ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第74話「初めての里帰り」

あらすじ

布美枝(松下奈緒)は、かつて「少年戦記の会」の騒ぎで茂(向井理)を振り回した富田(うじきつよし)と、「こみち書房」で偶然に再会する。富田は、茂にもう一度会いたいとの思いから、村井家を訪ねようとするところだった。経営していた出版社が倒産して以来、富田は小さな印刷会社で製本の作業員をして暮らしていた。わずかな額の金を茂に渡して去っていく富田。布美枝は藍子とともに、初めての里帰りに出発する。

74話ネタバレ

すずらん商店街

布美枝「こんにちは!」

和枝「いらっさい!」

徳子「あら 藍子ちゃんは?」

布美枝「今日は お隣さんに お願いしてきました。 いろいろ 買う物もあるし。」

靖代「そういう時は いつでも うちの番台 連れてらっしゃいよ。 いつだって 預かってあげるわよ。 はい みかん。 甘いよ。 これ。」

布美枝「ありがとうございます。 あ そういえば 東京のお土産って 何がいいでしょうか?」

靖代「お土産 持って どこへ行くの?」

布美枝「藍子 連れて 里帰りです。」

<結婚生活をスタートして 3年半 初めての里帰りが決まりました>

こみち書房

布美枝「あれ?! あの… 富田さん?」

富田「え…。」

布美枝「やっぱり! 私 村井の… あ 水木しげるの家内です。」

富田「水木さんの奥さん?! や~! こりゃ 何とも とんでもない所で! あ いや… いやはや 面目ない。 ああ! 痛っ!」

日出子「何ですか! もう!」

女「日出子さん 大丈夫?」

日出子「もう ねえ!」

キヨ「また来たよ あの連中! 今日は 何のご用ですか?」

日出子「商店街の皆様に これを お配りしてるとこですの。」

キヨ「何 これ?」

美智子「こんなの 店の前で配ったら 営業妨害じゃないですか。」

日出子「こういう 低俗な漫画は 貸し出し 差し止めにして頂きたいですわ。 子供の心を ゆがめ 健全な成長を妨げ ひいては 日本の品位を汚すもとです。」

布美枝「そんな!」

日出子「私達は 俗悪漫画一掃のため 断固 戦います。」

市民団体メンバー「俗悪漫画 撲滅! 不良図書から 子供を守れ~!」

富田「ちょっと あんたら! いい加減な事を言うな! 何が低俗だ! 何が健全な子供の成長だ! 漫画の事など 何も知らんくせに!」

日出子「何ですの あなたは?!」

富田「貸本漫画を なめるな!」

日出子「ちょっと!」

水木家

居間

富田「いや~ 奥さんに ばったり出くわしちゃったんで つい 逃げ出そうとしたんだけれども 水木さん 私 あなたに 会いに来たんだ。 それで 貸本屋の前を 通りがかって つい 懐かしくなって ふらふらっと。 読んだよ 『悪魔くん』。 ありゃ いいねえ。 うん!」

布美枝「どうぞ。」

富田「はあ どうも。 あ~!」

茂「あれから どうしとったんですか?」

富田「まあ そりゃ いろいろとね。 ほら 何せ 借金取りから 逃げなきゃならないだろ。 今は 五反田の小さな印刷会社で 製本の作業員をやってる。 毎日 紙を触ってるとさ こんなに 手がガサガサで あかぎれが できちゃうんだけども。 それでも 他の仕事よりは 楽しいんだよ。 本を扱う仕事だからね。 これ。」

茂「何ですか?」

富田「幾らもないんだけど…。 あなたには 一番 迷惑をかけた。 だから 金ができたら 少しでも 返そうと思って。」

布美枝「あの。」

富田「はい。」

布美枝「上着 貸してもらえませんか?」

富田「え?」

布美枝「ボタン 取れそうです。 つけ直しますけん。」

富田「あ~ あ! これ?」

富田「いや 私がね 漫画の版元 始めた頃は そりゃ いい時代だったよ。 何を出しても バンバン売れてさ。 ジャンジャン もうかって 事務所も借りて 人も雇ってさ。」

富田「それから 漫画家の先生に 原稿料 支払う日なんかはさ 机に こう バ~ンと 札束 積み上げてさ。 ハハハ! それで どっかで 取り違えてしまったんだね。 漫画は 金もうけの道具としか 見れなくなった。」

茂「出版も 商売ですけん。 もうけなけりゃ どうにもならんですよ。」

富田「私ね 戦争前は 保険の営業やってたんだよ。 だから 文学だとか 芸術だとか 高級な事は よく分からんし だから 漫画 見る目も ほんとは これっぽっちもありゃしないんだ。 きっかけはね 戦後の闇市だった。露天商がね 地べたに こう ゴザを広げて どっから 集めてきたんだか 山のような漫画を積み上げて 売ってたんだよ。」

富田「そりゃ もう すごい人だかりでさ。 私も 必死になって 夢中になって こう 手ぇ伸ばして なけなしの金で 1冊 買った。 腹が減ってる事も忘れて 何度も 何度も 夢中になって読んだ。 戦争が終わった。 死なずにすんだ。 また 明日から生きていけるって 漫画 読んでてね しみじみ そう思ったんだよ。 ずっと 忘れてた。 私は 漫画が好きだったんだよ。 漫画が大好きだったんだよ!」

茂「富田さん。」

布美枝「ボタン つきました。」

富田「あ~ こりゃあ。」

布美枝「はい どうぞ。」

富田「ありがとう。」

(戸の開く音)

浦木「お~い ゲゲ おるか?」

布美枝「あら! 浦木さん?」

浦木「干物になっとらんか 見に来てやったぞ。」

富田「あんたは…!」

浦木「ん? どっかで見た顔だな。」

茂「お前… さんざん迷惑かけといて!」

浦木「誰だっけ?」

布美枝「富田さんですよ。」

浦木「富田? 富田ねえ…。 用事を思い出したな。 また来るわ。」

茂「は?」

富田「ちょっと待て! 浦木!」

浦木「あ~! 苦しい! 富田のおやじ!」

富田「座れ!」

浦木「あ… 痛っ! こいつ…。」

茂「お前は少しは 反省せえ!」

浦木「え?」

茂「富田書房が つぶれた責任の一端は お前にもあるんだぞ!」

浦木「そうかなあ? 俺は 戦記漫画の読者に 戦艦や 戦闘機の模型を売って もうけるという 画期的なアイデアを 提供してやっただけだぞ。」

茂「模型の制作費を値切って 浮いた分を自分のもうけに しとったろうが!」

浦木「手広く商売してるんで 明細までは 覚えとらんな。」

茂「ひどい奴だな お前は…。」

浦木「おい! さっきから さも俺が 得したように言っとるがな あの時は お前の惨めな戦記漫画が さっぱり売れんで お陰で 労せずして もうけるはずが むしろ 赤字になっ… いかん。」

富田「もういいさ。 今更 あんたを責める気には ならんよ。」

浦木「へ?」

富田「焦ってたんだな 私も。 昔みたいに もうけようとして…。 不肖富田! すべて 私の不徳の致すところです。」

玄関前

布美枝「富田さん! クリーム塗って寝るとええですよ。」

富田「え?」

布美枝「あ… 手。 寝る前に よくクリーム すり込むと 楽になりますから。 私も 水仕事で 手が荒れた時は そうしてます。」

富田「…奥さん。 お世話になりました!」

<茂とともに 貸本漫画の世界を 生きてきた人が また一人 去っていきました>

居間

浦木「8,000と500円か… しけてんなあ。」

茂「貧乏しとるようだ。 それだけ作るにも 苦労したんだろう。」

浦木「(ため息) やれやれ… お前 忘れた訳じゃなかろうな?」

茂「え?」

浦木「お前が食らった不渡りの額は 20万だぞ! 何だかんだで あの おやじには 他にも 相当 踏み倒されとるじゃないか。」

茂「うん…。」

浦木「はした金をもらって 同情しとるようじゃ 残りの金も 取りはぐれるね。」

茂『金ができたら また持ってくると言っとった。』

浦木「できるもんか 金なんか。 世の中 一度 貧乏になったら なかなか 抜け出せん仕組みに なっとるのよ。 どうだ? 俺が間に入って ひとつ 締め上げてやろうか?」

茂「いらん事するな!」

布美枝「よいしょ… ただいま~。」

浦木「しかし富田のおやじ… 毒気が抜けて すっかり 人が変わったな。」

茂「うん… 会社の倒産で 地獄を見たせいだろう。」

浦木「欲だけを支えに 生きとった人間が 欲を無くしちゃ おしまいだ。 あいつ 死に目が近いのもしれん。」

布美枝「ひどい。」

茂「そういや お前 何しに来たんだ?」

浦木「うん? たまに 友の顔を見に来ちゃ いかんのかね? 親友の子供の成長を 俺は 常々 気にかけとる訳よ。 わ~!」

(藍子の泣き声)

布美枝「あららら!」

浦木「奥さん 奥さん奥さん

布美枝「泣かんでも ええよ!」

茂「見ろ お前の邪悪さは 子供にも伝わる。」

浦木「じゃ 邪悪って?」

布美枝「人見知りが始まったんですかね? 子供には こういう時期がありますけん。 もうじき おじいちゃん おばあちゃんに 会うのに 人見知りじゃ 困りますよ。」

浦木「おじいちゃん? という事は 境港に帰るんですか?」

布美枝「私が 藍子を連れて。」

浦木「ほう~! よくまあ 里帰りする 金が できたもんですな。 あ! もしや 悪い金にでも 手をつけたんじゃない…。」

茂「だら! お前と一緒にするな! 昔 描いた漫画の原稿料が 入ってきたんだ。」

浦木「珍しい事もあるもんだな。 目の前で描いて渡しても なかなか 金を払わん 貸本業界で。」

布美枝「深沢さんが 新しく 版元を 始められたんですって。」

浦木「あ~ はるこさんが 最初に頼っていった 出版社の。」

布美枝「もう すっかり 元気になられて。」

茂「昔より 威勢よくなっとったな。」

布美枝「ええ。」

浦木「ふ~ん。」

茂「ん? 何を ニヤついとるんだ?」

浦木「いえいえ 何も。」

玄関前

浦木「いい話を仕入れたぞ。 深沢の復帰の事 はるこさんに 話したら きっと 喜んで…。」

妄想

はるこ「浦木さん ありがとう。」

妄想終了

浦木「う~わ! ヒヒヒヒ! 貧しい家でも たまに訪れると 収穫があるもんだ! しかし 奥さんの里帰りとなると あの家に ゲゲ1人。 う~ん。 万が一にも はるこさんが 接近せんよう 用心せんといかんな。」

数日後

布美枝「ほんなら 行ってきます! よいしょ! お米は 買ってありますし 乾物や缶詰は 台所の下に あと 下着は 引き出しの タンスの下から2番目です。 靴下は 小さい方の引き出しに…。」

茂「ああ ああ もう 分かっとる。」

布美枝「大丈夫ですか? お父ちゃん一人で。」

茂「心配するな ゆっくりしてこい。」

布美枝「あと 近頃は 不用心なんで 戸締りは して下さいね。 それから…。」

茂「早こと 行かんと 汽車に乗り遅れるぞ!」

布美枝「いけん。 ほんなら 行ってきます!」

<茂 一人を残していくのが 少し心配でもある 布美枝でした>

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