ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第70話「連合艦隊再建」

あらすじ

「悪魔くん」の失敗は村井家の家計をさらに圧迫することとなった。茂(向井理)には、もう質入れする物もなく、本格的な生活の危機が近づきつつあった。茂は八百屋で熟しきって値下げになったバナナを買って帰ると、布美枝(松下奈緒)に戦時中のラバウルでのバナナの思い出を語りながら、夫婦でそれを食べる。浦木(杉浦太陽)は、茂に「貸本漫画に見切りをつけて業界新聞の片隅に載る漫画に乗り換えてはどうか」と、もちかける。

70話ネタバレ

戌井家

玄関前

戌井「昨日 有り金 全部 印刷屋に 持ってかれてしまって。 すっからかんです。 暮れまでには 必ず なんとかしますから。」

茂「よろしく頼みます。 うちも 少しぐらいないと 年が越せんですから。」

戌井「ほんとに申し訳ないです。」

茂「あいつ やっぱり ここにも…。 あ…。」

質屋

亀田「おう 村井さん しばらくじゃないの。」

茂「どうも…。」

亀田「最近 質入れに 来ないところ みると もうかってんのかい?」

茂「もう 質入れするものが ないんだよなあ…。」

亀田「早く請け出しに来ないと いろいろ流れちゃうよ。 奥さんの着物も そろそろ危ないんだよ~!」

果物屋

果物屋「はい 毎度!」

(お腹の鳴る音)

茂「バナナ… 最後に食ったのは いつだったかなあ。」

(売り込みのかけ声)

茂「あれは!」

水木家

玄関

茂「帰ったぞ。」

布美枝「お帰りなさい!」

茂「ほれ バナナ買ってきたぞ。」

布美枝「バナナですか? という事は… しっかり 頂けたんですね 原稿料!」

茂「いや。 金は もう少し後だ。 『暮れまでには なんとかする』と 言っとったよ。」

居間

布美枝「ほんなら なして バナナ?」

茂「聞いて驚くなよ。 これで100円だ!」

布美枝「あっ!」

茂「ヘヘヘ うまそうだろ?」

布美枝「腐っとるじゃないですか…。」

茂「果物屋のおやじと交渉して 100円に まけさせたんだ。」

布美枝「(小声で)お父ちゃん おかしくなったんだろうか…。」

茂「うん…。」

布美枝「あ お腹こわしたら どげするんですか!」

茂「何 言っとるんだ。 うまいぞ お前も食え。」

布美枝「え…。」

茂「バナナは これくらい熟しとる方が うまいんだ。」

布美枝「けど…。」

茂「ええけん 食ってみろ。」

布美枝「あれ… おいしい。」

茂「な? うまいだろう。」

布美枝「甘いですね… 口の中で とろけるみたいだわ。」

<この頃 バナナは とても高価で ふだんは なかなか口にできない 憧れの果物だったのです>

茂「これが100円とは まさしく天の助けだな。」

布美枝「知らなかったなあ 茶色くなったバナナが こんなに おいしいとは…。」

茂「バナナの事なら 果物屋のおやじより 俺の方が 詳しいわ。 戦争中 南方で さんざん食ったけんなあ。」

布美枝「ええ。」

茂「バナナ パパイア 紫イモ…。 現地の人と 一緒に よう食ったもんだ。」

布美枝「現地の人と一緒に?」

茂「ああ。 腕を やられた後な 前線を退いて 作業班に入っとったんだが その時 現地の人と仲よくなって 集落に遊びに行っとったんだ。」

布美枝「そげな事して 叱られんのですか?」

茂「そりゃもう 見つかるたんびに どなられて ビンタの嵐だ。」

布美枝「ビンタの嵐!」

茂「軍隊という所は やたら 人を殴るけんなあ。」

布美枝「ああ 恐ろしい…。」

茂「南方の村の人の暮らし 楽しそうだったなあ! みんな優しい ええ人達で。 ある時な マラリアが再発して 40度を超える熱が 続いた事があったんだが…。」

回想

兵士「おい まだ残っとるぞ。 もう 食わんのか?!」

軍医「これは いかんな。 大食らいの村井が 残すようじゃ 助からんだろう。」

茂<仲よくしとった トペトロという子供が 様子を見にきてくれたんだ。>

茂「ありがとよ。 うまい…。」

回想終了

茂「トペトロは 毎日 バナナやパパイアを届けてくれて お陰で メキメキ回復したぞ。」

布美枝「ほんなら その子供とバナナが お父ちゃんの命の恩人ですね。」

茂「うん。 それに 俺には 自信があった。」

布美枝「自信?」

茂「絶対に生き抜くという自信だけは 残っとった。 それが バナナを食う力に なったのかもしれん。」

布美枝「絶対に生き抜く…。」

茂「ほれ 食え。 これでよければ また買ってきてやる。」

布美枝「…はい。」

<熟したバナナは ねっとりと甘く 南国の香りがしました>

玄関前

浦木「はあ 何で俺が 荷物持ちなんか…。」

はるこ「浦木さん ほら 早く。」

浦木「は~い。 ヘヘヘ!」

居間

2人「うわ~!」

布美枝「かに缶 さけ缶 鯨の大和煮 あ みかんの缶詰もある。」

茂「うまそうだなあ!」

はるこ「これ全部 パチンコ屋さんの景品です。」

茂「え? あんた まさか 勤め先の パチンコ屋から失敬してきたんじゃ…。」

浦木「レディーに向かって失礼な。 だが これだから 貧乏人は疑り深くて困るよ。」

茂「うるさいな。」

はるこ「浦木さんとの打ち合わせの前に 少し時間が空いたから パチンコ屋さんに入ったら これが 大当たり! 元手100円で 大収穫です。」

布美枝「100円で こんなに?」

茂「あんた 名人だなあ。」

はるこ「店に持って帰ったら それこそ 景品ちょろまかしたのかって 疑われそうだし 先生の所に お持ちしようと思って。」

布美枝「ええんですか? こんなに。」

はるこ「元が100円ですから。」

布美枝「近頃 100円づいとるわ…。」

はるこ「え?」

布美枝「あ いえ ありがとうございます。」

茂「ほんなら 遠慮なく。」

はるこ「私も お邪魔したかったんです。 藍子ちゃんの顔見て 元気をもらおうかなあ なんて。」

布美枝「何か ありました?」

はるこ「ちょっと 落ち込んでます。 売り込み… ずっと黒星続きなんです。」

茂「うん…。」

はるこ『何度行っても 何回 描き直しても ダメなんです。 何だか 人間扱い されてないような気がして…。』

浦木「ほら ごらんなさい。 『あんな写真 お守りにしるな』って 言ったじゃないですか?」

茂「写真?」

布美枝「お守り?」

はるこ「あ 何でもないんです! 余計な事を!」

浦木「俺 その目に弱いのよ。」

茂「確かに 貸本から 雑誌に採用される人は 数えるほどしか おらんですからなあ。」

はるこ「やっぱり 私には 無理なのかな…。」

茂「しかし こういう時こそが 漫画家魂のみせどころですよ。」

はるこ「え?」

茂「注文がなくとも 相手にされなくとも 描き続けねばならん。 描く事を やめたら 漫画家は おしまいです。」

はるこ「漫画家魂か…。」

浦木「心配いりませんよ。 あなたは まだ若いんですから。 少女漫画だって まだまだ これからの分野です! 成功するチャンスは 幾らでも ありますよ。」

茂「うん お前 たまには まっとうな事 言うな。」

浦木「だろう?」

(藍子の泣き声)

布美枝「目 覚ました。 あ ちょっと 2階で おしめ替えてきます。」

はるこ「じゃあ 私も一緒に。」

布美枝「はい。 はい 一緒にね。」

(藍子の泣き声)

布美枝「ハイハイハイハイ! よいしょ。」

浦木「はるこさんは 俺がいるから いざとなったらね 大丈夫だとしてだ。 ゲゲ。 お前 どげすんだ?」

茂「え?」

浦木「将来について 真剣に 悩まなきゃならんのは お前の方だぞ。 40過ぎてから売れだした 漫画家なんぞ 俺は見た事がない。 今までやって… 芽が出なかったんだ。 この先も 日の当たる見込みは ないだろうよ。」

茂「嫌な事 言うな。」

浦木「長年の友として お前の身を案ずればこそ 言いにくい事も言ってんだせ? どう あがいても 貸本漫画は もうダメだ。 紙芝居が壊滅した時の事 忘れた訳では あるまい。 新機軸でも考案せん事には この先 生きていけんぞ。」

茂「何だ 新機軸って?」

浦木「俺に 1つ アイデアがある。 教えてやろうか?」

茂「もったいぶらんと 早こと言え。」

浦木「しかたねえなあ。 特別大サービスだ! ただで教えてやる。 …が もうかったら そのかわり こっちにも還元しろよ!」

茂「まずは 話を聞いてからだ。」

浦木「おう。 昔 面倒見てやった漫画家の中に 業界新聞で 漫画を描いとる奴がおる。 これが 大成功らしい。」

茂「業界新聞?」

浦木「鉄鋼新聞 繊維新聞 建築新聞 パチンコ新聞。 そういう専門の新聞の中に ちょっとした漫画が載っとるだろ。」

茂「ああ。」

浦木「1つ描くと 同じものが 10紙にも 20紙にも 載るらしい。」

茂「ふ~ん。」

浦木「紹介してやるから 一度 会って 話を聞いてこい。」

茂「業界新聞か… いや 俺は ええ。」

浦木「ええ事あるか。 食うや食わずなら まだしも このままいけば 食わず食わずになるぞ。 会って 教えを講うてこい。 うまくすれば 仕事のおこぼれに あずかれるかもしれんぞ。 ほら 住所 書いてきてやったぞ。 ああ もう 恰好つけとる場合か! 漫画家魂なんかで おまんまは 食えないぜ。」

2階

はるこ「大きくなりましたねえ。」

布美枝「ミルクも よう飲むし 離乳食も たくさん食べるし お父ちゃんと藍子 うちには 食いしん坊が 2人もおって 大変だわ。」

はるこ「あっ そうだ。 新聞に おいしそうな 離乳食の記事が載ってたんで 切り抜いてきたんです。」

布美枝「あら。 あ これ この間の写真…。」

はるこ「あ 別に 深い意味は ないんです。」

布美枝「え?」

はるこ「これは その… え~と…。」

浦木「はるこさ~ん! そろそろ 失礼しませんか?」

はるこ「は~い 今 行きます。 藍子ちゃん またねえ。」

布美枝「ああ。」

<はるこの慌てた様子が 何だか 妙な感じに思えました>

居間

布美枝「『さけのクリームスープ』か。 頂いた さけ缶使えて ちょうどええかな。」

回想

浦木「ほら ごらんなさい。 『あんな写真 お守りにするな』って 言ったじゃないですか。」

回想終了

布美枝「お守りって あの写真の事?」

回想

浦木「将来について 真剣に悩まなきゃならんのは お前の方だぞ。」

回想終了

茂「業界新聞か…。」

布美枝「藍子 危ないよ。 お父ちゃん ちょっと お願いします。」

茂「おい 藍子。」

(藍子の声)

茂「藍子も 頑張っとるなあ。」

布美枝「ん?」

茂「ふらふらしながら 立とうとしとるぞ。」

布美枝「どげしたら 歩けるのか いろいろやって 試しとるんですね。」

茂「いろいろやって か…。 俺も 話だけでも 聞きに行ってみるかな…。」

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