ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第84話「旅立ちの青い空」

あらすじ

布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)は、政志(光石研)からシベリアの収容所時代のつらい体験と、帰国後に子どもの死を知り、前向きに生きる意欲を失ってしまったことを、初めて打ち明けられる。そして、美智子(松坂慶子)が家を出たまま、どこに行ったかわからないことを靖代(東てる美)から聞いた布美枝は、政志と共に美智子を捜しに行く。美智子を見つけた政志は…。

84話ネタバレ

水木家

居間

政志「もし 漫画が 先生を追い詰めたら どうする?漫画のせいで 仲間から裏切られたら。 」

政志「 俺も 昔は 仕事が好きだった 好きだから 腕は 上がったし どこでも 重宝がられた…。 シベリアの収容所でも…。 電気工事ができるとか 土木に詳しいとか そういう奴は 専門的な作業を任されるんだ。 たまには パンを 余計に もらえる事だってあった。 だけど そのせいで… 『ソ連人に取り入って 自分だけ いい思いをしてる』って 陰口を叩かれて つまんねえ けんかから つるし上げを食った。 美智子が囲まれてる時 思い出したよ。 あの時 俺を見ていた 仲間達の殺気だった目…。」

政志「ようやく 引き揚げてきたら …子供は 死んでた。 情けねえよなあ。 自分の子供が死んだ事を 3年半も知らなかったなんてよ。 胸の中に ぽっかり 穴が開いたみたいで 何もかも 嫌になった。 これじゃ いけねえ。 美智子だって かわいそうだって。 頭じゃ 分かってんだよ。 分かってんだけど… どうしても 優しい事 言ってやれねえんだ。」

茂「戦争では みんな えらい目に遭いましたなあ。 仲間も 大勢 死にました。 死んだ者達は 無念だったと思います。 みんな 生きたかったんですから。 死んだ人間が 一番 かわいそうです。」

茂「だけん 自分は 生きてる人間には 同情せんのです。 自分も 貧乏はしとりますが 好きな漫画を描いて 生きとるんですから 少しも かわいそうな事はありません。 自分を かわいそうがるのは つまらん事ですよ。」

靖代「布美枝ちゃん! いる?」

玄関

靖代「ねえ 美智子さん 来てない?」

布美枝「どうかしたんですか?」

靖代「いないのよ。」

布美枝「え?」

靖代「店開けたまま どっか 行っちゃったらしくてね おばあちゃん 心配してるの。」

政志「美智子が いないって?」

靖代「政志さん! あんた なんで ここに?」

布美枝「和枝さんか 徳子さんの所には?」

靖代「ううん 行ってない。 私もさ これ お客さんに届けたら すぐ 店 行くから。 政志さん あんた 早く帰ってあげて!」

政志「ああ。 あいつ どこ行ったんだ…。 あいつが 一人で 行くとこっつったら…。 あっ!」

布美枝「深大寺 子供さんの所… きっと そうですよ! 迎えに行きましょう!」

政志「いや いいよ。」

布美枝「えっ?」

政志「気が済んだら 戻ってくるさ。 他に… 行くとこなんて ないんだから…。」

布美枝「迎えに行って下さい。 美智子さん… 『もう 終わりかもしれない』って 泣いてたんです。」

政志「えっ?」

布美枝「『こみち書房も 政志さんとも もう ダメなのかな』って…。 今 迎えに行かないと… 美智子さん 戻れなくなる。 政志さん!」

政志「行ってくる。」

茂「自転車で行け。 早こと行かんと 日が暮れるぞ。」

布美枝「はい!」

深大寺

政志「おい! どこ行くんだ? そっち行ったら うちとは 反対だぞ。 ばあちゃんが待ってる。 帰ろう。」

田中家

キヨ「いろいろと すまなかったね。」

布美枝「いえ。 ほんなら 私は これで。」

政志「ちょ ちょっと 待っててくれ。 あんたにも 話 聞いてもらいたいんだ。 美智子。 俺 ここを出ようと思ってる。 千葉の鎌田さんから 電気工事の会社に誘われてるの 知ってるよな?」

美智子「ええ…。」

政志「もう一遍 電気工として やってみる。 長い事 現場 離れてるから 苦労するかもしんねえけど 戻るなら 今しかねえ。 一緒に来てほしい。 ばあちゃんと一緒に 3人で行こう。」

美智子「この店 どうするの?」

政志「それは 悪いと思ってる…。 向こうで 新しく開くんじゃダメか? 千葉じゃ できねえか 貸本屋。」

美智子「勝手な事 言って…。」

政志「うん…。」

美智子「人が どんなに苦労して この店やってきたか 知らないで。」

政志「うん…。」

美智子「勝手なんだから ほんとに。」

政志「すまん…。」

美智子「そうね…。 行こうか…。 おばあちゃん 一緒に行こうよ。 3人で また… やり直そう。」

こみち書房

政志「引き止めて 悪かったな。 先生にも 伝えてもらいたいと思ってさ。 背中を押してくれたの あんたと 先生だから。」

布美枝「政志さん…。」

政志「いろいろ ありがとな。」

布美枝「いえ…。」

美智子「荷造り 大変よ。 本が多いから。」

政志「ああ。」

美智子「全部は 持っていけないわね。」

政志「悪いな。 せっかく ここまでやったのに。」

美智子「店の名前 『こみち書房』ってつけたの どうしてだか 知ってるでしょう?」

政志「『みちこ』を入れ替えて 『こみち』だろ?」

美智子「うん。 だからね 場所は どこでも いいの。 どこでやっても 私がいる所が 『こみち書房』。 エへへへ…。」

政志「おい。」

美智子「ん?」

政志「今まで よく頑張ってくれた。 金メダルだ!」

水木家

<昭和39年10月10日 前の日まで降っていた雨が上がり 真っ青な 秋晴れの空が広がっていました>

布美枝「ええ お天気!」

居間

布美枝「どげです? もうじき オリンピックの開会式 始まりますけど。」

茂「分かっとる。」

布美枝「あ ちょちょっと そげに叩いたら壊れます。 もう お父ちゃんは 機械に弱いんだから。」

茂「何を言っとる。 貸してみろ。 こんなもん 気合い入れて叩けば 直るわ!」

太一「ごめんください!」

布美枝「ん?」

玄関

布美枝「どうしたの?」

太一「大変です! こみち書房が…。」

布美枝「え?!」

こみち書房

テレビ『世界中の秋晴れを 全部 東京に 持ってきてしまったような すばらしい秋日和でございます。 ロイヤルボックスは メインスタンドの中央にございます』。

政志「おい 荷物ねえか?」

美智子「うん 終わり。 全部 積んだ。」

布美枝「美智子さん! 今日が引っ越しって どうして 言ってくれなかったんですか? 黙って行くなんて あんまりです。」

太一「そうだよ…。」

靖代 徳子 和枝「美智子さん!」

靖代「美智子さん あんた どういう事?!」

徳子「私達にまで 内緒って!」

和枝「随分じゃないの!」

キヨ「ほ~ら 言わんこっちゃない。 早くしないから いつもの連中が来た。」

美智子「あ~あ 今日なら みんな 開会式に くぎづけで 見つからないと 思ったんだけどなあ。」

布美枝「美智子さん…。」

美智子「ごめんなさい。 後で 手紙 書くつもりだったの。」

布美枝「みんなで 『送別会しよう』って 計画しとったんですよ。」

靖代「そうよ!」

徳子「そうなのよ!」

美智子「そんな事してもらったら 別れるの つらくなっちゃうじゃない。 ほら もう 泣き顔。 そんな顔 見たら 私だって 笑ってられない…。」

キヨ「なんだよ また メソメソして。 だからね 見送られるのは 嫌なんだ!」

政志「あ 先生! 俺 やってみるよ。 今から追いつけるかどうか 分かんねえけど。」

茂「はい。」

美智子「布美枝ちゃん どこで 店 開いても こみち書房の 一番のお薦めは 水木先生の漫画だから。」

布美枝「はい…。」

美智子「頑張ってね。」

政志「そろそろ 行くぞ。」

美智子「皆さん お世話になりました!」

テレビ『いよいよ これから 選手団の 入場行進 開始であります。 華やかなパレードが開始されます』。

<こみち書房の一家が 新しい人生に向けて 旅だっていきました>

<秋晴れの空の下 東京オリンピック 開会式の日の事です>

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