ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第95話「来るべき時が来た」

あらすじ

茂(向井理)は「週刊少年ランド」に「墓場の鬼太郎」を描き始める。しかし、読者からの人気投票は最下位で、編集部内では打ち切りの議論が出る始末。そんななか、豊川(眞島秀和)だけが、これまでの常識にとらわれない漫画こそが他誌に勝つために必要であることを力説して譲らなかった。そして、編集部に「墓場の鬼太郎」を支持する投書が少しずつ届くようになり、豊川は「墓場の鬼太郎」の本格的な連載開始を決意する。

95話ネタバレ

水木家

居間

浦木「『墓場の鬼太郎』は 第1回目も この第2回目も アンケートの結果は 最下位ですよ。」

布美枝「そんな…。」

<『週刊少年ランド』に 描き始めた 『墓場の鬼太郎』は 8月に1本 9月に1本 読み切りの形で載りましたが 人気は さっぱりでした>

浦木「さすがに ぼたもちも5つも食うと 腹がもたれて 眠くなりますね。 奥さん ゲゲまだですか。」

郁子「奥さんなら 今 外の流しですけど。」

茂「あれ? あんた 来てたんですか?」

郁子「お邪魔してます。 深沢から申しつかって 陣中見舞いを お届けに。」

茂「何だ そのだらしない恰好は!」

浦木「あっ…。」

茂「はあ~ ズンダに 相当な思い入れがあるんだな。」

布美枝「すんません。」

浦木「お前のせいだぞ!」

茂「俺?」

浦木「『鬼太郎』の人気投票が 最下位だと聞いて 奥さん ショックを受けたんだ。」

布美枝「浦木さん。」

浦木「ゲゲ 今からでも路線を変えろ。 そうだなあ。 鬼太郎を 宇宙飛行士にして 火星探検にでも 行かせとけ。」

茂「支離滅裂だな。」

浦木「バカ! ここで バッサリ切られてみろ! お前 また 食うや食わずの 極貧生活に 逆戻りだぞ。」

郁子「でも 今 路線を変えるのは 得策では ありませんわ。」

浦木「え?」

郁子「先生の漫画は 独創的ですから 読者が なじむのに 時間が かかるかもしれませんが その分 一度 心を とらえたら 強いと思います。 深沢も 先生には 個性を 貫いてほしいと申しておりました。」

茂「深沢さんが…。」

浦木「お嬢さん 個性を貫けなんて 言ったら この男 余計 いこじになりますよ。」

郁子「作家にとって 個性は 生命線ですもの。 それと 私 お嬢さんでは ありません。 加納と申します。」

浦木「クールビューティーとは あの人のためにある言葉だねえ。 嵐星社のような 貧乏版元に あのような 美女がおるとは。」

布美枝「加納さんは きれいなだけじゃなくて お仕事も ようできるんですよ。」

浦木「しびれるねえ。 奥さん 秋は 恋の季節ですねえ。」

布美枝「はあ…。」

浦木「おいゲゲ! 嵐星社の広告の件だけどな ここ やっぱり 俺が一肌 脱いでだな。 どうしました?」

布美枝「浦木さんは ここに座って。」

浦木「え?」

布美枝「ぼたもちでも食べてて下さい。」

浦木「はい。」

布美枝「うん。」

雄玄社

高畑「トヨさんが編集長に就任してから グラビアや 懸賞の企画で 売り上げだって 伸びてんだし 『少年アワー』に追いつくには ここらで 不安材料は 切っておいた方が いいんじゃないですか?」

北村「そうだようなあ。」

福田「打ち切りかあ!」

梶谷「どうする? 編集長。」

豊川「安パイだけ切ってたら ここから先には 行けないぞ! 『少年アワー』の刷り部数は 60万 俺達は この とてつもない数字に追いつき 追い越さなきゃならん。 今までと 同じ事をやっても 今まで以上の数字は 出ない。」

豊川「水木漫画は 必ず ものになる。 いいか 少年漫画は こうでなきゃならんという つまらん常識は もう捨てろ! 常識を破って 進め! 俺達は 常識外れの数字を 打ち立てるんだ!」

水木家

仕事部屋

茂「人気投票 最下位か。 はあ~。 やはり これでは 受けんのか…。」

回想

浦木「バッサリ切られてみろ! お前 また 食うや食わずの 極貧生活に 逆戻りだぞ。」

回想終了

茂「ああ いかん。 話を変えるか。」

回想

戌井「『鬼太郎』の闇の力が 子供達を 引き付けるんです。 『鬼太郎』に奇跡的な 清明力のようなものを感じますね。」

回想終了

茂「は… そげだな…。 俺が 『鬼太郎』を信じなくてどうする。 よし!」

居間

布美枝「お父ちゃん…。」

雄玄社

少年ランド編集部

北村「編集長 読者から ハガキが 来てますよ 『鬼太郎』の事で。」

福田「へえ~ またか。 この頃 よく来るな。」

(電車の通過音)

水木家

居間

豊川「正直なところ 今回も 読者の人気は 低いと思います。」

茂「すると… 打ち切りですか?」

布美枝「打ち切りか…。」

豊川「いえ 伺ったのは これを お見せするためです。 これは ほんの一部で 同じような手紙が 連日 編集部の届いています。」

茂「はあ~ とうとう来たか…。 『怖くて うなされた』。 『飯が ノドを通らん』 そういう 苦情の手紙ですよね。 実は 前にも来た事が ありまして。」

豊川「『少年ランド』よ よくやった。 『墓場の鬼太郎』こそ 待ち望んでいた 怪奇漫画だ」。 『前に載った号を買いたいが 手に入らないか』。 『墓場の鬼太郎』を 連載にしてほしい』。 いずれも 熱烈なファンからの手紙です。」

豊川「子供から高校生 大学生からも来ています。 社内では 打ち切りという声も 上がってはいますが 少数でも 熱いファンがいる漫画は いずれ 化けるというのが 私の信念なので。」

茂「化けるか…。」

豊川「思い切って ここで 勝負しましょう。 『墓場の鬼太郎』 連載開始です。」

茂「えっ?!」

布美枝「週刊誌で連載?」

茂「ちょっと 待った。 あんた 随分 思い切った事 言っとるようだが。」

豊川「私にとっても これは 勝負です。 当たれば 『少年ランド』の 新しい看板になりますから。 『鬼太郎』は それだけの器ですよ。 もっとも 週刊連載となると 今のままと いう訳には いきません。」

茂「ええ。」

豊川「読者の興味を 次週に引っ張るための 仕掛けも必要です。」

茂「『続きは 明日の お楽しみでございま~す』 か…。」

豊川「何ですか? それ。」

茂「紙芝居の最後の決まり文句です。」

豊川「ああ。」

茂「昔 ようけ 描とったんです。 子供に そっぽを向かれんように 毎日 いいところで 終わらせるのが ホネでした。」

布美枝「どうぞ。」

豊川「ああ どうも。」

茂「お待たせしました。」

豊川「これは?」

茂「鬼太郎の仲間の妖怪です。 まずは これ 『砂かけばばあ』です。 すぐ起こる ばあさんですが 頼りがいは あります。」

茂「で これが 『子泣きじじい』。 阿波の山奥に いたと 伝えられていますな。」

茂「そして これが『塗り壁』。 自分も戦時中 南方のジャングルで 『塗り壁』に 行く手を 阻まれた事があります。」

豊川「え? 本物に会ったんですか?」

茂「ええ あの時は 慌てました。 そして これが『一反木綿』。 鬼太郎達を乗せて 空を飛びます。」

豊川「魔法の じゅうたんか…。」

茂「似とるでしょう?」

豊川「はい?」

茂「初めて会った時は あんまり 『一反木綿』に似とったもんで 驚きました。 ハハハ!」

布美枝「まあっ!」

茂「はい これは『ねずみ男』です。」

豊川「先生の漫画では おなじみですね。」

茂「ええ。 鬼太郎の親友を 名乗っとりますが 信用できん奴ですよ。 嘘つきで 金にだらしなくて すぐ裏切る。 人間のような奴です。 そして こちらの目玉が…。」

豊川「鬼太郎のおやじ。」

茂「ええ。」

豊川「ああ 個性的な顔ぶれですねえ。」

茂「鬼太郎は 彼らと力を合わせて 敵対する妖怪と 奇想天外な戦いを 繰り広げる訳です。」

豊川「ふ~ん!」

茂「妖怪は まだまだ 幾らでも 面白いのがおります。 自分は 妖怪や お化けについては 誰よりも 詳しいですからな。」

豊川『怪奇と幻想 そして 仲間とともに戦う少年か。 うわ~!』

茂「そんなに 気持ち悪いですか?」

豊川「いえ… どうやら私 今 武者震いしたようです。 週刊連載 これでいきましょう。 そうだな。 『妖怪大戦争』 とういうのは どうです。」

茂「それは ええですな。」

豊川「面白くなってきましたね! なんというか こう 怖い中にも かわいらしさが あるというか。」

茂「そうですな。」

<打ち切りの危機にあった 『鬼太郎』が 一転 週刊連載という 大勝負に出る事になったのです>

昭和四十年十一月

(小鳥の泣き声)

質屋

亀田「そろそろ 来る頃だと思った。 夏に買ってったテレビ あれ 質入れに来たんでしょ?」

茂「フフフ…。」

亀田「無理して いよいよ 食い詰めたんないかと 思って 心配してたんだよ。」

茂「ご主人!」

亀田「ん?」

茂「質ぐさ 請け出しに来ました。 全部 出して下さい!」

亀田「なに~?!」

<『少年ランド』の仕事で 原稿料も順調に入り 村井家は 長年の赤字から 初めて 抜け出す事が できたのです>

水木家

玄関前

居間

茂「はあ~ 懐かしいなあ この背広!」

布美枝「あら 随分 型崩れしとりますね。」

茂「ああ。」

回想

布美枝「早こと戻ってくる おまじないです。」

茂「え?」

布美枝「あなたも 何でも 預ける時は この おまじない 紙に書いて 貼っといたら ええですよ。」

回想終了

布美枝「おまじない 効いたのかな?」

(電話の呼び鈴)

茂「ええわ 俺が出る 仕事の電話だろ。 原稿の催促かな? 締め切りは まだのはずだが。 はい… ええ そうです。 え? ええ… はい…。 分かりました。 はい…。」

布美枝「仕事の電話ですか?」

茂「ああ 豊川さんからだ。」

布美枝「原稿の催促?」

茂「いや。」

布美枝「ほんなら 新しい仕事の話で?」

茂「そげな事じゃない。」

布美枝「まさか 打ち切り…。」

茂「俺に 賞をくれるそうだ。」

布美枝「賞?」

茂「雄玄社の漫画賞。」

布美枝「え?!」

茂「『テレビくん』が 今年の 雄玄社マンガ賞に 決まったそうだ。」

布美枝「『テレビくん』が 漫画の賞を?

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