あらすじ
大正12年9月1日。銀座のカフェーで郁弥(町田啓太)から派手なプロポーズを受け、恥ずかしさのあまり店を飛び出してしまったかよ(黒木華)は、気を落ち着かせ店に戻ろうとしていた。大森の村岡家にいた花子(吉高由里子)は、庭で遊んでいた息子の歩とともに空を見上げ、見たこともないような大きな入道雲に驚いていた。そこへ平祐(中原丈雄)が訪れ、一緒にお昼ご飯にしようとした時、大きな地震が花子たちを襲う…。
106回ネタバレ
村岡家
玄関
英治「行ってきます。」
花子「行ってらっしゃい。 行ってらっしゃ~い。」
歩「いってらっしゃい。」
縁側
花子「もうすぐ おじいちゃまが いらっしゃるから そしたら ごはんにしましょうね。」
歩「うん。」
花子「もう一回。 ほら。 わあ すごい。 いっぱい出た。 あ~。」
(時計の音)
カフェー・ドミンゴ
郁弥「かよさん。 あなたは 僕の女神です。」
かよ「てっ…。」
郁弥「僕と… 結婚して下さい。」
(拍手)
「いよっ ご両人!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
郁弥「かよさん?」
かよ「郁弥さんの… バカっちょ!」
郁弥「かよさん!?」
玄関前
かよ「てっ… 恥ずかしかった…。」
<郁弥の派手なプロポーズに動転して 店を飛び出した かよは 気を落ち着かせて やっぱり 店に引き返そうとしていました。>
(セミの声)
村岡家
庭
花子「てっ…。 歩… 見た事もないような 大きな入道雲だね。」
平祐「ごめんくださ~い。 やあ 花子さん。」
花子「ごきげんよう。 お義父様。」
平祐「さあ 歩。 今日は 何して遊ぼうか。」
花子「ほら 歩。 おじいちゃま 来て下さって よかったわね。」
平祐「ん? ほう…。」
(地震の音)
<大正12年 9月1日 午前11時58分 相模湾を震源とする マグニチュード7.9の大地震が 関東地方の南部を襲いました。>
花子「歩? 歩…。 お義父様? お義父様!?」
平祐「うう… ここ ここだ。 歩は 無事か!?」
花子「はい! お義父様…。」
平祐「すごい揺れだったな。」
(叫び声)
(子どもの泣き声)
花子「声が…。」
(泣き声)
玄関前
花子「大変…。 お義父様 歩を…。 大丈夫? みんな…。 みんな 大丈夫?」
<この地震の被害が 想像以上に大きい事を 花子は まだ知りませんでした。>
花子「大丈夫?」
<当時の大森は 校外の田園地帯であり 被害は 比較的少なかったのです。>
居間
花子「今は 外に出ても危ないから おうちの人たちが迎えに来るまで みんなで一緒に過ごしましょう。」
平祐「花子さん。 倒れたうちもある…。 火事で燃えてるうちも…。 どこもかしこも めちゃくちゃだ…。」
花子「英治さんは… 銀座は どうなんでしょう…。」
平祐「さっぱり分からん…。」
町中
(泣き声)
「急げ 急げ!」
「早く!」
「邪魔 邪魔!」
(泣き声)
村岡家
居間
花子「さあ 明るくなるわよ。 顔 見えるね。」
「二郎! 無事だったんだね!?」
「タキ… おいで! 大丈夫だったか? 火を消していて 迎えに来るのが 遅くなっちまって…。 お世話になりました。」
花子「いえ とんでもないです。」
(余震)
「うわっ!」
「怖い!」
「怖いよ~!」
花子「大丈夫よ。 大丈夫よ。」
「怖いよ~!」
花子「大丈夫よ! 大丈夫。 大丈夫よ。」
花子「そうだ! 何か 面白いお話をしましょうか。 どんなお話がいいかしら。 そうね…。 『ナミダさん』というお話は どうかしら。」
<花子は 子どもたちを力づけたい一心で 必死に想像の翼を広げ こんなお話を作りました。>
花子「『昔 ある所に あんまり泣くので ナミダという名を付けられた 小さい娘がありました。 何か思うようにならなければ ナミダさんは 泣きました』。 『ある朝 学校へ行く道で 例のとおりに 泣いておりますと…』。 今日は ナミダさんは どうして泣いてたと思う?」
フミ「学校に行きたくなかったから?」
花子「そう! 『そこへ カエルが一匹 ひょっこり飛び出してきました。 ナミダさんは カエルに言いました。 『何だって 私についてくるよ?』。 すると カエルは 『なぜかって言われたら もうじき お嬢さんの周りに 涙の池が出来るだろうと 思いましてね』』。」
花子「英治さん…。」
英治「みんな… 無事でよかった…。」
歩「パパ。」
平祐「無事だったか!」
花子「英治さん お帰りなさい。 心配したのよ…。」
英治「帰ってくる途中 そこいら中 火の海で この世のものとは思えない 光景だった…。」
平祐「郁弥は? 会えたのか!?」
英治「いえ…。 かよさんは?」
花子「でも 郁弥さん かよさんに 求婚するって言ってたじゃない。 きっと かよと一緒に どこかに避難してるのよ。」
平祐「会社は?」
英治「建物は 全壊しました…。 無事だった社員を帰したあと 郁弥とかよさんを捜しに カフェー ドミンゴに 行ってみたんだけど… 火事があちこちで起こっていて 捜すのは諦めて帰ってきたんだ…。 もう一度 行ってくる。」
葉山邸
園子「誰か! 誰かいないの!?」
葉山「使用人は みんな 金めの物を持って逃げた…。」
蓮子「お兄様 お義姉様 ご無事だったんですね。」
園子「蓮子さん どうして…。」
蓮子「乳母が もう田舎に帰るからと 私のところに 純平を連れてきてくれたんです。」
葉山「乳母まで逃げたか…。」
(足音)
蓮子「龍一さん…。」
龍一「行こう。 迎えに来たんだ。 この子が純平か…。」
蓮子「はい。」
園子「蓮子さん お待ちになって! あなたも…。」
葉山「もう自由にしてやれ!」
園子「あなた…。」
蓮子「お兄様… よろしいんですね。」
葉山「ああ。 好きにしろ。」
蓮子「さあ 行きましょう。」
村岡家
玄関前
フミ「おばちゃん また 『ナミダさん』のお話 聞かせてね。」
花子「ええ。」
「本当に お世話になりました。」
花子「ごきげんよう。」
「さようなら。」
「さようなら。」
花子「かよ? かよ! 無事だっただけ。 お帰り… よかった…。 かよ… 心配しただよ。 郁弥さんは? 郁弥さんと 一緒じゃなかっただけ? かよ?」
<ごきげんよう。 さようなら。>