ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第138話「妖怪はどこへ消えた?」

あらすじ

茂(向井理)は、はるこ(南明奈)の求めに応じて山梨を訪れ、小学校の子どもたちと共に自然豊かな山中で川遊びを楽しむ。それは、茂が久しぶりに伸び伸びした気持ちを取り戻したひとときだった。茂が谷川沿いを歩き上流にさしかかると、どこかから奇妙な歌声が聞こえてくる。声のする方向に茂は目を向け、そこに妖怪「小豆洗い」の姿を発見。茂は、小豆洗いと言葉を交わすことになって…。

138ネタバレ

水木家

台所

茂「山の谷川で 『小豆洗い』に会ったぞ。」

布美枝「何ですか? それ。」

茂「知らんのか? ちょっこし待っとれよ。」

客間

茂「確かに この お方だ。 俺は 子供達と川の探検をした後 1人で川沿いを歩いてみたんだわ。」

布美枝「はい…。」

茂「上流まで行ったら 辺りが薄暗くなって 歌が聞こえてきた。」

布美枝「歌?」

茂「ああ。」

回想

小豆洗い♬『小豆とごうか 人とって食おうか ショキショキ』

茂「ああっ!」

小豆洗い「♬『小豆とごうか 人とって食おうか』 誰だ? お前。」

茂「お前は 『小豆洗い』か?」

小豆洗い「俺の事を知ってんのか?」

茂「ああ 絵に描いた事がある。」

小豆洗い「絵描きか? なら もう少し頑張ってくれねえと 困るじゃねえか。」

茂「え?」

小豆洗い「おれたちゃ 人を脅かすのが商売なのに 近頃じゃ 誰も 俺達に 気づかねえんだよ。 このままじゃ 消えちまう運命だぜ。」

茂「そんな心細い事 言うなよ。」

小豆洗い「絵描きの先生 俺達の事 描いてくれよな。 頼んだぜ!」

茂「ああ 分かった。」

小豆洗い♬『小豆とごうか 人とって』

茂「あっ!」

回想終了

布美枝「これが 川に…?」

茂「俺の頭が どうかなったとでも 思っとるんだろう。」

布美枝「はい…。 いいえ!」

茂「けど それでも ええんだ。 俺は 確かに この目で見た。 どうも 俺は 『小豆洗い』に 見込まれたようだ。」

布美枝「え?」

茂「自分達の事を 絵に描けと頼まれた。 形に残さんと 忘れられて 消えてしまうからなあ。」

布美枝「はい。」

茂「ただ ここに 1つ 問題がある。」

布美枝「何でしょう?」

茂「発注してきたのが 出版社ではなくて 妖怪だという事だ。 描いても 原稿料が出ない。 つまり 金にならん。」

布美枝「そげですね。」

茂「しかも この先 漫画の注文が いつ来るかも分からん。 ひょっとしたら 何年も このままかもしれん。」

布美枝「ええ。」

茂「厳しい闘いになるが やっていけるか?」

布美枝「はい。 なんとかなりますよ。」

茂「頼もしいな。」

布美枝「節約は 得意ですけん。」

茂「うん。」

布美枝「お父ちゃんは 好きなだけ描いて下さい。 日本中の妖怪 世界中の妖怪 お父ちゃんが 全部 絵にして下さい。」

茂「世界中かあ。 どれだけおるか 見当もつかんぞ。」

布美枝「それでも 全部 描いて下さい。 お父ちゃんにしか できん仕事なんですけん。」

茂「妖怪を描いたら 次は 十万億土だ。」

布美枝「え?」

茂「あの世の事も いずれは 形にしていかんといけん。」

布美枝「やる事が ようけ ありますね!」

茂「ああ。 100歳まで かかっても 描き終わらんかもしれんな。」

布美枝「はい。」

茂の仕事部屋

茂「『小豆とごうか 人とって食おうか ショキショキ』と。」

<長くて暗い スランプのトンネルを 茂は やっと通り抜けたのです>

茂「『人とって食おうか ショキショキ』。」

客間

藍子「お母ちゃん その話 信じてるの?」

布美枝「え?」

藍子「だって… 幾ら何でも おかしいよ。」

布美枝「そうかなあ…。 お父ちゃんには きっと 見えたんだよ。 何かを つかもうと 一生懸命だったけん。 お父ちゃんの生きる力が 『小豆洗い』を 見せてくれたのかもしれん。」

藍子「うん。

布美枝「やっぱり お父ちゃんは 本物だ!」

仕事部屋

光男「妖怪辞典を作る?」

茂「今までも たくさんの妖怪を 描いてきたが 改めて その一人一人を きちんと描いて 妖怪大辞典に仕上げようと 思っとる。 話だけ伝わっていて 姿形の分からんものには 色や形を作り 古い絵のあるものも 新しく 一枚絵として 描き起こしていく。」

光男「えらく 手間かかりそうだな。 どっから来た仕事だ?」

茂「ご本人達から 直接 依頼が来た。」

光男「ええ?!」

茂「本になるかどうかは… 分からんのだ。」

光男「おい! こんな時に そんな仕事に 時間かけて 大丈夫か?」

茂「こんな時だからこそだ! 注文がなくても 本にならんでも 描き続ける! 今なら じっくり調べて 納得のいくまで描き込める。」

菅井「面白そうですねえ。」

相沢「ええ。」

光男「兄貴…。」

茂「大仕事になるぞ!」

客間

布美枝「えっ… 障子に目が?」

2人「え~っ!」

茂「詳しく話してみろ。」

喜子「昨日の夜ね 消灯の後 おしゃべりしてたら…。」

回想

一同「きゃ~っ!」

喜子「これ 何だろう?」

女子A「誰か のぞいてる!」

女子B「何か動きが変じゃない?」

女子C[わあ 増えた!]

女子A「外で いたずらしてるんだよ。 障子 開けてみよう。」

女子B「うん。」

喜子「よっと待って! 確か… この障子の向こうは 断がい。」

女子A「じゃあ それ 何?!」

喜子「妖怪じゃないかな。」

一同「きゃ~っ! 怖い怖い…!」

回想終了

喜子「ねえ お父ちゃん 障子の妖怪っている?」

茂「ああ おるぞ。 『目々連(もくもくれん)』だ。」

2人「『モクモクレン』…?」

茂「お前が見たのは これか?」

喜子「そう。 これ!」

茂「ああ 間違いない。 『目々連』だな。」

2人「え~っ!」

喜子「明日 みんなに教えてあげよう! そっか… 『目々連』だったんだ!」

茂「そうだ。 お父ちゃんが知っとるのは 津軽の空き家に出た 『目々連』の話でな その家に泊まった旅人が…。」

台所

藍子「ほんとかな?」

布美枝「ん?」

藍子「よっちゃんまで 妖怪を見るなんて…。 もしかして お父ちゃんを 元気づけようとして 話 作ったのかもね。」

布美枝「どうだろうねえ…。」

客間

茂「こんなに 目があったら もう 一生 目はいらんぞ。」

台所

布美枝「妖怪が 2人に 力を貸してくれたのかもしれん。」

客間

茂「捕まえてこい。」

喜子「え? お父ちゃんも一緒に行こう。」

仕事部屋

茂「ほお~ よう描けとるなあ。」

菅井「ちょうど 終わるとこです。」

茂「どれ…。 はあ~ これまた 細かに 点を打ったもんだなあ。」

菅井「つい 夢中になっちゃいまして。」

相沢「さすがですねえ 菅井さん。」

菅井「妖怪 描くの 僕 性に合ってるみたいです。」

茂「あんたも妖怪の仲間のような顔を しとるもんなあ。」

菅井「えっ? あの 先生!」

茂「ん? 何だ?」

菅井「この先も… 僕は ここで 仕事を 続けていけるんでしょうか?」

茂「え?」

菅井「もしも このまま 漫画の注文が増えなかったら… アシスタントは 1人でいいという事になると そりゃあ 相沢君の方が 何でも できるし…。」

相沢「菅井さん!」

菅井「そういう事になりそうなら 早めに告知してもらった方が…。」

茂「何を言っとるんだ! あんたが いなかったら 妖怪辞典を作るという大仕事が どうにもならんじゃないか。」

菅井「え…。」

茂「心配せんでもええ。 まあ なんとかなるだろう。」

菅井「ほんとですか?!」

茂「ああ!」

菅井「よかった…! これで 話を進められる。」

茂「あ?」

菅井「実は 僕! 結婚しようと思ってるんです!」

布美枝「えっ?!」

茂「ん?」

布美枝「あっ…。」

菅井「あ 奥さん。」

布美枝「京都のお土産 持ってきたんですけど… 菅井さん 結婚されるんですか?」

菅井「はい。」

布美枝「おめでとうございます!」

相沢「おめでとうございます。」

茂「まあ よかったな。」

菅井「はい! あっ じゃあ いただきます。」

相沢「いただきま~す。」

楽園の間

布美枝「お父ちゃん? こげな時間から 何を始めるんですか?」

茂「放りっぱなしに しとったけん 片づけてしまおうかと思ってな。」

布美枝「手伝いましょうか?」

茂「珍しいな。 いつもは あまり近寄らんくせに。 ほんなら… これ そこの柱に掛けてくれ。」

布美枝「はい。」

茂「俺な 自伝を頼まれとるんだが ボチボチ 書いてみようかと思ってな。 妖怪との つきあいから 始まった人生を 書いてみるのも ええかもしれん。」

布美枝「はい。」

茂「編集者は 『貧乏話が受ける』と 言っとるけん 貧乏時代の事も 赤裸々に書くぞ。」

布美枝「かまいませんよ 私は。」

茂「そげか…。 何しろ 1個分隊を養うには 妖怪画だけでは どげだいならん。 何でも やらんとな。」

布美枝「はい。」

茂「うん ええなあ。 どれも 魂が入っとる。」

布美枝「魂ですか?」

茂「ああ。 魂が入っとらんと宝物とは言えん。 どれも ええ。 立派な宝物だ。 ん? どげした?」

布美枝「いいえ。 こげしてみると 結構 面白いもんですね。」

茂「うん そげだろう。」

<漫画の注文は この後も しばらく途絶えたままでした。 けれど 書きためた妖怪画は 秋には 『水木しげるの妖怪辞典』 として 刊行され 茂の仕事を 大きく 広げていくことになるのです>

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