ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第90話「チャンス到来!?」

あらすじ

茂(向井理)は、豊川(眞島秀和)からきた「別冊少年ランド」への“宇宙もの”漫画の依頼を断ってしまう。“宇宙もの”が苦手だから、というのがその理由だった。布美枝(松下奈緒)も浦木(杉浦太陽)も、その答えに驚き、茂の真意をはかりかねる。茂は「自分が、本当に自信を持って描くことのできるジャンルの漫画で、勝負すべきだ」と言い、「必ずもう一度チャンスがくる」という確信を布美枝に告げる。そして、ある日…。

90話ネタバレ

水木家

仕事部屋

豊川「『別冊少年ランド』に 漫画を お願いしたいのです」。」

<突然 現れた 大手出版社の編集者。 茂に 大きなチャンスが やって来たのです!>

豊川「これまで ご縁がありませんでしたが 私 先生の漫画は 『墓場鬼太郎』の頃より 拝読しております。」

茂「そうですか。 それは どうも…。」

豊川「それでですね 5月発売の『別冊少年ランド』に 32ページの読み切りを お願いできないかと思いまして。」

茂「32ページの読み切り… はあ そうですなあ。」

豊川「実は 内容について 一つ ご相談があるんです。」

茂「何でしょう?」

豊川「宇宙物を お願いします。」

茂「宇宙物?」

豊川「はい。 宇宙を舞台にした SF漫画を描いて下さい。 『少年ランド』では 毎号 読者の人気投票を行っているんですが SFは スポーツ物 ギャグ漫画と並ぶ 人気ジャンルなんですよ。 人類初の宇宙遊泳が テレビ中継された事もあって 子供達の宇宙熱は ますます 高まっていますから。」

茂「宇宙物のSFか…。」

豊川「先生… いかがでしょうか?」

茂「ええ… 分かり…。」

豊川「先生?」

茂「宇宙物でないと いかんのでしょうか?」

豊川「ええ…。」

茂「他の漫画では ダメですか?」

豊川「今回は そういう編集方針ですので。 何か?」

布美枝「お父ちゃん。」

茂「それなら… お断りさせてもらいます。」

布美枝「えっ!」

茂「自分は 宇宙物は 得意ではありませんので。」

<思いも寄らない 茂の返事でした>

居間

豊川「突然 押しかけて 失礼しました。」

布美枝「いえ 何のお構いもせんで。 あの… これ。 少し切ってしまいましたけど。」

豊川「はい?」

布美枝「頂く訳には…。」

豊川「はあ あの これは どうぞ お納め下さい。 今日は こちらが 勝手に押しかけたんですから。」

布美枝「はあ… でも…。」

豊川「じゃ 私は これで。 先生 失礼します。」

(ペンを走らせる音)

布美枝「すんません。 仕事始めると 何も 耳に入らんのです。 お父ちゃん!」

(ペンを走らせる音)

浦木「お前は バカだ! 雄玄社の注文を断るなんて 身の程知らずにも 程がある! 愚の骨頂 あきれた だらずだ!」

茂「うるさいなあ…。」

浦木「あの男 相当 頭に来とったぞ。 帰り際 お前の背中を じ~っと にらみつけとった。 あ~ もう二度と 声は かからんだろうなあ。 お前は 人生に たった一度しかないチャンスを みすみす 棒に振ったんだ!」

茂「宇宙物は 気乗りせんのだ。」

浦木「ははん お前 さては 貧乏で テレビが買えんから 人類が 宇宙遊泳に成功した事 知らんかったんだな。 そんな旧式な事では 時代についていけんぞ。」

浦木「奥さん 大手の出版社なら たとえ 読み切り1本でも 貸本より よほど もうかるんですよ それを断るなんて ゲゲは この ど貧乏暮らしを よほど 愛してるんでしょうな。」

茂「ああ うるさい! ゴチャゴチャ言うな! 立て ほら! さっさと帰れ!」

浦木「まだ 飯 飯…。」

茂「失恋のやけ酒でも飲んどれ!」

浦木「あっ 野蛮人! あっ!」

(戸が閉まる音)

茂「飯…。」

布美枝「はい…。 テレビがないのが いけんのですか?」

茂「ん?」

布美枝「宇宙の資料が要るなら… 本代くらい なんとか。」

茂「だらっ。 仕事のことに口出すな!」

雄玄社

少年ランド編集部

豊川「戻りました。」

編集部員達「あ お疲れ~。」

編集長「どうだった? トヨさんご執心の水木しげる。」

豊川「すいません。 断られました。」

編集部員達「ええっ?!」

編集長「嘘だろう?」

高畑「ほんとかよ?! お前。」

福田「ホホホ…。」

編集長「信じられんなあ。 貸本漫画家が うちの注文を断るかねえ。」

豊川「宇宙物は 気乗りしないそうです。」

高畑「それ 言い訳じゃないかな。」

豊川「ええっ?」

高畑「貸本は 初版2,000部だろう? うちが 40万部超えてるのを知って びびったんじゃないの? ヘヘヘ…。」

編集長「しょせん 大舞台に乗る器じゃないって事だ。」

福田「今度ばかりは トヨさんの 直感も外れましたね。 ヘヘ…。」

回想

回想終了

豊川「何か あるんだよなあ。 あの人…。」

梶谷「トヨさん ちょっと…。」

豊川「おう。」

廊下

梶谷「小耳に挟んだんだけどね。」

豊川「おう。」

梶谷「上の方じゃ 今度の人事で トヨさんを 編集長に据えるつもりらしいぜ。」

豊川「冗談言うなよ! 俺 まだ30前だぜ。」

梶谷「いや ありうる話さ。 今の編集長 第1出版局の局次長に 就くらしいから。」

豊川「よその部から 誰か 天下ってくるだろう。」

梶谷「勘弁してくれよ。 文芸誌辺りの 年寄りに来られたら 売り上げ ガタ落ちだ。」

豊川「まあ 誰が来ても 『ランド』の売り上げ支えるのは 俺達 現場の部員だよ。 さあ 仕事 仕事! 今日は 朝まで校了だ。」

水木家

2階

回想

茂「お断りさせてもらいます。 自分は 宇宙物は得意ではありませんので。」

回想終了

布美枝「なして 断ったんだろう。 せっかくのチャンスなのに…。 学校上がったら 藍子にも お金がかかるのにね。 やっぱり テレビぐらい持っとらんと 時代には ついていけんのかな…。」

仕事部屋

布美枝「お父ちゃん? お父ちゃん ちょっと ええ?」

茂「夜食は カステラで ええぞ。」

布美枝「ちょっこし 相談があるんだけど。」

茂「何だ?」

布美枝「いつもの質屋さん ミシン 預かってくれんでしょうか?」

茂「ミシン?」

布美枝「うちの古いのも 幾らかにはなりますよね。」

茂「質屋は どげかな。 古道具屋なら 引き取るかもしれんが。」

布美枝「古道具屋か…。」

茂「どげした? ミシン売って どげするんだ? え? 何か 欲しい物でもあんのか?」

布美枝「テレビ買う 頭金にならんでしょうか?」

茂「テレビ?」

布美枝「やっぱり テレビぐらい 持っとらんとね。 お父ちゃんの仕事は いろいろ 新しい事も 知っとかんと いけんのだし…。 『余計な事言うな』って 怒るかもしれんけど…。」

茂「ああ 黙っとれ。」

布美枝「けど…。」

茂「仕事のことには 口を出すな。」

布美枝「…はい。」

茂「おい。」

布美枝「はい?」

茂「カステラ。」

布美枝「はい…。」

居間

布美枝「なしてだろうか…。 お父ちゃん 勝負 諦めてしまったのかな…。」

茂「おい そう がっかりするなよ。 俺は 諦めた訳ではないぞ。」

布美枝「お父ちゃん…?」

茂「うん。 戦わずして 勝負を降りた訳じゃないぞ。 これは 大きなチャンスだ。 だが… 失敗の許されん 大勝負でもある。」

布美枝「はいっ。」

茂「自信を持って 『これは』というもんで 勝負せんと負ける。 負けたら 終わりだ。」

布美枝「終わり…。」

茂「貸本から雑誌に移る時に 注文に合わせて 苦手なもんを描いて失敗した 漫画家を ようけ知っとるんだ。 実力を発揮できんまま 消えてしまった。 さっきな 貧乏神が にんまり笑っとったんだ。」

布美枝「え? 貧乏神…?」

茂「うん。 あいつの顔を見て 俺は ピンと来た。 『苦手なもんで 勝負したら いけん。 失敗したら 貧乏から 脱出できなくなる』。 ん? お前 俺の頭が どうかしたと 思っとるのか?」

回想

回想終了

布美枝「いいえ…。 確かに 何か おるなあって 私も思っとったんです。 あれが 貧乏神だったんですかね?」

茂「うん。 前ほど のさばっておらんがな まだ おるんだ。 今日 来た男は 俺の漫画を よう読んどって 本気で 描かせたがっとった…。 だけん チャンスは きっと もう一度 来る。 勝負懸けるのは その時だ!」

布美枝「もう一度 来ますかね?」

茂「来る。 必ず来る! カステラは この砂糖が ザラッとなっとる 底のとこが うまいな。」

<『もう一度 チャンスが来る』という 茂の言葉を 布美枝は 信じようと思いました>

<それから しばらく経って…>

仕事部屋

(蚊の飛ぶ音)

茂「ああ 蒸し暑いなあ…。」

布美枝「♬『埴生の宿も わが宿』」

豊川「奥さん こんにちは。 いや~ 暑いですねえ。 すいませんが 水を 1杯 頂けますか?」

<それは 梅雨の初めの ひどく 蒸し暑い日の事でした>

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