連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」】64話のネタバレです。
あらすじ
藍子が生まれて半年がたったが、村井家の暮らし向きは上向かず、布美枝(松下奈緒)は家事と育児に奮闘しながらも、重苦しい気分をぬぐえずにいた。戌井(梶原善)の出版社も赤字続きで事務所を引き払い、今では自宅をオフィスとしていた。茂(向井理)は戌井の家を訪ねた帰り道、多磨霊園を自転車で通過しようとして、外に出られなくなる体験をする。貸本漫画を悪書として追放しようとする団体が、こみち書房に押しかけ…。
64話ネタバレ
水木家
居間
(ウグイスの鳴き声)
布美枝「あ… 雨 あがっとる。」
水道屋「村井さ~ん 水道の集金で~す!」
布美枝「今日は おらん事にしよう。」
水道屋「村井さ~ん お願いしま~す!」
(藍子の泣き声)
布美枝「(小声で)藍子 藍子 ダメ ダメ ダメ ダメ…。 シ~ッ!」
(泣き声が大きくなる)
水道屋「赤ちゃんの声 聞こえてますよ~!」
布美枝「失敗…。」
玄関
水道屋「お嬢ちゃん 何か月ですか?」
布美枝「半年になります。」
水道屋「ベロベロバ~! また お母さんが 隠れん坊してたら 教えてちょうだいね~!」
(2人の笑い声)
庭
布美枝「また 降るかなあ…。」
<藍子が生まれて半年 家事に育児に奮戦する 布美枝でしたが 暮らし向きは 梅雨時の空のように 重苦しいままでした>
北西出版(戌井家)
客間
戌井「ひい ふう みい よ…。」
<戌井の北西出版は 本を出す度に赤字が増え とうとう事務所を引き払い 今は 国分寺の借家が 自宅兼事務所です>
早苗「ありませんよ。」
戌井「ああ… すいません。 今日は 原稿料 半分しか払えなくて…。」
茂「う~ん まあ ええです。」
戌井「あ 次は なんとか…。」
茂「『劇画ブック』 売り上げは 相変わらずですか?」
戌井「内容は どんどん よくなっとるんですが 売り上げは 下がる一方で。」
茂「うん。」
戌井「ああ…。 意気込んで出した作品は 軒並み撃沈です。 あげく 半年も待たずして 事務所 畳んで こうやって 長屋の片隅で 仕事しとる訳ですから 我ながら 情けないです。」
恵美「怖いよ~!」
早苗「子供が泣いてるじゃないの!」
戌井「おい!」
早苗「たまには この子が喜ぶような 漫画も作って下さいね。」
戌井「バカ! 僕は 大人が読める漫画を 目指してるんだ。」
早苗「理想言ったって 食べていけなきゃ どうしようもないじゃないの!」
戌井「理想をあげて 何が悪いんだよ。 そのために 出版社始めたんだぞ。」
早苗「日本一小さい 出版社ですけどねえ!」
戌井「むむむ…。」
茂「(笑い声)」
戌井「すいません。 会社の経理 すべて 任せとるもんで どうにも…。」
茂「奥さん なかなか ええ事 言いますな。」
早苗「え?」
茂「日本一小さい出版社。 ええじゃないですか。 気安そうで どことな~く 今後の可能性も 感じさせますよ。」
戌井「なに 最小規模の零細ですよ。」
茂「あんた 最初に言っとったでしょ。 『自分一人で やる会社だから 自分自身が 会社のようなもんだ』って。」
戌井「あ~ はい。」
茂「ほんなら 事務所は どこでもええじゃないですか。 水道橋でも この 国分寺の長屋でも あんたが おるとこが すなわち 会社ですよ。 しかし ここいらで 一人 社員を 増やすという手も ありますな。」
戌井「いやいや そんな余裕は とても。」
茂「肩書は そうだな 特別顧問 いや 相談役かな。 資金繰り以外だったら 何でも 相談にのりますよ。」
戌井「水木さん…!」
茂「奥さん 特別顧問と言っても 給料も 株の配当もないので 心配いらんですよ。」
早苗「ああ…。」
戌井「じゃあ 顧問 早速なんですが 新人漫画の 持ち込み原稿 見て下さい。」
茂「拝見しましょう。」
戌井「これなんですけども…。」
茂「うん まあ 悪くは ないですな。」
戌井「うん そうでしょう。 なかなか 将来性ありでしょう!」
茂「いや しかし 促成栽培はいかんですよ。 もっと 長い目で見て 育てんと。」
戌井「ああ まあ それは そうです。 ですから ここね こことか 結構 いいと 思うんですけどねえ…。」
玄関前
茂「ほんなら また。」
早苗「お気をつけて。」
(雷鳴と雨の降りだす音)
茂「ああ 落ちてきたかあ。」
居間
早苗「面白い人ね。」
戌井「だろう? 何とも言えない味がる。」
(2人の笑い声)
(雷鳴)
早苗「やだ 振ってきた。 水木さん 自転車で 大丈夫かしら?」
玄関前
(雷鳴)
早苗「水木さん 傘! 本降りになりそうだから 差してって下さい。」
茂「え ああ いや… お借りするのは ええんですが 返しにくるのが 面倒ですから…。」
居間
戌井「どうかしたのか?」
早苗「傘 差してってもらおうと 思ったのに 『要らない』って言うのよ。」
戌井「えっ!」
早苗「変なとこ 遠慮武深いのね。」
戌井「お前… 自転車 乗って 水木さん どうやって 傘 差すんだよ!」
早苗「えっ?」
戌井「腕 一本だぞ。」
早苗「あっ…。 やだ 私 失礼な事 言っちゃったわ。」
戌井「あの人が 気にしてないから こっちも つい 忘れちまうんだよなあ 水木さんが 腕一本だって事」
早苗「嫌な顔も しないで…。 ほんとに いい人だわ! ねえ。」
戌井「ん?」
早苗「会社 頑張らなきゃね。」
戌井「どうしたんだよ 急に?」
早苗「稼がなきゃね。 うちも 水木さんとこも もっと 楽にならなきゃ嘘よね!」
戌井「ああ そうだよな! うん。」
水木家
2階
布美枝「お父ちゃん 遅いねえ。」
(雷雨の音)
布美枝「戌井さんとこに 泊まるのかな…。」
<その夜 深夜を過ぎても 茂は 戻ってきませんでした>
玄関
布美枝「お父ちゃん どげしたの!」
茂「うん…。」
布美枝「心配しとったのよ。 戌井さんとこ 泊めてもらったんですか?」
茂「いや… 道に迷っとった。」
布美枝「え?!」
茂「戌井さんちを出て 雨も降っとるし 多摩霊園を通り抜けて 近道しようと思ったんだが…。 出口が ないんだ。」
布美枝「どういう事ですか?」
茂「分からん。 何度も通り抜けとるのに ゆうべは 走っても 走っても 墓場から外に出られんのだ。 真っ暗~い迷路の中を 走っとるようだった。 日が昇って ようやく出口が見えた。」
布美枝「お風呂 入れましょうか?」
茂「いや 寝る…。 疲れた。 あ これ… 原稿料 これだけだ。」
<何だか 嫌な気持ちがしました。 走っても 走っても 暗闇を 抜ける事のできない自転車。 それは 出口なしの 貧しさの中で あえぐ 自分達の姿のように思えたのです>
すずらん商店街
子供達♬『空をこえて ラララ 星のかなた ゆくぞ アトム ジェットのかぎり 心やさしい ラララ』
<この年の1月 テレビアニメの 『鉄腕アトム』の放送が始まり 子供達を 夢中にさせていました>
こみち書房
男1「愚劣な貸本漫画が 日本の将来を担う子供達に いかに 悪い影響を与えるか あなた達も 考えて頂きたい!」
日出子「下品で どぎつくて 陰湿で。 うちの子供には 絶対に 読ませたくありませんわ。」
女1「第一 まあ 不衛生ですわよねえ! どこの誰が読んだか 分からないような本を 消毒もせずに 次の子供に貸すだなんて! ねえ~!」
キヨ「図書館だって 同じじゃないか。」
女1「え?」
美智子「いえ。 うちも 業界団体の指導を守って できるだけ 衛生的に 健康的に やらせて頂いておりますので。」
男1 しかし 肝心の本が 健康的ではない!」
女達「そうよ!」
男1「暴行 傷害 殺人 いかがわしい迷信 エログロ・ナンセンス。 どれもこれも 恐るべき低俗さで 実に非文化的だ。 子供に 犯罪の芽を植え付けかねん!」
キヨ「そんな 大げさな…。」
美智子「おばあちゃん…。」
男2「東京五輪を来年に控え 外国からのお客様も 多い時です。 日本の子供達が こんなものに 夢中になっていては 国の品格に関わる。」
一同「そのとおり!」
日出子「漫画は 明るく 健全でなければなりませんわ。」
女1「漫画は よい子のものですよ!」
美智子「はい…。」
日出子「『不良図書から 子供を守る会』としましては 小中学生に 貸本漫画を 貸し出さないよう要望します。」
田中家
(子供達の遊ぶ声)
布美枝「『子供の健全な育成のために 俗悪低級な漫画を絶滅させ…』。 ひどい!」
キヨ「時々 來るんだよ。 市民団体だか何だか知らないけど 正義のタスキをかけてね。」
美智子「しばらく来ないと思ったら また 張り切って盛り返してきたわねえ。」
キヨ「つぶれそうな貸本屋を いじめて 何が面白いんだか もう…。」
布美枝「あんまりです… 俗悪とか 絶滅させるとか。 一生懸命描いとるのに。」
美智子「ほんとよねえ。」
布美枝「あの人達 ちゃんと 読んどるんでしょうか?」
キヨ「読んでなんか いないよ~! 貸本漫画は 頭から 悪いって 決めつけてんだよ!」
布美枝「ひどい…。」
美智子「でも 言い返しても 火に油を 注ぐだけ。 『承りました』って 頭下げとくしか ないの。」
キヨ「自分が正義だと 思ってる人達ほど 恐ろしいもんは ないねえ。 これじゃ 戦争中と同じだよ。」
布美枝「貸本漫画は どうなるんでしょうか? つぶされて しまうんでしょうか?」
美智子「大丈夫よ。 これまでだって こういう事は ずっと あったんだから。 それでも 貸本漫画は なくならないし うちだって なんとか 続いてるでしょ?」
布美枝「はい…。」
子供達♬『空をこえて ラララ』
<漫画の主流は 既に 週刊漫画雑誌に移っていました。 そして テレビアニメの時代が 本格的に幕を開け… 貸本漫画は ますます 時代から 取り残されていくようでした>