ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第39話「消えた紙芝居」

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」】39話のネタバレです。

あらすじ

布美枝(松下奈緒)は、茂(向井理)と音松(上條恒彦)のかつてを懐かしむ話に耳を傾ける。茂がかつて神戸で紙芝居の絵を描いていたことや、「墓場鬼太郎」の原案が古い紙芝居にあったこと、「水木しげる」という名前をつけたのが音松だったことなど、布美枝が初めて聞くことばかりだった。

39話ネタバレ

水木家

居間

音松「どうも 突然 お邪魔をいたしまして。」

茂「3年 いや 4年になるかなあ。 自分が 神戸から こっちに戻ってきて以来ですから。」

音松「もう そんなに なりますか。 …漫画の方では 大変な ご活躍だそうで 成功 おめでとうございます!」

茂「成功? いや そんな事は…。」

音松「一度 お祝いに参じようと 思っていたところへ ちょうど 東京へ来る用事が できましたんでね。」

(茂と音松の笑い声)

布美枝「どうぞ。」

音松「ああ どうも。 私 あの~ 杉浦と申します。」

布美枝「布美枝と申します。」

茂「この人 ええ声だろう。」

布美枝「はい。」

茂「何 しとる人だと思う?」

布美枝「さあ…。」

(茂と音松の笑い声)

(ちゃぶだいを叩く音)

音松「『時は 幕末。 勤王と佐幕のせめぎ合いが 日ごと その高まりを増している この時 ある 善良なる母と息子に 忍び寄る魔の手! トントン! 少年を救った 覆面姿の男の正体や いかに?!』。 この続きは また 明日の お楽しみでございま~す。」

茂「いよっ。 音松の名調子!」

音松「アハハハ。」

布美枝「もしかしたら …紙芝居のおじさん?」

音松「はい。 紙芝居の杉浦音松でございます。」

茂「『音松の名調子』と異名を取った 日本一の 紙芝居のおじさんだよ!」

音松「ハハハ!」

布美枝「うちの田舎の 大神宮さんの 境内でも やっとりました。 拍子木が こう 鳴ると 『紙芝居が来た!』って みんな そわそわして…。」

音松「ああ~。」

回想

(太鼓の音)

<戦前から 戦後にかけ まだ テレビなど ない時代 子供達を 夢中にさせたのは 街角に やってくる 紙芝居でした>

回想終了

音松「やる人も 見る子供達も すっかり減ってしまいました。 絵描きも 水木さんのように 紙芝居から漫画に移った人が 大勢 おります。 もっとも… 成功したという話は あまり聞きませんな。」

布美枝「あの…。」

茂「ん?」

布美枝「紙芝居から漫画に 移ったというのは…?」

茂「ああ 俺な 神戸に住んどった頃 音松さんの世話で 紙芝居を描いとったんだ。」

布美枝「あ~ そげでしたか。」

茂「うん。」

布美枝「紙芝居を…。 お世話に なっとりました。」

音松「いや いや お世話になったのは こちらですら! どうも。」

茂「懐かしいですな~!」

音松「はい。」

茂「こうやって 向かい合って 飯を食っとると… あの頃を 思い出すようですわ。」

音松「ほんとですね。」

茂「はい。」

布美枝「何も ないですけど…。」

音松「あ~ どうぞ お構いなく。 あ~ すみません 奥さん。」

布美枝「紙芝居を描いとったなんて 知りませんでした。」

茂「あ~ 神戸で アパートをやっとった 時の話 した事あったろう?」

布美枝「あ~ 浦木さんが おかしげな下宿人ばかり 連れてくると聞きましたけど…。」

音松「ハハハ…。」

茂「アパートの借金もあるし… いつまでも 管理人しとっても 仕方ないけん 絵で食べていく 道は ないかと 考えとったんだ。」

布美枝「はい…。」

回想

昭和二十六年 神戸

音松「『時は幕末 300年の 太平の夢をむさぼった 江戸の町…』。」

子供1「始まっとるで。」

子供2「剣士や!」

(音松の紙芝居の語り)

子供1「おっちゃん 飴おくれ。」

(音松の紙芝居の語り)

音松「『ぬ~っと 現れいでましたる 黒い人影。 『誰だい? てめ~は 誰なんだ? 一体!』 『うっふふふふ… うわっはははは…』』。」

音松「あんた 何ですか? さっきから ずっと見てるけど。」

茂「その… 紙芝居をやるには どげしたら ええもんかと…。」

音松「紙芝居屋になりたいのかね?」

茂「いえ 絵の方です。 自分は その… 絵の あの 紙芝居を描きたいんですが。 怪しいもんではありません。 すぐ そこで 『水木壮』という アパートやっとる 村井というもんです。」

音松「水木壮?」

茂「はい。 あの 絵を見てもらえませんか?」

音松「水木さん。」

茂「はい? …あの 自分は 村井です。」

音松「そう そう そう。 水木壮の 村井さんだ。 失礼しました。 いや~ しかし 描き方は 素人だけれども あなた… 話を作るのが なかなか 達者ですな。 水木さん。」

茂「そこは 自信あります… 村井です。」

音松「あっ そう そう そう。 水木さん… この試作版は 200円で頂く事にして…。」

茂「買ってもらえるんですか?」

音松「あ~た これから うちの専属画家 として やってみませんか?」

茂「やります! やらせて下さい!」

音松「よ~し 決まった! 当たるものを頼みますよ! 水木さん。」

茂<どういう訳か 俺を 『水木さん』と呼ぶんだ。 仕方がないから 俺の方が折れた。>

音松「頼みますよ 水木さん。」

茂「分かりました。」

回想終了

布美枝「ほんなら 『水木しげる』という ペンネームは その時に…?」

茂「ああ この人が 名付けの親という訳。」

音松「我ながら 不思議なんです。 『水木壮の村井さん』が 頭の中で 短縮されたんでしょうな…。」

(笑い声)

茂「雇われたのは ええが 毎日が締め切りで 忙しいといったら なかったですなあ!」

布美枝「毎日ですか?」

茂「ああ。 話考えて 絵描いて 色塗って… えらい重労働だぞ!」

音松「子供達は 話の続きを 待ってますからね。 毎日 新作を出し続けなくては ならんのです。」

茂「しかも 受けなかったら 苦情の嵐だ!」

音松「子供の小遣いで 成り立っている 商売ですから… 受けなければ 紙芝居屋は たちまち 食い詰めるんです。」

布美枝「恐ろしい!」

茂「うん スリル満点だぞ!」

音松「ハハハ…。」

回想

音松「この間のは 受けませんねえ。」

茂「うわ…。 すみません。」

音松「困りました。 次は 必ず 当てましょう。」

茂「はい。」

音松「ここは ひとつ 派手な西部劇とかさ ああ 空想科学物なんて どうです?」

茂「どちらも もう… 厳しいです。」

音松「諦めたら いけません! 粘れば 必ず なんとかなります。 頑張りましょう。」

茂「はい。 …親方。」

音松「ん?」

茂「怪奇物で もっと迫力のあるのは やれんもんでしょうか?」

音松「はあ~ 怪奇物か…。」

茂「はい。 自分は 西部劇や 空想科学物より 怖い話を描いとる方が がぜん 力が湧くんですが…。」

音松「確かに 水木さんの怪奇物は いい味が ありますからなあ。」

茂「長続きする怪奇物は ないかと 考えておるのですが…。」

(手を叩く音)

音松「そうだ! 『飴屋の幽霊』って怪談 知ってますか?」

茂「『飴屋の幽霊』…?」

音松「うん。」

茂「確か 女の幽霊が 毎晩 飴を買いに来るので 後をつけてみたら 墓の中で 赤ん坊が生まれてた。 そげな話ですよね。」

音松「あらららら。 そうです。 『子育て幽霊』とも言う。 ハハハ。 戦争前ね… あの怪談を基にした 紙芝居が はやったんですよ。 『墓場鬼太郎』っていうんですがね。」

茂「どんな話ですか?」

音松「さあ…。 幽霊の子供の話 という事ぐらいしか…。 何しろ 古い物で …現物が残ってませんからねえ。」

茂「幽霊の子供の話か…。」

音松「ええ。」

茂「キタロー… 墓場で生まれた子供! …これは 面白いぞ!」

回想終了

布美枝「へ~っ。 ほんなら… 『墓場鬼太郎』は 最初 紙芝居で描いとったんですか?」

茂「ああ そげだ。」

音松「あれは 受けましたなあ。」

茂「ええ。 100巻ぐらい… いや もっと描いたかなあ。 鬼太郎とは 長い つきあいだ。」

布美枝「紙芝居の鬼太郎か… 見てみたいです!」

茂「もう 何も残っとらんよ。」

布美枝「え?」

茂「紙芝居は 手書きの一点限り 現品しかない。 全国を回って ボロボロになるまで 使われて 古くなったら 捨てられて おしまいだ!」

布美枝「残念です。 どげなふうだったのかな…? 紙芝居の鬼太郎。」

(手を叩く音)

音松「ちょっとだけ 見せましょうか?」

布美枝「え? あ~ 紙芝居の舞台!」」

音松「道具一式です。 はいっ!」

茂 布美枝「あ~!」

茂「鬼太郎ではないですか!」

布美枝「残っとったんですね!」

音松「実は これ 表紙っきり! 本体は なし。」

茂「はあ~ 懐かしいなあ!」

布美枝「これが 最初の鬼太郎か…。」

茂「空手の回だ こりゃ! ハハハ。」

布美枝「かわいい!」

音松「実は 今… 紙芝居の新しい団体 作ろうと 動いているとこなんですよ。」

茂「ほう。」

音松「やっと設立のメドが立ちましてね。 …今度 東京へ来たのも その打ち合わせで…。」

茂「ほう~ それは よかったですなあ。」

音松「『紙芝居は 時代遅れだ。 廃れてしまった』 という人も おりますが 私は まだまだ 諦めてませんよ。 このまま 紙芝居の火を 消す訳には いきません! これだって… ほら! 1巻 丸ごと 残ってる物も あるんですから… ハハハ。」

茂「久しぶりに 聞かせてください。 『音松の名調子』。」

音松「ええっ?!」

布美枝「お願いします!」

音松「そうですか? じゃあ ちょっと さわりだけ。」

(ちゃぶだいを叩く音)

音松「『お願いです! お金は 必ず 返します。 布団だけは! どうか 布団だけは 持っていかないで下さい! おっかさんは 病気なんです。 布団を持っていかれては おっかさんが死んでしまいます』。 『しゃらくせえ! 小僧 すっ込んでろい!』 悪漢どもが 布団を持ち去ろうとした その時!」。

(太鼓の音)

音松『このまま 朽ち果ててなるものか たとえ 母は おらずとも たとえ 墓場で生まれようとも…』。

<茂の紙芝居も 音松が こんな名調子で 語っていたのだろうかと…。 想像を巡らせてみる 布美枝でした>

布美枝「音松さんの名調子 さすがでしたね! 聞きほれてしまいました。」

茂「腕は ちっとも 衰えておらん! 何にしても 元気そうで よかったよ。 4年前 俺が こっちに出てきた頃は 紙芝居は もう 商売にならなくなっていて…。」

布美枝「ええ。」

茂「俺も 食えなかったが 音松さんは 借金が かさんでな。 それから 居所が分からなくなった と聞いとったんだが…。」

布美枝「そげだったんですか…。」

茂「うん。 恐ろしいもんだぞ。 一つの商売が ダメになるというのは。 船と同じだ! 沈みだしたら あっという間で 逃げ遅れたら もろともに 沈むしかない。」

布美枝「けど… 紙芝居 昔は あげに 人気があったのに なしてでしょうか?」

茂「時代の流れだ どうにもならんよ。 紙芝居が回ってくる夕方に 子供は 野球だ 相撲で テレビに釘づけだ。 昨日 10人いた子供が 今日は 8人になり 明日 また 2人減る…。 でも まあ 『再起を図る』と 言っとったから 何か 見通しが立ったんだろう。」

布美枝「…よかったですね。」

茂「ええ人なんだよ… 紙芝居への 情熱は 誰にも負けんし 人の面倒も よう見てくれる 俺も 随分 世話になった。 昔の事 考えたら ちょっこしでも 力にならんと いけんな!」

布美枝「はい。」

(置き時計の時報)

布美枝「あら もう こげな時間…。 今夜 どちらに行かれるんでしょうか?」

(音松のいびき)

茂「いや 起こさんで ええぞ。 よう 眠っとるけん。 今夜は このまま うちに泊まってもらったら ええ。」

布美枝「そげですね。」

その夜

布美枝「お酒も買っちゃったし 思わん出費だなあ…。 は~っ! 木の葉… お金に変わらんかなあ。 ふ~っ!」

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