ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第85話「チャンス到来!?」

あらすじ

布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)のもとに、境港に住む絹代(竹下景子)と修平(風間杜夫)がやって来る。修平の書く小説を東京で出版する話があるというのだが、絹代は疑いを隠さず、偶然茂を訪ねてきた浦木(杉浦太陽)が話す、出版ビジネスの計画を聞いて猛然とそれにかみつく始末。ちょうどそのころ、大手出版社・雄玄社の漫画雑誌「少年ランド」の編集部では、若手編集者の豊川(眞島秀和)が茂の漫画に着目していた。

85話ネタバレ

こみち書房

(オリンピック中継放送)

<東京オリンピック開会式の日 こみち書房の一家は 新しい人生に向かって 旅立っていきました>

回想

美智子「大丈夫? 他に盗られたもんない?」

布美枝「はい 大丈夫です。」

美智子「子供が できた事が 力になるかもしれないわよ。」

美智子「布美枝ちゃん 頑張ってね。」

回想終了

布美枝「ありがとうございました。 お元気で…。」

水木家
仕事部屋

(ペンを走らせる音)

茂「ふっ… この貧乏神に取りつかれた男。 こいつ 戌井さんに よう似とるなあ。 アハハハ…。 ん? あいつ まだ おる…。 ああ~…。」

居間

布美枝「また今月も赤字か…。 何だろう 何か 今 ザワッてした…。」

<東京オリンピックに沸く 世間とは裏腹に いまだ 貧乏神と闘い続ける 茂と布美枝でした>

昭和40年3月

(小鳥の鳴き声)

雄一「うちも買ったぞ テレビ。」

茂「お~!」

雄一「ヒヒヒ…。」

布美枝「お兄さんとこも とうとう 買ったんですか?」

雄一「ええ。 オリンピックには 間に合わんだったが 今 テレビがないと 子供達が 学校で 肩身の狭い思い するんだわ。」

茂「高かったろう?」

雄一「ああ。 7万2,000円を 7万円ちょうどに まけさせた。」

2人「7万円!」

雄一「ほんとは カラーテレビが よかったんだが 月賦とはいえ 20万円じゃ無理だわなあ。」

2人「20万…!」

佐知子「お風呂 支度できましたよ。」

雄一「おう! 先 使わせてもらえ。」

布美枝「どうぞ…。」

佐知子「そしたら お先に。」

雄一「お前も テレビぐらい買わんと 時代に おいてかれるぞ。 ヘヘヘ! あ 布美枝さん お茶 もう一杯。」

布美枝「あ はい。 (小声で)お風呂もらいにきたのに テレビ買った事 自慢せんでも ええのに…。」

茂「仕事は うまくいっとるのか?」

雄一「オリンピックの後 景気が落ち込んでるからねえ。」

茂「テレビなんか買って 大丈夫か?」

雄一「いや ニュースぐらいは見とかんと 仕事に差し支えるからな。」

布美枝「どうぞ。」

雄一「あ すんません。 けどなあ テレビが始まると 子供達が テレビの前から 動かんのが困るわ。 う~ん。そうそう。 お前の漫画も テレビにしてもらったら ええよ。 そしたら 少しは売れるだろうが。」

茂「夢のような事 言うなよ。」

雄一「いやいやいや! 人生ってのはな 明日 何が起こるか分からんぞ。」

絹代「しげさん おるかね。」

布美枝「あら?」

茂 雄一「ん?」

布美枝「今 お母さんの声しませんでした?」

茂「イカルの声?」

雄一「縁起でもない事 言わんでよ。」

(茂と雄一の笑い声)

布美枝「あ…。」

茂「ああ…。」

雄一「いくら 何が起こるか分からんと いっても イカルが来るなんて…。」

布美枝「あっ お兄さん!」

雄一「え?」

絹代「雄一 あんた ここで 何しとるかね?」

雄一「えっ?!」

茂「2人そろって どげした?」

修平「話は後だ。 わしゃ ちょっこし厠へ…。」

絹代「だけん 『駅で借りたら どげか』って言ったのに。 ここは 駅から遠いわ。 あ~! くたびれた!」

茂「何か あったのか?」

絹代「知らせる葉書 出しといたけど… 私の方が 先に着いたかね?」

佐知子「キャーッ! へ… 変な男の人が…!」

修平「藍子は 何 作ってるんだ?」

藍子「お城。」

修平「う~ん。 日本のお城か? 西洋のお城か?」

藍子「ん?」

絹代「お父さん そげな事 まだ 藍子には分からんですよ。 (笑い声)」

佐知子「申し訳ありませんでした!」

絹代「舅の顔を忘れるなんて…。 親の家に さっぱり顔 出さんけん こげな事になるんだわ。 長男のくせして!」

雄一「…すまん。」

修平「まあ ええわ。 突然で 佐知子さんも 驚いたんだろう。」

絹代「大体 あんた達 なして 弟の家に 風呂もらいに来とるかね?」

雄一「き… 近所の銭湯が 今 建て替え中で…。」

絹代「近所がダメなら 隣の町まで行ったらええがね。」

雄一 佐知子「はい…。 こげな貧乏所帯に…。 風呂もらうなら 銭湯代ぐらい 置いていきんさいよ!」

2人「はい…。」

茂「ああ あの 急ぎの用事って 何だ?」

修平「おう それだがな。 わしの小説を出版しようという 話が 持ち上がっとるんだわ。」

茂「小説を?!」

修平「大学の友人に送って読ませたら 『これは傑作だ。 ベストセラー間違いなし。 早速 出版しよう』と言うんだわ。 そこで 急きょ 打ち合わせに 出てきたんだわ。」

雄一「そりゃすごいな…。」

修平「あ~ 文壇デビューのチャンス到来だが。 遅れてきた 大型新人だな。」

(一同の笑い声)

絹代「けど 素人の書いたもんを 本にしようなんて おかしな話でしょう?」

修平「何を言っちょ~だ。 『氷点』書いた 三浦綾子さんだって 素人の主婦だがね。」

絹代「また それを。 お父さん 『氷点』読んでから すっかり その気になっとって。」

雄一「ああ 懸賞小説で 1,000万 取った人な。」

茂「1,000万!」

雄一「何だ知らんのか? 今 新聞連載で大人気だぞ。」

茂「取っとらんからなあ 新聞…。」

絹代「北海道の主婦が 並みいるプロを 押しのけて1等取ったんだわ!」

茂「はあ!」

雄一「何か 映画にするちゅう話も 持ちあがっとるらしいぞ。」

修平「小説と映画は わしの長年の夢だけん 本が売れて映画化の話が来たら 『一石二鳥』だな。 ウハハハハハ!」

絹代「頭の30枚しか書いとらんくせに。」

一同「えっ…?」

布美枝「30枚 ですか…?」

茂「全部で何枚 書くつもりだ?」

修平「大作だけん 1,200枚ぐらいにはなるわな。」

茂「あ~ それは ちょっと…。」

絹代「おかしいでしょう。 たった30枚 読んで 本にしようだなんて。」

修平「向こうはプロだ。 出だし読めば 面白い小説かどうか 分か~だろう。」

絹代「けど 出版に かかるお金 こっちで半分持ってくれと 言ってきちょ~のよ。」

茂「う~む…。」

絹代「私は 『詐欺だねか』と 言っとるんだけど お父さんが 譲らんもんだけん。」

修平「目先の事ばかり言うな! ええか 金は 先行投資。 ベストセラーになれば 元が取れるどころか大もうけだぞ。」

絹代「ね しげさん あんた どげ思う?」

修平「漫画と小説は違うけん 茂に聞いても分からんわな。」

絹代「はっきり 聞かせてごすだわ! 老後の蓄えが かかっちょ~だけん。」

茂「う~ん どうかなあ…。」

絹代「しげさん!」

茂「う~む…。」

(ドアの開く音)

浦木「お~い ゲゲ おるか?」

布美枝「あら 浦木さん…。」

茂「おう。 あ ええわ 俺が行く うん。」

玄関

浦木「今日は 何の集まりだ?」

茂「え? いや そげな事は ええんだ。 それより お前 ええとこに来たな。 ほれ 上がれ!」

浦木「おう いつにない歓待ぶり。 お ゲゲ そうか! やっと俺の友情が 身に染みたか。 そういう事なら もうけ話に 乗せてやってもいいぞ。 ん? 手っ取り早く もうかる いい商売を考えたんだ。」

茂「うん…。」

浦木「文学かぶれの 素人に 小説を書かせて それ 本にするんだ。 もちろん 費用は向こう持ち。 イヒヒ アハッ!」

茂「いや お おい…。」

浦木「な~に 1冊も売れなくても かまわんのだ。 こっちは 上乗せした分の経費で バッチリ稼いで…。」

居間

絹代「やっぱり こげなカラクリに なっとったんだわ!」

浦木「な 何だ?」

茂「お前 悪いとこに…。」

浦木「え?」

絹代「あら? あんた 幼なじみの…。」

浦木「もしや境港の…。」

絹代「あ~ん!」

修平「茂の親です。」

浦木「あ ごぶさたしまして はい。」

絹代「思い出した! イタチと呼ばれとった子でしょう。」

浦木「どうも…。」

絹代「突っ立っとらんで座りなさい!」

浦木「え いや 私は もう これで…。」

絹代「ええけん!」

浦木「え? いや ゲゲ。」

絹代「今の インチキ商売のカラクリ もういっぺん 話してみ~だわ!」

浦木「え いや…。」

絹代「早ことっ!」

浦木「あ ちょっとちょっと…! おい…。」

絹代「あんた 素人おだてて 本 書かせて それで もうけようと たくらんどるの?」

浦木「いや あの これはですね その 本を出したいという人の 夢を かなえて差し上げる 慈善事業のようなものでして…。」

絹代「慈善事業で なけなしの老後の蓄え むしり取る気かね?!」

浦木「あ すいません…。」

絹代「しげさん あんたも あんただわ! こげな ええ加減な人と つきあって まさか 一緒になって悪さしとるんじゃ ないでしょうねえ?!」

茂「いや 俺は な 何もしてない…。」

絹代「布美枝さん。 あんたもだわね。」

布美枝「え…?」

絹代「女房が しっかりせんけん こげな 怪しげな人が出入りするがね!」

布美枝「あ すいません…。」

修平「おい そげに ポンポン言わんでも ええやろう。」

そもそも お父さんが いけんのですよ! やっぱり おかしな話だないですか。 わざわざ 汽車賃かけて 出てきて!」

修平「いかん こっちに矛先が向いた…。」

絹代「もっ! 誰も彼も…。 しっかりして ごしなさい! はっ!」

<ちょうど その頃…>

雄玄社

<日本で一二を争う人気漫画雑誌を 出版する この会社では…>

少年ランド編集部

<1人の男が 茂の漫画を読んでいました>

豊川 悟「いいなあ! この 味のある絵。 ザラッとくるなあ! 水木しげるは…。」

梶谷「トヨさん 編集会議 始めるってさ。」

豊川「おう 今 行く。」

梶谷「うん ま~た 水木しげるかい? この間の会議で 却下されたじゃないの。」

豊川「もう3回 ボツったな。」

梶谷「貸本漫画家だろ? この絵 『少年ランド』には 合わないんじゃないかな?」

豊川「そこが いいんだ ザラッとくる。」

梶谷「え?」

豊川「違和感さ。 似たような漫画そろえたって 雑誌は 面白くならんよ。 売れるものは どこか ザラッとしてなきゃな。」

梶谷「ふ~ん。 しかし この『月刊ゼタ』ってのも 随分 雑な編集だね。 字組みも適当だし 印刷も汚いし。」

豊川「その規格外なところが 面白いのさ。 我が社じゃ こういうの出したくても 営業が 首を縦に振らんだろうな。 また提案してみるか 水木しげる。」

<茂の運命が 今 大きく動こうと している事など まだ 知る由もない 布美枝でした>

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