ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第136話「妖怪はどこへ消えた?」

あらすじ

絹代(竹下景子)と修平(風間杜夫)は布美枝(松下奈緒)に対し「茂(向井理)に漫画の注文が来なくなったことで、気をもみすぎることのないように」と気遣いをみせる。喜子(荒井萌)は、修学旅行のしおりに妖怪の絵を描いたことで、クラスメートたちから白い目で見られるようになり、“妖怪ブーム”が過ぎ去って虚無感を抱える茂と、同じ気持ちを分かち合う。

136ネタバレ

水木家

客間

布美枝「急ブレーキですか?」

絹代「急ブレーキが危ないの。」

布美枝「はい…。」

絹代「昨日 心臓の病院に行って 先生から聞いてきたんだわ。」

布美枝「なして 先生が車の事を? あ! お母さん 運転習うんですか?」

絹代「ばかばかしい! しげさんの話だわね。 隠さんでもええけん。 漫画の仕事… さっぱり来とらんでしょうが。 忙しい忙しいと走っとる時は なんとか頑張れるもんだけど。」

布美枝「はい。」

絹代「苦しいのは 走るのを 急に やめた時だわ。 もう若くはないけん 昔のように がむしゃらに 働かんでもええけど がっくりせんように 気をつけてやってね。」

布美枝「分かりました。」

絹代「ほんなら これ。 まずは 健康第一。」

布美枝「ウナギ…。」

絹代「お代は ええけんね! 今日は サービス フフフフ!」

布美枝「ありがとうございます。」

修平「おい。 わしの眼鏡 知らんか?」

絹代「顔の上に乗ってちょ~ますよ。」

修平「これは 古いやつだ。 この間買った 新しい方を 捜しとるんだ。」

絹代「眼鏡に足があるわけだなし 棚にでも 載っとるでしょう。」

修平「ないけん捜しとるの。 分からん事 言うな!」

絹代「もうっ。 お父さんは 近頃 いっつも 何か捜しと~だけん。 つきあいきれんわ。 ウナギ あんたの分もあるけんね。」

布美枝「え?」

絹代「そばで 気をもんどるのも 疲れるでしょう。 あんたも精をつけなさい。」

布美枝「お母さん…。」

絹代「お父さ~ん!」

玄関

(セミの鳴き声)

布美枝「あら! こげな所に歩いてきとった。」

両親の部屋

布美枝「お父さん!」

修平「おう。」

布美枝「ありましたよ 眼鏡。」

修平「どこに隠れとった?」

布美枝「下駄箱の上です。」

修平「ああ 郵便受けを見に行った時か。 あ~あ わしも ちょっこし ボケてきたかな。 ハハハハハ。」

布美枝「あれ お母さんは?」

修平「病院だわな。 毎日 元気に病院に通っとる。 文句 言うのと 病院に行くのが 母さんの元気のもとだ。」

布美枝「そげですねえ。 お父さんは 元気のもと 見に行かないんですか?」

修平「ええ?」

布美枝「映画とお芝居。」

修平「芝居もええが たまには元気のもとが 向こうから やってこんかな。 松川さん どげしとる?」

回想

修平「『動いてみせるわ』!」

冴子「お父さん お上手!」

回想終了

布美枝「女性雑誌の編集部に 移られてそうですよ。」

修平「南無三! ほんなら 茂は用なしか。 あいつは ご婦人向けには できとらんけん。」

布美枝「お呼びは かからんですよ。」

修平「ハハハハハ! どげしとるんだ。 茂は。」

布美枝「え?」

修平「母さんが 心配して あげこげ言ったかもしれんが… まあ 今までが 順調に いきすぎたんだ。」

布美枝「はい。」

修平「まだ 先は長いけん ここらで ひと休みした方が ええ。 人生は 養生が第一!」

布美枝「はい!」

修平「あんたも 気長に構えとりゃ ええ。 茂は もともと 好きで絵を描いるんだ。 のんびりやっとったら また 元気も出てくるわ。」

布美枝「そげですね。」

修平「歌舞伎座は 『道成寺』か! これは 行かねばなるまい。 『花のほかには松ばかり』。」

<修平と絹代。 それぞれの気遣いが うれしい布美枝でした>

深大寺

喜子「(ため息) 面白いと思うのにな…。」

回想

喜子「これ 表紙の絵。 下手くそで悪いけど。」

女子A「何 このお寺の周りに ウヨウヨしてるの。」

喜子「妖怪のつもり。 京都は 古い土地だから 妖怪も いろいろいて 面白いんじゃないかと思って。」

女子B「嫌だ 気持悪い!」

女子C「不気味!」

女子A[バッカみたい。 小学生でもないのに お化けの絵なんて。]

喜子「分かった… 描き直す。」

女子B「マキちゃんが描いたら?」

女子C「え~っ 私が?」

女子B「村井さんが また変な絵描いてきたら困るもん。」

喜子「ごめん…。」

女子B「信じらんない! あんな変な絵 描いてくるなんて。」

女子C「他の事やってもらおうよ 部屋割り表とか 面倒な事。」

女子A「修学旅行 同じグループかあ。 あの人 勝手な事しそうだなあ。 ズレてるよね~ 村井さんて。」

回想終了

喜子「私 そんなにズレてるかな…。 まあいいや! あれ? お父ちゃん。」

茂「お前 何しとるんだ?」

茂「薄暗くなって 人の姿 形が ぼんやりしか見えんようになると。」

喜子「うん。」

茂「何かが おるような 気がしたもんだ。 歩いとると ふいに袖を引っ張られたり…。」

喜子「それ 知ってる。 『袖引き小僧』でしょ。 お父ちゃんの本で読んだ。」

茂「すれ違ったのが もののけのような気がしたり…。 けど 今は日が暮れても ずっと 明るいけん 妖怪も いつ現れたらええもんか 分からんのだろうなあ。」

喜子「そうだね。」

茂「妖怪の住みづらい世の中に なったもんだ。」

喜子「でもさ…。」

茂「ん?」

喜子「妖怪も住めない世の中は 人間だって住みにくいよね…。」

茂「これ食うか? さっき そこの茶屋で買ってきた。」

喜子「うん。 お父ちゃん。」

茂「何だ?」

喜子「妖怪 戻ってくるといいね。」

茂「ああ。」

水木家

玄関

布美枝「お帰りなさい!」

茂「おう。」

喜子「ただいま。」

布美枝「お帰り。」

戌井「お帰りなさい。」

茂「あ 戌井さん 来とったんですか!」

戌井「ええ。 お邪魔してます。」

休憩室

戌井「なかなか こちらの方に 出てくる機会がなくて すっかり ごぶさたしてました。」

茂「印刷業は うまく いっとるんですか?」

戌井「もうかりはしませんが 欲を出さなければ ボチボチやっていけます。」

茂「ああ それは ええ。 地道が一番です。」

戌井「しかしですねえ 水木さん。 人間というのは しかたがないもんですよ。 いや 『漫画バカ』は いや~ 『僕は』と言うべきかなあ。」

茂「え?」

戌井「北西文庫が失敗して しばらくは 漫画雑誌さえ見ないように 過ごしてたんです。 そしたら…。」

回想

早苗「これなら なんとかなるんじゃない?」

戌井「ん?」

早苗「締めるとこ締めて 経費節約でやってたら ちょっとは 余裕も出てきたから。」

戌井「お前…。」

早苗「やったら いいじゃないの 漫画の出版!」

戌井「また 赤字が出るぞ。」

早苗「日本一小さい出版社が出す 赤字なんて たかが知れてるもの! 経理は 私がしっかり見るから。 もうひと勝負 やってみてよ!」

回想終了

布美枝「早苗さんが そんな事を…。」

戌井「ええ。 女房に尻を叩かれて 早速 水木さんに お願いに上がりました。 これ 見て下さい。」

茂「昔 戌井さんのところで描いた 貸本ですなあ。」

戌井「手もとに 貸本時代の漫画が 幾つか残ってましてねえ。 それ 見てると… 気持ちが高ぶってきました。 熱いんだなあ! この原稿から 何とも言えない 熱のようなものを感じます。」

戌井「力強い絵。 面白いストーリー。 目には見えない世界を見せる力。 これが 漫画ですよ。 水木さん 貸本時代の漫画 全部 文庫で復刻させましょう!」

布美枝「戌井さん…?」

戌井「どうでしょう?」

茂「自分は 構わんですが… 水木しげるの名前では 本は 売れんですよ。」

戌井「え?」

茂「今… 漫画の注文は 来とらんのです。」

戌井「えっ!」

茂「『鬼太郎』人気も終わって この先 注文が 来るかどうかも分かりません。」

戌井「僕も… 最近の水木さんの漫画は 何か もの足らないと思ってました。 正直なところ このままでは いかんと 心配もしてます。」

茂「戌井さん…。」

戌井「しかし! 水木さんが ここで終わるはずないです。 誰からも 見向きもされなかった頃 これほどのものを! 一度も立ち止まらず ずっと描き続けたんです。 売れない時代に 積み重ねた努力が 後の水木しげるを作った。 『鬼太郎』という 不死身の漫画を生み出したんです。」

戌井「今… 何が足りないのか。 それは 僕にも分かりません。 でも これだけは言えます。 『本物は消えない』。 『鬼太郎』と同じように 水木さんの漫画は不死身です。 今 スランプなら… 苦しんで下さい。 でも その先 きっと 突破口が開けるはずです!」

茂の仕事部屋

茂「俺は 何を見失ってるんだ…! 俺は 何を見失ってるんだ!」

<突破口を求めて 茂は 懸命に あがき始めていました>

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