ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第91話「来るべき時が来た」

あらすじ

布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)のもとを、雄玄社の豊川(眞島秀和)が再び訪れる。豊川は、「ジャンルは問わないので、テレビよりも面白い漫画を『別冊少年ランド』に描いてほしい」と茂に依頼する。戌井(梶原善)は、茂に対し「『別冊少年ランド』への依頼は登竜門であり、そこをクリアできれば『週刊少年ランド』への執筆の道が開ける」と語り、多くの子どもたちの心をつかんでほしいと激励する。

91話ネタバレ

水木家

豊川「こんにちは。 いや~ 暑いですねえ。 すいませんが 水を 1杯 頂けますか?」

<豊川が 再び 調布の 村井家に やってきたのは 梅雨の初めの ひどく 蒸し暑い日の事でした>

回想

豊川「『別冊少年ランド』に 漫画を お願いしたいのです。」

茂「お断りさせてもらいます。 自分は 宇宙物は 得意では ありませんので。」

布美枝「え?」

居間

豊川「ああ いただきます。 あ~ うまい。 生き返るなあ!」

布美枝「すんません 駅から遠くて。」

豊川「えへへ そうですね。」

布美枝「あ もう一杯 つぎましょうか?」

豊川「ええ。 あ~ 先生 ごぶさたしてます。 『少年ランド』の豊川です。」

茂「どうも。」

豊川「お仕事中に お邪魔します。 今日は また お願いに あがりました。 今度は 是非とも 引き受けて頂きますよ。」

(小鳥の鳴き声)

回想

茂「チャンスは きっと もう一度 来る。 勝負 懸けるのは その時だ。」

回想終了

布美枝「お父ちゃん 今度は 何 言うつもりだろう…。」

(物音)

藍子「お母ちゃん お城が壊れた。」

布美枝「し~っ。 今 大事なお話 しとるとこだけん。 ね?」

仕事部屋

豊川「今度は どんなジャンルでも かまいません。 『別冊少年ランド 夏の特大号』に 読み切りで 32ページ。 お願いしたいのですが いかがでしょう?」

茂「そういう事なら…。」

布美枝「失礼します。」

豊川「あ どうも。」

布美枝「どうぞ。」

豊川「実は… 今回も 一つだけ 大事なお願いが あるんですよ。」

茂「何でしょう?」

豊川「テレビよりも 面白いものを描いて下さい。 読者の子供達が 今 夢中になっているものは 何と言っても テレビです。」

茂「ああ。」

豊川「しかし 子供達を テレビに取られては 雑誌は 商売になりません。」

茂「うん。」

豊川「子供達の目が漫画に向くように テレビよりも面白い インパクトのある 作品を 描いて頂きたい。 いかがでしょうか?」

茂「分かりました。 1週間… いや 5日 下さい。 構想を練ります。」

豊川「ありがとうございます。 では 5日後に もう一度 参上します。 よろしくお願いします。」

<チャンスは 茂の言ったとおり 再び やってきました>

豊川「うわ~! よく出来てるなあ。 これ 戦艦長門ですね。」

茂「ほう あんたも 戦艦に 詳しいんですか?」

豊川「いや~ 私は こういうのを見ると どういう仕組みになっているのか 探求してみたくなるタチで。 そうだ。 巻頭のグラビアで 『戦艦の図解』 やってみようかな。」

茂「やるなら 正確にやって下さい。 不正確な図解は いけませんよ。 自分の作ったこれは ちゃんとしてます。」

豊川「先生が作られたんですか?」

茂「ええ。」

豊川「大変 失礼ですが 片腕で これを?」

茂「はあ。まあ 近頃は 妻が助手を務めておりますが。 もともとは 戦記物を描く参考に 作り始めたんですよ。」

豊川「古本屋みたいだな。 全部 漫画の資料か…。」

茂「あの そろそろ ええですか? 自分は これを 仕上げんとならんもんで。」

豊川「すいません。 もう退散しますよ。」

(ペンを走らせる音)

豊川「先生…。」

茂「はい。」

豊川「その漫画は…。」

茂「北西出版で出しとる 時代劇ロマンのシリーズですよ。 戌井さんとこの貸本漫画です。」

雄玄社

少年ランド編集部

豊川「そんな恰好で ウロウロしないで下さいよ~! また 婦人雑誌の編集部から 『野蛮人どもの集団を なんとか してくれ』と クレームが来ますよ。」

高畑「こう蒸し暑くちゃ 上着なんか着てらんないよ!」

福田「梅雨時から これじゃ 真夏が思いやられるなあ!」

豊川「おいおい!」

北村「ここは 雄玄社ビルの 3等地じゃないですか。 西日さす 風通しの悪~い 別館ですよ! 行ってきます。」

編集部員達「は~い!」

豊川「ジャリ相手の おもちゃ雑誌と バカにされてるうちは 1等地には 引っ越せませんよ~。 ど~んと 大きく当てて 上に アピールしないとな!」

編集部員達「はいはい!」

豊川「ハハハハ!」

梶谷「トヨさん 巻頭企画のイラスト 上がってきてるよ。」

豊川「おう。」

豊川「俺さ 次の図解は 連合艦隊で 行こうかと思うんだけど。」

梶谷「いいね。 新幹線大図解に ロケット大図解 図解物は 当たってるからな。」

豊川「早速 山川先生に頼んでみるか。」

梶谷「うん。 で どうだった? 水木しげるは。」

豊川「挑戦状を渡してきた。」

梶谷「挑戦状?」

豊川「ああ。 『別冊少年ランド』で 32ページ。 内容は自由でいいが テレビよりも面白いものを 描いてほしいと注文してきたよ。」

梶谷「また 厳しい注文つけたもんだな。」

豊川「ああ。 でも あの先生 俺が思っていたより もっと とてつもない人かもしれない。」

回想

豊川「その絵…。」

茂「何ですか?」

豊川「そこまで 繊細なタッチで お描きになっても 印刷すると つぶれてしまって ベタにしか 見えないんじゃないですか?」

茂「そうですなあ。 漫画の紙は あまり上等ではないですから。 しかし 自分は ずっと この やり方で 描いとるもんで。」

回想終了

豊川「あの絵の力は すごいものがあるよ。」

梶谷「う~ん 強烈すぎて 誌面に なじまないんじゃないのかな もともと 少年漫画向きの 描き手じゃないし。」

豊川「梶さん これだよ これ! 俺はね 編集長を 引き受けるからには 『少年ランド』を ナンバー1雑誌にする。 勝負は勝たなきゃつまらんからね。」

梶谷「来月には 最年少編集長の誕生か。」

豊川「トップとるには 新しい事を やらなきゃダメだ。 水木漫画も そのチャレンジの一つだよ。」

水木家

(犬のほえる声)

居間

布美枝「豊川さんが編集長に?」

茂「ああ そげ言っとった。」

布美枝「あ~ お若いのに 大したもんですね。」

茂「30そこそこかなあ。 よほど やり手なんだろう。」

布美枝「へえ…。」

茂「あの男のもとで 編集方針を 一新するそうだ。 それで こっちにも お鉢が回ってきた訳だ。」

布美枝「お父ちゃんが 前に 言ってたとおり。 チャンスが もう一遍きましたね。」

茂「うん… あっ… あの男 誰かに似とると思ったら 猫か。」

布美枝「猫?」

茂「うん。 あの 寺の裏辺り ウロウロしとるだろ。 顔に ひっかき傷のある 負けん気の強そうな。」

布美枝「ああ よう けんかしとる あの猫。」

茂「うん。」

(猫の鳴き声)

布美枝「言われてみれば 似とる。」

茂「戌井さんとこの原稿 今夜 仕上げてしまうけん 明日 届けてくれ。」

布美枝「徹夜ですか?」

茂「5日後には また あの猫が うちに来るけん 早こと 『少年ランド』の構想に 取りかからんとな。」

布美枝「はい!」

戌井家

早苗「水木さんが 『少年ランド』に?!」

布美枝「『週刊誌ではなくて『別冊少年ランド』だ』って 言ってました。」

戌井「それが登竜門ですね。」

布美枝「登竜門?」

戌井「ええ。 まず 別冊で 1本描いてもらって 作品の出来栄えや 読者の反応を見るんです。 そこで 合格となったら いよいよ 『週刊少年ランド』の本誌に 進出ですね。」

布美枝「ほんなら これは 試験という事ですかね?」

戌井「ええ まっ そういう意味合いも あると思います。」

早苗「でも すごいじゃないの! 売れてるんでしょ 『少年ランド』って。」

戌井「あの 40万部は いってるかな。」

早苗「40万?! うちで作ってる本 初版2,000部よ? 200倍じゃないの!」

布美枝「200倍?!」

戌井「おいおい うちと比べて どうするんだよ? 向こうは 日本で 一二を争う 大出版社だぞ?」

早苗「うちは 日本一小さい 出版社ですけどね。」

戌井「しかし 面白くなってきたなあ。 大手出版社にも やっと 水木漫画の理解者が現れた訳だ。」

布美枝「はい。」

戌井「まあ 僕に言わせれば いささか 遅きに失うした感は ありますけどね。」

布美枝「一遍 仕事を お断りしたので もう お声がかからんのじゃないかと 私 ほんとは 心配しとったんです。 けど また お話を頂いて よかったです。」

戌井「…で 次は どんな注文で?」

布美枝「何でも ええそうです。」

戌井「何でもいい?!」

布美枝「『好きなものを描いていい』と。 ただ 『テレビよりも面白いものを』と 言っておられました。」

戌井「テレビより面白いものか…。」

布美枝「『テレビに夢中になっとる子供達の 目を 漫画に向けさせてほしい』と。」

戌井「う~ん…。」

早苗「どうかした?」

戌井「向こうも 勝負を挑んできた訳だ。」

早苗「勝負って?」

戌井「いや 縛りがない。 自由に考えていいっていうのは 楽なようでいて 実は 一番 厳しい注文ですよ。 ほんとの力が試される。 言い訳は 一切とおらない。 もちろん すべて承知の上で 水木さんは 受けて立ったのだと思いますよ。」

布美枝「はい。」

戌井「次の相手は 40万人という 大勢の子供達か…。 心をつかむのは 容易な事じゃない。 奥さん! 水木さんに伝えて下さい。 40万人の心をつかむ 何かを見つけて下さい! それが 日の当たる場所への 扉を開く鍵です!」

布美枝「はい!」

戌井「うん! 貸本漫画専門で 出版している会社は 東京では もう 3社しかありません。」

布美枝「3社ですか? 前は あんなに たくさんあったのに。」

戌井「つぶれたり 撤退したりで みんな消えてしまいました。」

早苗「うちも 印刷の仕事の仲介なんかして なんとか 利益 出してるけど 漫画の出版だけじゃ とても…。」

布美枝「そうですか。」

戌井「このチャンスをつかんで 進んで下さい! もう後戻りは できませんよ。」

道中

布美枝「読者の心をつかむ何か…。 日の当たる場所に出る鍵か…。」

<大手の雑誌に打って出るには まだまだ 乗り越えなければならない 試練が あるのでした>

戌井家

早苗「あんた…。」

戌井「こんな 傑作漫画も 狙いが狂えば 世間から はじかれる。 これまでに いやって言うほど 苦い水 飲んできたからなあ。 水木さんも 僕も…。」

早苗「うん…。」

戌井「今度こそ つかんでくれよ… 人生を変えるチャンスだ。」

水木家

玄関前

布美枝「読者 40万人か…。」

回想

戌井「このチャンス つかんで進んで下さい! もう後戻りは できませんよ。」

回想終了

布美枝「後戻りは できない…。」

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