ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第71話「連合艦隊再建」

あらすじ

茂(向井理)は浦木(杉浦太陽)からのアドバイスで、戌井(梶原善)と一緒に業界新聞向けの漫画を描く人間の仕事場を訪ねる。しかし、そこには茂とまったく変わらない貧しさがあるだけだった。茂は漫画の表紙だけを美男美女の絵で飾り、内容は今までどおりの恐ろしいタッチのものにして、少しでも売れるよう工夫をする。布美枝(松下奈緒)は、あてにしていた戌井からの原稿料が入らずに落ち込む。

71話ネタバレ

水木家

布美枝「あ~! あ~ 冷たい。」

茂「あっ 大根干しか。」

布美枝「そこの農家で 売り物にならん ヒネ大根 分けてもらったんです。 これだけあったら 冬の間中 たくあんには 不自由せんですね。 (くしゃみ)」

茂「なにも こんな寒い日に やらんでも ええだろうに。」

布美枝「いえいえ 『大根は 北風の吹く時に干すけん 甘くなるんだ』って おばばが 言っとりました。 冷たい風が甘くするんだそうです。」

茂「ふ~ん なるほどな。 ほんなら 行ってくるわ。」

布美枝「行ってらっしゃい!」

亀戸

茂「この辺りのはずだがなあ。」

戌井「亀戸西3丁目6番…。 ここじゃないですか?」

茂「え~ おかしいなあ。 こんな 崩れかかった下宿屋のはず ないんだが…。」

戌井「ですよね。」

戌井「やっぱり ここじゃないですかね?」

茂「あの~。」

只野「さあ どうぞ おかけなさい。」

茂「失礼します。」

戌井「お邪魔します。」

只野「私も 少し前までは 貸本漫画をやってましたが あのギャラの安さは 人間に支払う額ではありませんな。 ハハハ!」

茂「はあ。」

只野「そこで 熟考に 熟考を重ねたのです。 頭は 金もうけを考えるために ついているのですからね。 その点 私は 浦木さんと 同意見でして。」

茂「なるほど。」

(物が落ちた音)

只野「思いついたのが 業界紙を 攻略する事です。 ほら ここにも ここにも ここにも 同じ漫画が 使われているでしょ? 業界が違えば 読者も違いますから 一つのネタで 何紙にも使えるんです。 こうれが もうける秘けつですよ。」

只野「漫画は 刺身のツマ以下の扱いですが 気にする事は ありません。 金になるのですから。 新聞の読者に 漫画に対する愛情や 理解が 一かけらもなくても 関係ないのです。 もうければ 勝ちですからね。 お茶でも 入れましょう。」

戌井「いえ 結構です。 行きましょう。」

只野「今は まだ あなた達に 分けるほどの 仕事量はありませんが いずれ 大きな利益を生み出しますよ。 ハハハハハハ!」

茂「そうですか いや 結構なアイデアだ。 あんた 大したもんですな ハハハ!」

只野「貸本漫画なんか 早く見限って こっちの世界へ いらっしゃい。」

茂「あの男 すっかり 貧乏神に取りつかれとるな。」

戌井「え?」

茂「いや…。」

戌井「はあ~。 去るも貧乏 残るも貧乏か。 どっちに行っても 貧乏には 変わりありませんね。」

茂「浦木の話など まともに 聞くんじゃなかったな。 すまんだったですね ムダな時間 使わせて。」

戌井「状況は 悪くても 貸本漫画だけで ふんばっていられる 我々の方が まだ ましだって事が よく分かりました。 刺身のツマ以下の扱いは 受けたくありませんから。」

茂「しかし なんとか 工夫をせんと こっちも 行き止まりですわ。」

戌井「ああ…。」

茂「少女漫画は まだ どうにかなるようだが 俺は どうも 苦手だし。」

戌井「だったら こういうのは どうですかね? 中身は 今までどおり 水木さんの漫画で カバーだけ 女性受けするように 美男美女を 描くっていうのは?」

茂「なるほど。 看板だけ 掛け替える訳ですな。」

戌井「ええ。」

茂「ところで この前の原稿料は どげな具合ですかね。」

戌井「ああ すいません いつも お待たせして。 1週間後には きっと なんとか。」

茂「頼みます。」

(風の音)

茂「おう~! 冷たい風に吹かれて 漫画も うまみが出るなら ええんだがな。」

戌井「えっ?」

茂「いや…。」

一週間後

水木家

仕事場

布美枝「お父ちゃん。」

茂「ん?」

布美枝「戌井さん所に お金 頂きに行ってきます。」

茂「ああ。」

布美枝「あら! きれいな絵! このお侍さん 錦之助みたい。 こっちの美人は 丘さとみ? お父ちゃん 美男美女も 描けるんですね?」

茂「何を言っとるんだ? その気になれば 何でも描けるぞ。」

布美枝「ほんなら 行ってきます。」

茂「おう。」

<茂は 戌井のところで 時代漫画を描き始めました。 カバーは 美男美女でも 中身は このとおりの 怪奇漫画です>

戌井家

居間

(タイプを打つ音)

早苗「恵美! 輪っか 赤ちゃんに ぶつけないように気をつけてよ。」

恵美「うん。」

早苗「お待たせして ごめんなさいね。 もう 戻ると思うんですけど。」

布美枝「はい。 奥さん 内職ですか?」

早苗「ああ。 これ 漫画のネーム。 セリフを打ってるんです。 写植に出すと高いから 私がタイプで打ったのを 貼り込んで 間に合わせてるの。」

布美枝「あ~。」

早苗「こういうとこで 節約しないと やっていけないのよ。 うちの人 売れない漫画ばっかり 作ってるから。 いけない。」

布美枝「申し訳ありません。」

早苗「嫌だ! 水木さんの事じゃありませんよ! まあ あれが 一番 売れなかったけど。」

布美枝「はあ…。」

早苗「私 漫画の事は よく分からないんです。 でも 水木さんの事は 応援してるんですよ。 うちの人 よく言ってるわ。 『あんなに いい漫画が どうして売れないんだろう』って。」

布美枝「(くしゃみ)」

早苗「寒い?」

布美枝「いいえ。」

早苗「暖房費の節約のために うち ストーブは 夜しか つけない事にしてるんです。」

布美枝「あら うちと同じ!」

早苗「あら ハハハ! ごめんなさい。 今 あったまるものを作るから。」

布美枝「すいません。」

早苗「はい くず湯 何にもなくて 悪いけど。」

布美枝「いいえ いただきます。 はあ~! あったかい。」

早苗「お互い ストーブくらい 景気よく 焚けるようになりたいわね。 うちの人 ほんとに お金もうけが下手だから。」

布美枝「戌井さん 優しいですもんね。」

早苗「お人よしなのよね。 こんなに お金がないっていうのに 漫画家の卵の 若い人なんか訪ねてくると 何日か 居候させちゃうの。」

布美枝「あら まあ!」

早苗「漫画家さんが 片道の電車賃だけ 持って うちに来るでしょう。 帰り分は 原稿料を当てにして。」

布美枝「片道分の燃料だけ積んで まさに 特攻精神で。」

早苗「そうそう。 どうなに お金がない時でも 帰りの電車賃だけは 持たせなきゃいけないって 有り金 全部 持たせちゃうの。」

布美枝「面倒見がええですからね。」

早苗「世話好きなのよね。 でも それ以上に 漫画が好きなのよ。 あの人 漫画バカだから。 一生懸命 描いてる 若い人 見てると ほうっておけないんですって。 金のために 才能のある漫画家を つぶしちゃいけない。 だから 手を貸すんだって そういう事 言うの。」

布美枝「立派だなあ。」

早苗「ちょっと 恰好つけてるのよ。 あの人から 漫画とったら 何も残らないでしょ。 どうせ この先 一生 漫画とは 縁が切れそうもないから 貧乏とも 手が切れないって こっちも 覚悟 決めたわ。」

布美枝「私も覚悟しなきゃ。 お父ちゃんが 漫画 やめるなんて 絶対 考えられんもんなあ。」

早苗「戌井なんて その上 飲み代まで ひねり出そうとしますからね。」

布美枝「うちは 飲まない分 変な物に凝るんですよ。 模型で 連合艦隊を再建するって 張り切ったり。」

早苗「連合艦隊?」

布美枝「はい。」

早苗「もう 軍事予算がかかって 大変。」

(笑い声)

早苗「2人とも変な男よね。」

布美枝「ほんとに。」

早苗「フフフ!」

玄関

早苗「ムダ足させちゃって ごめんなさいね。 あの人 どこまで行っちゃったのかしら?」

布美枝「また 日を改めて伺います。 今日は これで。 (くしゃみ)」

早苗「ごめんなさい 寒い中で 長い事 待たしちゃったから 風邪 ひいちゃったかしら?」

布美枝「いいえ。 くず湯 ごちそうさまでした。」

早苗「お金 後で届けさせますからね。 必ず 届けさせますから。」

布美枝「はい。」

道中

布美枝「不動産屋さんの月賦でしょ 米屋のたまったツケと 電気代とガス代。 今日 お金を頂けなかったのは 大誤算だなあ。 電車賃 払ったら もう一文なしだ。 はあ~。」

<当てにしていた 原稿料が入らず 布美枝は 何だか 体から 力が抜けていくような 気がしました>

水木家

玄関前

布美枝「(ため息)」

布美枝「もう ええ頃かな。」

居間

布美枝「ただいま!」

茂「ご苦労さん 金もらえたか?」

布美枝「それが 戌井さんと会えなくて。」

茂「会えなかった?」

布美枝「お金を作るのに 駆け回っておいでで なかなか 戻ってみえんのです。」

茂「そげか…。」

布美枝「けど 後で 届けて下さると 奥さんが 約束してくれましたけん 明日には きっと。」

茂「あっちも 大変だな。」

布美枝「ええ。 すぐ ご飯の支度しますね。」

茂「うん。」

(倒れる音)

茂「どげした?!」

布美枝「何か 力が入らん。」

茂「おい! 熱があるな。」

布美枝「はあ~。」

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