ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第94話「来るべき時が来た」

あらすじ

完成した「テレビくん」に満足した豊川(眞島秀和)は、茂(向井理)に「週刊少年ランド」への短編の連作を依頼する。奇想天外な戦いのある作品を、との豊川の注文に対し、茂は「墓場鬼太郎」を描きたいと告げ、豊川も賛同する。深沢(村上弘明)は、茂のメジャー誌への進出を喜ぶが、秘書・郁子(桜田聖子)は、漫画家がただ大手にさらわれていくばかりに思えてしかたがなかった。

94話ネタバレ

水木家

居間

回想

茂「一つ 描きたいものがあるんですが…。 『墓場鬼太郎』を やらせて下さい!」

布美枝「『鬼太郎』…。」

回想終了

玄関前

豊川「原稿料は 口座の方に 振り込みますので。」

布美枝「やっぱり 大きな会社は 違うもんですね。」

豊川「はい?」

布美枝「今までは 原稿を届けに行ったら 社長さんが 金庫 開けて お金を出してくれる事 ばかりだったんです。 出してくれない事も あったんですよ。 そういう時は 私も粘ってはみるんですけど 金庫の中が空っぽだったりして…。」

豊川「ハハッ!」

布美枝「あっ すいません。 つまらん話 して。」

豊川「いやいやいや 奥さん 楽しい方ですね。」

布美枝「私が? あ そうですか?」

豊川「ああ 一つ お伺いしたいのですが。」

布美枝「はあ。」

豊川「電話を引く予定は ありませんか?」

布美枝「電話…?」

豊川「ここは その… 通ってくるには いささか遠いので…。」

布美枝「すいません 不便で…。」

居間

布美枝「電話かあ…。」

仕事部屋

布美枝「よかったね お父ちゃん…。」

嵐星社

深沢「水木さん とうとう 週刊誌に打って出ますか。」

布美枝「バタバタしていたので こちらの原稿が 遅れてしまって 申し訳ありません。」

深沢「いやいや 大丈夫ですよ。 こっちは まだ 間に合いますから。 加納君。」

郁子「はい。」

深沢「これ 早速 ネームの写植 発注してくれ。」

郁子「分かりました。」

布美枝「お世話になります。」

郁子「水木先生 『少年ランド』に お描きになられたんですか?」

布美枝「はい。 別冊の方ですけど。 夏の特大号に 『テレビくん』が載ります。」

深沢「次は いよいよ 『週刊ランド』で 『墓場鬼太郎』を描くそうだ。」

布美枝「いえ まだ それは本決まりでは。 編集会議が あるそうですから。」

深沢「編集長からの提案でしょう。 決まりますよ。 いや~ 楽しみだなあ。」

布美枝「ええ。」

郁子「あの 『墓場鬼太郎』というのは 社長が 三海社時代に 手がけられていた作品ですよね?」

深沢「ああ。 最初は 富田書房から 怪奇短編集『妖奇伝』として 出てたんだ。 それから 私のとこで 「鬼太郎夜話」の長編シリーズを 描いてもらって。」

布美枝「深沢さんには お世話になって…。」

郁子「いや~ 5冊目の原稿 入院の ドサクサで無くしてしまったでしょう。 あれが ず~っと申し訳なくてね。」

布美枝「その事は もう。」

深沢「だから 余計うれしいんですよ。 『鬼太郎』が大舞台で 復活するというのは。 『少年ランド』に『墓場鬼太郎』か…。 こりゃ 本格的に 漫画に 新しい風が吹いてきたな…。」

布美枝「風… ですか?」

深沢「漫画は もう 子供の おやつではないという事ですよ。 もっと深いもの もっとすごい表現を求める読者が 増えてきてるんです。 うちは小さい雑誌だから 余計に新しい動きに敏感ですが 大手の編集者も それに気づいて 動き出したって訳だ。」

布美枝「雄玄社の豊川さん『ゼタ』のファンだと 言っておられました。 『自分達には とても作れないけど』って。」

深沢「そりゃそうだ。 こんな赤字雑誌 作ったら 会社で問題になる。」

布美枝「まあ。」

深沢「ハッハ! しかし 『ゼタ』も 幾らか 話題になってましてね。 大学生が読んでいるという記事が 新聞に載ったりしたもんだから。」

布美枝「大学生も 漫画を読むんですね。」

深沢「ええ。 まだまだ 新しい事が起こりますよ。 水木さんも ここからが勝負です。」

布美枝「はい!」

郁子「社長… これで いいんでしょうか?」

深沢「は… 原稿 どっか変か?」

郁子「いえ 水木先生の事です。」

深沢「ああ よかったなあ。 あの人も 随分 苦労してきたけど これで 少しは楽になるだろう。」

郁子「私 何だか 腑に落ちないんですが。」

深沢「何が?」

郁子「社長が守ってきたものを 大手に横取りされるみたいで。 大手で 仕事をするようになったら もう うちには 描いて 頂けないんじゃないでしょうか?」

深沢「何 言ってんだい。 水木さんは そんな人じゃないよ。」

郁子「水木先生は そうかもしれません。 でも 他の先生方は どうでしょうか? うちと大手では 原稿料が まるで違いますもの。 賞を作って 新人を育てても 人気が出た頃に 大手に さらわれるんじゃ こちらは 何も残りません。」

深沢「そうかな…。」

郁子「え?」

深沢「沢山の人に読んでもらえるなら いいじゃないか。 何十万という読者が 水木さんの漫画を読む…。 すばらしい事だと 僕は思うね。」

郁子「それじゃ うちは いつまでも赤字のままですよ。」

深沢「まあ 何か 手を考えるさ。 優先すべきは いい漫画を 世に出す事だ。」

郁子「そうかしら…。」

水木家

居間

布美枝「どげしよう…。 これだけあったら 随分 助かるけど…。 やっぱり 返さなきゃ。」

茂「何を ブツブツ言っとるんだ?」

布美枝「通帳 記帳してきたんですけど。 他の人の口座と 間違って 振り込んどるんでしょうか? それとも 桁一つ 違っとるんでしょうか?」

茂「どれ。」

布美枝「ネコババする訳にもいかんし… あ やっぱり 正直に お伝えして。」

茂「ハハハハハ! 何を言っとるんだ。 これ 『テレビくん』の原稿料じゃないか。」

布美枝「え~っ?! 32ページで こんなに? 貸本1冊よりも 多いじゃないですか!」

茂「それが 人並の原稿料というもんだ。 貸本漫画のは… あれは 人間の原稿料ではなかったなあ。 かすみしか食えん額だけんな。」

布美枝「はあ…。 一 十 百 千…。 あ そうだ…! このお金で 電話 引きましょう!」

(玄関の戸の開閉音)

茂「あ~ 暑いなあ! おう ついたか 電話。」

布美枝「ちょうど 取り付け工事が 終わったとこです。」

茂「うん。 …で 何しとるんだ?」

布美枝「電話番ですよ。」

茂「電話番?」

布美枝「仕事の電話が鳴ったら パッと取らんといけんですけんね。」

茂「すぐには かかってこんよ。 取り付けたばっかりやし。」

布美枝「最初が肝心ですけん。 一本目の電話が鳴ったら パッと取らんと 縁起が 悪いような気がしますけんね。」

茂「そげか… 確かにな。 これじゃ じゃんじゃん鳴って 漫画の注文が どんどん来たら ええんだがな。」

(電話の呼び鈴)

布美枝「はい。」

茂「ほれ来た! おい!」

布美枝「あっ はい 村井でございます。 あ 冷やし中華3つ。」

茂「冷やし中華!」

布美枝「はい! ん? 冷やし中華って? あ あの うちは ラーメン屋じゃありません。 はい…。」

茂「間違い電話か。」

布美枝「へえ。」

(電話の呼び鈴)

布美枝「はい 村井です。 いえ 違います。 あ あの うちは 出前 やってません!」

茂「うちの電話番号は 前に ラーメン屋が使っとたんかな?」

布美枝「さあ…。」

(電話の呼び鈴)

布美枝「はい 村井です。 冷やし中華ですか? はっ あ はい! あ お世話になっております。 お父ちゃん。 豊川さん。」

茂「お おう!」

布美枝「今 代わりますけん!」

茂「はい。 はいはい そうです。 あ どうもどうも はい…。 あ~ そうですか…。」

<豊川からの電話は 『墓場鬼太郎』の執筆を 正式に 依頼するものでした>

戌井「『テレビくん』は いいなあ。 この とぼけた表情が 何とも かわいい。」

茂「なかなか 評判も ええそうだ。」

戌井「ああ でしょうねえ。」

浦木「よっ。」

戌井「あ…!」

浦木「う~ん ゲゲの漫画にしちゃ 確かに まともな方だ。 が…。 やっぱり 浮いとるなあ お前の漫画だけ。」

浦木「ああ 少しくらい 評判が いいからって 調子に乗んなよ。 週刊誌に 『墓場鬼太郎』を 描くなんて バカなまねは よせ!」

茂「お前には関係ない。」

浦木「バカ! 俺は友情で言ってるんだ。 『週刊少年ランド』の恐怖の人気投票の 仕組み 知らんのか?」

布美枝「恐怖って  どういう意味ですか?」

浦木「あれは 首切りの 順番待ちのようなものでしてね。 毎号 一番からビリまで 順番が出るんです。 3回 連続して 最下位をとると すぐにクビ! 打ち切りです。」

布美枝「打ち切り…。」

浦木「お前の『鬼太郎』は あまりの不気味さに 飯が ノドを通らなくなり 子供が熱を出すという代物だぞ。 しかも 貸本どころか 紙芝居のにおいさえ漂う カビ臭~い漫画だ。」

浦木「墓場の話が 今の子供に受ける訳がない。 名?連続最下位は 目に見えとるなあ! こんな簡単な理屈が なぜ 分からんかねえ。」

戌井「あなた…。 相変わらず 失礼な人だなあ!」

浦木「え?」

戌井「こんな時代だからこそ 『鬼太郎』が求められてると 僕は 思うなあ。」

浦木「おいおい 若大将 おかしな事を言いだすなよ。 あ?」

戌井「あなたに言っても 分かって もらえないと思いますけども 子供は みんな 怖いものや 不思議な世界が大好きですよ。 何もかも明るくなってしまった 今だからこそ 『鬼太郎』の闇の力が 子供達を引き付けるんです。」

茂「闇の力か…。」

戌井「それに僕は 『鬼太郎』に 奇跡的な生命力のようなものを 感じますね。 紙芝居に始まって 『妖奇伝』 『鬼太郎夜話』…。 毎回 消えかかっては そのつど 復活してる。 『鬼太郎』は 不死身です!」

布美枝「不死身か…。」

茂「お化けは死なんけんな。」

戌井「はい! 水木さん 『鬼太郎』の新作に 全力で当たって下さい! うちの幻想ロマンシリーズは 後回しで かまいませんから。」

茂「しかし そんな事したら あんたのとこが困るじゃないか。」

戌井「こっちは なんとかなります。 今は『鬼太郎』に集中して下さい!」

布美枝「戌井さん…。」

浦木「やれやれ 道理の分からん奴ばかりだ…。」

<ところが…>

雄玄社

少年ランド編集部

高畑「編集長 また載せんですか? 『墓場の鬼太郎』。」

福田「2回とも人気投票は 圧倒的に 最下位ですよ。」

北村「販売部からも 『少年ランド』のカラーに合わないと 苦情が来てます。 書店の評判も よくないそうで。」

高畑「大体 鬼太郎ってのは 何者なのかねえ? チャンチャンコ着て 下駄履きなんて 幾らなんでも 古くさい。」

福田「正義の味方って ご面相でもないしね。」

梶谷「俺なんかは 面白く読んでるけど 子供達には なじみにくいのかもしれないな。」

水木家

居間

浦木「だから言わんこっちゃない。 広告局に 顔 出したついでに ゲゲの漫画の反応を 探ってきましたが 『墓場の鬼太郎』は 第1回目も この第2回目も アンケートの結果は 最下位ですよ!」

布美枝「最下位ですか…?」

浦木「ええ ビリです どんじりです。 よく そんな のんきに ぼたもちなんか 作っていられますねえ。」

布美枝「あ 秋のお彼岸ですけん…。」

浦木「はあ…。 あいつは どこ行っとらるんです?」

布美枝「散歩を兼ねて 近くの墓場に。」

浦木「墓場?!」

布美枝「『鬼太郎』で墓場を描くので。」

浦木「まだ懲りずに そんなものを…。 ボツになりますよ。 こう人気がなくちゃ 『3回目は ボツになるだろう』と もっぱらの評判です。」

布美枝「そんな…。」

<期待に反して 『墓場の鬼太郎』の人気は さっぱりだったのです>

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