ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第144話「人生は活動写真のように」

あらすじ

修平(風間杜夫)は寝つきがちな毎日を送り、目をさましては布美枝(松下奈緒)に自分の若き日のことなどを語って聞かせる。かつて、松井須磨子の一座にいた叔父が絵の勉強をするためにパリに渡り、何年もしないうちに亡くなってしまったこと。その叔父の亡くなった日に、茂(向井理)がこの世に生まれたこと…。布美枝は修平に「書いているシナリオが完成したときには、それを読ませてほしい」と言う。

144ネタバレ

水木家

客間

(小鳥の鳴き声)

修平「おや? あんみつは どこ行った?」

布美枝「お父さん?」

修平「ああ 夢か…。 惜しい事したなあ。」

布美枝「どげな夢 見とられたんです?」

修平「松井須磨子と一緒に あんみつを食べる夢だ。」

布美枝「あら すごい!」

修平「アハハハ。 いざ 食べるという段になって 目が覚めてしまった。 ああ 残念無念! ゆうべ 茂が言っとったが また 本が いろいろと 出とるそうだな。」

布美枝「ええ。 『鬼太郎』の漫画も出て よう売れとるそうです。」

修平「こげに長く読まれるとは あれも 本物だな。」

布美枝「そげですね。」

修平「前に話した事があるだろう。 松井須磨子お一座にいた叔父の事。」

布美枝「ええ。」

修平「芝居の事や 活動写真の事を よう知っとってな…。 その叔父さんが亡くなった日に 茂が産まれたんだわ。」

布美枝「え…。」

修平「母さんは そげなバカな事と 笑うけども わしは 茂は… 亡くなった叔父さんの 生まれ変わりだと思っとる。 茂は 子供の頃から 絵ばっかり描いとった。 絵描きとは ちょっこし違うが 漫画家になったけん。 やっぱり 生まれ変わりだわ。」

布美枝「そげですね。」

修平「で 今晩は 何かな?」

布美枝「何がですか?」

修平「晩飯のおかず。」

布美枝「栗ご飯 炊こうと思って。」

修平「それは ええなあ。」

布美枝「ほんなら お茶いれましょうかね?」

修平「ああ。 わしは 栗飯までの間 傑作の続きを書くとするか。 話は いよいよ クライマックスだぞ。」

布美枝「書き上がったら読ませて下さいね。」

修平「ああ。 さて どう書くかな…。 ここからが ええとこだぞ…。」

(開幕のベル)

弁士『お寒さに向かう 折柄 遠路はるばるのご来館 厚く御礼申し上げます。 さて ここもと ご覧頂きまするは 『第三丸の爆発』の一遍』。

修平「一学さんか? いや 違うな…。 おや わしだ…!」

(映写機の回る音)

弁士『鐘は 上野か浅草か。 ここは 花の都 大東京。 歓楽街を かっ歩する かの青年こそ 鳥取は 境港にて 秀才の名を ほしいままにした 村井修平 その人であります』。

修平「あれが わしか…。」

弁士『彼が 若き情熱を傾けたのは 学問にはあらで 芝居と活動写真でありました。 定め はかなき人の世に わずかばかりの名誉栄達を 望んだところで 何ほどの事がありましょうや。 妻と 3人の子宝に恵まれ ふるさとに活動写真館を開いた 彼の心は いつも朗らかで 希望に 包まれていたのであります』。

弁士『時は今 誰(たれ)か 昔を語りなん。 80有余の年月(としつき)も 思い起こせば 一昔。 さて いよいよ これから 『第三丸の爆発』。 物語の始まりではりますが…』。 『手前 受け持ちは これまで。 この場を もちましての 大団円であります』。

(拍手)

修平「あっ お父つぁん! お母ちゃん…。」

修平「叔父さんじゃないか!」

修平「一学さんも…。」

修平「みんな 一緒に おったのか…。 なんだ もう終わりか…。 ああ… 面白かったなあ。」

布美枝「お父さん お父さん。 眠ったんですか?」

<それから 数日後 修平は ウトウトと眠りながら 枯れるように 静かに旅立っていったのです>

雄一「イトツ…。」

茂「つい さっき… 逝ってしまったわ。」

茂「おい… どげした?」

絹代「お父さん… この香りが好きだったんだわ。 好きなだけ使わせてやれば よかったねえ。 なんぼでも 使わせてやればよかった。 お父さん…。 60年も 一緒に おったのに…。 親よりも… 長く 一緒に おったのに…。」

布美枝「お母さん…。」

絹代「(泣き声)」

<そして 初七日の法要の日の事です>

客間

光男「俺 正直 言って 意外な気がしてな。」

雄一「俺もだ。 イカルが あんなに嘆き悲しむとはなあ。」

光男「きつい事を ポンポン言っとるようでも やっぱり夫婦だな。」

栄子「ええ。」

佐知子「私 不思議だったんだけど お父さん 亡くなった時 何で お母さん 香水かけたんだろ。」

雄一「あれなあ…。 布美枝さん 何か知っとるか?」

布美枝「よう分からんですけど… 何か してあげたかったんじゃ ないですかね。 お父さんの喜ぶ事 何か してあげたくて… それで。」

茂「そげかもしれんな。」

台所

茂「ようけ人が来てくれたもんだなあ。」

布美枝「ええ。」

絹代「ちょっこし ええかね?」

茂「ああ。」

絹代「これ あんたに渡しとくわ。」

茂「イトツが 持ち歩いとった かばんか。 ん? これは…。」

布美枝「お父さんが 原稿 書くのに 使っておられた 万年筆。」

絹代「これは パリで亡くなった 絵描きの叔父さんから もらったもんなんだわ。」

布美枝「叔父さんから…。」

絹代「お父さん これで傑作を書くと 昔 叔父さんと約束したらしいわ。 だけん よう言っとった。 『俺は この万年筆で 傑作を書くぞ』って。 若い頃は 私も その言葉 真に受けて 机に向かっとる お父さんの後ろ姿 ワクワクしながら見とったもんだわ。 結局 傑作は 1本も書けんだったけどねえ。」

布美枝「お父さんが 持ち歩いておられたのは この万年筆だったんですね…。」

絹代「けど 『第三丸の爆発』も とうとう 最後まで書き終わらんだった。」

茂「これ イトツと一緒に 墓に入れてやらんでも ええのか?」

絹代「いや。 あんたに 渡した方が ええの。 お父さん 『茂は 叔父さんの 生まれ変わりだ』と言っとった。」

絹代「だけん 自分が叔父さんから 受け継いだ 芸術関係の事は みんな あんたに 伝えたかったんだわ。 (ため息) もう これで あんたが 全部 受け継いでくれたけん お父さん 安心して あの世で ゆっくりできる。」

茂「(ため息) 『静養 第一』と言って 笑っとるな。」

絹代「うん。 ハハハ…。」

<自由に ひょうひょうと生きた修平は 形ある遺産よりも もっと大きなものを 家族に 残していってくれたのでした>

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