あらすじ
「自分のことは自分で決める」と言う藍子(青谷優衣)のきっぱりとした言葉に、布美枝(松下奈緒)の心は揺れていた。強烈な個性の持ち主である絹代(竹下景子)と、何事もなく同居している布美枝に対し、雄一(大倉孝二)の妻・佐知子(愛華みれ)は「よくやってくれている」と感謝を伝える。藍子は、教員採用を自分に辞退させることを考えていた茂(向井理)への反発を募らせて…。
146ネタバレ
水木家
仕事部屋
茂「う~ん。 ここは もっと 細かく点を 打ってみるか。」
菅井「はい。」
茂「こっちは もっと さらっと。」
相沢「はい。」
光男「戌井さんのとこから 文庫が届いたぞ。」
茂「おう 来たか!」
菅井「随分 出ましたね。 北西文庫のシリーズ。」
茂「もう 40冊くらいになるかな。」
光男「成田出版からも 連絡あったぞ。 前に出した『妖精入門』が 受けとるから 他にも 入門シリーズを出したいそうだ。」
茂「あ~ 『悪魔くん』でいくか。 『悪魔入門』。」
相沢「それ いいですね。」
光男「本の点数も 増えてきたし これからは 著作権の管理も しっかりやらんとな。」
茂「うん。」
絹代「しげさん お~かね?」
茂「ん? イカル もう戻ってきたのか?」
光男「兄貴達と一緒に 日光に 紅葉を見に行ったんじゃ?」
絹代「人が多くて。 渋滞5時間とか言って ばかばかしいけん 戻ってきたわ。」
光男「行楽シーズンだけんな。」
絹代「こげな時は 外国がええわ。 ヨーロッパの紅葉は どげなだらか?」
2人「ヨーロッパ?」
絹代「あんたの絵の勉強にもな~けん ヨーロッパに連れていってごすだわ!」
茂「ええ~っ?!」
両親の部屋
絹代「行くなら パリがええね! けど 『ナポリを見てから死ね』とも 言うけん…。 ナポリって どこだったかいね? お父さん 知っちょ~くせに もう 何も答えてくれんわ。」
客間
雄一「あと 何日か うちで 面倒みようかと思ったんだが うちでは 気が休まらんみたいでな。」
佐知子「私が気が利かないもんだから。」
光男「姉さんは 悪くないよ。」
雄一「イトツがいれば まだ 緩衝材になったんだが。 1人だと ちょっと キツいな。」
布美枝「何かあったんですか?」
佐知子「子供達と もめちゃって。」
茂「どげしたんだ?」
雄一「音楽 聴いてるとこをな いきなり 電源 引っこ抜いたんだ。」
回想
絹代「大きな音 出して! 近所迷惑だが!」
回想終了
佐知子「確かに 音は 大きかったんですけど。」
雄一「いきなり 電源を 引っこ抜かれたんではなあ。」
布美枝「ええ。」
佐知子「一緒に食事に行くでしょう。 店員さんの態度が 悪かったりすると…。」
回想
絹代「ここの店は どげな教育をしとるんですか!」
回想終了
佐知子「筋は通ってるんだけど こっちは ハラハラして。」
布美枝「分かります。」
雄一「人間 老いると 丸くなると 思ったんだが イカルの場合 逆だな。」
光男「ますます とがってきたな。」
茂「いきなり 仕事部屋に 載り込んできて ヨーロッパに連れていけと 言いだすし。」
布美枝「ヨーロッパですか?!」
雄一「今に これ アマゾンだの 南極だのと 言いだしかねんぞ!」
茂「まあ そのうち 連れてってやるか。」
雄一「え?」
茂「イトツも どこかに 連れてってやろうと 思っとったが 延ばし延ばしにしとるうちに 死んでしまったけん。 イトツに してやれんだった分 イカルには 親切してやろうかと 思っとるんだ。」
光男「そげだな。」
雄一「あの年で 人間が変わる訳でもなし こちらが合わせて つきあうしかないか。」
茂「ああ。」
佐知子「あ 日光のお土産 切りましょうか。」
布美枝「そげですね。」
台所
佐知子「布美枝さんは 偉いわ。」
布美枝「何でですか?」
佐知子「お母さん 一緒に暮らしてみると やっぱり大変。」
布美枝「ちょっと キツいですけど でも だれかれって 区別する訳ではないですけんね。」
佐知子「息子も 嫁も 孫も他人も 全部まとめて 容赦なしだもんね。」
布美枝「はい。 ですけん こっちも 変に ひがまんで済むんですよ。」
佐知子「そうは言っても 嫁と姑だもん カチっとくる事 幾らでもあるわよね。 うちの人とも話してんの。 『布美枝さんは よくやってくれてる』って。」
布美枝「お姉さん。」
佐知子「あら 私 何か悪い事 言ったかしら?」
布美枝「いえ たまに褒めてもらえると うらしいなと思って。」
佐知子「え?」
布美枝「最近 いろいろあって。 私も いけんのかなと 思ってたんです。」
佐知子「そうなの?」
布美枝「主婦の仕事は 落第する事はなくても 花丸を もらえる事は ないですけんね。」
佐知子「そうね…。」
客間
絹代「光男 ここにおったかね。 しばらく 行っとらんけん あんたの うちの様子 見に行こうかと思ってね。」
光男「え~っ?!」
佐知子「今度は あっちに お鉢が回った。」
布美枝「光男さん しっかり。」
純喫茶・再会
智美「へえ~ 採用辞退しろなんて言うの?」
藍子「うん そういう悪だくみしてたの。」
智美「藍子ちゃんの事 話したら うちの 親なんか すっかり感心して あんたも見習いなさいって 言われたよ。」
藍子「智美ちゃんとこみたいな 普通の 親のもとに生まれたかったな。」
智美「昔から その件では 苦労してたもんね。」
藍子「うん。」
回想
子供達「♬『ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー』 ゲゲゲの娘! 妖怪の仲間! 逃げろ 取りつかれるぞ! わ~!」
智美「藍子ちゃん。」
回想終了
智美「でも 意外だな。」
藍子「何が?」
智美「藍子ちゃん 学校 嫌いだったじゃない? こう言っちゃ なんだけど 成績だって パッとしなくて。」
藍子「2と3ばっかり。 たまに 4があった。」
智美「でしょ? それで 何で 小学校の先生に なろうなんて思ったの?」
藍子「自分が劣等生だった分 勉強できない子や パッとしない子の気持ち よく分かるから。 そういう子供の立場に 立てる先生に 自分がなれたらいいかなって。」
亀田「偉い! 偉いねえ。 優等生ばかりが 居心地がいい 学校なんか間違ってるよ。 できない子にこそ光を! ねえ マスター!」
マスター「そのとおり! 私も 2と3ばっかりの口でしたから。 似た者同士 やった~!」
マスター「ハハハ!」
智美「でも お父さん 何で反対なの?」
藍子「会社の仕事 手伝わせたいらしい。 でも 私は お父ちゃんの世界に 閉じ込められたくないんだよね。 水木しげるの娘 って言われるのも 卒業したいし。」
浦木「その気持ち 分かるねえ。」
藍子「あれ? 浦木のおじさん!」
浦木「ちょっと見ぬ間に 別人のように 成長しとるな。」
亀田「この男 また いるよ。」
浦木「ゲゲのとこに 顔 出そうとしてたんだ。 葬式には 行けなかったが イトツに 線香の一本でも 手向けてやらんとな。」
智美「誰? この人。」
藍子「お父ちゃんの友達。」
浦木「友達? いやいや。 古いつきあいの 大親友だよ。」
藍子「そうかなあ。」
浦木「大親友の見立てによると ゲゲは いまだに ガキ大将の気持ちでおるな。」
藍子「それ どういう事ですか?」
浦木「つまり 自分は ガキ大将で 家族は 配下の者 子分だと思っとる。」
藍子「子分だなんて思われたら 家族は いい迷惑ですよ。」
浦木「まあ 聞きなさい。 昔 子供の世界では ガキ大将は 総理大臣の次くらいに 偉かった。 腕力だけでは ガキ大将にはなれない。 知恵もいる。 まあ ゲゲの場合は 俺が 参謀として 助けてやったがな。 大将たるもの 配下の者のためには 時には 身を挺して 戦わねばならん。」
藍子「ええ。」
浦木「ゲゲは なかなか よう やっとった。 外交勢力によって 近隣ガキグループとの 無駄な争いを避け 小さい子供達が 楽しく遊べるように 工夫して うまい事 一個分隊を 統率しとったよ。」
藍子「それ よく言ってます。 『俺は 一個分隊を 養わねばならん』って。」
浦木「あいつは 頭が クラシックにできとるからな いまだに その発想なのよ。 家族も会社も 自分が率いていくのが みんなの幸せだと思っとる。」
智美「家族愛って事ですか?」
浦木「愛? 愛ねえ。 それにしちゃ 押しつけがましいが。 父親が ガキ大将だと 娘は 苦労するね。」
すずらん商店街
智美「あの人 ケチね。 コーヒーくらい おごってくれると思った。」
藍子「ほんと。」
回想
浦木「マスター お会計。 お会計は 別々で。」
2人「え?」
回想終了
智美「フフフ! じゃ 藍子ちゃん ガキ大将に負けずに頑張ってね。」
藍子「うん。」
浦木「香典 忘れたな。 まあ いいか。 大事なのは 気持ちだ。」
ミヤコ「イタタタ!」
浦木「え?」
源兵衛「大丈夫か?」
浦木「ありゃ 何だ?」
源兵衛「足か こりゃ困ったな。」
ミヤコ「ちょっこし 痛みだして。」
藍子「安来のおじいちゃん! どうしたの?」
源兵衛「おお 藍子か。 ええとこに!」
藍子「おばあちゃん 大丈夫?」
浦木「安来のおじいちゃん?」
源兵衛「あんた 何かや?」
藍子「この人 お父ちゃんの友達なの。」
浦木「どうも!」
ミヤコ「イタタタ!」
藍子「おばあちゃん 歩けそう?」
ミヤコ「じき ような~けん。」
藍子「通りまで出ないと 車 拾えないし。」
源兵衛「おい!」
浦木「え?」
源兵衛「背中 貸してくれ!」
浦木「何ですか?」
源兵衛「ええけん 早こと!」
浦木「あ~っ!」
水木家
玄関
布美枝「あ~っ どげしたの? 浦木さんまで? なして?」
浦木「どうもこうもありませんよ。 降ろしますよ。」
源兵衛「ゆっくり ゆっくり! 布美枝 喜子! しばらくぶりだの!」
<予定よりも早く 源兵衛とミヤコが 調布の家に現れました>
両親の部屋
(鈴の音)
客間
布美枝「お悔みに来て頂いたのに 申しわけありませんでした。」
浦木「あ~あ! 奥さんの父上も かなり 強引な方ですな。」
布美枝「すいません。」
浦木「また 一文にもならない いい行いをしてしまった。」
源兵衛「あんた!」
浦木「はい。」
源兵衛「浦木さんと言ったな。」
浦木「はあ。」
源兵衛「世話かけて すまんだったな。」
ミヤコ「あ~がとうございました!」
浦木「いやいや いいんですよ。 あ~っ!」
源兵衛「うちの 蜂蜜。」
浦木「え?」
源兵衛「それから 野焼きと ようかん。 これ お礼だ。」
浦木「田舎の名物。 ヒヒハハハ!」
玄関
布美枝「ゆっくりしてったら ええのに。」
浦木「悪い予感がするんですよ。 グズグズしてると あのお父さんに 叱られそうで。」
布美枝「確かに。」
浦木「まあ これで 香典なしで 悔やみに来た事は 帳消しかな。」
布美枝「え?」
浦木「じゃ 奥さん また。」
客間
喜子「これ 大好き。 重かったでしょ?」
源兵衛「いや…。」
布美枝「うちには 箱根に寄ってから 来るって 聞いとったけん びっくりしたわ。」
源兵衛「いや 何を置いても まず 修平さんに 線香あげねばならんと思ってな。」
布美枝「はあ…。」
ミヤコ「言いだしたら きかんだけん。」
源兵衛「早い方が ええだねか。」
ミヤコ「葬儀の時は 私の調子が悪くて 来れんで すまんだったね。」
布美枝「それは ええのよ。 けど 駅からでも電話くれたら 車で迎えに行ったのに。」
源兵衛「いや 久々に 商店街を歩いてみたくてな。 絹代さんは 留守しとられるのか?」
布美枝「今日 お父さん達が来るとは 思っとらんだったけん 出かけとるわ。」
喜子「光男叔父ちゃんのとこだよね。 迎えに行ってこようか?」
布美枝「そげだね。」
源兵衛「いや ええわ。 ほんなら また 箱根の帰りにでも 寄らしてもらうけん。」
茂「ああ どうも いらしゃい。」
源兵衛「大丈夫か? 茂さん この度は ご愁傷さまでございます。」
喜子「おじいちゃん いきなり 襲来するって 聞いてたけど 本当だね。」
布美枝「うん。 晩ご飯 2人分 増やさなきゃね。」
喜子「うん!」