ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第72話「連合艦隊再建」

あらすじ

茂(向井理)は、貧しさの極みのような暮らしに気持ちが弱り、ついに「漫画をやめようか」と漏らす。布美枝(松下奈緒)は、その言葉に驚き「この先もきっとなんとかなる」と茂を穏やかに励ます。茂はその言葉に勇気をもらい、追い詰められたような気持ちから救われる。戌井(梶原善)から支払われる原稿料は、全額に満たないわずかなものだったが、ともに漫画をあきらめずに頑張ろうと布美枝も茂も思うのだった。

72話ネタバレ

水木家

(木枯らしの吹く音)

居間

茂「具合 どげだ?」

布美枝「鼻風邪ですけん ちょっと寝たら 治ります。 さけ缶が 1つ残ってます。 晩ご飯 それで済ませて下さい。 ご飯は おひつにあります。」

茂「ああ 分かった。」

布美枝「(くしゃみ) えっと… 鼻紙。」

茂「どこにある? 取ってやろう。」

布美枝「すんません。 そこの棚の引き出しに。」

茂「あれ? ないぞ。」

布美枝「あ… いけん 切らしとった。 今日 お金が入ったら 買うつもりだったんですけど… 忘れてました。」

茂「ほんなら 買いに行くか。」

布美枝「ええです。 もう 暗いですし。」

茂「商店街の雑貨屋なら まだ 開いとるんじゃないか?」

布美枝「ええですって。」

茂「鼻水たらしとる訳にも いかんだろうに。」

布美枝「今… お金ないですけん。」

茂「鼻紙代ぐらいは あるだろう?」

布美枝「すんません。 戌井さんとこ行く 電車賃に使ってしまって 何にも残ってないんです。」

茂「そげか…。 漫画の紙だの 本だの 家の中に 紙は ようけあるのに 鼻紙がないとは これいかに おっ これならええか。」

(紙を もむ音)

茂「昔は 鼻紙切らしたら 書き損じで 鼻かんだもんだ。 ほれ ようもんだけん 柔らかいぞ。」

布美枝「あ… だんだん。」

茂「気ぃつけろよ。 うっかりすると 鼻の頭に 漫画の絵が 写し絵みたいに はり付くけんな。」

布美枝「えっ?!」

茂「嘘だ。」

布美枝「…もう。」

茂「ハハハ。 そうだ! みかんの缶詰あったろ? あれ 開けるか。 さっぱりしたもん食って ゆっくり寝ろ。 みかんは どこだ。」

布美枝「おいしいですね。」

茂「うん。」

布美枝「何年ぶりかな。 風邪なんかひくの。 私 丈夫に できてますけん めったに ひかんのですけどね。 結婚してからは 初めてかな。 ねえ お父ちゃん? …お父ちゃん?」

茂「なあ…。」

布美枝「はい。」

茂「映画の 看板描きにでもなるか。 やめるか! 漫画。 鼻紙一つ買えんのでは もう どうにもならんな…。」

布美枝「お父ちゃん…。 何 言っとるの?」

茂「『40過ぎてから売れ出した漫画家は おらん』と この前 浦木が言っとった。 あいつの言うとおりかもしれんな。 ここまでやって 芽が出んのでは この先も 日の当たる見込みは ないと 思った方がええ。」

茂「は~… この年で 仕事探すのも難しいが 看板描きの口ぐらいなら あるだろう。 早こと食って 寝ろ。 風邪ひいた時は 寝るのが 一番の薬だけんな。」

布美枝「はい…。」

<それは 布美枝が 初めて聞く 茂の弱気な言葉でした>

仕事場

茂「美男美女か… 俺らしくないなあ。」

居間

回想

茂「映画の 看板描きにでもなるか。 やめるか! 漫画。」

回想終了

布美枝「お父ちゃん 本気で言っとるんだろうか…。」

(物音)

仕事部屋

茂「ああ 起こしたか? 具合 どげだ?」

布美枝「もう 大丈夫です。」

茂「おい 鼻水 たれとるぞ。」

布美枝「えっ?」

茂「フフフ…。」

布美枝「もうっ。」

茂「どこまで出来ました?」

布美枝「虫眼鏡 持ってきましょうか?」

茂「ああ。」

布美枝「はい。 (くしゃみ)」

茂「あっ!」

布美枝「部品が…。」

茂「う 動くな! まずは 冷静に 被害状況の確認だ。 ひい ふう みい… 一つ 吹き飛ばされとるな。」

布美枝「大変! ちょ ちょ ちょっと。」

茂「おお~。」

布美枝「ないですねえ。」

茂「マリアナ沖海戦 レイテ沖海戦と 戦った戦艦が まさか 母ちゃんのくしゃみ 1発で 撃沈とは… は~。 おっ あったぞ!」

布美枝「え?」

茂「じっとしとれ。 お前の尻に ついとる。 ほれ。」

布美枝「なして こんなとこに。」

茂「また 吹き飛ばされる前に 組み立てるか。」

布美枝「はい。」

茂「よし… これでええな。」

布美枝「お父ちゃん…。」

茂「何だ?」

布美枝「お父ちゃんの 言ってたとおりですね。」

茂「え?」

布美枝「夢中になって作っとると だんだん 気持ちが晴れてくる。」

茂「ああ。」

布美枝「私も 模型作りが 好きになったのかな。 それとも… お父ちゃんと一緒に作っとるから 楽しいのかな。 私… 一緒に やっていきますけん。」

茂「え?」

布美枝「お父ちゃんは 強い人だけん。 今まで 腕一本で 何でも やってきたでしょ? 弱音も吐かんし 愚痴も言わん。 けど 今は 私の腕と合わせて 3本 ありますけんね。 3本でやったら… この先 きっと… なんとかなります。」

茂「もう遅い 寝ろ。」

布美枝「もうちょっと。 これ 仕上げるまで やりましょ。」

茂「そげか…。 よし! もう一息 一緒にやるか?」

布美枝「はい。」

玄関

戌井「昨日は 奥さんに 待ちぼうけ食わせてしまって どうも すみませんでした。 あの… これ 遅くなりましたけども 原稿料です。」

茂「はい。」

布美枝「よかった。 助かります。」

戌井「いや そう言われると…。 実は また 全額 そろえられなくて…。 でも 年内には なんとか…。」

茂「無理せんで ええですよ。」

戌井「いや でも…。」

茂「寒い中 あちこち走り回って あんたも大変でしょう。」

布美枝「これだけあったら うちの方は なんとかなりますけん。」

茂「ほら 大蔵省も こう言っとるんで 残りは また来年 次の漫画の打ち合わせの時にでも 頂きますよ。」

戌井「すみません。」

玄関前

戌井「それじゃ また…。」

布美枝「戌井さん!」

戌井「はい。」

布美枝「大根 少し 持っていきませんか?」

戌井「大根?」

布美枝「ちょうど 干し上がりましたけん。」

戌井「ああ。」

布美枝「風の強い日が続いとったんで おいしくなってると思いますよ。」

戌井「え?」

布美枝「冷たい風は 大根を 甘くするって言いますから。」

戌井「あ そうか… この間 水木さんも 同じ事 言ってました。」

布美枝「あら そげですか?」

戌井「『冷たい風に吹かれて 漫画も強くなる』か…。」

布美枝「はい どうぞ。」

戌井「奥さん 来年こそ もっと いい年にしましょうね。 きっと そうなります。」

布美枝「ええ。 どうぞ よいお年を!

戌井「よいお年を! 頂きます。 『冷たい風に吹かれて 漫画も強くなる』か…。」

布美枝「よし 今日は たくあんでも漬けるか!」

<それから数日 暮れも押し詰まった ある日…>

2階

布美枝「ゴホン ゴホン。 あっ! おばば 今年も なんとか 乗り切ったよ。 藍子も 無事に育っとる。 いつも見守ってくれて だんだん。」

茂「お~い お母ちゃん。 ちょっと来てくれ。」

布美枝「今 すす払いしてますけん!」

茂「ええけん ちょっと下りてこい!」

布美枝「は~い。 もうっ… 忙しいのに。 いちいち 呼びつけんで 自分で 上がってきたらええのに…。」

居間

布美枝「なんですか? 今日中に すす払いせんと いけんのに…。」

茂「今から 進水式を始めるぞ。」

布美枝「え?」

茂「ほれ。」

布美枝「あ~… 海だ!」

茂「うん。 金剛だ!」

布美枝「うわあ…。」

茂「うん。 なかなか 感じ出とるなあ。」

布美枝「海も戦艦も 本物みたい。」

茂「これで 戦艦も数が増えると もっと見事になるぞ。」

布美枝「次は 何 作りましょう?」

茂「そげだな 空母でも 1隻いくか。 まだまだ 再建までの道は 遠いぞ。」

布美枝「楽しみが いっぱいあって ええですねえ。」

茂「ああ。」

藍子「アッ アッ ア…。」

布美枝「あっ!」

茂「ん?」

布美枝「歩いとる…! お父ちゃん 歩いとる!」

<藍色の海に向かって 藍子が歩きだしていました>

茂「よ~し。 藍子!」

布美枝「よう 歩いたなあ。」

<吹く風は まだ冷たいけれど 茂がいて 藍子がいて 布美枝の気持ちは 温かでした。 布美枝 もう一息 頑張~なさいよ!>

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