ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第53話「私、働きます」

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」】53話のネタバレです。

あらすじ

茂(向井理)だけではなく、貸本漫画家たちは、みな苦しい暮らしを強いられていた。貸本漫画の業界は、大手出版社から出る週刊漫画誌の急成長に押され、斜陽化していたのだ。茂は、かつてさんざん振り回された富田(うじきつよし)と偶然、再会する。富田から懇願され、茂は「河童の三平」を彼の出版社から出すことを決める。しかし、原稿料の支払いは3か月先という、布美枝(松下奈緒)にとって不安の残る状況だった。

53話ネタバレ

水木家

玄関

茂「あ!」

布美枝「中森さん!」

茂「どげしました? しっかり!」

中森「やっと たどりついた~。 行き倒れるかと思いました。」

布美枝「しっかりして下さい!」

中森「村井さん。」

茂「はい。」

中森「貸本漫画は もう いけません。 本当に おしまいです。」

茂「中森さん しっかりして下さい! 大丈夫ですか?」

居間

中森「あ~ いい香りだ。 生き返ります!」

布美枝「何があったんですか?」

中森「私 頼まれた原稿を 届けに行ったんです。」

布美枝「ええ。」

中森「行きの電車賃だけ なんとか工面して 水道橋の出版社に向かいました。」

茂「はは~ 片道の燃料だけ積んで まさに 特攻精神ですな。」

中森「ええ。 帰りの電車賃は 原稿料を当てにして。 ところが 編集者が 冷たい目で 私を見て言うのです。 『こんな原稿 頼んだ覚えはない』と。」

布美枝「ええっ?」

中森「嘘じゃありませんよ。 私 確かに頼まれたんです。」

茂「そりゃ あんた つぶれかかった 出版社が使う手ですよ。 払う金がないので しらばっくれる。 自分も やられた事がある。」

中森「はあ~。 結局 帰りの電車賃するもらえず 水道橋から ここまで 歩いて帰ってきました。」

布美枝「大変でしたね。」

中森「2日ばかり 飯を食ってなかったもんで もう 足下は ふらふら 目は ふわふわ ああ 行き倒れるかと思いました。」

茂「飯を食っておらんとは あんた 一大事ではないですか?」

中森「大阪の実家にいる妻から 金を送ってほしいと 催促が来てまして 親の具合が悪いそうで 100円でも200円でもいいからと いじましい事を 書き送ってくるのです。」

布美枝「まあ。」

中森「そんな訳で 家賃も滞って 誠に申し訳ない。」

茂「それは また 都合のつく時で。」

中森「貸本漫画は いつまで もつでしょうか? 状況は 日々 悪化するばかりです。」

茂「う~ん。」

<昭和37年 2年後に迫った 東京五輪に向けて 道路の整備や橋の建設も進み 世間は 好景気に沸いていました。 出版界では 大手の版元から 出る 漫画週刊誌が ぐんぐんと 売り上げを伸ばしていました。 しかし その一方で…>

中森「私なんぞ もう どう あがいても 雑誌から お呼びは かからんでしょうな。 このまま 貸本漫画に しがみついていては 食うや食わずどころか 飢え死にかもしれない。」

<深沢の三海社が 消えてしまった今 中森の話は ひと事では ありませんでした。 それから 1か月ほど過ぎて 茂は 出版の めどの立たない 『河童の三平』の原稿を持って 貸本漫画の出版社に 回っていました>

道中

茂「はあ~ 今日も 玉砕か…。 はあ~。 いや 電車賃かけて出てきたんだ。 そう簡単には 退却できん。」

富田「このまま 帰れんな。」

茂「はあ~ 腹へったなあ。」

富田「あったかい そばでも 食いたいなあ。」

茂「しかし 売れんなあ。」

富田「何で もうからないんだよ!」

茂「描いても 描いても 本を出せんのでは 一銭にもならん。」

富田「売る本がないんでは どうにもならんだろ?」

茂「出版関係の方ですか?」

富田「え?」

茂「いや~ 4月なのに 冷えますな。」

富田「水木さん?!」

茂「え?」

富田「水木さんじゃないの?! ハハハ! いや~ 久しぶりだな!」

茂「あ!」

富田「私だよ 私!」

茂「富田?! しばらく見ない間に すっかり くたびれて。 髪も薄くなっちょ~な!」

富田「あらら! いや~ 会いたかった! 会いたかった! ハハハ!」

茂「ん!」

富田「えっ?」

茂「あんたとは 国交断絶しておる!」

富田「そんな 冷たい事 言うなよ! ここで こうして会えるなんて あんたと私は 共存共栄の 強~い絆で 結ばれとる!」

<原稿料の不払いが原因で つきあいを断っていた富田との 半年ぶりの再会でした。 果たして これは 吉と出るか 凶と出るか…>

富田書房

富田「どうぞ 入ってちょうだい。」

茂「はあ~! 荒涼としとる。」

富田「水木さん このとおり! 悪かった! あんたには 迷惑をかけて。 目先の欲に走って 事業拡大を 目指したのが いけなかった。 不肖 富田 遅まきながら その事に 気が付きました。 水木さん また 戻ってきてよ。 また うちで 本 出してよ。」

茂「そういえば 『売りたくても 売る本がない』ような事 言っとったですな。」

富田「実は…。 本が出せない。」

茂「え?」

富田「自転車操業でも 次々に 本を出していかないと 回らない商売なのに 肝心の 描いてくれる人が誰もいないんだ。」

茂「あんた よそでも 随分 不義理をしとったでしょう。」

富田「面目ない。」

茂「あんたに 問題があるんですぞ。」

富田「おっしゃるとおり。 すべて 私の不徳の致すところです。 ところで この見慣れた袋!」

茂「え? いやいや…。」

富田「あれ? ちょっと 漫画の原稿 入ってるんじゃないの?」

茂「いや これは…。」

富田「三海社の社長 病気になったんで 会社 つぶれちゃったでしょう?」

茂「それは…。」

富田「さっき ボロッと言ってなかった?」

回想

茂「描いても 描いても 本が出せんのでは 一銭にもならん。」

回想終了

富田「その漫画 うちで出させてもらえないかな?」

茂「冗談じゃない! あんたとは もう仕事はせん!」

富田「じゃあ まず ちょっと 見るだけ。」

茂「いや…。」

<ちょうど その頃…>

水木家

居間

はるこ「うわ~ 本になってる。 あ! ここ 私がペン入れしたとこですよ。」

布美枝「どれどれ。」

はるこ「ここ。 うわ~ 印刷されてる。」

布美枝「うちの人 もうすぐ 戻ってくると思うんですけど。」

はるこ「いいんです。 近況をお伝えしに 寄っただけですから。」

布美枝「あれから どうしておられたんですか? 実家には 戻られたの?」

はるこ「とんでもない。 田舎になんて 戻りませんよ。 こっちで働き口 見つけたんです。 パチンコ屋の住み込みの店員。」

布美枝「パチンコ屋さん?」

はるこ「はい。 今 すごい人気なんですよ パチンコ 朝から晩まで チンジャラ チンジャラ。 景気のいいったらないんですから。」

布美枝「へえ~ そう?」

はるこ「お給料もらえるし 狭いけど 住むとこあるし 言う事なしです。」

布美枝「漫画の方は?」

はるこ「もちろん 描いてます。 夜 仕事の後に描いて 休みの日に 持ち込みに回るんです。 」

布美枝「うまくいきました?」

はるこ「さっぱり。 漫画雑誌 出してる会社 あちこち回ったんですけど 『絵が下手だ 話にひねりがない 個性が足りない』って こてんぱんに 言われちゃいました。」

布美枝「まあ 女の人に そんな ひどい事を。」

春子「会ってくれるのは まだ いい方。 門前払いされたり さんざんですよ。」

布美枝「そげですか。 やっぱり 雑誌で描くのは 大変なんですね。」

はるこ「でも 大変な方が やりがいがありますから。 次は 貸本漫画の会社 回ってみます。」

布美枝「貸本も 厳しいですよ。 お金がないですけん 食べていくには 大変。」

はるこ「平気です。 パチンコの住み込み 続けながら 描きますから。 ここで頑張らないと 田舎から 出てきた かいがありませんから。」

布美枝「偉いなあ!」

はるこ「そうですか?」

布美枝「うん。 昼は働いて 夜は 漫画 描いて 休日は 出版社 回って…。 私なんか とっても まねできん。」

はるこ「好きな事してるだけです。 私 漫画家になりたくて 家 出てきたんですから。 漫画のためなら 頑張れます。 私も早く 自分の本 出したいなあ。」

茂「ほう そげか。 あの子が来とったか?」

布美枝「さっきまで 待っとったんですけど。 あ! 連絡先 聞いておきました。」

茂「うん。 パチンコ屋の住み込みとは ええ事 考えたな。 これなら 食うには困らん。」

布美枝「ほんとですね。」

茂「こっちも 出版のめどが立ったぞ。」

布美枝「売り込み うまくいったんですか?」

茂「うん。」

布美枝「よかったですね。 ほんなら 『河童の三平』 出せるんですか? 私も助かりました。 これで 財政破綻 食い止められます。 あ! 本 どこの出版から 出るんですか?」

茂「富田書房。」

布美枝「え… 富田書房って あの?」

茂「それで 原稿料なんだが…。 これで もらった。」

布美枝「約束手形って すぐに お金に換えられんですか?」

茂「ここ見てみろ。 支払期日と書いてあるだろう。」

布美枝「はい。」

茂「金が入るのは この日 3か月後だ。」

布美枝「3か月後?」

茂「現金の都合がつかんと 言っとったけん しかたない。 まあ ものは考えようだぞ。 もし このまま出版ができんだったら 3か月どころか 1年 経っても 金にはならん。」

布美枝「はい。」

茂「シリーズで8冊 出すと 約束したけん いったん 回り出せば 金は入ってくる。」

布美枝「そげですね。 本が出るんですけん ええ事ですよね。」

茂「他に道はない。 厳しいが やり抜くしかないな。」

布美枝「はい。」

仕事部屋

茂「はあ~。 ああは言ったものの 富田のおやじ ほんとに 大丈夫かなあ。」

回想

富田「これを シリーズで出させてもらえば うちも なんとか立ち直れる。 これで 2人そろって はい上がろうな! うん!」

茂「あ…。」

回想終了

茂「富田は 信用できんが 他に出す当てもないし。 描き続ければ なんとかなる。」

居間

布美枝「はあ~ どげしよう。 3か月も お金が入らんなんて。」

回想

布美枝「水木洋子? これ うちの人の漫画じゃない…。」

茂「食っていくための作戦だよ。 覆面さえ替えれば 何度でも 何度でも戦える。」

春田「何も やってないの? のんきだねえ。 うちの かみさんなんかさ 毎日 働いてるよ 赤ん坊 背負って。」

回想終了

布美枝「節約だけに努めとっても もう どうにもならんな。」

<既に あちこちへの支払いが 滞り始めていました>

布美枝「私も なんとかせんといけん。」

<布美枝は 外に働きに出る事を 考え始めたのです>

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