ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第142話「人生は活動写真のように」

あらすじ

ある日、喫茶店で倒れてしまった修平(風間杜夫)が、たまたまその場に居合わせたアシスタントによって家まで抱えて連れてこられる。驚く布美枝(松下奈緒)たちだったが、劇団員の志穂(入山法子)も、なぜか修平とそのときいっしょにいて…。昭和59年7月、藍子(青谷優衣)は教員採用の一次試験を受けに出かけていく。

142ネタバレ

水木家

休憩室

布美枝「どげしました?」

絹代「お父さんが まだ 帰ってこんのだわ。」

布美枝「どちらに行かれたんですか?」

絹代「『映画に行く』と 言っとったけど。」

布美枝「ほんなら そこまで 様子 見てきましょうか?」

絹代「ええわ ええわ。 もう戻ってく~わ。 鍵 持って出ちょ~けん 戸締りして構わんよ。」

布美枝「はい。 けど やっぱり そのへんまで…。」

(ドアの開く音)

菅井「おじいちゃん着きましたよ。」

絹代「はあ…。」

玄関

布美枝「お父さん!」

絹代「どげしたんですか?!」

修平「ちょっこし めまいが…。」

絹代「布美枝さん 救急車!」

布美枝「はい!」

修平「大丈夫だ。 大げさに騒ぐな!」

布美枝「けど…。」

菅井「『救急病院に行こう』って 言ったんですけど おじいちゃんた いいって。」

布美枝「菅井さん達 どうして?」

相沢「喫茶店でバッタリ会ったんです。」

菅井「そしたら おじいちゃんが バッタリ倒れて。」

修平「おい 何を言っとる!」

志穂「失礼します。 あ 私 うっかり これ 預かったままで…。 どうですか 具合?」

修平「ええ もう大丈夫だ。」

絹代「あなた どなたさん…?」

布美枝「もしかして。」

絹代「銀ブラの…。」

布美枝「え?」

茂「ん? おう イトツ どげした?」

修平「いやいや。」

喜子「おじいちゃん…?」

布美枝「喜子 佐藤医院に電話して 先生に 往診に来てもらえるか聞いてみて。」

喜子「うん 分かった。」

志穂「私が連れ回したせいで。 申し訳ありません 水木先生。」

茂「ん?」

布美枝「え?」

茂「ああ あんた この間の…。」

志穂「劇団アガルタの川西です。」

玄関前

布美枝「遅い時間に ありがとうございました。」

医師「お大事に。」

布美枝「はい。」

(犬のほえる声)

客間

茂「イトツは どげだ?」

布美枝「眠っています。 血圧下げる薬 飲みすぎたみたいで お医者さんは 『心配いらん』っと 言っとられました。」

茂「そげか。」

志穂「申し訳ありません。 歌舞伎に 連れていって頂いたお礼に 映画に お誘いしたんですけど 無理させてしまったみたいで。」

布美枝「ほんなら この間 銀座を 一緒に歩いていたのは…。」

志穂「先日 ご一緒しましたけど…。」

布美枝「あの なして 父と…。」

茂「ああ 俺も 今 聞いて びっくりしたぞ。 この人はな イトツと 縁のある人だったんだ。」

布美枝「え?」

志穂「この間 伺った時は 気づかなかったんです。 後になって あの時 芝居の話を聞かせて下さった おじいちゃんは 境港キネマの ご主人なんじゃないかって。」

布美枝「境港キネマ?」

茂「イトツが 昔やっとった映画館だ。」

布美枝「ああ!」

志穂「それで 手紙を書いたんです。」

布美枝「手紙…? あ あの時の。」

志穂「村井さんの事は 祖父から よく聞いてましたから。」

茂「この人の おじいさんというのは イトツの映画館で 弁士を やっとったんだ。」

布美枝「はあ…。」

絹代「ああ ほんなら あんたが…。 川西一学(いちがく)さんの お孫さんかね?」

志穂「はい。 一学は 私の祖父です。」

絹代「まあ… 懐かしい!」

両親の部屋

藍子「おじいちゃん 倒れたって?」

喜子「うん。 でも もう大丈夫。」

客間

絹代「お父さんが 映画館 始めた頃は まだ サイレント映画が多かったんだわ。 弁士が おらんだったら どげだいならんけんねえ。 それで 大阪の小屋に出ておられた 一学さんに 境港まで 来てもらっとったの。」

布美枝「そげだったんですか。」

志穂「村井さんが 東京の大学生だった頃 うちの祖父は 浅草で 弁士の見習いをやってて その時からの おつきあいだそうです。」

絹代「一学さん どげしちょ~なさ~の?」

志穂「もう亡くなりました。 去年 13回忌を済ませたとこです。」

絹代「そげかね。」

志穂「弁士の仕事は 無くなりましたけど 昔の映画の話 よく聞かせてくれたんです。 境港キネマの事も よく話してくれました。」

絹代「へえ。 映画館がつぶれて 戦争が あって お互いに ずっと音信不通に なっとったけど… 覚えとってくれたんだねえ。」

志穂「『村井さんは 芸術家の血筋だ。 映画の事を よく分かってる。 商売は下手だけど』って…。 あ… すみません。」

絹代「ええがね。 それは 分かっちょ~けん。 アハハハ。」

志穂「映画の説明の文句や セリフを 村井さんと一緒に考えるのが とても 楽しかったそうです。」

布美枝「セリフを?」

志穂「はい。 弁士の説明や文句は 決まってなくて それぞれが脚本を書くみたいに 自分で作ってたそうです。」

絹代「そげいえば… 夜遅くまで 一学さんと うちで話し込んどった事が あったわね。」

回想

一学「爆発ですか?」

修平「ええ… ここがね クライマックスなんですよ。 ここでね お客の涙を 搾り取りたいという…。」

一学「いいですね それ!」

(修平の笑い声)

回想終了

絹代「お父さん お酒が飲めんけん お茶と ようかんで              夜の更けるまで 楽しそうに 2人で何か書いとったわ。」

志穂「祖父から 聞いて ずっと 気になってた事があるんです。 私 それを お尋ねしたくて 手紙を書いたんです。」

絹代「何かね?」

志穂「村井さんが書いていらした 映画のシナリオの続きです。」

絹代「シナリオ?」

志穂「はい。 港で起きた 船の爆発事故をもとに シナリオを書いていらしたとかで。」

茂「船の爆発事故か…。 ああ 『第三丸の爆発』の事かな?」

志穂「それです。 『とても面白いシナリオだ』と 祖父が言ってました。 でも… 肝心の爆発シーンの前で 話が終わってたそうで。」

布美枝「あら…。」

茂「ああ…。」

志穂「『続きは どんなだったろう』って 気にしてました。 傑作ができたら 一緒に 映画会社に売り込みに 行くつもりだったようです。 それが 祖父の夢だったんですね。」

玄関

志穂「お元気になられたら また お邪魔してもいいですか?」

茂「ああ どうぞ。」

志穂「あのそういえば…。 おじいちゃん どうして 私の事 秘密にしてたんでしょうか?」

茂「ん?」

志穂「私は 皆さん ご存じかと思ってました。」

客間

茂「しかし 驚いたなあ。 イトツが あの話の続きを 書こうとしてたとは。」

布美枝「『第三丸の爆発』ですか?」

茂「おう。 前に話した事あったろう。 子供の頃 あの事件をもとに 大長編作文を書いた話。」

布美枝「聞いた事あります。」

茂「俺のは 冒険活劇に怪奇物が まじったスペクタクルだったが。 たまたま その時 イトツも 『第三丸の爆発』という 同じタイトルの話を書いとったんだ。」

布美枝「知っとったんですか?」

茂「ああ。 しかし 読んで驚いたぞ 船の爆発事故が 新派顔負けの 悲恋物語になっとった。」

布美枝「悲恋物語?」

茂「しかも 案の定 話の途中で終わっとった。」

布美枝「お父さん それを もう一度 書こうとしとられたんですね。」

茂「う~ん。 一学さんの話 聞いて 60年ぶりに やる気に 火がついたんだろう。」

布美枝「張り切っておられたのは 創作意欲に燃えていたからか…。」

茂「うん。 老いらくの恋では なかったな。」

布美枝「けど なして 川西さんの事 秘密にしとられたんですかね? 映画や お芝居を見たり シナリオの相談したり。 そげな事 隠さんでもええのに。」

茂「う~ん ちょっこし デートの気分もあったのかね?」

布美枝「美人が お好きですけんね。」

茂「まあ 少しくらいは ええか。 美人は イトツの活力源だけん。」

布美枝「そげですね。」

両親の部屋

絹代「聞きましたよ 一学さんのお孫さんから。 昔のシナリオの続き また 書くそうですね。」

修平「南無三 ばれたか… う~ん。」

絹代「隠さんでもええのに!」

修平「書き終わるまで 黙っとるつもりだったんだ。 途中で頓挫したら また お前に 嫌み言われるけん。」

絹代「変に コソコソするけん こっちは いらん気を もんでしまいましたわ。」

修平「あ? お前 もしかして やいとったんか?」

絹代「え…。 何 言っとるんですか。 ばかばかしい!」

修平「ふ~ん! ヤキモチか…。」

絹代「ええ加減にして下さい! 今度こそ 最後まで書いてごしなさい! 出来上がったら 私も読ませてもらいますけんね。」

修平「スクリーンに かかるかもしれんぞ。 楽しみにしとれよ。」

絹代「はいはい。」

客間

布美枝「お母さん お父さんの銀ブラの事 気づいてたんじゃないかな…。」

茂「ん?」

布美枝「近頃 ご機嫌が悪かったでしょう。 あれ ヤキモチですよ。」

茂「ヤキモチ? まさか?!」

布美枝「そげですか…?」

茂「う~ん。」

布美枝「あ お茶 いれ替えましょうかね。」

茂「うん。」

布美枝「ヤキモチだと思うけどなあ…。 お母さん ええとこあるわ。」

玄関

昭和五十九年七月

藍子「行ってきます。」

布美枝「藍子 定期 忘れとるよ。」

藍子「いけない。」

布美枝「試験 落ち着いて 頑張ってね!」

藍子「うん! お母ちゃんも 今日は 緊張しないようにね。」

布美枝「うん!」

藍子「行ってきま~す。」

布美枝「行ってらっしゃい。」

<今日は 藍子の 教員採用1次試験の日です>

台所

喜子「お姉ちゃんは?」

布美枝「もう出かけたよ。 お母ちゃんも 美容院に 髪セットしに行くから あと ご飯 食べたら 後片づけ お願いね。」

喜子「は~い。」

喜子「(あくび)」

布美枝「のんきだねえ。」

喜子「ねえ お父ちゃん 本当は 反対なんでしょう? お姉ちゃんが先生になる事。」

布美枝「遠くの学校に 赴任する事になったら 困ると思っとるみたいだけど。」

喜子「『そんな試験 受けるな~』って 言いそうなとこなのに よく黙ってるね。」

布美枝「藍子には悪いけど 落ちると思っとるみたい。 教員採用試験は 倍率が高いらしいけん。」

喜子「あんなに一生懸命 勉強してるのに 落ちろ落ちろと思われてるなんて お姉ちゃん かわいそう。」

布美枝「そげに頑張っとるの?」

喜子「毎日 夜中まで猛勉強だよ。 意外と やる時は やるもんだね。」

布美枝「いつの間にか 自分の進む道 決めとったけん お母ちゃんも びっくりしたわ。 藍子は しっかりしてきたねえ! あ いけん! あんたと話しとる時間ないわ。 お母ちゃん 美容院 行ってくる。」

喜子「はい。」

布美枝「あと お願いね!」

喜子「行ってらっしゃい。」

布美枝「はい は~い!」

喜子「『自分の進む道』か…。」

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