ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第149話「独立宣言」

あらすじ

教師の仕事を頑張っていた藍子(青谷優衣)だったが、しだいに元気のない様子を見せはじめ、梅雨に入るころには、かなり追い詰められたようなことばを口にする。目立たない子どもの“よいところ”を、クラスじゅうに紹介しようとしたことが「えこひいきをしている」と言われる結果を招いてしまい…。

149ネタバレ

水木家

客間

布美枝「最近また ファンレターが 増えたな。」

喜子「何? 何?」

布美枝「お父ちゃんの漫画 復刻版の単行本を 初めて読んだっていう人が ファンになってくれとる。 ほら!」

喜子「『僕は 水木先生のファンです』。 雑誌連載やってないのに 新しく ファンが増えるって すごいね!」

布美枝「そげだね!」

喜子「でも 分かるな。 お父ちゃんの漫画 昔のも面白いもん。」

布美枝「お母ちゃんも 『ゼタ』 描いとった 漫画 好きだったなあ。 『猫忍』とか『幸福の甘き香り』とか。」

喜子「あれもいいよね!」

布美枝「うん!」

(電話の呼び鈴)

布美枝「はい 村井でございます。 あら 光男さん?」

喜子「『学校では 妖怪博士と 呼ばれています』か…。」

布美枝「あら! 大変!」

仕事部屋

茂「光男が ぎっくり腰?」

布美枝「はい。 くしゃみした拍子に グキッと。 身動きが とれんそうです。」

茂「弱ったなあ! 相沢君も 今日は 法事で休みだし。」

菅井「先生 『妖怪画集』の 締め切りも迫ってますよ。 僕も手いっぱいです。」

茂「確か 取材も入っとったな? ああ 打ち合わせもある。」

布美枝「ほんなら 私 電話番だけでも しましょうか?」

茂「ああ そげだな。」

菅井「それじゃ よろしくお願いします。」

布美枝「はい! あ! いけん。」

茂「ん?」

布美枝「町内会の清掃活動があるんでした。 けど こげな時ですしね 事情 話して断ってきます。」

喜子「お母ちゃん 行っといでよ! 電話番なら 私がするから。」

布美枝「でも 学校は?」

喜子「今日は 2コマしかないから 休んだって どうって事ないよ。」

布美枝「けど… ねえ。」

茂「う~ん。」

喜子「非常事態でしょ! 猫の手の代わりくらいには なるって。 ね!」

玄関前

布美枝「喜子 大丈夫かなあ。」

仕事部屋

(電話の呼び鈴)

喜子「はい 水木プロです。 日月出版さんですね。 少々 お待ち下さい。 お父ちゃん! 電話 日月出版社!」

茂「おう。 もう ちょっとだな。」

菅井「はい。」

喜子「はい!」

茂「はい。 もしもし」

日月出版社☎『先生 『お父ちゃん』ですか? ハハハ!』

茂「ああ ハハハ!」

休憩室

編集者「先生の 『短編傑作集』の件ですが…。」

茂「ああ 次の刊行予定は 『恐怖編』ですな。」

編集者「はい。 それで ラインナップの ご相談なんですけど。 こちらですね。」

喜子「ふ~ん。」

茂「おい お前 何しとる?」

喜子「『恐怖編』か。 ん? でも 何で あれが 入ってないんだろう?」

編集者「あつっ!」

喜子「うわ! すいません ごめんなさい。」

編集者「ああっ これ?」

喜子「えっ?」

編集者「あ~!」

茂「あ~ お前それ。」

喜子「どうしよう。」

編集者「また書けば済む事ですから。」

喜子「ごめんなさい。」

茂「お前 ええけん そっち座っとれ。」

喜子「はい。」

仕事部屋

喜子「スガちゃん!」

菅井「うわ! びっくりした!」

喜子「『恐怖編』の短編なら これと こっちも入れたいよね。」

菅井「よっちゃん 急に話しかけないでよ。 びっくりして 線 はみ出したじゃない!」

喜子「ごめんなさい!」

菅井「いいけどさ。 今日 ちょっと 集中して 仕事しないと ますいんだ。 ちょっと 向こう行っててくれるかな。」

喜子「はい。」

客間

(カラスの鳴き声)

喜子「それでさ お父ちゃんに頼まれた 画材の注文 品物と数 間違えちゃって。」

絹代「あらま!」

喜子「猫の手の代わりにも ならなかったな。」

絹代「う~ん。」

布美枝「しかたないじゃない。 初めて 手伝ったんだけん。」

喜子「少しは 役に立つと 思ったんだけど。」

布美枝「あんたは 家の事は 心配せんでもええけん しっかり 学校に行きなさい。」

喜子「うん。」

絹代「何を そげに しょぼくれちょ~かね。」

喜子「何だか 私 いいとこないな~と思って。」

絹代「そげかなあ。 おばあちゃんは あんたのええとこ 知っちょ~よ。 あんたは優しい。 人を押しのけるとこがない。 それから 一番ええのは 自分を飾らんとこだわ。 だけん おばあちゃんは あんたと話しちょ~と 気持ちが休まるわ。」

喜子「おばあちゃん。」

布美枝「あらあら お母ちゃんが 言おうと思っとった事 み~んな おばあちゃんが 言ってしまったわ。」

絹代「フフフフ!」

喜子「いいよ! 2人して 無理して 慰めてくれなくても。」

布美枝「フフフ!」

茂「おい喜子。 これ書いたの お前か?」

喜子「え?」

茂「『怪奇短編』の漫画のタイトル。」

喜子「何となく思いついたの 並べてみただけ。」

茂「これ ええな。」

喜子「えっ?」

茂「一つ二つ 大事な作品を 忘れとったの お陰で思い出したわ。 お前 お父ちゃんの昔の漫画 よう 読んどるなあ。」

喜子「うん。 面白いからね。」

茂「明日 編集さんに電話して これとこれ 差し替えてもらうか。 うん 喜子も なかなか 役に立つわ。」

絹代「よかったなあ 喜子! しげさんが 珍しく 褒めとった。」

布美枝「役に立っとるんだわ。」

喜子「うん!」

絹代「フフフフ!」

布美枝「さて こっちでも 役に立ってもらおうかな!」

喜子「え?」

布美枝「インゲンの筋取り。」

喜子「はいはい。」

台所

喜子「これ?」

布美枝「うん。」

子供部屋

(ノック)

布美枝「藍子 まだ頑張っとるの?」

藍子「うん。 夜食に食べる?」

藍子「わ! 芋ぜんざい! いただきます!」

布美枝「授業の準備?」

藍子「うん。 学級通信 作ってるの。」

布美枝「ふ~ん。 あら! かわいい絵!」

藍子「これ 『エースくん』。 うちの学級のキャラクターだよ。」

布美枝「う~ん。 『今週のエースくん』。」

藍子「これ 子供達に すごい人気なの。 勉強やスポーツで 目立たない子供にも いいとこ いっぱいあるでしょ。 そういう 子供達の頑張りを みんなに紹介しようと思って。」

布美枝「ええ事 考えたね。 藍子 なかなか やるわ!」

藍子「こっちが頑張った分だけ 子供達は 応えてくれるから。 やりがいがあるよ 教員は。」

布美枝「そう。 けど あんまり 無理せんでよ。 喜子も心配してたわ。 『最初から張り切ったら 疲れてします』って。」

喜子「(寝言で)もう 食べられない!」

藍子「あっちは のんきすぎ。 さて! もう一仕事しよかな!」

布美枝「うん。 藍子 頑張れ!」

台所

布美枝「あら お父ちゃんも 芋ぜんざい 食べる?」

茂「『も』って 何だ?」

布美枝「藍子の夜食用に作ったんです。」

茂「あいつ まだ 仕事しとんのか?」

布美枝「よう 頑張っとるみたいですよ。 学校でも。」

茂「何だ! うまくいっとんのかあ! それじゃ 当分 辞めんなあ。」

布美枝「また そげな事 言って。 しばらくは 会社 手伝わせるの 諦めた方がええすよ。」

茂「うん。 あ そげだ。 さっき 光男から電話あったぞ。 痛み止めが効いとるけん 2~3日もしたら 出てこられるそうだ。」

布美枝「あら! よかったですね。」

茂「まあ たまには 喜子に手伝って もらうのもええけどな。」

布美枝「いろいろ 失敗したって 気にしてましたよ。」

茂「そげか? 初めてにしては 上出来だったがな。 喜子は 目の付けどころが 面白いのが ええわ。」

布美枝「藍子も喜子も よう やってますね。」

茂「ああ。」

<娘達の成長を うれしく思う 布美枝でした>

<ところが…>

玄関

布美枝「どげしたの? お腹でも痛いの?」

藍子「ううん。 何でもない。 行ってきます!」

<5月の終わり頃から 藍子は 時折 元気のない様子を 見せるようになって…>

(雨の音)

<梅雨が始まった6月の半ば…>

布美枝「お帰り! あんた どげしたの?」

藍子「傘 忘れて出ちゃって。」

布美枝「風邪 ひいたらいけん。 お風呂 沸かすから すぐ 入んなさい。 ね!」

藍子「お母ちゃん。」

布美枝「ん?」

藍子「私… もう嫌だ。」

台所

布美枝「この間から 気になっとったの。 何だか 疲れとるなあって。 何か あったの? 学校で。」

藍子「『先生は えこひいきする』って 言われちゃった。」

布美枝「なして? 藍子は そんな事せんでしょう。」

藍子「学級通信の『今週のエースくん』の コーナー。」

布美枝「ああ… あれ。」

藍子「ふだんは目立たない子の いいとこ紹介したかったの。 でも 『自分が同じ事しても 先生は 褒めてくれない 不公平だ』って 言いだした子がいて。 だんだん みんなが 『先生は えこひいきする』って 騒ぎだしたの。」

布美枝「ちゃんと 説明した?」

藍子「でも 『エースくん』で 紹介した子にも あれのせいで 仲間外れにされたって 泣かれちゃうし。 私 先生に向いてないのかな?」

布美枝「藍子…。」

茂の仕事部屋

茂「う~ん。 よかれと思って やった事が あだになったか。」

布美枝「ええ。」

茂「子供の信頼というのは 一遍なくすと 取り戻すのは難しいけんな。」

布美枝「先月から 家庭訪問しとるんですけど 親御さん達からも 藍子のやり方が おかしいんじゃないかって 言われとるようなんです。 今日 伺った お宅でも 随分 きつく言われたみたいで。」

茂「うん。 新米の先生に 子供を任せるのは 親も不安なんだろう。」

布美枝「同僚の先生にも 厳しい事 言われたみたいで。」

茂「うん 『四面楚歌』か…。」

布美枝「どげしたもんですかねえ。」

茂「うん。」

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