ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第99話「プロダクション旗揚げ」

あらすじ

茂(向井理)が三人の男たちと共に、漫画を描き始めると、菅井(柄本佑)の手際の悪さが目立った。菅井からの懇願もあり、頼りなさそうな菅井も、ひとまずは雇ってみることになり、小峰(斎藤工)と倉田(窪田正孝)を含めて三人のアシスタントたちが調布の狭い家にひしめきあう。一方、船山(風間トオル)が企図する「墓場の鬼太郎」のテレビ化は、思うように進んでいなかった。

99話ネタバレ

水木家

居間

菅井「プロの生原稿 初めて見るなあ。」

仕事部屋

茂「おい! あの男は なして おるんだ?」

布美枝「さあ…。」

居間

菅井「ここは 効果線を入れるとこかな。」

倉田「ああっ 今 やるとこや。 触らんといてえや。」

菅井「失敬だな! 君 僕より年下だろう。 小僧のくせに! 先生 僕にも 何か 描かせて下さい。」

仕事部屋

茂「いや あんたはええ。」

菅井「そう言わずに お願いします。」

茂「いや 結構。」

菅井「ベタ塗りでも 何でも。」

茂「もう 間に合っとる。」

菅井「でも 僕 『水木しげるの アシスタントになる』と言って 家を 出てきてしまったのです。 今更 帰る訳には…。」

茂「それは そっちが 勝手にした事だろう。」

菅井「そんな殺生な。」

北村「先生 もめてる場合じゃ ありませんよ。 急いで下さい。」

茂「ああ そうだ。」

菅井「先生!」

茂「しつこいなあ。 ほんなら これ。」

菅井「はい。」

茂「あっち行って 消しゴムかけて。」

菅井「はい!」

居間

菅井「あ あっ!」

茂 布美枝「ん?」

茂「あっ! 力まかせにやったらいけん! そっとやれ そっと!」

菅井「はい。」

玄関前

北村「先生 ありがとうございました。」

(犬のほえる声)

居間

菅井「あの~…。」

布美枝「ここは ええですけん 座って 待っとって下さい。」

菅井「いや あの 手伝わせて下さいよ。 あの 僕 何かしないと 立場ないっすから。」

布美枝「あ 大丈夫ですよ。」

菅井「いえいえ 何でもします…。」

茂「ふ~ん。 看板屋で 7年も 住み込みやっとったのか?」

倉田「はい 中学てから すぐ。」

茂「漫画は どこで描いとったんだ?」

倉田「夜中に 寮の部屋で 部屋いうても 6畳に 何人も寝てるんで 夜中 電気つけたら 先輩らに どなられるんですわ。 『まぶしい 電気 消せ!』いうて。 せやけど 漫画 描く時間 夜だけやから ちっちゃい電気スタンド 抱えて 布団の中 潜り込んで 描いとったんですわ。」

倉田「夏は 暑うて たまりませんわ。 描いては コンクールに出し やっと 『ゼタ』に載って…。 なんや 先生の漫画の手伝いが できるなんて 夢のようで…。」

茂「漫画が好きなんだなあ。」

倉田「絵が好きなんです。 それに 取り柄いうたら 絵描く事ぐらいやから 人より稼ごう思たら 漫画しか ないんですわ。 母が ずっと 働き通しやったんです。 父は 体 壊して 寝ついとるもんやさかい。 下に 弟が 3人おって 長男の自分が しっかり稼がんと いつまで経っても 母が 楽できまへんよって。」

(鼻をすする音)

菅井「さっきは ごめん…。 『小僧のくせに』なんて言って。」

倉田「いや ええけど。」

茂「あんた どこから来た?」

菅井「栃木です。 家は カンピョウ農家で。」

茂 布美枝「え?」

茂「カ… カンピョウ?」

菅井「はあ…。」

茂「似とるはずだな。」

布美枝「はい。」

(布美枝と茂の笑い声)

菅井「何か おかしいですか?」

茂「ヘヘヘ…。」

小峰「お風呂を頂きました。」

布美枝「え?」

茂「さっきの人か?」

布美枝「別人みたい…。」

茂「名前は 何と言ったかな?」

小峰「小峰です。」

茂「あ~ そうそう… 俺は この人を 今日 スカウトしてきたんだ。」

布美枝「スカウト?」

茂「おう。 深大寺のお堂の前で。」

布美枝「はあ~。」

茂「ほんなら 飯を食ったら 労働条件を 相談しよう。」

倉田「はい。」

菅井「あの… 僕は どうなります?」

茂「あんたは ちょっとなあ。 飯を食ったら 帰りなさい。」

菅井「アシスタント見習という事では どうでしょうか?」

茂「ううん。」

菅井「せめて 1か月だけでも 試しに!」

茂「いや~。」

菅井「ダメですかあ…。」

<結局 頼りなさそうな菅井青年も ひとまず使ってみる事となり…。 調布の狭い家に 3人のアシスタント達が ひしめき合うようになったのです>

嵐星社

深沢「ほお~ そうか。 いっぺんに3人も…。 ああ ちょっと待ってて。 加納君。」

郁子「はい。」

深沢「水木さん 例のプロダクションの件 話を聞きたいって言ってたけど 今から行ける?」

郁子「ええ。」

深沢「じゃあ 早い方がいいでしょう。 これから 加納君に 行ってもらうから…。 うん。 はい! よろしく。 はあ~ 小峰 章か…。」

郁子「誰ですか?」

深沢「水木さんとこの 新しいアシスタント。」

郁子「お知り合いの方ですか?」

深沢「いや。 でも 漫画は 知ってる。 貸本漫画で ちょっと いいの 描いていたから…。 ふ~ん なかなか 面白そうなメンツが そろったなあ。」

水木家

居間

茂「ふ~ん 面倒なもんですなあ。 会社を作るというのも。」

郁子「定款を作ったり 登記したり 難しい事もありますけど 大丈夫ですよ。 信用のおける司法書士も ご紹介しますから。」

布美枝「郁子さんは こげに難しい事も ご存じなんですね。」

郁子「この間 黒田プロの設立を お手伝いした時に ちょっと勉強したんです。」

布美枝「はあ。」

郁子「発起人は 7人 必要です。 経理は 奥さんが担当されますか?」

布美枝「私ですか?」

郁子「黒田先生の所は 奥様が 経理を見ていらっしゃいますよ。 布美枝さん 簿記の知識は お持ちかしら?」

布美枝「いえ 私は…。」

豊川「こんにちは。」

(ノック)

布美枝「は~い。」

郁子「それじゃ 私は これで。」

茂「ああ もうちょっと 待っとって下さい。 まだ 聞きたい事もあるし。」

豊川「先生 お邪魔します。」

船山「お邪魔します。 お~っ 今日は 飛びっ切り べっぴんな先客がいますね。 アハハハハ… フフフ…。」

布美枝「どうぞ。」

船山「途中経過を申し上げると 『墓場の鬼太郎』のテレビ番組化は ちょっと 難航しております。」

茂「そうですか。」

船山「子供向け番組としては 『怖すぎる』と言われましてね。 『母親層に受けない』という 意見もあるんですよ。」

茂「うん そうかもしれませんなあ。」

船山「『墓場の…』というタイトルにも 抵抗があるようで…。 社内の口の悪い連中などは 「スポンサーに つくのは 葬儀屋か 石屋ぐらいのもんだ」と 言いだす始末で。 アハハハ。」

茂「葬儀屋が 子供番組に 広告を打っても 宣伝には なりませんな。」

船山「ええ。 ヘヘヘ…。 映画部から… 『夏の怪奇映画に どうか』という 話も 来てるんですが…。 しかし 私としては あくまでも テレビ路線で 粘りたいと 考えています。 抵抗が大きいという事は 裏を返せば 当たれば でかい という事ですから。」

茂「なるほど。」

船山「ただ ちょっと 時間が かかるかもしれません。 そこを お待ち頂けれるかどうか。」

茂「お任せしますよ。 紙芝居でも 漫画でも 『鬼太郎』の人気が出るまでには 随分 時間がかかりました。 今更 急ぐ事もありません。」

船山「分かりました。 これで こっちも 腹が据わりました。 安売りはせずに じっくり やっていきましょう。」

豊川「雑誌と テレビが 肩を組めば ファンは 一気に増えますよ。」

茂「はい。」

豊川「先生 私はね 近いうちに 妖怪ブームが来ると にらんでいるんです。」

茂「妖怪ブームか…。」

豊川「水木しげるの 妖怪ブームですよ!」

茂「ふ~ん。」

船山「私も あちこちで 言って回ってるんです。 『妖怪だけに これは 化けるぞ』と。 『相場の安い 今のうちに 話に乗っておけ!』って。」

茂「あれ さっきは 『安売りしない』と 言っとったのに。」

船山「あっ そうでした。 アハハ…。」

(一同の笑い声)

布美枝「お茶 入れ替えましょうか?」

船山「ああ ヘヘヘ。」

郁子「すごいですねえ。 テレビと組む話。 スケールが大きいわ。」

布美枝「まだ どうなるか 分からんですけどね。 テレビで 『鬼太郎』が見られたら ええなあって 私も 楽しみにしとるんです。」

郁子「楽しみ? それだけですか?」

布美枝「え?」

郁子「私は 聞いているだけで ワクワクするけどなあ。 雑誌と テレビが組んで 新しいブームを作りだすなんて 面白いと思いません?」

布美枝「ええ…。」

郁子「それくらい スケールの大きな仕事を やってみたいわ…。 『ゼタ』に いたんじゃ 到底 無理だけど…。」

布美枝「郁子さん…?」

郁子「お茶 私が持っていきます。」

布美枝「すいません。」

郁子「船山さん スポンサーを口説くコツ 教えて頂けませんかしら?」

船山「え?」

豊川「加納さんは 『ゼタ』で 広告取りの 仕事も してるそうですよ。」

船山「ああ 営業ウーマンですか?」

郁子「何でも屋ですわ。 編集も 経理もやりますし なにしろ 小さな会社ですから。」

茂「この人は 偉いもんですよ。 何でも 知っとるんです。 今日は 会社の作り方を 教えてもらっとるとこです。」

船山「へえ たいした才媛だ。 アハハハ…。」

豊川「深沢さんの 懐刀ですからね。」

郁子「とんでもない。 それより 豊川さん 『少年ランド』は 今 どれくらい出ているんですか?」

豊川「80万部に そろそろ 手が届きます。」

郁子「まあ すごい! でしたら もう 『少年アワー』と 肩を並べたんですね?」

豊川「いや いや いや。」

郁子「すごい!」

布美枝「郁子さん 何か やりたい事 あるのかなあ?」

<布美枝には 郁子の様子が 今までとは 少し違って見えました>

<それから 数日 経って…>

玄関前

浦木「ゲゲの奴 また 俺に 隠し事を。」

居間

浦木「お前という奴は なぜ まず 親友の俺に 相談せんのだ! いいか もうけるコツは まず 目先の金をつかむ事にある。 明日の1万より 今日の1,000円だ! 実現するかどうか分からん テレビなんか やめて 映画の話を取れ!」

茂「汚いなあ。 つば飛ばして しゃべるなよ!」

布美枝「浦木さん 落ち着いて下さい。」

浦木「奥さんは 引っ込んどいて下さい!」

茂「お前の方こそ 引っ込んどれ!」

浦木「言っておくがな 『墓場の鬼太郎』が テレビ番組になる事は 100パーセント ないぞ! そもそも テレビというのはだな 明るい未来を見せて 国民を いい気持ちにさせるために あるんだ。」

浦木「お前の漫画のように 不気味で 暗くて 『人生 行き着く先は 棺おけよ』 みたいな話 誰が喜ぶんだ?」

茂「『人生 最後は 棺おけ』。 これが 真実じゃないか。 なあ?」

布美枝「ええ。」

浦木「バカ! 真実を見せられて 喜ぶ奴が どこにおる。 映画の1本にでもなりゃ 御の字じゃないか。 せっかく 俺も 一枚かんで ひともうけしようと思っとるのに。」

茂「また それか。」

浦木「大体 奥さんも 甘い!」

布美枝「え?」

浦木「この男は しっかり かじ取りせんと 目の前のお宝を つかみ損ねる奴ですぞ。 奥さんまで ぼんやりしていて どうするんです!」

布美枝「気持ち悪い…。」

浦木「え?」

布美枝「あっ…。」

茂「おい! 大丈夫か?」

浦木「気持ち悪い… 俺が? この顔の どこが気持ち悪いんだ! え?!」

洗面所

茂「何か 悪いもんでも食ったか?」

布美枝「明日… 病院に行ってみます。」

茂「病院? そげに悪いのか?」

布美枝「もしかしたら… できとるかもしれません。」

茂「『できとる』って…。 えっ! 赤ん坊か?」

布美枝「はい。」

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