ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第92話「来るべき時が来た」

あらすじ

茂(向井理)は、豊川(眞島秀和)から依頼された漫画のアイデアを練っていた。茂は布美枝(松下奈緒)から金を受け取ると、亀田(徳井優)の質店に飛び込み、質流れのテレビを買う。茂は一日中テレビの前に座り込んで、画面に流れる番組を見続けた。そして、テレビの中に自由に入り込んでは、欲しいものを何でも持ちだすことのできる少年を主人公にした「テレビくん」の着想を得る。豊川も「テレビくん」に乗り気になるが…。

92話ネタバレ

水木家

仕事部屋

回想

豊川「テレビよりも面白い インパクトのある作品を 描いて頂きたい。」

回想終了

茂「テレビよりも面白い漫画かあ。 紙芝居も貸本漫画も テレビに け散らされて 消えてったようなもんだ。 (ため息) 出てくるなよ~! 貧乏神。」

居間

布美枝「よいしょ! お隣さんで ええ子にしとった?」

藍子「うん。 暑~い!」

布美枝「むしむしするね。 窓 開けようか? ね! お父ちゃん まだ寝とるのかなあ。 原稿 仕上げるのに 徹夜しとったけん。」

仕事部屋

布美枝「お父ちゃん。」

回想

戌井「水木さんに伝えて下さい。 40万人の子供達の心をつかむ 何かを見つけて下さい。 それが 日の当たる場所への 扉を開く鍵です。」

布美枝「はい。」

回想終了

布美枝「戌井さんが言っとった事 お父ちゃんが 一番よう分かっとるよね。」

居間

布美枝「こっちに 折って。」

(襖の開く音)

茂「戌井さんとこから 金もらってきたか?」

布美枝「ええ。」

茂「出してくれ。」

布美枝「はい。 幾らいるんです?」

茂「全部だ。」

布美枝「全部?」

茂「ああ。 これでは 足らんな。 他に金はないのか?」

布美枝「月末に払う 電気代や何かの分は ありますけど。」

茂「あるだけ全部 出せ。」

布美枝「けど…。」

茂「ええけん 早こと ほれ!」

布美枝「はい…。」

茂「出かけてくるわ。」

布美枝「お父ちゃん お金 何に使うんだろう。」

質屋

亀田「村井さん 久しぶりだね。 今日は 何? 何か 請け出しに来た?」

茂「いや。」

亀田「また質入れかい? ちょっと よくなったと思ったのに 漫画家ってのも 大変なんだね。」

茂「ご主人。」

亀田「ん?」

茂「質流れした テレビありますか?」

亀田「え?」

茂「テレビ買います!」

亀田「え~っ?! テレビって あのテレビ?」

茂「はい!」

茂「しかし テレビが こげに思いとは 思わんだった。 あ~ 誰かおらんかなあ。 おっ! いい所に 暇そうな奴が。」

水木家

居間

布美枝「すいません 重たいの運ばせて 暑かったでしょう。 はい どうぞ。」

浦木「あ すまんですね。 はるこさんの消息を 尋ねに来たのに とんだ目に遭いましたよ。 あっ? これ ただの水じゃないですか。 こういう時は サイダーぐらい サービスするもんですよ。」

布美枝「冷たいもんは お水しかなくて。」

浦木「サイダーの1本 買えんくさえに テレビは 買うんですね。」

布美枝「はあ…。」

浦木「大体 お前 もし俺が あの時 通りかからなかったら どうやって これを 運ぶつもりだったんだ?」

茂「そこらで リヤカーでも 借りようと 思っとった。」

浦木「ふ~ん。」

茂「おつ! ついた。」

浦木「おっ!」

茂「あれ? おかしいな。」

(テレビを叩く音)

布美枝「また そんな乱暴して。 アンテナと このツマミで調節せんと。」

茂「ふ~ん。」

浦木「中古とはいえ テレビを買うとは 出世したもんだと思ったら…。 奥さん 『少年ランド』が また 原稿を 頼みに来たんですってね?」

布美枝「ああ そうなんです。」

浦木「しかし こういうのを 『取らぬ 狸の皮算用』と言うんですよ。」

布美枝「え?」

浦木「まだ 原稿料がもらえるか どうか分からんうちから それを当てにして 高い買い物をするなんて。 そんな事だから いつまでたっても 貧乏から抜け出せんのです。」

茂「だら言うな! テレビは 漫画を描くために買ったんだ。」

浦木「漫画のため?」

茂「ああ。 テレビより面白いもんを描けという 注文だけんな。 テレビを知らずして 戦いには 勝てん。」

布美枝「ああ そういう事だったんですね!」

茂「おっ! きれいに映った。」

テレビ♬『ブーフーウーのテーマ』

布美枝「あら かわいい! 豚さんが 踊っとる。」

茂「ハハハ!」

浦木「やれやれ どこまで甘くできとるんだ。 お前のカビくさい漫画で どうやって テレビに対抗しようというんだ? 勝てる訳なかろう。 俺は 雄玄社に出入りしとるから 大手の出版社がどういうもんか よう分かっとる。」

布美枝「浦木さんは 雄玄社で 何されとるんですか?」

浦木「仕事ですよ。 小さいながらに 広告代理店を始めましてね。」

布美枝「広告代理店?」

浦木「ここを使って 金を ひねり出す商売です。 俺 やっと 天職に巡り会えた気がするなあ。」

布美枝「はあ。」

浦木「ゲゲ! お前は 編集者に おちょくられとるんだ。」

布美枝「え?」

浦木「生意気に SFは描かんなんぞと言って 仕事を断ったりするから 無理難題を言われて 復しゅうされとるんだろう。 『少年ランド』くらいの 人気雑誌ともなると 漫画の構想を通すだけでも 大変だぞ。」

浦木「絵コンテなんぞを描いて 何度も 何度も やり直しをさせられて あげくの果てには 採用されずに ポイっだ。零細資本出版しか知らん お前には 想像もできんだろうが 大手というのはだな…。 な! おい 俺の話を聞け!」

茂「お前 もう帰れ。」

浦木「あっ? 人を荷物持ちに使っておいて 何だ? その言いぐさは!」

布美枝「テレビに夢中になっとりますけん 何も耳に入りません。」

浦木「く~っ!」

玄関前

浦木「テレビが そんなに珍しいか。 とても文明人とは 思えんな。 元が取れると思っとんのかね? きっと またダメだろう。」

居間

藍子「あれ~?」

テレビ『ブーフーウー』

茂「こらこら 触ったらいけん。 真空管が爆発するぞ。」

布美枝「えっ そげん怖いもんですか?」

茂「うん そげ聞いた事がある。」

布美枝「けど 藍子が 触りたくなる気持ち 分かりますね。」

茂「ん?」

布美枝「大人でも 不思議ですけん。 こげな 小さな箱の中で 人や物が動くなんて。」

茂「ああ そげだな。」

布美枝「藍子の目には どげなふうに 映ってるんでしょうね? テレビの中に 小さな別の世界が あると思っとるのかな。」

茂「うん 小さい世界か…。 小さい世界ねえ…。 う~ん。」

<その日 茂は ず~っと テレビの前に座り込んでいました>

回想

豊川「テレビよりも面白い インパクトのある作品を 描いて頂きたい。」

茂「紙芝居も 貸本漫画も テレビに け散らされて 消えていったようなもんだ。」

回想終了

テレビ♬~『夢で逢いましょう』

テレビ「男『ハルちゃん食品の しょうゆラーメン! 味も量も大きくなって 新登場!』。」

茂「おう ラーメンか。 うまそうだなあ。 ああ 腹へったな~。」

テレビ「男『うれしい時は ハルちゃんラーメン』。」

茂「ん? あれ?」

テレビ「男『つるつるつるつる つ~るつる! 悔しい時も ハルちゃんラーメン。 つるつるつるつる つ~るつる うまい うまい ハルちゃんラーメン おいしすぎて ギョッとしちゃう! ギョギョ!』。」

茂「あ~っ!」

2階

布美枝「えっ 何?!」

居間

布美枝「お父ちゃん どげしたの?」

茂「そうか… これだ! 『テレビ小僧』… 『テレビマン』…。 違うな 何だ? 『テレビ人間』 違うな。 『テレビくん』… そうか! 『テレビくん』だ!」

布美枝「テレビが どげしたの?」

茂「腹へった。 夜食 頼むわ。」

布美枝「えっ?」

仕事部屋

茂「この子は 普通の子供にはない 特別な力を持っとる。 自由自在に テレビの中に入り込んで 飲んだり食ったり。 欲しいものは 何でも テレビの中から 持ち出せる。 この子が転校してきたら 学校は 大騒動だな。」

居間

布美枝「お父ちゃん 何を見つけたんだろう?」

仕事部屋

茂「よし! これだ!」

(小鳥の鳴き声)

<そして 約束の日 豊川が やってきました>

居間

豊川「なるほど テレビの中の自由自在に 行き来する子供ですか。」

茂「『テレビくん』です。」

豊川「『テレビくん』ねえ…。 う~ん。 うん。 これは 面白くなりそうです。 テレビの中に入り込んで どこにでも行ける。 欲しいものは 何でも手に入る。 これは 子供の夢そのものですよ。」

茂「ええ。」

豊川「『テレビくん』は 子供達のスターですね。」

茂「ん? 子供達のスターか…。」

豊川「あまり日がありませんが どうでしょうか? 締め切りは 今月末という事で。」

茂「本当に これでええのかね?」

豊川「はい?」

茂「どうも 違うような気がしてきたなあ。」

豊川「先生?」

布美枝「お父ちゃん?」

茂「う~ん。」

豊川「先生が納得しておられないのは どの部分でしょうか? テレビの世界を自由自在に行き来する 少年というアイデア 私は とてもよいと思います。」

茂「ええ。」

豊川「テレビという文明の利器が 人を異次元の世界に いざなう 装置に見えます。 先生が描いてこられた 『墓場鬼太郎』や 『悪魔くん』とも重なって 大いに面白いと思うんですがね。」

茂「しかし 貸本漫画と同じでは やはり いかんでしょうなあ。 自分も ついさっきまで これで いけると 思っとったんです。 けど この子が 子供達のスターかと 言われると どうも違う気がする。 子供に受けるには 何か 足らんような気がするんです。」

豊川「う~む。」

茂「何かが足らんのか どこか違っとるのか…。」

布美枝「藍子! 今 お仕事中だけん 邪魔したら いけんよ。 すんません。」

茂「もうちょっと 丸っこくないと いけんな。 ああ そげだ!」

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