ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第67話「連合艦隊再建」

あらすじ

家計は相変わらず厳しいのに、高価な戦艦模型作りに没頭する茂(向井理)のことが、布美枝(松下奈緒)は理解できなかった。浦木(杉浦太陽)は漫画家の卵の河合はるこ(南明奈)に夢中になるが、はるこは茂を思っているらしく、浦木にはつれない態度だった。浦木は村井家を訪れ「悪魔くん」がもたらす収入に期待する茂のことをたしなめる。茂の漫画は暗いので、五輪景気に沸く世間のムードに合わないから売れないというのだ。

67話ネタバレ

水木家

居間

布美枝「えい!」

茂「これは ここに付けてと。 お~ こらこら 触っちゃいけん。 お父ちゃんのだ。」

<『悪魔くん』の1冊目を 描き上げて以来 茂は 仕事の区切りがつくと 戦艦模型作りに 没頭するようになっていました>

布美枝「はいはいはい お~ よしよしよし。 お父ちゃんは 藍子よりも 戦艦長門に 夢中ですねえ。」

茂「嘘を教えたらいけん。 これは 大和だ。 長門は もう仕上がっとる。」

布美枝「長門でも 大和でも どっちでも ええです。」

茂「長門は 3万2,720トン 大和は 6万4,000トン 全然違う。」

布美枝「そげな話を しとるんじゃなくて。」

茂「あ~ もう! 脇から ごちゃごちゃ言うけん 曲がってしまっただないか!」

布美枝「お父ちゃん。」

茂「何だ?」

布美枝「お父ちゃんが働いて 稼いだ金だけん 何に使うのも勝手ですよ。 けど また 電気が止められんように 無駄遣いせんで いざという時に 備えんと…。」

茂「俺は 決めたぞ。」

布美枝「え?」

茂「この700分の1サイズで 連合艦隊を再建する。」

布美枝「再建って…。」

茂「撤退はせん。 何年かかっても やり遂げる。」

布美枝「私が 今 台所で 何をしてたと思います? 魚屋さんで もらってきたアラを 塩漬けにしようと してたんです。」

茂「うん 魚は アラがうまいなあ。」

布美枝「野菜だって 大根の葉っぱとか キャベツの硬い所とか 八百屋さんで おまけしてもらった 野菜くず使って…。」

茂「野菜は 葉っぱや皮に栄養がある。」

布美枝「はあ 少しでも やりくりしようと しとるんです。 それなのに!」

茂「しみったれた事 言っとたら また 貧乏神に つけ込まれるぞ。」

布美枝「え?」

茂「どんな時でも 心が楽しくなるような事をせんと いけんのだ。 気持ちまで貧しくなっては 売れる漫画も 売れなくなる。 今は 連合艦隊の再建が優先だ。 駆逐艦 巡洋艦 それから 潜水艦 全部となると 大変な数だなあ。 大仕事だ。」

布美枝「我が家に そげな軍事予算は ありません!」

(藍子の泣き声)

純喫茶・再会

浦木「いや~ はるこさんから 呼び出しが かかるなんて 光栄だなあ! 今日は ゆっくり 語らいましょうねえ。」

はるこ「私 すぐ 失礼しますから。」

浦木「いやいや そう急がずとも。 僕はですねえ 今日こそ あなたに ですねえ…。」

(道路の工事音)

浦木「あ~ 前の道路 堀り起こしてやがんなあ! マスター。」

マスター「え?」

浦木「あの音 どうにかなんないの?!」

マスター「むちゃ 言わないで下さいよ。」

浦木「近頃は どこもかしこも工事で やかましいったら ありゃ しませんねえ。」

はるこ「あの…。(工事音)…を下さい。」

浦木「えっ? 今 何と?」

はるこ「浦木さんの…。(工事音)…が欲しいんですけど。」

浦木「浦木さんの真心を下さい? いや 浦木さんのハート…? もしや… 愛を下さい ホホッ?!」

はるこ「お電話で お話しましたよね。」

浦木「え?!」

はるこ「この間 浦木さんが撮ってくれた 写真 持ってきてくれました?」

浦木「え?」

はるこ「う~ん よく撮れてますねえ。」

浦木「そうかなあ。 大事な人物が 写ってませんが…。」

回想

浦木「鳩が出ますよ~。」

(シャッター音)

回想終了

はるこ「よかったあ。 どうしても この写真 持っていきたかったんです。」

浦木「持っていくって どこに?」

はるこ「今から 大手の雑誌社に売り込みに 行くんです。」

浦木「おう。」

はるこ「少女漫画も 雑誌の時代になりましたから。」

浦木「じゃあ その写真は 逆効果だ。 あなたの横に 一生 売れない 貧乏漫画家が写っとります。」

はるこ「そういう言い方 ないんじゃないかな!」

浦木「え?」

はるこ「水木先生は 困難にもくじけず 描き続ける 不屈の漫画家ですよ。 私は その不屈の精神を お守りにしたいんです。」

浦木「あれ… はるこさん あなた もしや ゲゲの事を。」

はるこ「え?」

浦木「魅力的だ なんぞと 思ってるんでは ないでしょうねえ。」

はるこ「思ってますよ。 先生 魅力ありますもん。」

浦木「なんと! もしや あなた 恋をしてるんでは…(工事音)」

はるこ「え? 何ですか?」

浦木「ですから はるこさん あなたは ゲゲの事を好きになったんでは。」

はるこ「尊敬してますよ。」

浦木「え? いや ああ いや 何も…。」

はるこ「写真 ありがとうございました。」

浦木「いえいえ…。」

はるこ「じゃあ 私は これで…。」

浦木「お~ お~ 待って下さい。 僕はですねえ 今日こそ この思いを あなたにですね。」

はるこ「浦木さん!」

浦木「はい…。」

はるこ「写真 先生の所に届けましたか?」

浦木「いえ まだ…。」

はるこ「ダメじゃないですか! せっかくの家族写真。 ちゃ~んと 届けて下さいね!」

浦木「はい…。」

(ドアの開閉音)

浦木「天使のほほ笑みだ…。」

<1年後に 東京五輪を控え 道路の整備や ビルの新築が相次いでいました。 『オリンピックまでに』を合言葉に 東京は 町中が工事現場のようでした>

工事現場

浦木「しかし どうすれば はるこさんに 俺の魅力が伝わるのかなあ…。 (ため息)」

(工事音)

浦木「うるさい! 人の思索の邪魔すんな! まったく もう おい! しかし… ゲゲが魅力的とはねえ。 男ぶりだって 稼ぎだって 俺の方が 数段上なのにね…。」

男「あっ 危ないっ!」

(スパナの落ちる音)

男「すみません 大丈夫ですか?」

浦木「気をつけろ…! まったく もう おちおち 考え事も できんわ! おっ?! あ~っ ああ~っ!」

(倒れる音)

水木家

居間

浦木「すまんですね 奥さん お手を煩わせて。」

布美枝「いいえ。 ズボンが破れただけで けががなくて よかったですね。」

浦木「ええ 昨今は 道路が掘り返されて 穴ぼこだらけですから。 しかし 『東京大改造』なんぞと 言っておりますが… こちらのお宅は 五輪景気とは 関係なさそうですな。」

布美枝「はあ…。」

浦木「ん? こら 何だ? やけに立派なもんが 鎮座ましましとる…。」

布美枝「(ため息)」

浦木「連合艦隊の再建ねえ。 あの男は 昔から凝りだすと 止まらなくなる きてれつな癖がありましたからね。」

布美枝「癖ですか…?」

浦木「ええ それが決まって 一文の得にもならん くだらん事なんです。」

布美枝「どげな事です?」

浦木「たとえば 新聞の題字集めです。」

布美枝「題字というと…。」

浦木「ほら 新聞の この右上のとこに あるでしょう。 『毎朝(まいちょう)新聞』とか 『興亜新報(こうあしんぽう)』とか。」

布美枝「ああ。」

浦木「あれを切り抜いて スクラップブックに 貼る訳ですよ。」

布美枝「それを集めて どげするんです?」

浦木「ん? 何も。 当時 境港の小学校で はやっておったというだけです。 ところが はやりが廃れた後も ゲゲ1人 バカみたいに 集め続けとりました。」

布美枝「はあ…。 スクラップ作るのは その時からなんですね。」

浦木「コレクター魂というか パラノイア的というか…。 まだまだ ありますよ。 海岸に落ちてるものを 拾い集めたり あ~ 行李いっぱい 死んだ動物の骨を 集めたりする事も…。」

布美枝「骨…? 気味悪い…。」

浦木「ねえ。 しかし 骨なんぞは 得みのならん代わりに 集めるにも 金はかかりまえんが はやりのプラモデルとなると…。」

布美枝「はあ そこなんですよ。」

浦木「高級なプラモデルなんかに 手を出さんで かまぼこ板でも 削っとればええものを。」

茂「かまぼこ板が どうかしたのか?」

布美枝「あ お帰りなさい。」

茂「お前 何しに来たんだ?」

浦木「『何しに』とは ご挨拶だね。」

布美枝「この間の写真を 持ってきて下さったんです。 ほら。」

茂「おう よう写っとるなあ…。 しかし 妙な恰好しとるなあ。」

浦木「あ いや これには訳があってだな。 決して 亭主の留守に 間男しにきた訳ではないぞ。」

茂「当たり前だ だらっ!」

布美枝「お父ちゃん それ 何ですか?」

茂「次は 一番艦の金剛だ。 全艦再建となると やはり 金剛から とりかからんとな。」

浦木「あきれた奴だ。」

茂「何だ?」

浦木「軍事予算の拡大が 食料危機を招くと 奥さん 困っておられるじゃないか。 そもそも お前には 先を見越して動く計画性も なければ 作戦もないんだ。」

浦木「たとえば この十円玉だ。 これを使うには どうすれば この10円から 100円 1,000円の価値を 生み出せるのか そこを よくよく考えなければならん。 金を もうけるには 人は常に参謀であり 策士でなければならんのだ。」

布美枝「ウフッ…。」

浦木「ん? どうした?」

茂「ハハハ!」

浦木「何が おかしい?」

茂「参謀殿。 ももひきが見えておりますぞ。」

浦木「ん? おう おっ!」

茂「ハハハハ!」

浦木「こりゃ 失礼。 これは!」

茂「何をやっとんだ。」

浦木「奥さん 失礼しました。」

布美枝「いいえ。」

浦木「しかし 見事なもんだなあ。」

茂「手を かけとるけんなあ。 ここを見てみろ。 薄く削って あるだろ。 これが恰好ええんだ!」

浦木「は~! しかし よう こんなものを作る金が あったな。」

茂「うん。 見込みが あるけんな。」

浦木「金の見込みか?」

茂「これを シリーズで出す事に なっとるんだ。 原稿料は1冊 3万円だぞ。」

浦木「へえ 今どき 良心的なこって…。 北西出版? 聞かん名だな。 発行人 戌井慎二? 何だ あの暑苦しい男が やっとんのか。 こんなもの 売れんだろ。」

茂「何っ?!」

浦木「お前は 墓場と模型屋ばかりを うろついとるから 知らんだろうが 世間は 五輪景気に沸いとるぞ。 猫も杓子も バカンス バカンスと 浮かれる ご時世だ。 漫画だって 『鉄腕アトム』の 大当たりで テレビアニメの時代が来とる。」

浦木「俺の情報網によると この秋には 『鉄人28号』も テレビになるらしい。 こんな時に 貧乏の おん念が 渦巻いとるような漫画が 売れると思うのか? 希望的観測は よせ。 失敗に備えて 節約に励む方が 身のためだせ。」

茂「不吉な事 言うのも ええ加減にせえ!」

浦木「何を怒っとるんだ。 俺は お前のためを思って…。」

仕事「仕事する もう帰れ! 帰れもう!」

浦木「何を言っとるんだ…。 イテテテテッ!」

茂「帰れ。」

布美枝「出来ました!」

浦木「あ~ どうも。 は…。」

茂「早こと 帰れ!」

浦木「お~お ちょっと 待て待て! ちょっと待って あ~あ!」

玄関

浦木「もう 何でもう! せっかく 人が 親切で!」

布美枝「すいません。」

浦木「なに… 奥さん ズボンを ありがとうございます。」

布美枝「いえ。」

浦木「何だ もう。 あ~!」

(戸の開閉音)

布美枝「(ため息)」

仕事部屋

布美枝「なにも 追い出さんでも。 写真 届けにきてくれたんですから。 また 模型…?」

<浦木の言う事も 一理あるような気がして… 布美枝は ますます 先行きが 心配になってきたのです>

こみち書房

美智子「ちょっと見ないうちに また 大きくなったわねえ 藍子ちゃん。」

布美枝「ほんとに よく寝て よく食べるんですよ この子。」

キヨ「先生に似たんだね。」

布美枝「あっ はい。」

キヨ「アハハハ!」

太一「かわいいなあ。」

布美枝「太一おにいちゃんだよ。 お父ちゃんの漫画 いっつも 読んでくれとるんだよ。」

太一「今度のも読みました。 『悪魔くん』。」

美智子「もう何回も 借りてったのよね。」

太一「面白いし 内容深いし…。 続きが待ち遠しいです。」

布美枝「2冊目 もうじき 描き上がるみたいですよ。」

太一「俺 『悪魔くん』は 傑作だと思うな。 水木先生の新境地っていうか… 力 入ってんのも分かるし。」

布美枝「全部で 5冊 描く予定なんですけど 『好評だったら もっと続ける』って 戌井さんも言ってくれとるんです。」

キヨ「そりゃ よかったじゃないか。」

美智子「仕事も順調 藍子ちゃんも すくすく育って 言う事ないわねえ。」

布美枝「ええ… でも…。」

キヨ「どうしたの? はっきりしないねえ…。」

布美枝「はあ…。」

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