ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第98話「プロダクション旗揚げ」

あらすじ

船山(風間トオル)は「墓場の鬼太郎」をテレビ化するために動くと言う。布美枝(松下奈緒)は、うれしいと同時に信じられないような気持ちだった。深沢(村上弘明)は布美枝に対し「茂(向井理)もプロダクションという会社組織をとってみてはどうか」と提案。茂がその画才に目をつけた倉田(窪田正孝)、偶然出会った元漫画家の小峰(斎藤工)、そして再びやって来た菅井(柄本佑)と、奇妙な男たちで村井家はあふれる。

98話ネタバレ

水木家

居間

茂「え? 『鬼太郎』を 映画かテレビに。」

船山「映画にしますか? それとも テレビにしますか?」

茂「テレビにしましょう。」

玄関前

船山「早速 テレビ局に 売り込みに参ります。 いいご報告ができるように 頑張りますよ。」

布美枝「はい。」

豊川「テレビ化に向けて 『少年ランド』でも 大いに 盛り上げていきますから。」

布美枝「よろしくお願いします。」

船山「では…。」

布美枝「『鬼太郎』がテレビに…。 夢のようだな。」

<『墓場の鬼太郎』を 映像化していという 思いがけない申しいでに 布美枝は まだ 信じられない気持ちでした>

仕事部屋

布美枝「あら 『妖奇伝』ですか?」

茂「うん。」

布美枝「あ~ これ 最初に見た時 怖かったなあ。」

回想

布美枝「あっ! 何? これ。」

回想終了

布美枝「今 見ても やっぱり怖い。」

茂「しかし 不思議なもんだ。 不気味だ うなされた 子供が 熱 出した。 ず~っと そげ言われてた 『鬼太郎』を 子供向けのテレビにしたいという人が 現れるとはな。」

布美枝「驚きましたね。」

茂「いや 驚く事はないぞ。 この面白さに 世間も やっと 気づいたという事だ。」

布美枝「そげですね。 けど お父ちゃん。」

茂「ん?」

布美枝「なして テレビなんですか? 船山さん 映画の方が確実だって お話しとられたでしょう? 境港のお父さん 映画が お好きだけん 『鬼太郎』が 映画になったら 喜ばれると 思いますけど。」

茂「いや テレビの方が ええ。 映画は 撮っても1本だけだが テレビの連続物なら 当たれば 何本でも 作ってもらえる。」

布美枝「ええ。」

茂「その方が 1年でも2年でも 長い事 飯が食えるけんなあ。 少しくらい 売れたからといって この先も おなじように 仕事が来るとは かぎらんぞ。 漫画も 紙芝居や貸本のように いつ ダメになる日が 来るかもしれん。 また 貧乏神に つけ込まれては たまらん。」

布美枝「ええ…。」

茂「忙しくても 今が ふんばり時だ。 せっかく来た いい流れを 逃がす訳には いかんのだ。」

布美枝「はい。」

布美枝「あれ? けど どげするんでしょう。」

茂「何がだ?」

布美枝「人間の役者が 妖怪をやるんですよねえ。 ほんなら『ブーフーウー』みたいに 人が 人形の中に 入るんでしょうか?」

茂「う~ん。 『一反木綿』は どげするのかなあ? ふんどしでも 飛ばすのか?」

布美枝「ふんどしですか? あっ…。 見てみたいなあ テレビの中で動く 鬼太郎達。」

茂「うん。」

玄関前

(鳥の鳴き声)

(足音)

茂「深沢さんとこの原稿 出来上がっとるけん 届けてきてくれ。」

布美枝「はい。 お父ちゃんも お出かけですか?」

茂「ああ。」

布美枝「中に 北村さん お待ちなんじゃ?」

茂「ああ もう ええんだ。 それより 『ゼタ』の原稿 頼んだぞ。」

布美枝「はい。」

北村「先生? 先生! 先生!」

茂「すぐ戻りますけん ちょっこし 待っとって下さい!」

北村「そんな!」

茂「自転車で走っとった方が ええ知恵が浮かぶんですよ。 ハハハ。」

北村「はあ~ やられた! トイレに行くと言って部屋を出たのに 逃げるなんて あんまりです。」

布美枝「申し訳ありません。」

北村「奥さん 自転車 貸して下さい。 僕 後を追います。」

布美枝「落ち着いて下さい。 お墓辺り ぐるっと回ったら すぐに 戻ってきますから。 あの… 北村さん?」

北村「はい。」

布美枝「私も 出かけんといけんのです。」

北村「え? 僕 留守番ですか?」

居間

藍子「これ なあに? 犬?」

北村「馬だよ~!」

藍子「変な馬。」

北村「先生! 早く帰ってきて下さいよ~!」

<編集者に 張り付かれるのが苦手な 茂は こうして 時折 小さな逃亡を 試みるのでした>

深大寺

(カラスの鳴き声)

茂「毎日毎日 背後霊のように くっつかれとっては 出るアイデアも 出んよ。」

(カラスの鳴き声)

茂「カラスか…。 そうだ! カラスを使ってみるか!」

(カラスの鳴き声)

茂「カラスヘリコプターだ。 これなら どこにでも行けるぞ。」

小峰 章「カラスが 人を運びますか?」

茂「はあ 鬼太郎は ただの人間ではないので。 いろいろ 不思議な力を 持っとるんです。 ん?」

小峰「なるほど。」

(カラスの鳴き声)

茂「あんた 画家ですか?」

小峰「いや 元漫画家です。」

茂「元というと?」

小峰「出版社が 全部つぶれまして 廃業しました。」

茂「貸本漫画家か…。」

嵐星社

深沢「水木さん 忙しそうだね? マンガ賞 取って 随分 注文が増えたでしょう。 どうぞ。」

布美枝「はい。 『編集者は 福の神だ』と言って 来る注文 全部 受けるもんですから 締め切りが 重なってしまって。」

深沢「そう。 それじゃ 奥さんも忙しいね。」

布美枝「私は 何も。 ただ 原稿取りの人が見えたり 電話が かかってきたりで 毎日 家の中が落ち着かんです。」

深沢「うちも1人 若いのが入ったんですよ。 斉藤君!」

斉藤「はい! 斉藤です。」

深沢「これからは こちらから 原稿 取りに伺います。」

布美枝「ありがとうございます。 けど たまに お邪魔して こちらで 息抜きさして頂くのも ええですから。」

深沢「そうそう アシスタントに頼まれてた 大阪の倉田君 彼とは 連絡つきましたよ。」

布美枝「お手数 おかけします。」

深沢「彼 『ゼタ』の愛読者で 『水木さんのアシスタントに』と言ったら 喜んでいました。」

布美枝「いつ来てもらえますでしょうかね?」

深沢「う~ん 勤め先 辞めるのに 少し かかりそうな事 言ってたけど。」

布美枝「早いと ええですけど うちの人 もう1人では やりきれんようですから。」

深沢「水木さんのところも そろそろ プロダクション制にした方が いいんじゃないかな?」

布美枝「プロダクション?」

深沢「うん。 会社組織にするという事ですよ。 加納君。 黒田先生のところ 黒田プロ作ったの いつだっけ?」

郁子「去年の11月です。 ホリデープロさんが その後の12月にできて。」

深沢「最近 ポツポツ できてきましてね。 漫画家のプロダクション。 週刊誌に連載を持って 更に 他の注文も こなすとなると 1人では とても無理ですよ。 アシスタントを雇って 分業体制で 描いていかないとね。」

布美枝「はい。」

深沢「それに 漫画家の権利を守るためにも 会社組織にする方が有利なんです。」

布美枝「けど 会社だなんて そんな 大げさな事は…。」

深沢「そう難しく考える事は ありませんよ。 こっちは いつでも 相談 乗りますから。」

郁子「私 一度 ご説明に上がりましょうか? 黒田プロを作る時に お手伝いしたので 大体の流れは 分かりますから。」

深沢「ああ そうだね。 それがいい。」

布美枝「プロダクションか…。」

深沢「司法書士も紹介しよう。」

布美枝「会社を作るだなんて 縁のない話だと思っとったけど。」

倉田圭一「すんまへん! 『ゼタ』は ここでっしゃろか?」

斉藤「はい。 え~っと 君 漫画の持ち込み?」

倉田「ちゃいます。」

斉藤「『ゼタ』の読者の人?」

倉田「はい。」

深沢「あれ? もしかして君 倉田君じゃない?」

倉田「はい 倉田圭一です!」

深沢「大丈夫 大丈夫。 いや~ よく来たなあ 待ってたよ。 随分 早く出てこられたね。 仕事 辞めるのに もっと かかるかと思ったけど。」

倉田「ボヤボヤしとったら 他の人に 決まってしまうんやないか思うて 親方に 無理 言いましたんや。」

深沢「ちょうど よかったよ。 今 水木さんの奥さんが 見えてるんだ。」

倉田「先生の?」

深沢「こちらが 布美枝さん。」

倉田「倉田圭一です。 よろしゅう 頼んます。」

布美枝「こちらこそ お願いします!」

すずらん商店街

布美枝「もう 住む所は 決めてあるんですか?」

倉田「まだですねん。 看板屋 辞めた その足で 汽車に乗ったもんやさかい。」

布美枝「ほんなら すぐに 下宿屋さん 探さんといけんですね。 大阪からの荷物も 送ってもらわんと いけんでしょう?」

倉田「いや 絵の道具は ここやし 他に 荷物いうても 何もありまへん。」

布美枝「あら!」

倉田「深沢さんに 『体一つで来たらええ』 言われたんで ほんま 身一つで。」

布美枝「そしたら 後で一緒に この辺りの お店で 布団や何か 一緒に 探しましょうか。」

倉田「はい!」

水木家

玄関前

布美枝「うち ここなんです。 あんまりボロ屋で 驚きました?」

倉田「いえ…。 ここで仕事させてもらえる思たら うれしゅうて。」

玄関

菅井「帰れなんて 言わないで下さいよ!」

布美枝「あら この間の人だ。」

菅井「先生は 僕の絵を個性的だと言って 認めてくれたじゃないですか!」

茂「そんな事 言ったかなあ。」

菅井「後は デッサン力だって!」

茂「う~ん。」

菅井「僕 考えたんです。 デッサン力は アシスタントをしながら 磨いていけばいい。 実践の中で 力をつけていくのが 一番じゃないかって!」

茂「それは まあ そのとおりだな。」

菅井「ですよね!」

布美枝「あの…。」

菅井「あ 奥さん お帰りなさい。 アシスタント志望の 菅井 伸です。 覚悟を決めて この近所に 引っ越してきました。」

布美枝「えっ?」

倉田「水木先生…。」

茂「はい。 え~と あんたは?」

布美枝「倉田さんです。 倉田圭一さん! 来て下さったんですよ。」

茂「あ~! 大阪の看板屋か?」

倉田「はい!」

茂「お~! ええとこに来てくれた。 さ 中に入ってくれ!」

倉田「はい!」

居間

茂「ここ座って! こっちこっち。 よし。」

布美枝「誰?」

北村「あ~ 先生 急ぎましょう。 何としても 今日中には 印刷所に入れませんと。」

茂「助っ人が来たから もう安心だ。 あんた 今すぐ やれるかね?」

倉田「はい やらせてもらいます。」

茂「ほんなら ここに こういうタッチで 線入れしてくれ。 海の感じが出るようにな。」

倉田「はい。」

布美枝「燃えとる!」

布美枝「お父ちゃん。」

茂「え?」

布美枝「あの人 誰ですか?」

茂「ああ え~っと 名前 何だっけな? まあ ええわ。 時間がないけん 説明は後だ。」

菅井「すごいなあ! これが 漫画家の修羅場ってやつか。 先生 僕も お手伝いします!」

茂「あんた まだ おったのか?」

菅井「ええ。」

<狭い我が家は いつの間にか 奇妙な男達で あふれかえっていました>

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