あらすじ
「雄玄社マンガ賞」を受賞して以来、茂(向井理)のもとには、漫画の注文が次々と舞い込むようになった。“本格的にアシスタントを雇おう”と考える布美枝(松下奈緒)と茂だったが、やって来るのは使いものにならない人ばかり。菅井(柄本佑)もその中のひとりで、茂は相手にもしない。そんな慌ただしいある日、「墓場の鬼太郎」を映像化したいというプロデューサーの船山(風間トオル)が村井家にやって来る。
97話ネタバレ
水木家
昭和四十一年 春
仕事部屋
♬~(エレキギター)
青年「どう? しびれました?
茂「まあ ビビビビっと。 ああ エレキは もう結構です 絵を。」
青年「どう? しびれるでしょ?」
茂「うん。 あんたは『勝ち抜きエレキ合戦』にでも 出とりなさい。」
布美枝「お疲れさまでした。」
男「体力には自信あり。 徹夜も平気じゃ!」
茂「おう そりゃあええ。 ところで 漫画は?」
男「漫画は 描いた事ない。 わし トラックの運転手じゃけん。」
茂 布美枝「えっ!」
男「アシスタントちゅうのは 絵が描けんと いかんのじゃろうか?」
茂「あ~!」
<去年の暮れに 雄玄社マンガ賞を受賞して以来 茂のもとには 漫画の注文が 次々と舞い込んできました。 たまに お願いする アルバイトでは もう 間に合わず 本格的に アシスタントを雇おうと 募集を かけたのですが…>
玄関
男「トラック使いたい時は いつでも言うて下さい。」
布美枝「はい…。」
<応募してくるは なぜか おかしな人ばかり>
(玄関の戸の閉まる音)
布美枝「今日も採用なしか…。」
(電話の呼び鈴)
居間
茂「来月の20日までに読み切り… はい 大丈夫です。 はい。」
茂「また 福の神から電話が来たぞ。」
布美枝「福の神?」
茂「ああ。 注文をくれる編集者は福の神だ。」
布美枝「ああ なるほど。 けど 大丈夫ですか?」
茂「何がだ?」
布美枝「あげに仕事が詰まっとって。 近頃 お父ちゃん 寝とらんようだけど。」
茂「だら 何を言っとるんだ。 せっかく来た仕事だぞ。 断れるか。」
布美枝「あ すんません…。」
茂「とは言っても… 早こと ええアシスタント雇わんと このままでは パンクするな。」
布美枝「はい。」
菅井 伸「こんにちは~。 募集 見て 来ました。」
茂「おっ また来た!」
布美枝「今度こそ!」
玄関
菅井「アシスタント志望 菅井 伸! 24歳です。」
茂「うん。」
布美枝「あ どうぞ 上がって下さい。」
菅井「お邪魔します。 おおっ 痛い…。」
布美枝「ああ 大丈夫ですか?」
菅井「はい。 先生の漫画を目標にして 描いていたせいか だんだん ペンタッチが 先生に似てきまして。」
茂「ちっとも似とらんな。」
布美枝「はい…。」
菅井「あの どうでしょうか?」
茂「うん 自分の絵とは違いますな。 まあ あんたは あんたで やりなさい。 漫画は 人それぞれだから。」
菅井「『個性が大事』という事ですか?」
茂「う~ん… ひとまず もうちょっと デッサン力を つけなさい。」
菅井「デッサン力か…。」
茂「うん…? あ もうええです。 帰りなさい。」
仕事部屋
(ペンを走らせる音)
茂「よし。 ベタ頼む。」
布美枝「はい。」
茂「さっきの カンピョウのような男より お前の方が うまいな。」
布美枝「カンピョウ…?」
回想
菅井「アシスタント志望 菅井 伸!」
回想終了
布美枝「ああ…。」
茂「あの絵で 漫画家を志す事自体が間違いだ。 しかし どうしてこう 妙な奴ばかり来るのかなあ?」
布美枝「はあ… なしてでしょうねえ?」
茂「ほれ 手が止まっとるぞ。」
布美枝「あ はい!」
茂「ニャーゴ… ニャーオ! ウワー… キッ! この化け猫め! ん? 何だ?」
布美枝「久しぶりに見たなあと思って。 お父ちゃんの百面相。」
茂「そげか。」
(2人の笑い声)
藍子「お母ちゃ~ん。 お腹すいた。」
布美枝「あら もう こげな時間! お父ちゃん 先に ご飯の支度してもええ?」
茂「ああ 俺も 腹 減った。」
編集者「先生! そろそろ 頂かないと 締め切りが…。」
茂「すまんですが もうちょっとだけ 待っとって下さい。」
布美枝「先に 仕事ですかね?」
茂「そげだな。」
藍子「お腹ペコペコだよ。」
布美枝「もうすぐだけん 待っとって。」
編集者「先生! そろそろ タイムリミットです!」
茂「あと もう少しですから!」
藍子「ご飯は~?」
(電話の呼び鈴)
布美枝「あっ! あ… はみ出した!」
茂「落ち着け!」
(藍子の泣き声)
茂「あっ!」
布美枝「ごめんね 藍子!」
<福の神の到来で 急に増えた仕事は 布美枝と茂の暮らしを ひどく慌ただしいものに 変えていました>
玄関前
編集者「ありがとうございました。 失礼いたします!」
居間
(電話の呼び鈴)
布美枝「はい。 村井でございます。 あ お世話になっております。 はい。」
仕事部屋
茂「さて 一眠りするか。」
居間
布美枝「分かりました。 はい。 よろしく お願いいたします。 はい。 失礼します。」
仕事部屋
布美枝「お父ちゃん。 豊川さんが 明日の午後に 原稿取りに みえられるって。」
茂「ああ あっちも 仕上げんと いけんだったか。 はあ…。 これは もういかんな。 待っとっても どげだいならん 作戦変更だ。 こっちから スカウトに行くぞ。 これだ! 倉田… 圭一。」
嵐星社
深沢「いや~ そうだね。 倉田君は いいよ。 絵の力が抜群だから。 うん。 そう。 じゃあ 早速 連絡 取ってみましょう。 うん。 はい よろしく。」
水木家
居間
茂「こりゃ ええ。」
布美枝「すぐに 来てもらえそうですか?」
茂「いや~ それがな 大阪で看板屋に勤めとるけん 急には辞められんのじゃないかと 言っとった。」
布美枝「はあ そげですか…。」
茂「ああ まあ しばらく待とう。 うん。 この男は ええ。」
布美枝「ちょっと前までは こげな事 考えられんでしたけんねえ。」
茂「ん?」
布美枝「お金を払って 手伝いの人 頼めるようになるなんて。」
茂「ああ これも 福の神のお陰だな。」
布美枝「ええ。」
茂「しかし これ以上 注文が増えるようなら アシスタントも 一人では 間に合わんようになるなあ。 何か 新しいやり方を編み出さんと やっていけん。」
布美枝「はい。」
玄関前
(ウグイスの鳴き声)
(ウグイスの鳴き声)
布美枝「誰 あの人? 怪しい…。」
船山信義「あの…。」
布美枝「な 何でしょう?」
船山「ちょっと…。」
布美枝「きゃっ!」
豊川「奥さん。」
(ウグイスの鳴き声)
豊川「こんにちは。」
布美枝「ああ。」
船山「遅いよ トヨさん! 10分も前に着いちゃったよ。 (笑い声)」
布美枝「豊川さんの お知り合い?」
船山「ええ。 アハハハハ!」
居間
船山「アハハハハハハ! 奥さん 私を ギャングと間違えましたか! ハハハハハハ!」
布美枝「申し訳ありません…。」
船山「いや~ かまいません。 よく言われますよ。 ハハハ!」
豊川「派手な背広に黒眼鏡じゃね」
船山「いや~ 私のトレードマーク。 いや 一度 会ったら 忘れないでしょう。 アハハハハ! あ~ 申し遅れました。 私 城西映画テレビ部プロデューサーの 船山信義と申します。」
茂「どうも。」
布美枝「どうぞ。」
船山「ああ どうも。」
豊川「先生 奥さん これ うちの北村です。 これから 先生の付として 何かと お手伝いさせますので。」
北村「よろしくお願いします。 あの 早速ですが 原稿の方は いかがでしょうか?」
茂「ああ 出来とりますよ はい。」
北村「ちょうだいします。」
船山「いや~ 私 以前から水木先生に お目にかかりたいと 思っていましてねえ。 いや 豊川さんに連絡したら ちょうど 今日 こちらに 伺うと言うじゃありませんか。 いや~ 実にいい タイミングでした。 ハハハハハ!」
北村「ありがとうございました。 編集長 私 ネーム入稿があるので これで。」
豊川「おう よろしくね。」
北村「失礼します。」
布美枝「ご苦労さまです。」
北村「よいしょ。」
茂「それで 何か用ですか?」
船山「あ 先生の『墓場の鬼太郎』ですが。」
茂「ええ。」
船山「あれを…。」
玄関前
北村「それでは 失礼しました。」
布美枝「よろしくお願いします。」
居間
茂「えっ 『鬼太郎』を 映画化かテレビに?! どういう事ですか?」
豊川「今 船山さんと組んで 『少年ランド』の漫画を 映画やテレビにする企画を 進めているんですよ。」
船山「いや 私 『墓場の鬼太郎』を見て ピンと来ました。 これは いけると。 いや 豊川さんに話したら 彼も まったく同意見で。」
茂「はあ…。」
船山「先生 いかがでしょう?」
茂「いや 『いかが』と言われても 急な話で 何とも…。 あ 漫画映画ですか?」
豊川「いえいえ。 実写でと考えています。」
布美枝「実写…?」
豊川「ええ。 鬼太郎や ねずみ男を 役者が演じるんです。」
布美枝「ああ…。」
船山「つきましては ひとつ 先生の ご判断を仰ぎたい事がありまして。」
茂「何でしょう?」
船山「映画にしますか? それとも テレビにしますか?」
茂「ん?」
船山「いや 映画なら 今すぐ 企画書を作って 映画部に回します。 実現の可能性は かなり高いです。」
布美枝「『鬼太郎』が 映画に…?」
船山「テレビの場合は 毎週30分の 連続子供番組を狙います。」
布美枝「『鬼太郎』が テレビに…?」
船山「ただ テレビは スポンサーありきですから 広告を出す会社がなければ 番組は 作れません。」
茂「という事は…。」
船山「映画より 難しいという事です。」
茂「両方という訳には いかんのですか?」
船山「いえ それぞれ 立場が ありますからなあ。 両天秤にかけるのは まずいです。」
茂「テレビにしましょう。」
船山「スポンサーが つかなければ ポシャるかもしれませんよ。 そこを ご納得の上で テレビに?」
茂「はい。 テレビが ええです。」
<『墓場の鬼太郎』を テレビ番組に。 降ってわいた この申しいで 果たして 実現するのでしょうか>