ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第81話「旅立ちの青い空」

あらすじ

布美枝(松下奈緒)は、深沢(村上弘明)の秘書である加納郁子(桜田聖子)の自立した姿に、強い印象を受ける。浦木(杉浦太陽)から、政志(光石研)の転職のうわさ話を聞き、経営が思わしくない「こみち書房」の先行きが心配になった布美枝。そこで布美枝は、オリンピックブームにあやかって、貸本をたくさん借りた子どもたちに、手作りの“紙製メダル”を景品としてプレゼントする企画を美智子(松坂慶子)に提案する。

81話ネタバレ

水木家

玄関前

浦木「まったく ゲゲの奴 こんな大事な事 俺に内緒で…。」

布美枝「あ 浦木さん こんにちは!」

浦木「奥さん 水くさいじゃないですか! これが出た事を黙ってるなんて。」

居間

浦木「『ゼタ』が 雑誌だという事を なぜ 早く教えんのだ!」

茂「お前と 何の関係があるんだ?」

浦木「大ありだ。 あちこちの出版社を回って 広くなった この顔を生かし 広告業に乗り出そうと 考えてるところよ。」

茂「へ~え。」

浦木「あっちの会社から 広告を取って こっちの雑誌に載っければ 金が 懐に転がり込むって寸法よ。」

茂「ふ~ん。」

浦木「俺に 嵐星社を紹介せえ。」

茂「はあ?」

浦木「『月刊ゼニ』 いや 『ゼタ』に 広告を取ってきてやる。 これで 俺も ひともうけ。 ヘヘヘ…。」

布美枝「な~んだ。 お祝いに来たんじゃなかったんだ。」

茂「お前の出番はないぞ。 あそこには すご腕の広告取りがおるけんな。」

浦木「すご腕? 俺よりもか?」

茂「よう働くし がめつい事も言わんし 出版の仕事もできる。」

浦木「何だ 俺と一緒じゃないか。」

茂「そのうえ 向こうは 美人だ。」

浦木「美人? 女?」

布美枝「ほんなら 加納さんですか?」

茂「おう 深沢さんより 広告が取れると言っとったぞ。」

布美枝「何でも できるんですねえ。」

浦木「な~んだ。 こんなもん わざわざ 買うんじゃなかった。」

茂「おいっ!」

浦木「あ~あ はるこさんが 俺に与えてくれた 天啓だと思ったんだがなあ。」

布美枝「はるこさん?」

浦木「ん? 昨日 ちょっと お目にかかりまして…。 あ そういえば この間の おやじにも会ったぞ。 あの 競馬場にいた 不景気そうな顔の…。」

茂「貸本屋の ご主人か?」

浦木「そろそろ つぶれるんじゃないのか あの貸本屋。」

布美枝「つぶれる?」

浦木「俺が 思索にふけっとるそばで 何やら 密談を交わしとったが…。」

回想

鎌田「運送会社の倉庫に 勤めてるんだって?」

政志「荷物の仕分けをしてる。」

鎌田「惜しいじゃないの 政志さんほどの腕がありながら。」

政志「腕ったって 昔の話だ。」

鎌田「あんたなら 今でも立派に 通用するさ 電気工として。 なあ 一緒にやろうよ 電気工事の会社。」

浦木「電気の会社…?」

回想終了

布美枝「電気工事の会社ですか?」

浦木「貸本屋に見切りをつけて 電気屋に 商売替えしようってんじゃないの。 その方が 得策だろうね。」

布美枝「それじゃ こみち書房 閉めるんですか?」

浦木「さあ。」

布美枝「『さあ』って はっきりして下さい!」

浦木「お 奥さん はさみ…。」

布美枝「あっ すいません。」

茂「真に受けん方がええ。 どうせ 聞きかじった話を 適当に言っとるんだ。」

布美枝「はい。」

浦木「斜陽産業の貸本屋なんか 俺には どうでもいいんだ。 気になるのは… はるこさんの事だよ。」

茂「どげした?」

浦木「どうも 様子がおかしい。 俺の仕事は もう受けられん。 漫画に専念すると言うんだ。」

茂「う~ん ちっとも おかしくないがな~。」

浦木「そうなったら 俺は 何を口実に 彼女と会えばいいんだ?」

茂「知るか。」

浦木「『時間がない』って どういう事かなあ…。」

布美枝「時間がない?」

回想

はるこ「余計な仕事をしてる場合 じゃない。 漫画に集中しないと。 私 もう 時間がないんです。」

回想終了

茂「うん。 何を焦っとるのかね。」

浦木「雑誌への売り込みが うまく いっとらんようだからなあ。 やっぱり 難しいのかなあ 貸本から 雑誌へ移るのは。」

茂「ああ。 成功する人間は1割もおらん。」

<先細りの貸本漫画業界の中で はるこも 次第に 後がなくなっている様子でした>

布美枝「ほら 藍子 お船が出来ましたよ。 大丈夫かなぁ こみち書房…。」

回想

美智子「うちの店も どうなる事か… 値上げして お客さんが来なくなった店も あるって聞くしねぇ。」

キヨ「八方ふさがりだ。」

回想終了

布美枝「今度は 何が出来るかなあ。」

藍子「ボートさん。」

布美枝「なんか 力になれんかなあ…。」

回想

キヨ「猫も しゃくしも テレビ テレビ。 お客さん取られて こっちは 商売 あがったりだよ。」

布美枝「そうそう 和枝さんのところ テレビ買ったんですね。」

美智子「そうなのよ。 オリンピック見るんだって 張り切ってるの!」

回想終了

布美枝「オリンピックか…。 あ… そうだ!」

田中家

美智子 キヨ「あら… メダル?」

布美枝「金 銀 銅があります!」

美智子「へえ~ よく出来てるわね。」

布美枝「厚紙と 折り紙と あと 有り合わせの はぎれで 作ってみたんですけど…。」

キヨ「ほんで これを どうするんだい? こちらで… 使って頂けないかと思って。」

美智子「えっ?」

布美枝「たくさん 本を借りた子供に メダルをあげるというのは どうでしょうか?」

美智子「本を借りたら メダル?」

布美枝「10冊で 銀 20冊で金とか ルールを決めて。 オリンピックブームに あやかって 子供同士が メダルの数を競い合うようになれば 本を借りる子が もっと増えると思うんです。 あ… ダメですよね! こんな おもちゃじゃ…。 すいません。 ちょっと 思いついたもので…。」

美智子「それ! やりましょう!」

キヨ「いい考えだよ! 子供はさ オマケとか 景品が好きだから 喜ぶんじゃないかね?」

美智子「そこの甲州街道を マラソンが走るでしょ。 もう みんな 自分達が オリンピックに参加するみたいな気に なってるのよ!」

キヨ「貸本オリンピックって事にしてさ メダルを たくさん集めた子の名前を 店に はり出すってのはどうだい?」

美智子「いいわね!」

布美枝「使ってもらえますか? このメダル。」

美智子「ええ 使わせてちょうだい! 数 作ってもらえる? あっ お金は 払うわ。 材料費と お礼と…。」

布美枝「ええんです! お礼なんて! 少しでも 役に立てたら それで。」

美智子「布美枝ちゃん…。」

布美枝「私が… 何も分からんまま 東京に出てきて なんとか やってこられたのは この お店があった お陰ですから。 私だけじゃありません。 太一君や きっと 他にも大勢… ここを支えにしとる人 おると思うんです。 お店がなくなったら みんなが困りますけん。」

美智子「ありがとう!」

布美枝「けど…。」

美智子「えっ?」

布美枝「メダルだけじゃ… もの足りんですね。」

キヨ「たくさん 集めたら 何かと あの… 交換できるっては どうだい?」

美智子「無料貸し出し券 作ろうか?」

キヨ「せっかくだからね オリンピックに ちなんだものがいいよ。」

美智子「そうねえ…。」

布美枝「ワッペンは どうですか? 五輪のワッペン。」

美智子「あ いいわね!」

布美枝「ミシン ありますんで フェルトで 簡単に出来ますよ。」

和田「田中さん ちょっと いいかい?」

美智子「あら 何だろう。 今頃 地主さん。 …は~い。」

こみち書房

美智子「どうぞ…。」

和田「はい。 いや その… うちも 長い事 値上げせずに やってきたんだけど 物価は 上がるし 固定資産税は 上がるしで もう どうにも。 今度の契約更新から 値上げさせてもらわないと やっていけなくてね。」

美智子「一気に 2倍ですか…。 あ~ 厳しいなあ…。」

キヨ「あの人ね この辺りの地主さん。 和田洋品店のご主人。 ここね 上物は 自前なんだけど 土地は 借地なんだよ。」

和田「2倍にしても この辺りの 地代の相場からしたら まだ 安い方だよ。」

美智子「ええ… それは よく分かってます。」

和田「よそにも 同じ条件で 納得してもらってるから おたくも なんとか一遍で 契約更改って事に してもらえんかね。」

美智子「は~。」

田中家

キヨ「地代が 2倍か… 弱ったねぇ。」

美智子「このまま続けるの やっぱり 無理かしらね~。」

布美枝「えっ… まさか ほんとに 商売替えするんですか? 貸本やめて 電気屋さんにするって…。」

キヨ「それ 何の話だい?」

布美枝「いえ ええんです。」

美智子「誰が そんな事 言ってたの?」

布美枝「勘違いです… 私の。」

キヨ「誰かから 聞いたんだろ?」

布美枝「あの… 浦木さんが…。 喫茶店で 政志さんが そんな相談しとられるのを 聞いたって 言うもんですから。 あ~ ええ加減な人なんですよ 浦木さんって。 うちの人も 『あいつの言う事は 真に受けるな』って 言ってますけん。 すいません。 私 余計な事 言って。」

キヨ「いや あの~ 政志 多分ね 昔の仕事仲間と会ってたんだよ。」

布美枝「昔の…?」

キヨ「電気工してた頃の仲間さ。 今じゃね 千葉で 電気工事の会社 やってる。 『一緒に 働かないか』って 誘われてるようだけど…。」

布美枝「ほんなら ここ ほんとに 電気屋さんになるんですか?」

美智子「ううん そうじゃないの。 その人の会社に来ないかって。 手が足りないらしくて。」

キヨ「昔はね… いい腕してたんだよ。 政志も…。 仕事が好きでね…。 それが 戦争が終わって シベリアから戻ってきたら すっかり変わってた。」

美智子「仕事の誘い 幾つも あったのよ。 でも… 『電気工は 嫌だ』って みんな 断っちゃって。」

布美枝「なしてですか?」

美智子「…分からない。」

キヨ「どこ勤めても 本気で働かない…。 あ~あ ここをね 電気屋に替えるくらいの 気力があったらね。」

美智子「よしましょう こんな話…。 おばあちゃん もう しばらく 値上げせずに 頑張ってみようか。 メダル作戦で 子供達 集まるかもしれない。」

キヨ「そうだね。」

美智子「東京オリンピックまで うちも 貸本オリンピックで 頑張りましょう!」

(美智子とキヨの笑い声)

美智子「手間かけて 悪いけど メダル作り お願いね。 私も 店の飾りつけ 一工夫 してみるわ。」

布美枝「はい。」

水木家

2階

布美枝「銀メダルが… 20個。 金メダルが… あれ 1個 足らん。」

居間

茂「お~っ 藍子 ええもん 下げとるな。」

布美枝「あ~っ 足らんと思ったら 藍子かあ。 私 小径書房に メダル届けてきますけん。」

茂「おう。」

布美枝「ほら 藍子 それ ちょうだい。」

茂「お気に入りのようだな。」

布美枝「子供には 人気あるんですよ。」

茂「ふ~ん。」

こみち書房

布美枝「賑わっとるなあ! 追加のメダル 持ってきました!」

美智子「ありがとう 助かるわ。 この間 作ってもらったのね もう 無くなるとこなの。 お陰でね 子供に引っ張られて 大人のお客さんも来てくれてるの。」

布美枝「よかった…。」

(靖代と徳子と和枝の笑い声)

靖代「あら 今日は 随分 込んでるのねえ。」

徳子「こんなの 久しぶりじゃない?」

和枝「あ 殊勲選手が来てる!」

布美枝「え?」

靖代「布美枝ちゃんのアイデアなんだって? このメダル作戦。」

美智子「そうなのよ。 今日もね また 作ってきてくれたとこなの。」

靖代「あんた やるじゃない。 お手柄 お手柄!」

布美枝「いいえ。」

和枝「私達も 手伝おうか? メダル作り。」

靖代「作り方 教えてくれたら やってみるけど?」

キヨ「チョチョチョ やめて やめて! あのね この人はね 手先が器用で やる事が丁寧だから 紙のメダルが 金にも 銀にも 見えるんだよ。 ちょっと あんた達 作ったらさ ブリキのメダルに見えちゃう。」

徳子「おばあちゃん ひどいよと 言いたいとこだけど それも そうだよ。 アハハハ…。」

キヨ「あ ちょっと 商売の邪魔しないでよ。」

徳子「はい すみませ~ん。」

<布美枝の提案したメダル作戦が 功を奏して こみち書房に 客足が戻ってきました>

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