ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第68話「連合艦隊再建」

あらすじ

美智子(松坂慶子)は、茂(向井理)の模型戦艦作りの話を布美枝(松下奈緒)から聞かされ、まゆをひそめるが、夫の政志(光石研)は茂の苦境を察するかのようなことを言い、理解を示す。「不良図書から子どもを守る会」の一団が、こみち書房に押しかけて、茂の漫画を「低俗だ」と非難したり、職を失った茂の兄・雄一(大倉孝二)のためになけなしの金を融通するハメになってしまったりと、布美枝は困ったこと続きだった。

68話ネタバレ

こみち書房

美智子「戦艦の模型?」

布美枝「昔から作っとったそうなんです。 戦記漫画を描く参考に。 けど 今度は 今までよりも 熱くなっとって。 連合艦隊を再建するって 言いだして。」

キヨ「仕事ほっぽり出して そんな事やってんのかい?」

布美枝「仕事は 一生懸命 やってくれとるんです。 けど…。」

美智子「結構 高いもんね プラモデルって。 家計の負担よね。」

布美枝「接着剤だ ヤスリだって あれこれ 追加で買う物もあるし。 無駄遣いは よして下さいって 頼んでは みたんですけど。」

キヨ「あきれたね こんな かわいい子が いるってのに 困った先生だ。」

美智子「ほんと 気が知れないわね。」

政志「俺にゃ 分かるよ。 そういうもん作る 男の気持ち。」

美智子「あら お帰んなさい。」

布美枝「お邪魔してます。」

美智子「ほら 藍子ちゃんよ。 10か月になったとこ。」

政志「ほう~。」

キヨ「何だい? 男の気持ちが分かるとかって?」

政志「え?」

キヨ「言ったろ? 男の気持ちが 分かるとかってさ。」

政志「そういうもんが いるんだよ。 男ってのは。 どうしようもない時こそ 熱中する もんが 欲しくなるんだ。 なあ!」

太一「え? ああ… まあ。」

キヨ「何だよ? 勝手な理屈を並べて。」

政志「理屈じゃねえんだよな ひもじくって 寒くって 明日 死ぬかもしれねえって 時だって つまんないもん集めたり 下手な絵を描いたりするんだ。 あっちにゃ そういう奴が 大勢いたからな。」

キヨ「そうかい。」

美智子「ね ご飯 食べるでしょ?」

政志「ああ。」

(藍子の泣き声)

美智子「あら あら どうしたの?」

布美枝「お腹 すいたのかな? お尻 ぬれとる。」

キヨ「替えの おしめは?」

布美枝「そこの袋に。」

太一「ああ 俺が。」

布美枝「すんません。 今 替えるからね。」

美智子「藍子ちゃ~ん!」

(泣き声)

美智子「あ ご飯は?」

政志「後で食べる。」

布美枝「すいませんでした。 お食事の邪魔して。」

美智子「そうじゃないのよ。 あの人 藍子ちゃん見てるのがつらいのよ。」

布美枝「えっ?」

女「ちょっと! 誰か いないんですか!」

美智子「あ お客さんだ。 は~い!」

こみち書房

日出子「ちょっと!」

美智子「いらっしゃい!」

日出子「これ どういう事かしら? うちの子が読んでたんですけど これ お宅のですわよね!」

美智子「ええ。」

日出子「先日 申し入れたはずですよ。 低俗な貸本漫画は 子供に貸すのは やめるように。」

美智子「あ…。」

回想

日出子「下品で どきつくて 陰湿で うちの子供には 絶対に 読ませたくありませんわ。 小中学生に貸本漫画を 貸し出さないよう 要望します。」

回想終了

美智子「この間の 抗議団体。」

日出子「あなた 神妙な顔して 『承知しました』なんて 言っておきながら どういう事ですの? こんな漫画 子供に貸すなんて。」

キヨ「お言葉ですけどね 坊やが 借りたいって 言ったから 貸したんですよ。 嫌がるものを 無理やり 押しつけやしまいし。」

布美枝「『悪魔くん』だ。」

美智子「おばあちゃん。」

キヨ「おとなしく 頭下げる事ないよ。 そんなに嫌なら 子供が うちに来ないように しっかり しつけるのが 親の務めじゃないんですか?」

日出子「子供が借りたがっても 貸さないのが 良識ある 大人じゃございませんの! よりによって こんな愚劣で 汚らわしい漫画。 魔法だか何だか 内容も でたらめで いかがわしく 低俗そのものですわ!」

太一「ちょっと おばさん!」

布美枝「太一君!」

太一「でたらめだとか いかがわしいとか ちゃんと 読んでから 言ってんですか?」

日出子「何なの? あなた。」

太一「俺は もう 10回は 読んだけど どこが でたらめか 分かんねえな。」

日出子「いいわねえ いい年して 漫画なんか読むなんて。 うちの子には あなたのような 教養のない大人に なってほしくないの。」

布美枝「ちょっと それは…!」

美智子「奥さん 聞き捨てなりませんね。」

日出子「何なのよ!

美智子「うちの事は ともかく うちの お客さんをバカにしたり 本を 悪く言われる筋合いは ありませんよ!

日出子「まあ 客に対して その態度! 失礼ね!」

美智子「そちらこそ!」

日出子「こんな店 親が団結すれば いつでも どうにでも できるんですからね!」

キヨ「おや 脅迫する気かい。」

日出子「何なの!」

(藍子の泣き声)

布美枝「藍子! あっ! 藍子?!」

政志「どうした? 今の声!」

美智子「藍子ちゃん 土間に 落っこって!」

政志「何やってんだ。 頭 打ってねえか? 医者 連れていこう 救急車だ!」

布美枝「大丈夫です。 けがはしてないです。」

政志「バカ! 後で 何かあったら どうするんだよ!」

キヨ「こういう時はね すぐに動かしちゃダメなんだよ。」

政志「けど 赤ん坊は 自分じゃ説明できないんだから。」

キヨ「落ち着きな。 落っこって すぐに 大声で泣いたんだから まずは 大丈夫なんだ。 どれ 見せてご覧。」

日出子「ちょっと! こっちの方は どうしてくれるんですか?」

政志「うるせえ! とっとと帰れ!」

日出子「まあっ!」

(泣き声)

政志「大丈夫か?」

田中家

美智子「よかったわね けがなくて。」

布美枝「お騒がせして すいませんでした。」

キヨ「お陰で 小うるさい客が 退散してくれたよ。 あ あれは 政志が どなったからか。」

布美枝「でも びっくりしました。 藍子の事 あんなに 心配してくれるなんて。」

キヨ「あの… 子供が ちょうど 藍子ちゃんぐらいの時に 政志 兵隊に取られてね。 戦争が終わってからも すぐに 日本には 戻ってこれなくて。 復員してきた時に 子供は もう…。」

回想

キヨ「疎開先で 腸チフスにかかってね。」

回想終了

美智子「シベリアにいたのよ。 収容所に。 戦争終わってから 3年半も。」

キヨ「子供に会うのを励みみ 苦しい中 生き延びてさ やっとの思いで 復員してきたら…。 政志も がっくりきただろうよ。」

美智子「今でも つらいみたいなの 赤ちゃん見るの。 出征前に 最後に抱いた 子供の事を思い出してね。」

布美枝「そうだったんですか…。」

靖代「聞いたわよ ちょっと!」

徳子「また来たんだって? あの圧力団体!」

和枝「今度 来たら 追っ払ってやろうか! 」

ミチコ「やめてよ 余計ややこしくなる。」

3人「藍子ちゃん かわいい!」

キヨ「うるさいのが やって来た! あたしゃ 退散だ! どっこいしょ。 店番だよ。」

3人「うわ~! かわいい!」

(小鳥の鳴き声)

水木家

玄関

布美枝「ただいま~! お兄さん?」

居間

布美枝「あ~ いらっしゃい!」

雄一「あ~ どうも。」

布美枝「あれ? お一人ですか?」

雄一「ええ。」

布美枝「お姉さんや 波子ちゃん達は?」

雄一「風呂もらいに来たんじゃ ないんですよ。 今日は ちょっと 相談事があって。」

布美枝「ああ…。」

布美枝「え? 会社が倒産?」

雄一「うん。」

布美枝「けど お兄さんのとこは 金属加工の会社で 今は 調子がええって…。」

雄一「う~ん。 好景気に浮かれて 無計画に増産した結果が 大量在庫 抱えての倒産ですわ。 ねえ…。 『競争に勝つためとはいえ 背伸びしちゃ 会社は 長続きせん』と 上に進言したんだがね。」

茂「これから 大変だな。」

雄一「いや~ 倒産も多いが 求人も多いからな。 またすぐ 決まるだろ。」

茂「うん。」

雄一「しかし ちょっと ここ1か月 2か月が厳しいわな。 次が決まるまで 少し真空地帯ができるから。」

茂「うん。 ちょっこし 融通できんか?」

布美枝「え?」

(雄一と茂の笑い声)

布美枝「あっ! 藍子が泣いとる!」

茂「えっ? いや 泣いとらんぞ。」

布美枝「泣いとりますよ。 ちょっと 見てきます。」

雄一「どうぞ。」

茂「え? おい おい! ちょっと 待っとってくれ!」

雄一「おう。」

2階

布美枝「もうっ!」

茂「おい!」

布美枝「お兄さんのところが大変なのは よく分かりますよ。 けど うちだって 藍子がおるんですから。 そんな余裕ありません。」

茂「向こうは 育ち盛りが 2人おるんだ。 困っとるのを ほってもおけんだろ? こっちも 兄貴には いろいろ 世話かけとるし。 『悪魔くん』の第2作目が 描き上がれば 金も入ってくるけん。 少し都合つけてくれ。」

布美枝「(ため息)」

玄関前

雄一「じゃあ しばし拝借。 兄弟は 持ちつ持たれつで やっていかんとな。」

茂「おう。」

雄一「すぐ 返すから。」

茂「できた時で ええぞ。」

雄一「おう。 茂!」

茂「うん。」

雄一「漫画 しっかりやれよ!」

茂「おう!」

布美枝「どっちが お金 貸したんだか 分からんわ。」

茂「あの 悠揚迫らざる態度が 兄貴の 大物なとこかもしれんな。」

布美枝「はあ~。」

茂「さあ 張り切って仕事するか。 2冊目 早こと描き上げんとな。」

<ところが それから数日して…>

居間

布美枝「ちょうど今 原稿 持って そちらに 伺うとこだったんですよ。」

茂「あれ? 原稿 取りに 来てくれたんですか?」

戌井「水木さん。 申し訳ない。」

布美枝「戌井さん?」

茂「どげしました?」

戌井「勝手な お願いに上がりました。 『悪魔くん』 次の3冊目で 終了させて下さい。」

茂「え?!」

戌井「申し訳ない。」

茂「打ち切りという事は 1冊目の売れ行きが よくなかったという事ですな?」

戌井「発売して 1か月半 大体の結果が 見えてきました。 2,300部 取り次ぎに納品して 実は もう 半分近く 返品されてきました。」

茂「えっ?」

(お茶をこぼす音)

布美枝「あっ! すいません。」

戌井「恐らく 最終的には 6割近く 返品されるのではないかと。」

茂「それでは 話になりませんな。 あんた 制作にかかった金は 払えるんですか?」

戌井「待ってもらいます。 まだギリギリ なんとか持ちこたえてますが…。 このまま シリーズを続けて 赤字が膨らんだ場合は…。」

茂「うん とても立ち行かんな。」

<茂と戌井が 精魂 傾けて 世に送り出した『悪魔くん』は 無残なまでの 大失敗となったのでした>

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