ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第87話「チャンス到来!?」

あらすじ

雄玄社の豊川(眞島秀和)は、茂(向井理)に「少年ランド」への漫画執筆を依頼しようと考えていた。布美枝(松下奈緒)は、絹代(竹下景子)と修平(風間杜夫)を深大寺の茶店に連れて行く。茂がひとり家に残っていたちょうどそのとき、はるこ(南明奈)が村井家を訪ねてきて、「実家の親との約束で漫画家として芽が出なければ、郷里に戻る約束があり、その約束の期限がまもなく切れる」と告げる。

87話ネタバレ

水木家

居間

<今日は 布美枝が 上京してきた茂の両親の お供をする日です>

布美枝「今日は お出かけですよ。」

藍子「はい。」

布美枝「よし。 私 お兄さんとこ行って お父さん達を迎えにあがって そのまま 深大寺に ご案内してきますけん。」

茂「おう。」

布美枝「よし! …あ お財布。 けど ほんとに ええんですかね 深大寺に ご案内するだけで。 お兄さんとこは 歌舞伎の1等席 奮発されたそうですよ。」

茂「兄貴も 随分 無理するなあ。」

布美枝「お父ちゃんは 仕事で お相手できんし もうちょっと 何か サービスせんと。」

茂「う~ん そばくらいは ごちそうした方がええな。」

布美枝「そげですね!」

茂「おい 時間は 大丈夫か? イカルは せっかちだけん 遅れると 面倒だぞ。」

布美枝「あ 大変! 藍子 さあ 行こう。 よし だっこだ… よいしょ! 行ってきま~す。」

藍子「行ってきま~す。」

玄関前

布美枝「はあ~ ええ お天気! あ はよ 行こう 急ごう。」

雄玄社

(クラクション)

会議室

編集長「どうれも 平凡だなあ。 も~っと 搾り出せよ アイデア! これじゃ ライバル誌の『少年アワー』に 追いつけないぞ。」

梶谷「そう おっしゃいますがね 編集長。 わが『少年ランド』は 去年の秋の 30万部 突破以来 毎週 部数 積み上げてるじゃないですか。」

高畑「その割に 社内から 相手にされないんだよなあ。」

福田「そうそう。 文芸誌の編集さんには ジャリ相手と バカにされ 婦人雑誌のお姉様方には 野蛮な男集団と敬遠され。 ♬『あ~あ やんなっちゃった』」

(編集部員達の笑い声)

編集長「愚痴言う暇に 豊川くらい ヒット企画 出してみろ!」

梶谷「トヨさん SF物や ギャグ漫画で ヒット飛ばしまくってるからなあ。」

編集長「今日は 隠し球はないのか?」

豊川「隠し球じゃないですが…。 一遍 やらせてもらえませんかね 水木しげる。」

編集長「また 例の貸本漫画家か?」

豊川「今 『月刊ゼタ』にも 毎月 面白いのを描いてますよ。」

編集長「ハイティーン狙いだろ この雑誌は。 うちの読者は 小学生だから 『ゼタ』の漫画は 強烈すぎて合わんな。」

豊川「やりようで 十分 受けると思うんですがね。」

梶谷「ザラッとくるんだろう。」

豊川「おう。」

福田「トヨさんのヒットの法則 ザラッとくる奴が売れる。」

北村「僕なんかは ちょっと 受け付けませんね 貸本漫画は。 終戦直後のにおいがしますよ。」

高畑「あ~ 分かる 分かる。 東京五輪の後じゃ 余計に陰気臭いよなあ。」

豊川「いやいや。 明るく 楽しいだけが 子供漫画じゃないですよ。 子供は 怖いものも 怪しいものも 好きですからね。 受けると思うんだがなあ 水木漫画。」

編集長「SFも いけるのか?」

豊川「え?」

編集長「宇宙物なら 試しに一度 頼んでみてもいいけどね。」

少女ガーデン編集部

小村「トヨさん。」

豊川「おう。」

小村「ちょっと。」

豊川「何だい?」

小村「この人 『少女ガーデン』の方に 何度も 原稿を 持ってきてくれてるんだけど。」

はるこ「河合はるこです。」

豊川「どうも。」

小村「貸本漫画の方で 結構 描いてるんだって。」

豊川「へえ~。」

小村「トヨさん 貸本 詳しいじゃない。 ちょっと 見てもらえる?」

豊川「えっ?! 少女漫画は畑違いだよ。 俺。」

小村「まあまあまあ…。 はい これ うちの最新号。 どうぞ。」

豊川「う~ん。 何年 描いてるの? 貸本漫画。」

はるこ「3年です。」

豊川「結構 数 描いたでしょう?」

はるこ「はい。 原稿料が安いから たくさん 描かないと やっていけなくて。」

小村「ハハハ… 正直だなあ。」

豊川「無難に まとめてるけど… もっと ザラッとしてないとね…。」

はるこ「はあ… ザラッと?」

小村「つまり もうちょっと 個性が欲しいって事。 特に 後半の展開だね。」

はるこ「はい…。」

小村「でも 絵の技術はあるよ。 背景とか 達者だし。」

はるこ「ありがとうございます。」

小村「後半 描き直して もう1回 持っていらっしゃい。」

はるこ「はい! すぐ やり直します。 いつ お持ちしましょう?」

小村「何日で直せる?」

はるこ「3日で やります!」

廊下

はるこ「やった! 脈あり。 チャンス到来! 絶対 ものにしなきゃ。」

少女ガーデン編集部

豊川「さっきの子 雑誌で売るのは 無理だと思うけど。 変に 期待 持たせると かわいそうだぞ。 あれ さっきの子 忘れてったな…。」

小村「一本立ちは 無理だろうけど 森川先生とこの アシスタントに どうかと思ってさ。 あの先生 厳しいじゃない。 だから なかなか 長続きする奴がいなくてさ。 根性はありそうじゃない 彼女。」

はるこ「あの… すいません。 手帖 落ちてなかったですか? あ それです。」

豊川「ああ。 はい。」

はるこ「ありがとうございます。 それでは また 3日後に伺います。」

<膨らんだ雑誌デビューの希望は 瞬く間に しぼんでしまったのでした>

深大寺

店員「はい。 お待ちどおさまでした。 どうぞ ごゆっくり。」

修平「うん うまい!」

絹代「そば いただいた後に よう そげに頼みますね。」

修平「どれも うまそうで 捨てがたい。」

布美枝「これが 『イトツ』って事か…。」

絹代「え?」

布美枝「あ すんません。」

絹代「芝居 見に行っても パクパク むしゃむしゃ。 周りの人が びっくりしとったわ。」

修平「菓子 弁当 すしは 昔から 芝居には つきものだ。」

絹代「ここは ええとこねえ。」

布美枝「はい。」

修平「あ~ ええとこだ。 そばは うまい だんごも うまい。 フフフ…。」

絹代「食べ物の話ばっかり…。」

水木家

仕事部屋

はるこ「あの… 先生。」

茂「おう お帰り。」

はるこ「水木先生!」

茂「え? お~ あんたか…。」

はるこ「玄関で 何度か 声かけたんですけど…。」

茂「何か 用ですか?」

はるこ「布美枝さんは?」

茂「今 出かけとる。」

はるこ「私… この間 布美枝さんに 悪い事 言ってしまったので おわびに あがったんですけど…。」

茂「じき 戻ってくるけん 茶でも飲んで 待っとったらええ。」

はるこ「いえ… じゃあ 出直してきます。」

茂「ああ。」

はるこ「すいません。 お仕事の邪魔しちゃって。」

茂「いや ちょうど 茶でも飲もうかと 思っとったとこだから。」

はるこ「私… やっぱり 布美枝さんに 合せる顔がありません。 先生から よろしく お伝え下さい。 帰って お仕事しなきゃ。」

茂「浦木が心配しとったですよ。 『あんたの居所が分からん』とか 言って。 まあ あいつの話は どうでもええんだが おかしな事を言っとったから。」

はるこ「え?」

茂「『時間がない』とか なんとか…。 時限爆弾じゃあるまいし 何を言っとるのかと思ったが…。 どこか 具合でも悪いのかね?」

はるこ「先生。 私 本当に もう時間がないんです。」

茂「え?」

はるこ「3年です。 『3年で 漫画家として 認めらる事。 それが ダメだったら 漫画は キッパリ 諦めて 実家に帰る』。 そういう約束でした。」

茂「3年というと…。」

はるこ「今月です。 この3月いっぱいで。」

茂「ああ…。」

はるこ「もう 時間切れ間近です。」

茂「けど あんた 貸本漫画じゃ 随分 描いとったじゃないですか。」

はるこ「最近は 注文も減ったし 原稿料も安くなるばっかりです。 最後の勝負時だと思って パチンコ屋 辞めて 浦木さんの仕事も断って 漫画だけに集中してたんです。 でも… 編集部 回っては 断られて…。 今日も 持ち込みの帰りなんです。」

はるこ「『当たって砕けろ』の精神で ど~んと大きいところに。 いけるかな~って 思ったんですけど やっぱ 厳しいみたいで…。 砕けちゃいそうです。 先生にも 会えなくなるなあ。 初めから 望みなしだったけど…。 たまに会えるだけで 近くに いれるだけで よかったのに…。 先生 私ね…。 嫌だ 何 言ってんだろう… すいません 帰ります!」

茂「あっ!」

はるこ「あっ!」

茂「待ちなさい! 原稿は 大丈夫だけん。 ほんの少し ぬれただけだ。 ほら!」

はるこ「先生…。」

茂「え…。」

はるこ「先生… 私…。」

絹代「あんた 何しちょ~かね!」

茂「いや あの…。」

布美枝「お父ちゃん…。」

<布美枝は とんでもないところに 帰ってきてしまったのです>

絹代「さっきの人と何があったか はっきり説明しなさい!」

修平「まあまあ そげに せかさんでも 今 茂が説明しちょ~だけん。」

茂「だけん あの人は 貸本漫画家で 漫画の事で 悩んどったんだ。 つまりだな 3年の期限付きで 東京で 漫画を描いとって その期限が迫っとる。 このままだと 漫画を諦めて 田舎に帰る事になるけん。 それが悲しくて 泣いとったんだ!」

布美枝「ほんなら はるこさん 漫画を やめるんですか?」

茂「今月いっぱいで 期限が切れるそうだ。」

布美枝「『時間がない』って 言っとられたのは その事だったんですね?」

茂「うん。」

絹代「ほんとに やましい事は ないんだね?」

茂「何もない。」

絹代「布美枝さんも 知っとる人なのね?」

布美枝「はい。 そげな事情なら 泣いて おられるのも 無理ないです。」

絹代「ほんなら 何も 騒ぐ事ないわね。 人騒がせな。」

茂「そっちが 勝手に勘違いしたんだろう…。」

絹代「ああ バカらしい。 もう こげな話は やめて 早こと 夕飯にしましょう。」

布美枝「はい。」

修平「けどな…。」

絹代「何ですか? 若い娘が 男の胸にすがって 泣くというのは ただごとではないぞ! あの娘 やっぱり 茂の事 憎からず思っている。」

絹代「お父さん! 今 終わった話を なして 蒸し返すんですかっ!」

修平「(せきばらい)」

回想

布美枝「これ この間の写真。」

はるこ「別に 深い意味はないんです…。」

回想終了

布美枝「なして あの写真… 大切に 持っとられたんだろう…。」

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