ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第139話「人生は活動写真のように」

あらすじ

昭和59年4月。茂(向井理)の父・修平(風間杜夫)が高齢のため、このごろめっきり元気がないことが、布美枝(松下奈緒)の心配の種だった。出版社の編集者のなかには、子どものころに茂の漫画を愛読していた人も出始め、そうした編集者の茂に対する理解もあり、茂の仕事も再び軌道に乗り始めていた。ある日「茂の漫画をモチーフにした演劇を上演したい」と言う、若い劇団員たちが村井家を訪れ…。

139ネタバレ

水木家

両親の部屋

布美枝「おとうさん。」

絹代「あなた。」

茂「呼んでも返事せんなあ。」

喜子「おじいちゃん ボケちゃったのかな?」

茂「このまま イトツを ボケさせる訳にはいかん。 待っとれよ。 う~ん!」

布美枝「お父ちゃん どげするんです?」

茂「イトツを助けてくれるのは もう神さましか おらんのだ。 うん! イトツ 戻ってこい!」

一同「あ!」

修平「はあ! まだ極楽じゃなかったか。」

喜子「おじいちゃんが 蘇った…。」

絹代「あ~…!」

昭和五十九年四月

台所

靖代「へえ! それで おじいちゃん蘇ったんだ。」

布美枝「首のここんとこに コブみたいなのが 出来てたんですよ。」

徳子「何の病気?」

布美枝「お医者さんに診せても 分からなくて もう このまま 寝込むんじゃないかって みんなで心配しとったんです。」

靖代「へえ。」

布美枝「うちの人も 『もう神頼みしかない』って言いだして。 そしたら ぱっと目を開けて 『夢の中に このお方が出てきた』って 言うんです。」

回想

修平「夢の中に竜巻が現れて その中から 妙な恰好をした人が 出てきたんだわ。」

茂「それで どげした?」

修平「『こぶが出来て困っちょ~』と 言ったら そのお方は 『コブを治しちゃる』と言って 竜巻と共に空に昇ってったんだわ。 そこで はっと目が覚めた。」

布美枝「ほんなら 竜巻の中に 現れたっていうのが…。」

修平「このお方だ!」

回想終了

布美枝「それから コブが す~っと 小さくなって 2週間もしたら お父さん すっかり 元気になってしまって…。」

靖代「はあ! まあ 不思議な事も あるもんだわねえ!」

徳子「あら やだ 布美枝ちゃん ここ うまくいかないんだけどさ。」

布美枝「あ もうちょっと下の方 押さえてみて下さい。」

中庭

(子供達の声)

(小鳥の鳴き声)

台所

和枝「それで おじいちゃんの 具合 もうすっかりいいの? ちっとも買い物 来てくれないけど。」

徳子「散髪にも 来ないよね!」

布美枝「どこが悪いっていう訳では ないんです。 まあ 年が年ですから…。」

靖代「でもさあ おじいちゃんに 元気でいてもらわないと 私達も寂しいわよねえ。」

徳子「うん。 商店街のスターだもん。」

布美枝「ええ。」

休憩室

編集者「今度出すワイド版の束見本です。」

茂「このサイズになる訳か。 大きくて ええですな。 厚みも相当ある。」

編集者「新書版や 文庫は 手軽で いいですけど 漫画のコマが あまりに小さいですから。」

茂「そうですなあ。」

編集者「うちのワイド版シリーズ 第1弾を 先生の 『河童の三平』で 飾れる事になって 僕 本当に うれしくて。 子供の頃 弊社の新書版で拝読して以来 『河童の三平』の大ファンなんです。」

茂「そうですか。」

編集者「『妖怪辞典』の続編が出るんですか。」

茂「夏に刊行の予定で 今 せっせと描いとるとこですわ。」

編集者「『あの世の辞典』 これ 僕も買いました。 この絵の迫力 圧倒されるなあ! やっぱり 大きいサイズは いいですね。 先生 うちのワイド版で 『悪魔くん』と 『鬼太郎』も続けて出しましょう!」

茂「はい。」

光男「いい流れが来たぞ…。」

台所

和枝「あ そうそう アシスタントさん 結婚 決まったんだって?」

布美枝「そうなんです。 相沢さんが。」

3人「ふ~ん。」

布美枝「それが…。」

靖代「どうかした?」

布美枝「仲人 頼まれてしまって…。」

3人「ふ~ん。」

布美枝「金屏風の前に座るかと思うと もう それだけで気が重くて…!」

(3人の笑い声)

靖代「自分が嫁に行く訳じゃあるまいし。」

布美枝「でも…。」

靖代「夫婦なんてものはね 仲人頼まれて 初めて 一人前になるんだよ。」

和枝「うちなんか もう3回もやったわ。」

徳子「うちも!」

靖代「布美枝ちゃん 心配しなくたって 仲人夫人の心得は 私達が しっかり教えて さしあげますわよ。」

布美枝「お願いします!」

3人「任せなさい!」

(一同の笑い声)

靖代「お茶だ お茶だ!」

和枝「ああ おじいちゃん しばらくねえ!」

徳子「ああ おじいちゃん!」

修平「おや どちらさんですかいね?」

和枝「嫌だもう。 乾物屋の~。」

修平「ああ… おかみさん!」

布美枝「あ お茶の用意しとったんですよ。 お父さんも一緒に どげですか?」

徳子「おじいちゃん このおまんじゅう おいしいんですよ~!」

修平「お~ まんじゅうか!」

徳子「どうぞ はい!」

修平「いただきますねえ。」

(一同の笑い声)

靖代「昔だったらさ ここで ひとくさり 講釈 たれてたのにさ~。」

徳子「たれてた たれてた!」

和枝「しなびてきちゃったわねえ。」

<布美枝の最近の心配事は だんだん元気がなくなってきた 修平の事でした>

玄関

川西志穂「ごめんください。」

光男「は~い!」

志穂「劇団アガルタの者です。 芝居の件で伺いました。」

光男「あ~ どうぞ あがって下さい。」

志穂達「失礼します。」

修平「芝居…?」

休憩室

茂「ああ アガルタか。 地底王国の名前ですな。」

青年A「はい。 水木先生の漫画 『虹の国アガルタ』で知って 劇団の名前に させてもらったんです。」

青年B「先生の漫画のファンなんです。 僕ら 『ゲゲゲの鬼太郎』見て 育った世代なので。」

茂「そうですか。」

志穂「電話でも お話ししましたけど 秋の公演で 先生の『悪魔くん』を モチーフにした芝居を やりたいと考えてます。」

茂「うん。」

青年A「あ 彼女は うちの女優 兼 座付きの作者です。」

志穂「川西志穂です。 よろしくお願いします。」

茂「はい。」

修平「芝居とは ええ思いつきですな。 茂の父です。」

玄関

修平「私の叔父に 角倉昇三というのがおりました。」

布美枝「お父さんも来とられたんだ…。」

修平「茂の 大叔父にあたる者ですが こよなく芸術を愛しておりました。」

光男「始まったよ おやじの芝居講釈。」

布美枝「あら…。」

光男「聞いてても しかたないし 俺 銀行に行ってくるわ。」

布美枝「ああ…。」

(ドアの開く音)

休憩室

修平「この叔父が 松井須磨子の劇団で 大道具の絵など 描いておったんですが なかなかの男前で 芝居心もあったのが 目に留まったんでしょうな。 役者に 抜てきされ 帝劇の舞台で 松井須磨子と共演したんですわ。」

青年A「松井須磨子って いつの人だっけ?」

青年B「明治かな…。」

志穂「確か 大正?」

修平「知らないのかねえ? ♬『カチューシャかわいや わかれのつらさ』」

茂「イトツ!」

修平「え?」

茂「落ち着け。 この人達の芝居は ちょっこし違うようだぞ。」

青年A「あ あの 僕達は小劇場なので。」

修平「築地小劇場か?」

青年B「そういう 古い新劇とは 全然 違うんです。 おじいちゃんには どう説明したら いいかなあ。 あ 僕ら つかさんの芝居に憧れていて…。」

志穂「そうなんですよ。 ねえ!」

修平「はっ?」

両親の部屋

布美枝「何 読んでるんですか?」

修平「茂の『あの世の辞典』だ。 これは なかなか よう描けちょ~ぞ。 迫力満点だ。」

布美枝「迫力ありすぎて 怖いくらいです。」

修平「わしが あっちへ行ったら 様子を茂に教えてやりたいが どげしたもんかいなあ。 死んだ後に 化けて出るのも おっくうだし。」

布美枝「もうっ。 まだまだ先の事ですよ。」

修平「ハハハハハ! しかし わしの とっておきの芝居話も もう古すぎて伝わらんだった あの世へ行って 死んだ昇三叔父さんと 話す方が よさそうだ。」

布美枝「私は面白かったですよ。 初めて聞きました。 松井須磨子の劇団に 叔父さんが いた話。」

修平「昔々の事だわ。 わしが早稲田の学生で 東京にいた時分 ちょうど 芝居に出とった。 叔父と言っても 年は 4つほどしか変わらん。 こよなく芸術を愛する男で 芝居や映画の事 よう教えてくれたわ。」

布美枝「そげでしたか。」

修平「絵の勉強しに パリに行って そのまま戻ってこんだった。」

布美枝「ずっと パリに?」

修平「いや 30にな~かならんかで あの世に呼ばれたわ…。 やり残した事が ようけあっただら~になあ。 もっとも こげして 長生きしたところで 何が できたという事でもないが。」

布美枝「お父さん…。」

台所

喜子「(ため息)」

布美枝「あら 帰っとったの。」

喜子「うん…。」

布美枝「どげしたの?」

喜子「何て書いたらいいか 分かんないんだよねえ。」

布美枝「何? 作文?」

喜子「ううん 進路の希望。 就職か進学か 進学するなら 大学か専門学校か 書いて出すようにって。 保護者の希望 書く欄もあるよ。 どうする?」

布美枝「お母ちゃんは 喜子が やりたい事を やればええと思っとるけど。」

喜子「やりたい事か…。 あるには あるんだけどさ。」

布美枝「何?」

喜子「獣医とか いいなあって思って。」

布美枝「ああ 獣医さんか。 ええじゃない! 動物好きだし ぴったりだわ。」

喜子「でも 獣医って理系だよ。 数学できないと 大学 入れないんだよね。」

布美枝「そげか…。」

喜子「獣医は無理として… う~ん。」

布美枝「まあ まだ時間はあるんだし ゆっくり考えたら ええよ。」

喜子「お姉ちゃんは どうすんの? 来年 就職でしょ。」

布美枝「藍子は あんまり 家で そげな話 せんけん。」

喜子「のんきだねえ お母ちゃんは。」

布美枝「そう?」

喜子「普通の親って もっと口うるさく言うもんだよ。 『いい大学 行け!』とか 『いい会社 入れ!』とか。」

布美枝「そんなもんかなあ。」

喜子「うん…。」

<この春 長女の藍子は 大学4年 次女の喜子は 高校3年。 それぞれ 進路を考える時期に なってしました>

(電話の呼び鈴)

布美枝「はい 村井でございます。 交番ですか? ええっ! 分かりました。 すぐ 伺います!」

喜子「どうしたの? 交番って?」

布美枝「大変… おばあちゃんが 保護されとる!」

喜子「えっ おばあちゃんが?!」

布美枝「うん!」

すずらん商店街

絹代「まったくもう 誰も彼も… ふん! もう! 横に広がって歩いたら 通行の邪魔だわ!」

<交番からの知らせは 絹代を保護しているので 引き取りに来てほしいと いうものだったのですが…>

布美枝「あ~あ。」

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