ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第76話「初めての里帰り」

あらすじ

貴司(星野源)は、いっしょにいた女性と恋人同士だった。女性は一人娘で家業を継ぐことを義務づけられており、彼女と結婚するためには、貴司が家を出て婿入りするしかなかった。“店を持たせたい”という源兵衛(大杉漣)の思いと恋人との間で、板挟みになり悩む貴司。妹のいずみ(朝倉えりか)が“安来を出て東京で仕事をしたい”と思っていることが、源兵衛に知られるのと同時に、貴司の恋人の存在も家族の中で明らかになる。

76話ネタバレ

洋食・トカミ

布美枝「さっきの人…。」

貴司「話 聞いとったのか?」

布美枝「ああ 途切れ途切れに…。」

回想

満智子「これで 終わりですか? 私達…。」

回想終了

布美枝「泣いとったね あの人。 ゆうべも いずみと 言い合っとったけど 何か困った事でも あるの? 縁談の話も 進んどるようだけど…。」

貴司「うん…。」

布美枝「あんた もしかして さっきの人と おつきあい しとるんじゃないの?」

(うなずく貴司)

布美枝「それ お父さんは?」

貴司「知らん…。 話そうと思っとったところに 叔母ちゃんが 見合い話 持ってきてな。 おやじも… すぐに乗り気になったけん。 前から俺に 酒屋の仕事 継がせる気でおったしな。」

布美枝「あの人が お嫁さんでは いけんの?」

貴司「うん…。」

布美枝「なして?」

貴司「満智子さん… あ さっきの人 家が 編み機やミシンの 販売代理店やっとって 編み物教室も開いとる。 あの子… 一人娘なんだ。」

布美枝「一人娘…。」

貴司「だけん 婿を取って 家を継がな ならんのだわ。」

布美枝「ほんなら…。」

貴司「酒屋の嫁には なれん。 もし 一緒になろうと思ったら 俺が 婿に行くしかないんだ。」

布美枝「ええの? ああいう人が おるのに。」

貴司「俺が… 俺が婿に行ったら 酒屋の仕事は どげなる? もう一軒 店を出そうと してるとこなのに…。 おやじは 許してくれんだろうな。 おやじの頭の中には もう すっかり! 飯田家の将来設計図が 出来上がっとるけんなあ。」

<さて その頃 調布では…>

水木家

居間

はるこ「失礼しま~す…。 お留守ですか?」

茂「うお~っ!」

はるこ「うわ~っ!」

はるこ「すいません 何度か 玄関で 声かけたんですけど。」

茂「ああ 便所で考え事しとって 聞こえなかったんですなあ。」

はるこ「はあ。」

茂「長い事 しゃがみ込んどったんで 足が しびれとるわ。 ハハッ!」

はるこ「フフフッ!」

茂「今日は 何か用ですか?」

はるこ「また パチンコ屋さんで 大当たりしたんで これ おすそ分けです。」

茂「ほ~お 今度も 元手は100円で?」

はるこ「はい!」

茂「あんた ほんとに名人だな。」

はるこ「深沢さんに お目にかかって きました。 浦木さんから 『深沢さんが 復帰した』って聞いたんで 早速 伺ってきたんです。 水木先生 忍術漫画 描かれるんですってね。」

茂「うん ちょうど 今 描いとるとこだ。」

はるこ「私も 漫画 見てもらったんですけど 『まだまだだ』って 言われちゃいました。 『自分の世界が 出てない』って。」

茂「うん。 あの人の意見には 耳を貸した方が ええですよ。 見る目は 確かですからな。」

はるこ「はい。 今日 奥さんは?」

茂「おらんですよ。」

はるこ「藍子ちゃんと お買い物ですか?」

茂「いや 実家に戻っとる。」

はるこ「えっ 何が あったんです?! お二人に限って 藍子ちゃんだっているのに!」

茂「いや 里帰りしとるんだが。」

はるこ「えっ?」

茂「藍子の お披露目。 田舎の親達に 孫の顔を見せに 帰っとるんだけど…。」

はるこ「あ… そうか。 そうですよね。 びっくりした。」

仕事部屋

(ペンを走らせる音)

(小鳥の鳴き声)

はるこ「失礼します。 あの… 失礼します。」

茂「あれ? あんた まだ おったのか?」

はるこ「お茶 いれました。」

茂「おう ええとこに。 ちょうど のどが渇いとったんだ。」

はるこ「よかった!」

茂「あんた 仕事は ええんですか? こっちは 間に合っとるけん もう お帰りなさい。」

はるこ「ええ。 でも まだ ちょっと お部屋の お片づけをして。 あと 夕飯の支度もしてから。」

茂「いや そげな事せんで ええ。」

はるこ「そういうのも アシスタントの仕事の うちなんです。」

茂「ん?」

はるこ「だから 先生は漫画を描く事だけに 集中して下さい!」

茂「あ~ はい。」

浦木「あ! あの すっと伸びた おみ足は…。 はるこさん やっぱり ここに! はるこさん!」

はるこ「ああ 浦木さん どうかしました?」

浦木「どうしたも こうしたも お店を訪ねたら 『今日は お休みだ』と言うから もしやもしやと来てみれば…。」

はるこ「何か ご用ですか? 先生なら お仕事中ですから 面会は できませんよ。」

浦木「く~っ ゲゲの奴 あなたに 洗濯までさせて…。 もしや あいつのパンツまで 洗わされたんでは?」

はるこ「嫌だ 浦木さん! パンツだなんて そんな…。」

浦木「なぜ 赤くなってんです? ちょっと はるこさん!」

居間

浦木「実に けしからん。 あなたを お手伝い代わりに こき使うなんて!」

はるこ「アシスタントの仕事ですってば!」

浦木「いやいやいや ちょっと 一円も払わない男の 手伝いなどして 何になるんと言うんです?!」

浦木「第一 不健全ではないですか。 女房の留守に 若い娘が…。」

はるこ「もう! つまんない事 言わないで下さい。 先生が 仕事に打ち込めるように お手伝いしてるだけです!」

浦木「しかし…。」

はるこ「邪魔ですよ!」

浦木「あ~ もう! こんな事! ゲゲに やらせなさい。」

はるこ「離して下さい!」

浦木「せっかくの お休みなんです。 そうだ! 一緒に東京タワーに上りましょう?」

はるこ「一人で上って下さい。 私は 夕飯の支度がありますから。」

浦木「そんな事まで…。 分かりました! では 僕も ここで飯を食います!」

はるこ「何で浦木さんまで! いい加減にして下さい!」

浦木「じゃあ 僕と一緒に 東京タワー上って下さい。」

はるこ「な…! 嫌ですよ!」

浦木「じゃ 焼き肉 食べに行きます?」

はるこ「行きません!」

浦木「じゃ おすし…。 そばとか?」

はるこ「嫌だ! いい加減にして下さい!」

茂「やかましい! さっきから うるさくて うるさくて! 仕事にならん!」

はるこ「…すいません。」

浦木「すまん。」

茂「2人とも帰ってくれ!」

飯田家

居間

源兵衛「親に隠れて こそこそ 何しちょ~だ!」

いずみ「ひどいじゃない 私あての手紙 勝手に開けるなんて!」

ミヤコ「いや~ お母さんが 悪かったんだわ。 会社からの手紙だけん てっきり お父さんあてだと思って 封 切って渡してしまって。」

源兵衛「おかしな郵便が 来とったら 心配して開けるくらい 親なら当たり前だ! この手紙を見たんだったら お前が バカな事をしとる事に 気づかんとこだったわ!」

邦子「(小声で)フミちゃん。」

台所

布美枝「どげしたの?」

邦子「いずみちゃん 東京の会社に 『採用の予定は ないか』って 問い合わせの手紙 出しとったんだって。」

布美枝「東京の会社に?」

邦子「ダメだったんだけど 返事の手紙… お父さんが読んでしまわれて。」

居間

源兵衛「田舎の短大 卒業したぐらいで 東京行って 勤まると 思っとんのか?! お前は 短大卒業したら 小学校の 先生になると決まっとるんだ!」

いずみ「そんなの知らない!」

源兵衛「何っ!」

いずみ「暁子姉ちゃんだって フミ姉ちゃんだって 東京に出とるのに なして 私が行ったらいけんの?!」

源兵衛「嫁に行くのと 一人で ふらふら出ていくのとは 話が違うわ!

いずみ「遊びに行くんじゃないわ! 私 東京で働いてみたいの!」

源兵衛「ダメだと言ったら ダメだ!」

いずみ「ナンセンス!」

源兵衛「何だ… その言い方?!」

貴司「…いずみ! ええ加減にせい! まあ 2人とも いっぺん落ち着いて… な?」

源兵衛「わしはな… お前やちが 行く末 困らんようにと 考えとるんだ! 哲也は 教師にしたし! 貴司は 酒屋を継ぐ! みんな うまくやっちょ~だねか! お前も わしの言うとおりに しとったら 間違いはないんだ!」

いずみ「何も知らんくせに! 貴司兄ちゃん 困っと~だけんね! お父さんに 人生 勝手に決められて!

源兵衛「…何?」

貴司「おい! いずみ!」

源兵衛「おい! 何の話だ!」

貴司「いや… 何でもね~わ。」

いずみ「ちゃんと言ったら ええじゃないの! 本当は好きな人がおる! 酒屋継ぐのも 見合いするのも嫌だって!」

ミヤコ「貴司…?」

布美枝「いずみ あんた もう いい加減に。」

源兵衛「おい わしは聞いとらんぞ…。 貴司~!」

台所

邦子「貴司さんに 好きな人が お~なさった なんて ちっとも 気づかんだったわ。」

布美枝「ええ年だけん そげな人が おっても おかしくないわね。」

邦子「入り婿というのがねえ…。」

<気持ちの優しい貴司は 父の思いと恋人との 板挟みになって 身動きがとれず 悩んでいたのでした>

2階

布美枝「いずみ…。」

いずみ「ええなあ 藍子は。」

布美枝「え?」

いずみ「東京で暮らせて。」

布美枝「東京も ええ事ばかりじゃないよ。 うちの周りは ここより田舎だし。 銀座とか 華やかな所もあるけど 住んどっても そげなとこには めったに行かんしね。 久々に戻ってみて… やっぱり 安来は ええとこだと思ったわ。」

いずみ「そげな事 分かっとるよ。 けど 若いうちだけでも 東京に出てみたいと思うのが そんなに いけんの? 『安来は ええとこだ』とか 『東京の暮らしは大変』とか ここを出てったけん 言える事だわ。 私の希望も聞かんで 『地元で教師になれ』なんて お父さんが決めるの おかしいわ。」

布美枝「いずみ…。」

いずみ「結婚だって 今どき 見合いなんか 時代錯誤よ。 アナクロだわ。 貴司兄ちゃんも どうかしとる。 お父さんに言われて 好きな人を 諦めるなんて!」

布美枝「けど 家の事は そげん 簡単には割り切れんよ。 お父さん ず~っと この店を 守ってきたんだし…。 貴司だって それを分かっちょ~けん 迷っとるんだわ。」

いずみ「ほんなら お姉ちゃんが 継げば よかったじゃない。 ここへ残って 店 やっとったら よかったんだわ。 結婚して 3年半も 戻ってこんかったくせに。 この先も ずっとずっと 東京で暮らすんでしょう? こっちに残っとるもんの 気持ちなんか 分からんわ!」

布美枝「あっ…。」

<変わりなく 平穏そうに見えた実家も 実は 幾つもの火種を 抱えていたのです>

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