ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第88話「チャンス到来!?」

あらすじ

茂(向井理)は、泣いて取り乱したはるこ(南明奈)が、自分の胸に飛び込んできた理由を、それを見てしまった布美枝(松下奈緒)たちに説明するハメに。絹代(竹下景子)と修平(風間杜夫)は、村井家に一晩泊まり、布美枝と茂のそれぞれに親としての思いを話して聞かせる。両親が境港に帰っていった後、はるこがやって来て、「漫画家の道をあきらめて郷里に戻る」と、茂と布美枝に知らせる。

88話ネタバレ

水木家

仕事部屋

修平「『この河内山は 御直参だぜ。 たかが国守であろうが 大名風情に あ 裁許を受ける 覚えはねえ』ってな。 田舎大名を やり込める成田屋が 江戸っ子らしい ええ男ぶりでな。」

茂「お~ そげか。」

修平「お前 芝居も知らんでは ええ漫画は 描けんぞ。」

居間

絹代「『田舎大名』だって 自分も田舎もんのくせに。」

布美枝「ふふっ。」

絹代「お父さん 芝居や映画 見すぎて 頭が毒されとるけん。 話を面白いように 作ろうとするんだわ。」

布美枝「え?」

絹代「さっきの話。」

回想

修平「若い娘が 男の胸にすがって泣く というのは ただごとではないぞ。」

回想終了

絹代「よう考えてみたら しげさんが 若い女に好かれる訳がねわね。 親の目から見ても朴念仁だけん。 あの子 子供の頃から 女の子とは 遊ばんだったのよ。 『女に近寄ると 弱さがうつる』とか言って。」

布美枝「あ そういえば 一遍 少女漫画を描いた時 くねくねして性に合わん もう描かん」と言っとられました。」

絹代「太鼓判 押してもええわ。 しげさんに限って あんたに 女の苦労かける事だけは ない!」

布美枝「…はい!」

茂「もう遅いけん 戻らんと 兄貴が心配するぞ。 家まで送ってくわ。」

絹代「いや ええ。」

茂「いや けど もう暗いし 野良犬も おるしな。」

修平「わしら 今夜は ここに泊まるけん。」

茂「えっ!」

布美枝「え?」

絹代「雄一のところにばかり 厄介かける訳に いかんでしょ!」

修平「佐知子が もう持たんのよ!」

絹代「まったく!」

茂「急に言われても 布団もないしな。」

布美枝「お隣さんに聞いてみましょうか?」

絹代「ああ もう暖かいけん 布団の心配は要らん。」

布美枝「けど…。」

絹代「私が 布美枝さんと お父さんが しげさんと 一緒に寝たら ええけん!」

茂「え~っ!」

絹代「ハハハハ! ねえ 藍子。 今夜は おばあちゃんと一緒に寝ような。」

藍子「うん。」

修平 絹代「お~ ハハハハ!」

2階

布美枝「はあ… 枕 これしかないなあ。」

絹代「う~ん もう 構わんでねえ。 毛布一枚あったら 私は どこでも寝られるけん。」

布美枝「すんません。 そういえば お父さんの小説を出版する話 どげなりました?」

絹代「やっぱり詐欺だわ! お父さんが しつこく言うけん おととい 昔の知り合いいう人に 会ってきたけど まあ うさんくさい! 浦木さんと よう似てとった。」

布美枝「ああ…。」

絹代「私は 初めっから 分かっとったよ。 素人の小説 30枚ばかり読んで感心するもんは おらんわね。 お父さんも どうせ 最後まで書かずに ほうり出してしまうだろうし。」

布美枝「そげですか。」

絹代「でも ええ機会だと思って。 孫の顔も見たいし こういう事でもないと なかなか上京できんけん。」

布美枝「はい。」

絹代「お父さんが刺激 受けた 三浦綾子という人ね 『氷点』書いた。」

布美枝「ああ… はい。」

絹代「茂と同い年らしいわ。 それも 脊椎カリエスで 長い事 寝たきりだったとね。」

布美枝「はあ…。」

絹代「諦めずに書いた小説が 大当たりして 一躍 人気作家だが。 ハハハ…。 40過ぎて 日の当たる事も あ~だけん。 茂も まだまだ 諦める事は ないわ!」

布美枝「…はい。」

絹代「けど…。 貧乏暮らしのままで 終わるかもしれんよ。」

布美枝「え?」

絹代「ずっと… 売れない漫画家の ままかもしれん。 それでも そばにおってやってね? 苦労かけるかもしれんけど… あんたは女房だけん。 一緒に やっていって ごしなさいね!」

布美枝「お母さん…。」

絹代「どうぞ… お願いします!」

布美枝「はい…!」

絹代「あら?」

藍子「どうぞ お願いします。」

絹代「あっ…。 ハハハハハ!」

布美枝「藍子…!」

絹代「藍子! はい おいで… ハハハ! お利口さん!」

仕事部屋

修平「おい まだ寝んのか?」

茂「ああ 先に寝とってくれ。」

修平「うむ。」

茂「どげなった? 本 出す話。」

修平「相談してる横から 母さんが ゴチャゴチャ 口出すけん 破断になったわ。 『信用できん』とか 『売る気がない』とか 余計な事ばっかり言う!」

茂「ハハハ 残念だったな。」

修平「ベストセラーになったかもしれんのに。 母さんは 芸術を解さん女だけんな。 わしが 昔 映画館を始めた時も 最後まで 反対しとった。」

茂「あ~ そういえば やっとったな 映画館。 俺が子供の頃 あれ もうかっとったのか?」

修平「わしは 地域の文化芸術発展のために やっとったんだ。 金もうけのためだねわ!」

茂「ふ~ん…。

(修平の笑い声)

修平「お前の漫画 なかなか面白いな。 子供の頃から 絵ばっかり描いとったが とうとう それが 一生の仕事になったか。」

茂「まあ あんまり稼げんがな。」

修平「金を追っかける人生なんぞ つまらん。 好きな事を追っかけて 生きる方が ええ。 後は まあ… なんとかなるだろう。」

茂「うん…。」

修平「ところで 茂。 わしには 本当の事を聞かしぇ。」

茂「な 何だ?」

修平「昼間の娘 あれ 年 幾つだ?」

茂「あん?」

修平「美人だったなあ。 お前 何か あったんだろう?」

茂「何もないわ!」

修平「何だ もったいない!」

茂「えっ?」

修平「いやいや…。」

(笑い声)

修平「おいおい 仕事しぇ わしゃ もう寝る!」

茂「ああ。」

2階

(絹代の高いびき)

<翌日 修平と絹代は 境港に帰っていき…。 調布の家に いつもの暮らしが 戻ってきました>

玄関前

布美枝「きれいだねえ!」

藍子「うん。」

布美枝「ほら 藍子 桜だよ。 ほら きれい! ね!」

はるこ「布美枝さん。」

布美枝「あ…。 あら…。」

仕事部屋

はるこ「この間は みっともないとこ お見せして すいませんでした。 先生のご両親にも 誤解されてしまったみたいで…。」

茂「あ~ それは もう ええです。 誤解も解けたし。 それより 原稿 どうしました?」

はるこ「描き直して 『少女ガーデン』の編集部に 持っていきました。 あれから 徹夜 3日間しました。」

布美枝「3日も!」

はるこ「最後の勝負だと思って 必死で。 今の私に描ける 一番いい漫画に なったと思います。 けど… ダメでした。 採用されませんでした。」

茂「ほんなら…。」

はるこ「明日 私 田舎に帰ります。 私 最後の勝負にも 負けてしまったんです。 漫画は もう諦めます。 でも… 他に 何をしたらいいか 分かんないんです。 子供の頃から 漫画家になる事しか 考えてませんでしたから。 先の事は… まだ 全然。 結局 3年間 ムダにしただけかもしれません。 今の私 空っぽです。」

布美枝「そんな…! ずっと頑張っておられたのに。」

茂「頑張っとるのは みんな 同じだからなあ。 漫画家を目指す人間は みんな 頑張っとる。 けど プロになれるもんは わずかしか おらんし ずっと描き続けられるのは そのまた 一握り。 ほとんどの人は 夢 破れるんです。 世の中 思いどおりには ならんですよ。」

布美枝「お父ちゃん…。」

茂「けどね 空っぽという事はない。」

はるこ「え?」

茂「3年 描き続けとった 漫画家魂が残っとる。 あんたは それ ずっと持っとったらええですよ。」

はるこ「でも 私 漫画 諦めるんですよ。 漫画の事ばっか考えたって しかたないです。  気持ちが残ってたって つらいだけですから…。」

茂「う~ん。 この間 来とった うちのおやじは 芝居や小説が好きでね。 昔は 映画館も やっとったですよ。」

はるこ「映画館…?」

茂「おやじは 小説らしきもんも 昔から よう書いとったけん。 お陰で 俺は 子供の頃から いろんな物語を よう知っとった。 それが 今になって 漫画を描く役に立っとるわ。」

茂「あんたの漫画家魂も いつかは 何かに繋がるかもしれんよ。 でもなあ… うちのおやじの話では 手本にも 参考にもならんな。」

布美枝「あら そげですか? お父さん 立派じゃないですか。 今でも 小説 書いておられるんですけん。」

はるこ「今でも?」

布美枝「はい。 この間も 出版の相談で 上京されたんですよ。 まあ 結局 本には なりませんでしたけど。」

茂「あの人は 昔から 『なんとかなる主義』で やっとるけんな。」

はるこ「なんとかなる主義…?」

布美枝「あら… けど それ お父ちゃんも 受け継いどりますよ。」

茂「俺がか? ああ 俺も たま~に言っとるな 『なんとかなる』。」

布美枝「いいえ よう言っとります。」

はるこ「何だか 私 がぜん ファイトが わいてきました。 『なんとかなる』か そうですね! フフッ…。」

<久しぶりにみせた はるこらしい明るい笑顔でした>

玄関前

布美枝「お元気で。」

はるこ「はい。 先生 布美枝さんを お借りしてもいいですか?」

布美枝「え?」

はるこ「私 一度も 行った事がないんです 深大寺。 だから 東京を離れる前に どうしても行ってみたくて。 布美枝さん つきあって下さい!」

布美枝「今からですか?」

はるこ「先生 いいですか?」

茂「ああ ええぞ。」

はるこ「行きましょう!」

布美枝「あっ けど 藍子が…。」

茂「俺が見とってやる。」

布美枝「あ…。」

はるこ「行きましょ。」

茂「おい! 自転車で行け 自転車で。」

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