ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第145話「独立宣言」

あらすじ

昭和59年の秋。修平(風間杜夫)がこの世を去ってから、ひとつきほどたったある日、布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)の長女・藍子(青谷優衣)のもとに、東京都の教員採用試験の合格通知が届く。“娘に水木プロの仕事を手伝ってほしい”と思っていた茂は、不満をあらわにする。“娘を手放したくない”というのが茂の本音で、教員になったら、どこに赴任するかわからないのが、茂は嫌だったのだ。

145ネタバレ

水木家

両親の部屋

布美枝「お父さん おいしい おまんじゅう… どうぞ。」

<修平が亡くなって 1か月近くが過ぎた ある日の事です>

玄関前

藍子「あ… 来てる! 受かっていますように…。」

布美枝「あら! あんた まだおったの?」

藍子「行ってきま~す。」

布美枝「行ってらっしゃい。 ああ… 安来からだ!」

台所

布美枝「安来の両親が お悔みに来るそうです。」

茂「ほお そげか。 遠いとこ わざわざ。」

布美枝「赤羽の姉が 母んおリューマチの湯治も兼ねて 箱根に連れていくんですって。 帰りに 線香あげに寄るそうです。」

茂「箱根か。 うん そろそろ 紅葉が始まるな。」

布美枝「夫婦で旅行だなんて 初めてかもしれん。 母は 安来から 外に出ん人ですけん。」

茂「イカルも 昔は そげだったぞ。 今は 『どっか連れてけ』と うるさくてかなわんが。」

布美枝「元気になられて よかったですよ。 お父さんが亡くなってからは あんまり 落ち込んでおられたんで 寝込んでしまわれないかと 心配になりましたけん。」

茂「うん。 むしろ 前より パワーアップしたな。」

回想

絹代「しばらく 雄一のとこで のんびりしてくるけん。」

布美枝「行ってらっしゃい。」

絹代「布美枝さんも たまには 羽 伸ばさんとね。 ほんなら 佐知子さん。」

佐知子「はい!」

回想終了

布美枝「お兄さんところ 大丈夫でしょうかね?」

茂「『日光にでも連れてく』と 言っとったが ハワイくらいは サービスせんと 納まらんかもしれんなあ。」

布美枝「そげですねえ…。」

乾物屋

徳子「あれ かわいいんだってね ぬいぐるみみたいで… あら!」

和枝「藍子ちゃん お帰り!」

藍子「こんにちは!」

靖代「あら 大きなケーキ? それ 何かあったの お祝い事?」

藍子「まだ家でも話してないからなあ…。」

徳子「いや 何 何なのよ!」

藍子「受かったんです! 私… 合格!」

3人「合格?」

水木家

台所

2人「合格?!」

藍子「今日届いてたの。 合格通知! 1次試験 通っただけで 奇跡だと思ってたのになあ。」

布美枝「すごいねえ!」

藍子「奮発して ケーキ買ってきちゃった! みんなで食べようよ。」

茂「何だ… 受かっとったのか。」

藍子「え?」

茂「(ため息) 落ちとると思っとったがなあ…。」

布美枝「お父ちゃん。」

茂「忙しいけん 仕事してくるわ。」

布美枝「困ったなあ…。」

藍子「お母ちゃんまで何よ。」

布美枝「え?」

藍子「『困った』だなんて… ひだいじゃない!」

布美枝「ううん。 そげじゃなくて… よかったね おめでとう 藍子!」

藍子「何か 白々しい。」

布美枝「お赤飯 炊こうか? ああ けど… お父ちゃんが あれじゃなあ。 今日のとこは 藍子が買ってきてくれた ケーキで お祝いして! お赤飯は また日を改めて… ね?」

藍子「もういい。 お父ちゃんも お母ちゃんも そんなに露骨に がっかりする事ないじゃない!」

布美枝「あっ… 藍子!」

子供部屋

喜子「どうしたの? お姉ちゃん。 ケーキ丸ごと食べてる~!」

藍子「誰も お祝いしてくれないから 自分で お祝いしてるの!」

喜子「受かったんだ! 教員採用試験。 え~っ! 信じらんない!」

藍子「何よ あんたまで! 失礼ね!」

喜子「いやいや… 難関だって聞いてたからさ おめでとう お姉ちゃん。」

藍子「もういいよ。 うちの家族って信じらんない。 誰も喜んでくれないんだから。」

喜子「手伝って あげよっか? ケーキ食べんの。 うわ~!」

すずらん商店街

靖代「布美枝ちゃん。 布美枝ちゃん! あんた 藍子ちゃん 先生の試験 受かったんだってねえ。 おめでとう!」

布美枝「それが ちょっと…。」

山田家

靖代「は~ん まさか合格して 残念がられるとはねえ!」

布美枝「私も つい 『困ったなあ』なんて 言ってしまって。」

徳子「あ~ また奥でさぼってる… あら 布美枝ちゃん! 藍子ちゃん よかったわよねえ~!」

布美枝「ええ…。」

靖代「それがさ 水木先生 がっかりしちゃってんだってさ。」

徳子「あらま! 合格って 間違いだったの?」

和枝「もう… 受かったから がっかりしてんのよ。 反対してるんだって 学校の先生になる事。」

徳子「何で~?」

布美枝「うちの人… 藍子には 水木プロの仕事を 手伝ってほしいと 思っとったんですよ。」

靖代「そりゃあ 跡継ぎ娘だからねえ。」

布美枝「マネージャーをやっとる弟も 年2つしか変わらんので まあ 確かに そろそろ若い人に 入ってもらわんと いけんのですけど。」

靖代「要は あれでしょ 水木先生は 藍子ちゃんを 手放したくないだけでしょう。」

徳子「なにも 外国 行くってんじゃあるまいし。 東京の どこかでしょう?」

和枝「う~ん でも 東京って広いからね。 ほら 島だってあるじゃない?」

布美枝「最初の赴任先が 遠方になるのは よく聞きますけど。 はあ うちの人 藍子が 家を出る事になるのを おそれとるんですよ。」

靖代「まあ 嫁に出すまでは 手もとに置いときたいって こう 親心だねえ。」

和枝「親心は 理屈じゃないからねえ。」

布美枝「落ちると たかをくくっておったんで もう 露骨に がっかりして。」

徳子「嫌だ 藍子ちゃん かわいそうに あんなに喜んでたのにねえ…!」

和枝 靖代「ほんとにねえ!」

布美枝「もう 困ったなあ。 どっちの 気持ちも 分かるんですけど。」

靖代「布美枝ちゃんも つらいとこだわねえ。」

布美枝「どうしたら いいでしょう?」

3人「…う~ん!」

水木家

客間

茂「藍子の事だけどな。」

布美枝「ええ。」

茂「あれ 辞退するよう勧めてみるか?」

布美枝「辞退って 教員の採用ですか?」

茂「相沢君に聞いてもらったんだ。 ほれ 奥さん 学校に勤めとるけん。」

布美枝「ああ はい。」

茂「補欠の合格者がおって 辞退者が出たら 繰り上げ合格になるらしいぞ。 だけん 今 断ったら 人助けにもなる。」

布美枝「そげな事 藍子が承知せんですよ。」

茂「だら! 遠くに行く事が決まってからでは 手遅れになるわ!」

布美枝「まだ どこに行くか 分からんじゃないですか。」

茂「いいや 危ない。 落ちるはずが 受かってしまったけん。 何が起きるか分からん!」

布美枝「あの お父ちゃん…。」

茂「辞退させよう。 先々の事 考えたら 今 ここで 辞退させるのがええ!」

布美枝「お父ちゃん!」

藍子「お父ちゃん。 何 言ってるの?」

茂「お前 お おったのか…。」

藍子「辞退なんかしないよ。 せっかく受かったんだから。」

茂「悪い事は言わん。 教員は やめとけ!」

藍子「お父ちゃん おかしいよ! 『人は好きな事して生きるのが 一番だ』って いっつも言ってるくせに!」

布美枝「あのね 藍子。」

藍子「学校の先生の どこが気に入らないの! 普通は 子供が『教員になる』って 言ったら 親は喜ぶもんだよ!」

茂「普通は どげでもええわ! お父ちゃんは うれしくない!」

台所

喜子「どうなってんの?」

布美枝「うん… ちょっとね。」

喜子「辞退させるって 幾らなんでも それはひどいよ!」

布美枝「そうだよねえ。」

喜子「お姉ちゃん あんなに頑張ったの 人生で初めてだと思うよ。 ねぼすけのくせに 毎日 夜中すぎまで 勉強してたんだから。」

布美枝「偉いわ。 あら… 喜子 あんたも 今 受験生じゃないの?」

喜子「まあまあ 私の話は いいじゃない。」

布美枝「また そうやってごまかして!」

喜子「お姉ちゃんが かわいそうって いうのもあるけど 2人に 不機嫌な顔 されたら こっちまで緊張しちゃうよ。 ご飯も砂を噛むような味気なさだ。」

布美枝「あんた 難しい言葉知っとるね。」

喜子「家庭不和が続くと 私だって受験勉強 手につかないし お母ちゃん なんとかしてよね。」

布美枝「はい…。」

子供部屋

布美枝「藍子…。 勉強しとるの?」

藍子「うん。 教職の単位 取り落としたら お父ちゃんの思うつぼだもん。」

布美枝「ねえ お父ちゃんに あんまり ポンポン言わんでよ。」

藍子「だって めちゃくちゃなんだもの 人の言う事 全然聞かないし。 『辞退しろ』って 何よ!」

布美枝「藍子…。」

藍子「昔っからそう。 中学生の時 私が 『漫画家になりたい』って 言ったら 一日中 点々と渦巻き 描かせて 嫌気を起こさせて。」

布美枝「それは 漫画で食べていく大変さ お父ちゃんが 一番よく知っとるけん。」

藍子「高校生になって 『アニメーターになりたい』って 言った時も 知り合いのアニメ会社が つぶれた話 さんざん聞かせれて。」

布美枝「そげだったねえ。」

藍子「いっつも私の夢を 打ち砕くんだから!」

布美枝「藍子が怒るのは分かるよ。 けど お父ちゃん 今 ちょっこし 慌てとるんだわ。」

藍子「…慌ててる?」

布美枝「藍子が 当分 そばにおって くれると思っとったけん。 もしかしたら 家を出ていくかもしれんって 動揺しとるんだよ。 もう少し 時間かけてみようよ…。 お父ちゃんと けんかせんで…。 ね!」

藍子「私… 遠い所の学校の方が いいと思ってるんだ。」

布美枝「えっ?」

藍子「その方が 水木しげるの娘だって 知られずに済むし。」

布美枝「藍子…。」

藍子「特別な目で見られるのも お父ちゃんに振り回されるのも もうたくさん。」

布美枝「お父ちゃん あんたの事を 心配しとるんだよ。」

藍子「それは 分かってる。 私だって お父ちゃんの事が 嫌いな訳じゃないよ。 でも 私は 水木しげるの娘じゃなくて 村井藍子として やっていきたいの。 私… お母ちゃんとは 違うんだから。」

布美枝「違うって?」

藍子「いっつも お父ちゃんが 一家の中心で 言う事は 何でも聞くっていうのは 私 おかしいと思うもの。」

布美枝「お母ちゃんだって 何でも聞いてる訳じゃ…。」

藍子「とにかく 私は私で やっていくから。 自分の事は 自分で決めます!」

布美枝「藍子…。」

台所

布美枝「藍子 そげな事を思っとったんだ…。 (ため息) けど… お父ちゃんは やっぱり 一家の柱だもんなあ。」

<藍子の 突然の独立宣言に 布美枝の心も揺れていました>

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