連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」】52話のネタバレです。
あらすじ
茂(向井理)は完成した漫画を春田図書出版に届けようとするが、無理がたたって高熱を出し外出できない状態に。茂は布美枝(松下奈緒)に、完成した作品を触らせようとしなかったが、体が動かないためやむなく布美枝に原稿を託す。出版社で布美枝は、茂が部屋にこもって描いていた作品が、本来の作風からかけ離れた少女漫画風のもので、ペンネームも女性の名前に変えていることを知る。布美枝は茂が耐えていた屈辱を思い涙を流す。
52話ネタバレ
水木家
玄関
茂「急な事で すまんでしたな。」
はるこ「いえ こちらこそ 勉強になりました。 ありがとうございました。」
茂「お陰で昼過ぎには届けられそうだ。」
はるこ「お役に立てて よかったです。」
茂「あ これ 少ししか入っとらんのだが。」
はるこ「いいえ 受け取れませんよ。 こっちが押しかけたんですから。」
茂「わずかしか入っとらんのだけん 遠慮せんで取っときなさい。 あんたも お金が必要だろ?」
はるこ「じゃあ 遠慮なく。 私 昨日 ここに来た時は 目の前が真っ暗でした。 けど… やっぱり 東京に出てきて よかったです。 プロの現場を見たら がぜん ファイトが わいてきました!」
茂「これから どうするんだね?」
はるこ「住むとこ決まったら 原稿 持ち込みに回ります。」
茂「そうか。」
玄関前
はるこ「う~ん! 徹夜明けの朝の空気 気持ちい~っ!」
居間
茂「さて もうひとふんばりして 仕上げるか。」
布美枝「少し 休んでからにしたら どげですか?」
茂「締め切りは過ぎとるんだ。 そうも言ってとられん。」
布美枝「あの…。」
茂「ん?」
布美枝「さっきの方は…。」
茂「ああ あの子は 少女漫画家の卵だ。 深沢さんとこに 原稿 持ち込みに来とった。」
布美枝「ああ…。」
茂「深沢さんを 当てにして出てきたのに 会社が無くなっとったもんで 困って うちを訪ねてきたらしい。」
布美枝「それを先に言ってくれれば ええのに。 私 事情も分からんもんですけん ちゃんと挨拶もせんで…。」
茂「まあ ええ。 こっちの仕事のつきあいだ。 あ こんな話をしとる場合…。(くしゃみ)」
布美枝「ああ… 風邪ですか?」
茂「え 俺は 風邪なぞ ひかん!」
布美枝「ああ…。」
仕事部屋
茂「あれ? おかしいな。 目が しょぼしょぼするわ。 やっぱり 徹夜したのが こたえとるのかなあ?」
玄関
布美枝「あら どげしました?」
茂「いや 原稿 届けに行く。 ああ…! え?」
居間
茂「おかしいなあ。 熱なんぞ めったに出んのだが。」
布美枝「ご飯も食べずに 徹夜するからです。 布団 敷きますけん 休んで下さい。」
茂「これを届けんと いかん。 遅れると 金がもらえなくなる。」
布美枝「私が届けてきます。」
茂「ええ! これは自分で届ける。」
布美枝「何 言ってるんですか! 熱が あるのに。」
茂「うるさいなあ 大丈夫だ。 あれ おかしいなあ?!」
布美枝「ほら やっぱり 無理じゃないですか。 原稿料は 私が ちゃんと 頂いています。 富田書房の事も ありますけん あの要領で やれば。」
茂「あんたには任せられん。」
布美枝「え?」
茂「やっぱり 俺が行く。」
布美枝「ちっとは 私の事も 信用して下さい。 少しは 信じて 任せてごしなさい。 素人ですけん 絵の お手伝いは できんかも しれません。 けど お使いくらいなら ちゃんとできます! 役に立ちたいんです …女房ですけん。」
茂「嫌な思い するかもしれんぞ。」
布美枝「覚悟して行ってきます。」
茂「現金で 1万円。 原稿と引き換えに もらう約束になっとる。 頼んだぞ。」
布美枝「…はい!」
春田図書出版
春田「はい はい。 まあ 一応 体裁は整ってるか。 ハッハ…。 やっぱ 古くさいな 旦那の漫画。 いや いや 奥さんも大変でしょう。 生活 大変でしょ。 食べていけないしょう。 何か やってんの? 内職とか。」
布美枝「いえ…。」
春田「え? 何も やってないの! あららら。 のんきだねえ のんきだなあ。 うちのかみさんなんかさ 毎日 働いてるよ 赤ん坊 背負って。」
春田「夫婦で一生懸命 働いてますよ 今 貸本業界は厳しいですからね。 これも また 売れないんだろうなあ…。 こんな事 奥さんに言っても 始まんないね。 え~と…。 はい ご苦労さん。 受取 書いて。 えっ あの…。」
春田「何?」
布美枝「1万円 頂いてくるように 申しておりました。」
春田「ん? 何の話?」
布美枝「そういう約束だと 主人から聞いております。」
春田「約束… そんな約束してないけど。」
布美枝「でも…。」
春田「うちはね 初めての人は みんな この額で やってもらってんの。 新人料金。」
布美枝「新人って… 困ります。」
春田「お宅の旦那が 『どうしても 描きたい』って言うから こっちは 人助けのつもりで 仕事を お願いしたの。」
布美枝「けど…。」
春田「え…。 あ~ もういい。 分かった。 はい。」
布美枝「あ あの…。」
春田「不服だったら 持って帰って下さいね! あ…。」
布美枝「水木洋子? これ うちの人の漫画じゃない…。」
春田「あ 聞いてなかったんだ。 旦那が 『少女漫画でも 描きたい』って言うんだけどさ 水木しげるって名前じゃ 売れないじゃん。 それじゃ困るから 別の名前にしてもらったの。 だから 新人と一緒。 水木洋子なんて 誰も知らないっしょ。」
神社
(子供達の声)
母親「すいません!」
子供「おばちゃん どうしたの?」
母親「ぬれますよ。」
布美枝「あの人…。 こんな思いで… 仕事しとったんだ。 こんな つらい思いして…。 仕事しとったんだ…。」
<茂が どれほどの屈辱に耐えながら 漫画を 描いてきたのかと思うと やりきれない思いが 込み上げてくるのでした>
水木家
布美枝「ただいま戻りました~!」
茂「おう。」
布美枝「あら 寝てなくて 大丈夫なんですか?」
茂「少し寝たら すっかり 元気になった。 熱も下がったぞ。」
布美枝「ああ…。 すんません。」
茂「…どげした?」
布美枝「原稿料 半分しか もらえませんでした。」
茂「はあ ハッハハ! やはり手ごわかったか。」
布美枝「役に立てなくて 申し訳ありません。」
茂「いや~ 俺が行っても同じだよ。 あれは 富田より強欲だな。」
布美枝「あ…。 これ! 飲んで頂きたくて。」
茂「うん。 コーヒーか! 珍しいな。 いつもは 『節約 節約』言ってるくせに。」
布美枝「一生懸命 働いて 下さっとるんですけん これぐらい いいかな と。 いれましょうか? ああ 風邪の時に コーヒーは いけんかな。」
茂「ええぞ。 俺が いれる。」
(置時計の時報)
布美枝「あ 私は ええです。」
茂「何でだ?」
布美枝「コーヒー豆 ちょっこししか ないですけん あなたが飲んで下さい。」
茂「ええけん 飲め。」
(コーヒーを いれる音)
茂「よし。 砂糖は幾つだ?」
布美枝「本当に ええです。 あなたのコーヒーですけん。」
茂「遠慮するな。 あんたも 嫌な思いして 原稿料 もらってきたんだろ?」
布美枝「え…。」
茂「もう一つ入れるか? 相当 言われたな。 漫画 見たのか?」
布美枝「…はい。」
茂「驚いたろうな。」
布美枝「何も話してくれんのですもん…。」
茂「柄のもない少女漫画 描いて 名前も女の名前で 今度ばかりは ちっと 具合 悪かったけん 言いそびれたわ。」
布美枝「私… 恨んどったんです。」
茂「え?」
布美枝「仕事部屋には 入れてもらえんし 知らん女の人は 入れるのにって。 」
茂「だらっ。 何を言っとる。 どげしたら 女の読者に受けるか 悩んどるとこに 天の助けか 少女漫画家が現れたんだ。」
布美枝「すんません。 けど 名前まで変えるなんて…。」
茂「う~ん あげな事は かまわんのだ。」
布美枝「…え?」
茂「名前を変えた方が売れるなら 変えたら ええ。 それも 作戦のうちだ。」
布美枝「作戦?」
茂「うん。 食っていくための作戦だよ。 ほら プロレスに おるだろう。 覆面 被って 試合しとるレスラー。」
布美枝「はい。」
茂「覆面さえ替えれば 何度でも 何度でも 戦える。 それと一緒だ。 名前を変えても 絵を描いて 生きていくんは変わらんのだけん。 それで ええんだ。 あ いっその事 もっと しゃれたペンネームを 考えておくか。」
布美枝「え?」
茂「水木洋子というのは 間に合わせで あ~ 2度は 使えんけんな。」
布美枝「そげですね。」
茂「うん。 あんた 何か考えろ。」
布美枝「分かりません 私には。」
茂「ほう~ なら あんたの名前で描こうかな。」
布美枝「ダメです。 それは。」
茂「嫌なら 何か考えろ。」
布美枝「え~っ。 ほんなら… テツ ポチ ハチ!」
茂「だら! 犬の名前考えて どげする。」
布美枝「あ そうですね。」
茂「テツって…。 あ! ごちゃごちゃ言っとって 砂糖 幾つ入れたか 分からなくなった。」
布美枝「あ 入れすぎ!」
茂「ほい 出来たぞ!」
布美枝「うん おいしい。」
茂「うまいな。」
(戸の開く音)
布美枝「何だろう?」
茂「誰か来たのか?」