ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第35話「アシスタント一年生」

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」】35話のネタバレです。

あらすじ

「少年戦記の会」が行き詰まり、会報の郵送費を自分たちで負担しなくてはいけなくなった布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)。気持ちがふさぐふたりだったが、少数の読者から「墓場鬼太郎」の再開を求める投書が富田(うじきつよし)の会社に届き、富田の決断でついに連載の再開が決定する。

35話ネタバレ

水木家

居間

布美枝「これ どげしましょうか?」

茂「会報か。 これは送ってくれ。」

布美枝「え?」

茂「会報は これからも 作らねばならん。」

布美枝「でも…。」

茂「戦記漫画を描いとる間は 『少年戦記の会』は 続けるよ。 こっちの都合で 読者を裏切る訳には いかんけん。」

<うまくいってると思っていた 『少年戦記の会』が 実は 大きく つまずいている事を 知らされた 布美枝と茂でした>

茂「しかし いい加減な模型だな。 これじゃ 戦記物ファンには 売れん訳だ。 浦木のやる事は やっぱり 詰めが甘いわ。 くよくよしとっても 始まらん。 仕事する。」

回想

鈴木「仕入れた模型は 投げ売りするしかありません。 会報の発送費も うちでは もう出せませんので。 浦木さんを信用したのが 間違いのもとでした。」

回想終了

<自信を持って描いた戦記物の 思いがけない売れ行き不振に さすがの茂も がっかりしていました>

(カラスの鳴き声)

布美枝「食費 また切り詰めんと。」

茂「おい これ どげだ? ええ言葉だろう。 『意志の力で成功しない時には 好機の到来を待つほかない』。 うん まったく そのとおりだ。」

布美枝「何ですか それ?」

茂「ゲーテだよ。」

布美枝「ゲーテ?」

茂「何だ 知らんのか? ドイツの作家だ。 おい 画びょう取ってくれ。」

布美枝「はい。」

仕事部屋

茂「ここに貼るぞ ほれ。」

布美枝「はい。 よいしょ!」

茂「よし! ちょっと こっち こっち! ゲーテいわく『人は 努力している間は 迷うに極まったものである』。『自分自身を知るのは 楽しんでいるときか 悩んでいるときだけだ。』。 うん。 さすがゲーテは ええ事 言うね!」

布美枝「ん? 『ゲーテとの対話』?」

茂「読んでみるか?」

布美枝「うわ! ようけ こまい字が詰まっとる! 無理です。 私 難しい本 読むのは 苦手ですけん。」

茂「これは すごい本なんだぞ。 俺は この本 雑嚢に入れて 戦地にまで 持っていったんだ。 いつ 命を落とすか分からん という時でも これを読んだら 力が湧いてくる。 ゲーテは ええぞ。」

布美枝「そげですか…。」

茂「あの時も 命懸けだったが 漫画で食っていくというのも 生きるか死ぬかの戦いだ。」

布美枝「…はい。」

茂「また ゲーテの知恵を借りるか。 ほれ 読んでみ。 これと これと あと 上は 来れだな。」

布美枝「えっ! 上 中 下 3冊もある。」

茂「うん。」

布美枝「無理です。 私には。」

茂「ええから 読んでみ。」

布美枝「あなたが 分かりやすく説明して。」

茂「お前 嫁なら読め!」

(笑い声)

布美枝「分かりました。」

茂「ま… なんとかなる。」

布美枝「そげですね。」

<明くる日の土曜日の事です>

こみち書房

布美枝「この間の『鬼太郎』ファンの人だ。」

太一「あ! あ~っ!」

布美枝「あっ!」

田中家

美智子「うちの自慢の空揚げ。 食堂やってた時の 一番人気のメニューよ。 食べてみて。」

布美枝「はい 頂きます。 おいしい!」

美智子「あ~! よかった。 食べて! 太一君も どんどん食べて。」

太一「はい。」

布美枝「お店 手伝ってるんですか? バイトか何か?」

太一「あ いや…。」

キヨ「本 借りに来て 美智子に とっ捕まったんだよ。 この人に捕まったら 誰だって こき使われるんだから。」

美智子「あら ひどい。 高いとこに 本しまうの おばあちゃんじゃ無理だから 太一君に頼んだのよ。」

キヨ「こんな年寄りが 脚立に乗れるかい?」

太一「今日 土曜だから 工場半ドンだから。 俺 本好きなんで 土曜は よくお邪魔してるんです。 おばさんの料理 うまいし。」

美智子「あら! うれしい事 言っちゃって。 何か ごちそう追加しようかな! そうそう。 そういえばね あの例の本 もう一回ね 問い合わせしてみたんだけど 出てないって。」

太一「やっぱり 打ち切りかな?」

美智子「前のが出てから 何か月も経ってるもんねえ。」

太一「『鬼太郎』だけでも 続き書いてくんねえかな?」

布美枝「『鬼太郎』? 『墓場鬼太郎』ですよね?」

太一「そうだけど。」

美智子「あら! 知ってるの? 漫画 詳しいのね。」

布美枝「いえ たまたま。 あれ 怖いでしょう。 でも太一君は そこがいいって言うのよ。」

太一「怖いけど 懐かしい感じもするから。」

布美枝「懐かしい…。」

太一「子供の頃 ばあちゃんに聞いた 昔話みたいなとこあって。」

美智子「実家は 岩手だっけ?」

太一「うん。 俺 ばあちゃん子で 親は 畑が忙しかったから。」

美智子「そう! あの本ね 目立つ所に 置き直してみたのよ。 うちの人も 『あの人の本は 面白い』って言うもんだから。 え~っと 水木 何て言ったかな…。」

太一「水木しげる。」

美智子「そう! 『その水木しげるって人の 戦争漫画 あれは 本物だ』って。 でもね 置き直してみたんだけど やっぱり 借りてく人 いないのよね ハハハ!」

太一「すいません。」

客「お願いします!」

キヨ「ほれ お客さんだ。」

美智子「はい は~い!」

キヨ「うちの息子 戦争行ってたから 見る目はあると思うんだけどね 回転しないんじゃ しょうがない。 暗い戦争の漫画なんて 今更もう 誰も読みたくないのかね。」

太一「そんな事ないです。 『鬼太郎』の漫画も暗いけど 明るく楽しいだけってのより 俺は ずっと面白いと思う。 明るいだけのは 嘘っぽいっす。」

こみち書房

美智子「ハハハハ!」

田中家

キヨ「みんな 田舎から出てきてるんだよ。 うちの店に来る 工員さん達。 あの子も 農家の三男で 中学出て すぐ こっち来たそうだけど。 口下手で 大人しいだろ。 いっつも 一人で。 で 美智子が心配して 声かけてるうちに すっかり なじんじゃって。」

布美枝「そうですか。 やっぱり 町のお母さんだ。」

キヨ「いい若いもんが 休みの日に 他に 行くとこないのかとも 思うけど。 給料は安いし 田舎にも仕送りして お小遣いも 少ないんだろ。 貸本屋は あの子達の 避難所みたいなもんだ。」

こみち書房

美智子「ありがとう。 気をつけて降りてね。」

太一「わけないっすよ。」

美智子「そうよね。 助かった!」

富田書房

(電車の警笛)

富田「こんなに分厚いから 金でも入ってるのかと思ったら。 『墓場鬼太郎』の続きをやってくれ だとさ。 ばかばかしい。 水木漫画も もう いかんね! 古くさいんだよね あの人の描くものは。 何?」

鈴木「この間から 何通か来てます。 『鬼太郎』の続きは まだか』という 問い合わせが。」

富田「『墓場鬼太郎』の復活を願う」。『続きの刊行予定を ぜひ知らせてください」。」

鈴木「そういえば 取り次ぎからも 問い合わせがありましたね。」

富田「ほう! いやいや こんな少数意見に 惑わされる訳にはいかん!」

<『墓場鬼太郎』の続きを待つ読者は 太一 1人では なかったのです>

水木家

居間

(セミの鳴き声)

茂「あ~! 決まったぞ! また 『鬼太郎』を描く!」

布美枝「えっ?」

茂「今しがた 『少年戦記』の原稿を 届けに行って もう一度 社長に掛け合ってみたんだが。」

回想

富田「印刷部数は 元のとおり 2,500. いや2,000でいいか。 また返品 食らったら 大惨事だ。」

茂「はあ。」

富田「もう戦記物も つらいね。 伸びしろがないわ。」

茂「富田さん。 何度も くどいようですが 『墓場鬼太郎』をやりませんか? もう一度 描かせてもらえんですか? 自分は ずっと考えとるんです。 あれは まだまだ面白くなる。」

富田「水木さん あんた あれ ほんとに いけると思うの? 今は 若大将映画が人気の時代よ。 清く正しく さわやかなストーリーが 受けてんのよ。 今更 あの因果物みたいな 暗い話を」

茂「いや だからこそ 怪奇物がええんです。 高度成長の浮かれ気分 能天気な明るさ。 それだけでゃ 薄っぺらだ。 闇 不思議 恐怖 そういうのが 逆に求められるんです。」

富田「うん。 それじゃ やってみて。」

茂「ですから この前の反省を生かしてですね 表紙は もう少しソフトに しかし 内容は もっと濃く。 えっ?! 今 何て言いました?」

富田「だから そんなに言うんだったら もう一遍 やってみてちょうだい。 『鬼太郎』の続き 一冊 出してみようじゃないの。 怪奇短編集って事でね 『妖奇伝』は ゲンが悪いから 本のタイトルは そのまま 『墓場鬼太郎』でいいよ。 内容は任せる。 で それが ダメだったら おしまい。 分かるね? ラストチャンス。」

茂「はい。」

富田「それでさ 一応 見せておくけど 今頃になって こんなのが来てんのよ。 全然 反響ないよりは まだ 可能性あるんじゃない?」

回想終了

布美枝「ほんなら 『墓場鬼太郎』が復活するんですか!」

茂「読者からの手紙で救われた。 あれがなかったら また 鼻で笑われて 断られとったかもしれん。」

布美枝「よかったですね!」

茂「こんな分厚い手紙が来とったよ。 しかし 見ず知らずの人が よくまあ 時間と切手代をかけて 『鬼太郎』の助命嘆願なんぞを 書いてくれたもんだな。 読者に神が差したとしか思えんな。」

布美枝「神が差した?」

茂「ああ 『魔が差す』と言うだろ。 まあ それの反対だな。 神が差すと 人は 知らず知らずのうちに 人助けなど してしまうのかもしれん。 お陰で 俺も『鬼太郎』も助かった。」

布美枝「そげですね。」

茂「あ! こうしては おられん。 ええもんを描かねばならん。 神が差した読者の気持ちに 応えんとな。」

布美枝「はい!」

茂「晩飯まで 声は かけんでくれ。」

布美枝「はい。 あ! 『好機の到来』。 やった!」

<一度は 打ち切れた 『鬼太郎』が こうして 奇跡の復活を遂げたのです>

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