 水木プロ始まって以来だよ。」

布美枝「近頃 やけに早く寝ると思ったら それで…。」

光男「兄貴は 『心配いらん』と 言うんだが… 何か 思い当たる事でもないかね?」

布美枝「仕事のことは 分からんですけん。」

光男「しかし このまま 仕事が なくなったら…。 うう~ん…! 何か 考えなくちゃなあ。」

布美枝「はあ… ちょっと 大げさじゃないのかなあ?」

中学校

女子達「やっぱり秀樹は いいな。」

「マサエちゃんも かわいいよね。」

「私 絶対に 俊ちゃんが いい。」

「え~っ マッチの方が いいじゃん。」

「ねえ B組の松原君ってさ ちょっと マッチに似てない?」

(女子達の話し声)

女子A「ねえ 村井さんは どっち派? 何 読んでるの? 漫画? え! 何それ?!」

女子達「何? 何? うわ~!」

喜子「見る? 昔の人が描いた妖怪の本。」

女子A「気持ち悪い…。」

喜子「そう? 面白いけどね。」

女子B「行こう。」

女子A「村井さん いつも変な本 読んでるね。」

女子B「この前は 魔法の本だったよ。」

女子C「マッチも俊ちゃんも 知らなそう。」

喜子「(笑い声)」

女子A「何で笑ってんの?」

女子「さあ…。」

喜子「『ぬらりひょん』…。」

<喜子が興味を持つものは 同じ年頃の女の子達とは 少し違っていました>

水木家

客間

先生「今日は ここまでね。」

一同「ありがとうございました。」

靖代「ああ 布美枝ちゃんは やっぱり上手だねえ!」

布美枝「そうですか?」

靖代「うん!」

徳子「私のと 何か違くない?」

和枝「同じように習ってるのに 何ででしょうねえ 先生?」

靖代「布美枝ちゃんは 器用だからさ。」

先生「続けていれば 器用な人は よりうまく そうでない方は…。」

徳子「それなりにでしょう!」

和枝「それ テレビのCM!

<半年ほど前から 布美枝達は 月に一度 集まって アートフラワーを習っていました>

布美枝「ありがとうございました。」

茂「おい。」

布美枝「はい。」

徳子「先生 お邪魔してます!」

靖代「お仕事中 ごめんなさいね。 うるさくてねえ。」

茂「ああ ちっとも構わんですよ。」

布美枝「どうかしました?」

茂「ああ あの ハタキどこだ?」

布美枝「仕事部屋の掃除ですか?」

茂「いや そこの楽園の間を ちょっこし片づけとるんだ。」

布美枝「ああ。」

3人「楽園の間?」

布美枝「南方で買った物が たくさん置いてあるので 『楽園の間』なんです。」

徳子「ねえ 何 集めてんの?」

布美枝「あ~ 怖い顔の お面とか あと 人間の髪がついた杖とか。」

3人「嫌だ!」

布美枝「もう掃除しとるんだか 眺めて喜んどるんだか いったん入ったら なかなか出てこないんですよ。」

3人「ふ~ん。」

喜子「ただいま。」

靖代「あら 喜子ちゃん お帰り。」

徳子 和枝「お邪魔してます~。」

茂「ああ 雑巾 出してくれ。」

布美枝「はい。」

喜子「おとうちゃん 楽園の間 片づけてるの?」

茂「ああ。」

喜子「私も手伝う! 雑巾 持ってくるね。」

靖代「ちょっと 喜子ちゃんは 平気みんたいだね。」

布美枝「ああ うちの人と 一番趣味が合うんです。」

靖代「まあ 親子 仲よくて結構だわね。

徳子「でも 先生と同じ趣味じゃ 同じ年頃の子と 話が合わないんじゃないの?」

布美枝「確かに…。」

和枝「そういえば 喜子ちゃん 友達といるとこ あんまり見た事ないわねえ。」

靖代「ちょっと…。」

和枝「あ…。」

布美枝「あの子 昔から マイペースですから。」

靖代「ほら 今は 個性の時代だからね。」

徳子「そうよねえ。 先生の血を引いて 芸術方面に 進むかもしれないしねえ!」

和枝「ああ そうねえ!」

布美枝「どうかなあ…。」

楽園の間

茂「ほら これ見てみろ。 目が 貝で できとるぞ。」

喜子「へえ!」

茂「ああ これなんかええなあ! うん。 魂が入っとる。」

喜子「魂?」

茂「ほれ。 面でも人形でも 魂が入っとらんと 値打ちはないんだ。」

喜子「お父ちゃんには ちゃんと分かるんだねえ。」

茂「ああ…。 あ~ ああ…。 ここにおると 昔の王侯貴族にでも なったような気するなあ。」

喜子「王侯貴族?」

茂「う~ん。 宮殿に宝物を 集めて 眺めとる気分だ。」

喜子「宝物かあ…。 あれ でも 日曜でもないのに 何で のんびりしてるの?」

茂「今日は 暇だけんなあ。」

喜子「えっ 珍しいね。」

茂「う~ん。 暇は ええぞ。 こげして コレクションが 心ゆくまで楽しめる。」

喜子「そうだねえ…。 暇は最高!」

茂「うん! 働きすぎは やっぱり いけん。」

喜子「うん。 あら? 今 棚の陰から 何か 出ていったよ。」

茂「ん?」

靖代達「きゃあ~!」

茂「うん 何だ?」

客間

靖代「布美枝ちゃん! 1匹 そこの透き間に入ったよ!」

徳子「嫌だ 4月なのに 何で! あっちの部屋から来たよ~!」

3人「うわ~!」

靖代「そこ ポンして ほら! しっかりやんなさいよ! 布美枝ちゃん!」

布美枝「はい!」

茂「おう やっとるなあ ハハハ!」

布美枝「もう! お父ちゃん 見てないで なんとかして下さいよ!」

茂「おっ 頑張れ お母ちゃん!」

布美枝「あっ!」

(一同の叫び声)

<のんびりできるのも 一時の事。 まあ すぐ 仕事に追われる日々が始まる。 布美枝も茂も まだ どこか のんきに構えていました。 ところが…>

仕事部屋

茂「何だ これは…。」

<事態は 日に日に 悪化していったのです…>

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